第20話 捨てきれない良心
「はいユートさん、今回のクエストも無事に達成完了です。それではこちらがクエストの報酬となります」
「ありがとうございます。それじゃこれで」
ギルドのカウンターの受付嬢から不愛想に達成報酬を受け取るユート。
この【憩いの結束】のギルドに移籍をしてからユートは立て続けにクエストをこなし続け懐も大分潤っていた。かつて【戦士の集い】ではあの3人から雑務係として扱われ報酬の分配だって不十分で毎日の食事も切り詰める生活を送っていたが独りとなってからは人並の生活水準を手に入れることが出来た。つくづくあのクソ共と縁を切って正解だと思い知らされる。
だがここ最近になってユートには少々憂鬱な事があった。
「おーディックスじゃん。また高難易度のクエストを達成したらしいじゃないか」
「すごいなー、ソロであんな高レベルのクエストをこなしちゃうなんて憧れちゃう」
はあ……またこのパターンか……。
声の方に顔を向けると4人組の男女パーティーが自分に話しかけてきていた。
ちなみにこの4人とはギルドに移籍してから特別接点を持っている間柄でもない。この連中が自分に馴れ馴れしく話し掛けて来た理由、それは自分達のパーティーの勧誘目的だった。
「なあ確かディックスってソロで活動してるんだよな。もしよかったら俺達のパーティーに入らないか?」
「悪い、今はまだどこかのパーティーに入る事は考えていない」
そう言って勧誘をあっさり蹴ってユートはギルドからすぐさま退散する。
ここ最近になって今の様な勧誘をユートは何度も受けている。
今のユートは既にレベルで言えば800まで成長しておりギルドの高難易度のクエストもハッキリ言って容易に達成できてしまう。短時間で次々とそんなレベルの高い依頼をこなし続ければギルド内でも目立ってしまうのは必然とも言えた。
そうなると彼の強さを手にしたいと先程の様にパーティーに勧誘する連中も出て来たのだ。これでもう通算4度目の勧誘をユートは受けている。
だがハッキリ言ってユートとしてはどこぞのパーティーに在籍するつもりなど無かった。
同じ村で長い時間を過ごした幼馴染に殺されそうとなった過去を持つ彼からすれば他者を心から信用する事は極めて難しい事だった。だからソロで活動する事に意固地となっている部分があるユートなのだが同時に思う事もあった。
俺って一体何の為に冒険者続けているんだろうな……。
ギルドを出る際に他のチームを組んでいる冒険者達を見て一抹の寂しさを覚えた。
かつては自分の親に憧れ幼馴染達と一緒に楽しく冒険者生活を送る事を夢見ていた。だがそんな当初の夢と今の自分の環境はあまりにも違い過ぎる。
共に夢を語り合った幼馴染達に裏切られ、そして復讐をしてやり遂げ、今は孤独にソロで冒険者を続けている。
生活をしていく以上は冒険者としての職を手放すことは出来ない。それに今の自分にとって冒険者以上の適職はないだろう。
だが今の生活には〝夢〟がない。圧倒的な強さを手にしたと言うのに心の片隅には虚しさがこべりついていた。
「はぁ……考えるはやめよう。腹が減ってるから余計な事を考えてしまうんだ」
ギルドを出てどこか飲食店にでも向かおうと切り替えようと街路を歩いているその時だった。何やら男の野汚い怒声が細道から耳に飛び込んで来た。
他の道行く人々は気が付いていないようだがレベル上昇で肉体スペックが常軌を逸しているユートには路地裏から漏れる会話が筒抜けだった。
「いい加減にしろよテメェ。いつになったら貸した金を返すんだよ?」
「だっ、だって初めに聞いていた時と利息が違い過ぎるから……」
「ああん? 俺はちゃんと言ったぜ? オメーが借りる事に必死でちゃんと人の話を最後まで聞かなかった自業自得だろうが」
聴こえてきた声は二人分、1人は高圧的な男の声、そしてもう一人が弱々しい女性のものだった。
……放っておいても別にいいよな。
耳に届く内容から金銭面の会話だと言う事は分かる。金の問題と言うのはある種で一番面倒だ。それに会話から推測するに女性の方が金を借りて詰められている。となれば責め立てている男だけが悪いと言う訳でもない。
どのみち俺がでしゃばる必要も無い。無視が一番だな……。
聴こえなかったフリをしてそのまま通り過ぎて行こうとするユートだったが、直後に女性の口から悲鳴が漏れ出す。そして男の口から吐き出された言葉に思わず足を止めてしまう。
「だったら契約書通り俺の相手でもしてもらおうか? 期日までに返せねぇ場合はお前を好きにさせてもらう約束だ」
「や、やめてぇ! ちゃんとお金なら用意するから!!」
「うるせぇいいから来いや!!」
「だ、誰か助けてぇぇぇぇ!!!」
必死に助けを求める女性の声にユートは思わず下唇を噛んだ。
無視しろよ無視。人間なんて結局は自分が一番可愛い生き物だ。仲間を信じ続けた結果、自分が死にかけた事をもう忘れたのか?
赤の他人の為に自分が体を張る必要性など無い、そう考えていたユート。だが気が付けば彼の足は悲鳴が聴こえてきた路地裏の方へと向かって行っていたのだった。




