第2話 外れスキルでも夢を追う権利はある
まだ幼い頃、同じ村で仲の良かったユート達4人は全員が将来は冒険者となる事に夢焦がれていた。その主な理由としては彼等の両親が全員優秀な冒険者だったからだろう。
彼等の両親たちはかつて同じパーティーを組み、そして多くの功績を王都で成し遂げていた。自分の親の過去話を聞く度に4人の中で冒険者として活動をしてみたい、その欲求は大きくなっていた。
そして10歳のスキル鑑定の時期となると4人は自分の持つスキルにどんな力を持つか胸を膨らませた。
「よっしゃ俺様のスキルは《剣聖の加護》だってよ! 確実に冒険者に向いているスキルだぜ!」
「私は《鉄壁の護り》と呼ばれるスキルです。神父様の話では物理的なダメージを無効化する能力らしいです」
「私は《無限の魔力》ってスキルだったよ。なんでも私の魔力は永久に尽きる事がないらしいから魔法使いが転職だって言われた!」
セゴム、ネム、クジィの3人は自分に与えられた神からの恩恵の力に心の底から喜んでいた。
そんな3人の喜ぶ姿を横目にいよいよ最後にユートのスキルの正体が判明する。
「あの神父様、僕のスキルには一体どんな力があるんですか?」
あの3人の様な戦いに役立つスキルであって欲しい。そう願いながら彼が問うと神父の表情が少し悲しそうに歪んだのだ。
そして彼がユートに告げたスキルは……《暴食》とよばれる能力だった。
「あの…そのスキルは具体的にどのような力が有るんですか?」
「……人一倍食事を摂取できる能力です」
「あの……他には……」
「現状で分かるのはこれぐらいです。人間の持つスキルには所謂〝シークレット能力〟と呼ばれる隠された力が覚醒し新たな能力が追加される事は極稀にあります。まぁ……君のスキルの場合は例え覚醒しても大した追加能力は恐らく……それに能力が覚醒する事は本当に極めて稀な事例だからね。残念だが……冒険者の夢は諦めた方がいいだろう」
神父の口から告げられた事実にユートは半ば放心状態となっていた。
ずっと冒険者になる事を夢見ていた。父のように冒険者として輝き、そしてあの3人と一緒にゴールドランクの冒険者になりたいと思っていたのに……。
トボトボと教会から出ると幼馴染達が駆け寄って来る。そして無弱な顔でどんなスキルを与えられたのか尋ねて来た。
「ねえねえユートは一体どんなスキルだったの?」
目を輝かせながらそう尋ねるクジィに思わず目を逸らしてしまう。
彼女に一切悪気が無い事は理解している。それでもゴミスキルしか貰えなかった自分に対して強力なスキルを与えられた人物から『どんなスキルだった』などと問われるのは精神的に堪えた。
だが他の3人は自分のスキルを教えてくれたのに自分だけが秘密にするのもフェアではないと思いユートは包み隠さず自分が与えられたスキルを正直に話す。
「僕のスキルは《暴食》だってさ。何でも人一倍食事を食べれるスキルらしいよ……ははっ、ただの食いしん坊ってことみたい……」
「「「………」」」
ああみんな黙り込んじゃったよ。はは……そりゃそうだよね……。
自分の手にしたスキルを言葉にすると猶更惨めな気分が加速する。
それにこんな役に立たないスキルが発現してしまった以上は自分はもう冒険者稼業を諦めるしかないだろう。ただ人一倍食事を摂取できる、そんなスキルが冒険者稼業のなんの役に立つと言うのだ?
とのかくこれで僕の夢は完全に断たれてしまった訳だ。はは……悔しいなぁ……。
もしもこの世界に神様が居るのであれば抗議してやりたい。どうして他の幼馴染達にはこんな凄いスキルを与えたと言うのに自分だけこんな役立たずなスキルを与えたんだと……。
一番なりたかった道を完全に閉ざされて絶望感を隠し切れないユート。
だがそんな彼に対して幼馴染であるクジィはこんな質問をしてきた。
「ねえユート、もしかしてもう冒険者の夢は捨てる気なの?」
「当たり前でしょ。こんな……こんな役立たずなスキルで冒険者なんてなれないよ!! クジィ達みたいな強いスキルに恵まれなかったんだから仕方ないだろ!!」
八つ当たりだと分かっていてもユートは思わず大声でそう吐き捨てた。
だがそんな彼に対してクジィは笑顔でこう言って来たのだ。
「私は……ユートと一緒に冒険者になりたいな」
「……外れスキルの僕が冒険者に? 無理に決まっているよ……」
「おいおい何で決めつけてんだよ。別にスキルなんてなくても冒険者にはなれるだろうが」
そう言いながらセゴムは項垂れるユートの肩を叩く。
「そりゃスキルに恵まれなかった事は同情するぜ。でもよ、その程度の事でお前は自分の一番なりたい夢を諦められんのか? お前ずっと言っていたじゃないかよ俺達4人で将来は一緒のパーティーを組もうってさ……」
セゴムのその言葉でユートは今日まで何度も4人で同じパーティーの仲間として戦う未来を語る自分の姿を思い返していた。
成長したらこの4人で一緒に冒険者になろう。目を輝かせながらお互いの夢を語り合っていた輝かしい記憶だ。だが……今となっては虚しい。こんな役に立たないスキルの自分では3人に釣り合わない。
「残念だけど僕のスキルじゃ3人とパーティーを組んでも足を引っ張るだけだよ。だから……僕のことは気にせず3人で冒険者になってくれよ」
「それは容認できません」
自分の事は忘れて欲しいと言うユートの頼みを今まで黙っていたネムが拒否した。
「この4人で一緒のパーティーを組む、それはユートだけでなく私の夢でもあります。大事な幼馴染を1人ぼっちにしてまで冒険者など私はしたくありません」
「ネム……」
「それは俺様達も同じだぜ。ここに居る全員で冒険者やろうって話だったじゃねぇかよ。ちょっとスキル運がなかったぐらいで簡単に夢を諦めんなよ」
こんな自分を必要とし、熱い言葉で沈んでいる心を震わせてくれるネムとセゴム。そんな二人を見ていると自分の中で諦めていた道へ対する渇望が沸き上がる。
すると一番仲の良かったクジィが手を握ってこう言ってくれた。
「私もユートと一緒に冒険者になりたいな。スキルがなくても冒険者にはなれるよ。それに……いざと言う時には私がユートを護るから」
そう言いながら彼女は頬を赤く染めてユートを抱きしめてくれた。
「ク、クジィ……」
「私だって我儘の1つぐらいはあるんだから。好きな人と……同じ夢を叶えたい……」
「どうするよユート? お前に惚れている女の子にここまで言われてもまだ一番なりたい夢を捨てて妥協した夢を選ぶのか?」
いつの間にか与えられた恩恵の不遇に対してのショックは消えていた。
そうだ…スキルが外れだったからなんだ。こんなにも優しくて頼りになる幼馴染達が僕には居る。この3人とだったら一緒に冒険者にだってなれるんだ。
「ありがとう3人共。僕さ…やっぱりみんなと一緒に冒険者になりたい! こんな僕でも仲間として見てくれるかい?」
その問いに対して3人は笑顔で当然だと頷いてくれた。
こうして諦めかけた夢を叶えるためにユートは再び前に進む決心をした。
だがこの時の彼はまだ現実を知らなかった。人間は時として周囲の環境や声によっていくらでも中身が変わってしまうと言う事に……。