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第19話 崩れ行くゴールドランク達(【ブレスド】パーティー視点③)


 セゴムは自分達の置かれている今の状況に理解が追い付かなかった。

 

 「はあっ、はあっ、はあっ!」


 汗だくになりながらセゴムは必死に走り続けていた。無様に涙まで垂らしその姿はとてもじゃないがギルド内で羨望の眼差しを向けられていた人物とは思えない。

 その惨めな彼を背後からはゴブリン達が雄たけびを上げながら追いかけて来る。


 どうして、どうしてこんな事になっているんだよ!?


 ゴブリン退治なんて呆気なく終わると思っていた。あんな下級モンスターに自分が背中を見せる事なんて考えもしなかった。

 何故かいつも通りに戦えなかった。《剣聖の加護》を持つはずの自分の振るう剣は明らかに速度も威力もいつもの半分すらも出ていない。それに短時間の戦闘ですぐに息が上がり体力の消耗も激しい。


 こんなの絶対におかしいだろ!? 何で思い通りに戦えねぇんだよ!?


 混乱するセゴムであるがこれは当たり前の結果だろう。

 彼がこれまで楽に戦闘をこなせていたのはあくまでスキルのお陰であり素の戦闘力など初心者クラスの冒険者と遜色がないのだ。スキルに驕り基礎鍛錬をサボったツケが今になって回って来ただけのこと。


 背後から迫りくる大多数の足音に怯えていたセゴムであるが洞窟の入り口から漏れる外の光が目に入ると助かったと安堵の息が漏れる。

 だが気を抜いてしまったせいで足をもつらせその場で勢いよく転倒してしまった。


 「いぐっ……うわあああああ来るなぁぁぁぁ!!」


 慌てて体制を立て直そうとするセゴムだがそれよりも早くゴブリンの1体が棍棒を振り下ろす。

 地面に尻もちを付きながらも剣を盾のように構えるが不十分な体制では踏ん張る事も出来ずあっさりと剣を吹き飛ばされる。そのまま別のゴブリンによる棍棒が顔面に叩きつけられた。


 「いだああああああッ!?」


 鼻が潰され悲鳴を上げるセゴムへと他のゴブリン達も襲い掛かろうとして絶体絶命に陥る。


 「ひいいい助け……!」


 助けを乞うセゴムに対しゴブリン達は下品な笑い声と共に止めを刺そうとしてくる。だがゴブリン達に袋叩きにされる直前に洞窟の入り口から火球が飛んできてゴブリン達に直撃した。

 

 「ちょっと何をしてるのよセゴム?」


 火球の飛んできた方向を見てみるとクジィが鼻をつまみながら立っていた。その隣ではネムも一緒に居る。

 入り口付近でセゴムの帰りを待っていた二人だったのだが洞窟から聴こえてきたセゴムの助けを乞う叫び声に仕方なく様子を見に来たのだ。

 

 クジィの魔法でゴブリン達が怯んでいる隙にセゴムは落とした剣も拾わず二人の背後へと隠れる。

 いつもリーダーとして自分達を引っ張って来たセゴムの情けない姿にネムが心底呆れる様に吐き捨てる。


 「まさかゴブリン相手に逃亡するとは……」


 「ち、違うんだよ。何だかいつも通りに体が動いてくれなかったんだよ!」


 本来の実力を発揮できなかったなどと子供の様に喚くセゴムの醜態にクジィが苛立たし気にゴブリン達へと魔法で牽制を行う。


 「本当にだらしないわね。この程度の雑魚を独りで倒す事も出来ないだなんて」


 後ろでネムの回復魔法で傷を癒している無様な男に苛立ちを覚えながらもゴブリン達を一気に消し去ろうと上級魔法をクジィは放とうとする。


 「近づくんじゃないわよこの醜いゴブリン共! 纏めて炭になりなさい!!」


 体内の魔力を集約して彼女は自分の持つ最強魔法インフェルノバーストで射線上のゴブリンを一掃しようとする。


 「骨も残さず全て燃え尽きろ!! インフェルノバースト発動!!」


 …………し~ん……………


 「………はぁ?」


 自信満々に構えた魔杖から特大魔法を撃とうとしたクジィであるが何故か魔法は出なかった。展開した魔法陣から残り火のような燃えカスの炎がぼわっと出ただけだった。


 「な、何で魔法が出ないの?」


 これまで何度も使っていた魔法が撃てない事に戸惑っていると牽制の魔法が止んだ事でゴブリン達が怒号と共に襲い来る。


 「くっ、近づくんじゃないわよ! ファイアーボール!!」


 だがまたしても魔杖からは魔法が出てくれない。

 魔法が発動しない、それはつまり体内の魔力の残量が不足している証拠だ。


 これってまさか魔力切れ? そ、そんな訳ないじゃない。だって私のスキルは……。


 クジィの持つスキル《無限の魔力》は決して体内の魔力が尽きる事が無い上位スキルだ。魔法使いがこのスキルを持つ以上はどれだけ魔法を使おうが魔力切れなどと言う事態に陥る訳が無い。

 だがどれだけ否定しようと現実は無情でありクジィはどれだけ念じても新たな魔法を撃つことが出来なかった。


 「ひいいいい! 近づくんじゃないわよこの醜いゴブリン共!!」


 泥や血で汚れたゴブリンの手を魔杖で払いのけながらクジィは逃亡を図る。そしてそれに便乗して回復魔法で動けるようになったセゴムも横に居たネムを突き飛ばして洞窟の出口へと一目散に逃げだす。

 

 「なっ、二人共おいて行かないでください!?」


 我先にと逃亡した二人の後をネムも追いかけようとする。そんな彼女に追いついたゴブリンの1匹が腕を掴んで来た。

 

 「ひい汚い!?」


 体を触れられて怖気が走ったネムが魔杖で自分を掴んでいるゴブリンの眼球を叩いてやる。

 目玉を潰された事で驚いてネムを解放してしまうゴブリンだが、その際に腕を掴んでいた手に力が入ったようで彼女の腕をへし折った。


 「いいいぃぃいいぃいい!?」


 本来なら物理攻撃を完全無力化するスキルを持つ自分の腕がへし折られた事でネムが悲鳴を上げる。痛みに耐性の無い彼女は思わずその場で蹲ってしまう。

 動きの止まった彼女へと他のゴブリン達が一気に手を伸ばして来てネムは捕まってしまった。


 「や、やめて……誰かぁぁぁぁぁ!!」


 そのままゴブリン達は暴れるネムを担ぐと洞窟の奥へと戻っていくのだった。

 

 「セゴムッ、クジィッ!! お前等助けろよぉぉぉぉぉぉ!!!」


 必死に逃げて行った仲間達の名を呼ぶネムだったが、逃げ出した二人が再び洞窟に戻って来る事はなかった。

 そのままネムは怨嗟の言葉を綴りながらゴブリン達に担がれて消えて行ってしまった。



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― 新着の感想 ―
まずは一人目か。 でもこれだと、ゴブリン増殖して村に迷惑だが。
[一言] 嫁ギーノ1業。(•▽•;)(あと2命墓集。)
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