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第17話 孤独を抱える者同士


 「幼馴染であるリンダと別れてからの私は今日までソロで活動を行うようになりました。今回のユートさんの様に同じクエストを他の方と共同で行う事はあっても誰かとチームを組む事が怖くなってしまって……」


 「そうか……」


 クェシィの過去話を全て聞き終えたユートは短い返事を返してそれ以上は何も言わなかった。


 幼馴染から嫉妬されてチームが解散したね……まるで俺とは真逆だな……。


 自分も幼馴染達とは決別をしたが自分の場合は才能が無いがゆえに奴等に見放された。だが彼女の場合は才能が有るがゆえに妬まれて決裂した。

 かつての自分は才能の無さに絶望を味わい時にこの理不尽な世を恨んだ。だが才能が有る事で彼女の様に苦悩する場合もあると思うと本当に世の中はままならないものだ。


 「あっ、見てくださいユートさん! あそこに宝玉ウサギが居ましたよ!!」


 過去を思い出し物思いにふけっているとクェシィが大きな声で指をさしていた。その方向に目を向けると目的の宝玉ウサギがこちらをじっと見ていた。

 クェシィが捕獲しようと一歩踏み出すとウサギは足を踏み出し一気にその場から飛び跳ね逃げようとする。


 だが宝玉ウサギがジャンプすると同時にユートは一瞬で間近まで移動し終える。そのまま飛び跳ねていたウサギをひょいっと捕まえて見せる。


 「えっ、いつの間に…?」


 まるで時間が飛んだかのようにいつの間にか隣に居たユートがウサギの間近に移動を終えておりクェシィが驚く。

 彼女とてランクこそ一番下の階級だが実力は決して低くない。だがユートの実力はもはや最高ランクであるゴールドを遥かに上回っている。


 「よし、1匹は捕獲完了だ。あと残り2匹だな」


 そう言うとユートは捕まえた宝玉ウサギに鼻を近づけると匂いを嗅ぐ。


 「あ、あのぉ~何をされているんですか?」


 彼の取る奇抜な行動に首を傾げるクェシィに対してユートはさも当たり前のような顔で答える。


 「この宝玉ウサギの臭いを憶えているんだよ。よし記憶完了、これであと2匹簡単に見つけられる」


 レベルアップに伴いユートは覚醒したスキルの能力でレベル上昇していくにつれていくつかの追加能力が発現した。

 『スキル能力吸引』、『スキル喰い』などの他に彼が手に入れた能力で『臭い探知』と言う力を手に入れていた。この能力は主に魔獣やモンスターに対して使う能力であり、臭いを記憶した生物と同種の魔獣やモンスターの追跡が可能となる。そしてそのモンスターの正確な位置までもが頭の中に浮かび上がるのだ。


 「あっちの方角、距離にして300メートル先に2匹目が居る」

 

 「えっ、そこまで詳しい位置が分かるんですか?」


 「ああ俺のスキルの持つ能力の1つだ。ほら行くぞ」


 先導するユートに対して半信半疑だったクェシィであるがそこから彼は宣言通り残り2匹の宝玉ウサギをあっさりと見つけてしまった。

 

 「よしこれで3匹確保したな。それじゃあギルドに戻るか」


 「あっ、はい。それにしても便利な能力ですね。ユートさんのスキルってどんな能力名何ですか?」


 「……《暴食》、それが俺のスキル名だ」


 単純な好奇心で質問を繰り出したクェシィは何故か後悔した。

 何故なら自分のスキル名を口にした時の彼の顔が一瞬とても悲しそうに歪んでいた。その表情はまるで自分が幼馴染と決裂した時に見せた表情とよく似ていた。


 そもそもこの人はどうしてこのギルドに移籍したのだろうか?


 彼女の頭の中でふとそんな疑問がよぎった。だが彼の見せたあの悲し気な顔が印象に残り結局この質問を口に出して問う事は出来なかった。


 それから特に会話らしい会話も無く二人はギルドに戻るとクエストの内容通り宝玉ウサギを受付に持っていき無事に報酬を受け取った。


 「ほら約束通り報酬の半分を渡しておく」

 

 「ありがとうございます……」


 折半された金額を受け渡すとユートはそのままギルドを出て行く。

 去り行く彼の背中をしばし見ていたクェシィであるが彼女もすぐに意識を彼から外す。


 あくまでユートとクェシィは今回限りのビジネスパートナーに過ぎない。だからこそ両者はお互いの心に深く踏み込もうとはしない。


 だがこの仕事を切っ掛けに二人の距離は少しずつだが縮んで行く事となる。


 幼馴染に蔑まれ、騙され、そして孤独となった少年。


 幼馴染に妬まれ、憎悪され、そして孤独となった少女。


 ずっと信じて大事に想っていた相手から弾かれ悲しみと孤独を抱えた者同士、凄惨な過去が理由で他者を心から信頼する事が怖くなった二人はこの日から少しずつ似た傷を抱えているお互いの心に近づいていく事となる。だがそれはもう少し先の未来、今の両者にとって今日共に仕事をした相手の事などもう心の片隅にすら残ってなどいなかった。

 


 

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