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第16話 クェシィ・ミライド


 新天地での初のクエスト、その場所が裏切りを受けた魔法の森だと言う事に多少の抵抗はあったユートであるが今の彼はこの場所を知り尽くしている。道中に襲い来るモンスターや魔獣も軽く撃退して目的の宝玉ウサギを捜索していた。

 

 「はあ~……ユートさん凄いです。ほとんどのモンスターを一撃で返り討ちにするだなんて……」


 「それを言うならお互い様だ。お前だってかなりやるじゃないか」


 そう言いながら後ろから付いてくるのはこのクエストを一緒に受けた今回の仕事仲間であるクェシィ・ミライドと言う女性だ。

 一見すれば聖職者を連想させる格好した女性なのだが実はこう見えて双剣使いの剣士だった。そしてそれ以上に驚いたのは彼女のレベルだった。


 ステータス画面を開いて彼女のレベルを確認した。


   〇 名前 クェシィ・ミライド

     LⅤ 77

     種族 人間族

     職業 剣士

     HP 229

     ⅯP 199

     攻撃力 113

     防御力 112

     素早さ 103


     スキル名《攻撃力倍化》


 自分と同様に特に苦も無く襲い来るモンスターを斬り捨てる姿が気になりステータスをこっそり覗くとその実力は中々に高かった。彼女のランクは自分と同様にブロンズだがこの実力ならば間違いなくシルバーランクで上位の位置づけだろう。


 これだけの強さがあるのにどうしてこの娘はブロンズのままなんだ?

 

 あくまで今回だけの仕事仲間と考えていたので特に親しくする気など無かったユートであるがほとんど会話が無いのも気まずく質問をしてみる。


 「ちなみにクェシィのランクは何だ? シルバークラスの強さはあると思うんだけど……」


 本当はステータスを覗き実力は把握しているがあえて知らぬふりをして訊いてみると彼女はどこか寂しそうに笑う。


 「あはは、私のランクなブロンズです」


 「それだけの強さで未だにブロンズだなんて意外だな。俺は【憩いの結束】に移籍したばかりだけどクェシィはずっとあのギルドに在籍していたんだろ?」


 どこか乾いた笑みを浮かべる彼女が妙に引っ掛かり更に深く探りを入れてみる。このような詮索は不躾だと理解しつつも何故かユートはこの少女の事が無意識に気になっていた。

 何故なら彼女が今しがた見せた笑み、それはかつて虐げられていた頃の自分が見せていたあの笑みとどこか似ていたからだ。


 もしかしたら黙秘でもされるかと思っていたがクェシィは自分の身の内について語り出す。


 今はソロで活動をしているクェシィであるが実は元々は2人組のコンビで活動をしていたらしい。


 「私は少し前まで同じ年のリンダと言う親友と一緒にチームを組んでいました。私とリンダは幼い頃から共に剣術の稽古を続け切磋琢磨し、そしていつか二人一緒に冒険者になろうと誓い合った仲でした」


 そう過去を語る彼女は懐かしい記憶に笑みを零していた。だがすぐにその表情は沈みその続きを語り出す。


 「お互い念願だった冒険者となり共に剣士として多くの依頼をこなしてきました。ですが……私とリンダの間には大きな才能の差があったんです。けして自画自賛をする訳ではありませんがクエストの中でリンダが苦戦するモンスターでも私なら討伐できた、そんな出来事が多々ありました」


 勿論クェシィはだからと言ってリンダを自分より下だなど微塵も考えはしなかった。だがリンダの方はその実力差を思い悩んでおり日に日に追い込まれていた。


 そしてリンダの中の苦悩が噴火する出来事が起きてしまう。


 ある日ギルドマスターに呼び出されたクェシィがギルドへと向かった。冒険者ギルドの最高責任者との面会に緊張をしていたクェシィであるがマスターが自分に言い渡した言葉を耳にして歓喜に満ちた。

 面会を終えたクェシィは急いでリンダの元へと戻ると自分のランクがシルバーに昇格した事を伝えた。


 『これで私も中級ランクの仲間入りだよ! 次はリンダの番だね!』


 決して彼女にも悪気があった訳ではない。だが才能の差に焦りを感じていたリンダは満面の笑みで昇格報告をするクェシィに思わず日頃溜まった不平不満をぶつけてしまった。


 『嬉しそうだねクェシィ……私はブロンズのままなのに自分だけランクアップして嬉しい?』

 

 『え…?』


 『やっぱり凄いよねクェシィは。クエストの中で私が倒せないモンスターでもあなたは倒せた。どうせ心の中では私の事を足手纏いだとでも思っていたんでしょ?』


 『そ、そんなことな……』


 『じゃあどうして自分だけ上のランクに上がる訳!? こんなの完全に弱い私に対しての当てつけじゃない!!』


 そう言うと彼女は次々と日頃から鬱積していた感情をぶちまける。

 まだ幼い頃はお互いに対等だった実力がいつからか開きが出た。クエストなどの仕事に出掛ければその差はより明確に見え、遂には同じチームで彼女だけが先に進んでしまった。


 『もうハッキリ言うよ。私はあなたとコンビで仕事を続ける事が辛くて仕方がないの。例えあなたが私を対等に見てくれても私の心は決して救われない……』


 そう言ってリンダは幼馴染であるクェシィとのコンビを解消してしまった。

 まだ冒険者の夢までは捨てられなかった彼女は他のギルドへと移籍して【憩いの結束】から消えて行った。

 そこから彼女はギルドマスターから言い渡された昇格も辞退しソロで活動を続けるようになった。またチームを組んで絆を紡いだ人間との悲痛な別れを経験したくなかったから……。



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