第15話 信頼回復を図る幼馴染達(【ブレスド】パーティー視点)
ユートが新たなギルドへと向かってから少し時間は巻き戻り【戦士の集い】では大勢の冒険者達がそれぞれ昨日の決闘について振り返っていた。
本来ならばセゴム達が確実に勝利するはずの決闘だと皆が思っていた。だが結果はその逆でセゴム達があのユーズレスであるブロンズランクのユートにボコボコにされていた。
「それにしても無能だと思っていたディックスがあれだけ強かったなんてな……」
「いや…と言うより逆なんじゃないのか? もしかしたら実はこれまでのクエストで活躍していたのはアイツの方で他の3人が手柄を横取りしていたんじゃ……」
「だとしたらディックスがあの3人に見切りをつけたって事なのかもな」
ギルド内で飛び交う話題内容は決闘を直接目撃していない他の冒険者達にはにわかに信じられなかった。しかしギルド内の大部分の冒険者達が口にしている以上はやはり真実なのだと思い今となってはギルド全体にセゴム達の失態が波及していた。それにギルド側にも被害があったそうで職員達やギルドマスターからの心象も最悪だった。
そして悪評が流されている当の3人はと言うと――
「くそっ! どうして俺様達がこんな屈辱を味合わなきゃいけねぇんだよ!」
歯ぎしりをしながらセゴムは地面に唾を吐いていた。
決闘の傷を無事に完治させたセゴム達は現在はモンスター退治のクエストへと出向いていた。
あのユートとの決闘で完全敗北を喫っしたセゴム達のギルド内での評価は徐々に下がりつつあった。これまではゴールドランクの優秀な3人と見られていた彼等であったが周囲が無能と見ていたユートに一方的に敗北した事によりセゴム達の実力に疑念を抱く者が増えて行ったのだ。しかもあの決闘の中でクジィの暴走によりギルドにも被害を出した事がよりヘイトを買ってしまった。勿論修繕費に関しては耳を揃えて払ってやったが職員達からは冷めた目で見られるようになってしまった。
このままでは自分達が築き上げて来た名声が地に落ちかねないと判断したセゴム達はクエストで結果を出して評判を回復させようと考えた。
ちくしょう、あの時に魔獣に後始末を任せず俺様の手できっちり殺しておけば……!!
今更ながらに魔法の森でユートの息の根を自分が止めなかった事を悔やむ。
それはクジィとネムも同じようで彼女達の中にもユートに対するお門違いの恨みが募っていた。しかしそれ以上にクジィには1つの不安が胸の内に残留していた。
「ねえセゴム、ユートの処分についてはどうするの? 別ギルドに移籍したと言ってもユートのヤツは今も王都に留まっているのよ。もしも魔法の森で私達の裏切りの事実をアイツが拡散してまわったりしたら……」
あの決闘前であれば信頼厚き自分達と無能と蔑まれていたユートの言葉、周囲が自分達の言葉を信用すると安心していた。だが今の悪評がくすぶり出している自分達の言葉は以前のような影響力は無いだろう。もしかしたらユートの発言が真実だと思う輩が出てきてもおかしくはない。
一抹の不安を口にするクジィに対してセゴムは苛立ち気に頭をガリガリと掻きながら答える。
「そりゃ俺様だってこのままあのクズを野放しにする気はねぇよ。だが今はまず俺様達【ブレスド】の信用回復を優先すべきだ。心配せずとも俺様達がアイツを殺害しようとした証拠はねぇんだから裁かれる心配は無いはずだ」
「それはそうだけど……」
「クジィ、あなたの懸念も理解できますが今はまずセゴムの言う通り信頼回復を目指しましょう。その為に普段は歯牙にもかけない〝こんな依頼〟を引き受けたのですから」
今回この3人が選出したクエストは『村の近くの洞窟で巣を作っているゴブリンの退治』と言う初級冒険者が受けるクエストだ。ゴールドランクの3人がこんな低級依頼を受けたのは何故か、それは報酬でなく信頼回復を目的としたものだった。
今回引き受けた依頼の様な人助け目当てのクエストを達成し続ける事で自分達の信頼回復を目論んでのことだ。
中々に浅い計略ではあるが彼等が本当に浅はかな部分は〝現状の自分達の実力〟に気が付いていない点だった。
これまで彼らがゴールドランクと言う立ち位置に君臨できていたのは強力なスキルあっての事だった。だが今の彼等はユートの《暴食》によりそのスキルを奪われているのだ。だが愚かなこの3人組はその事実に気が付いていない。普通ならばユートの様に自らのステータスを表示する事ができない事を差し引いてもクエストに出掛ける前に自分の身の違和感ぐらいは気付けるだろう。だがこれまでスキルのお陰で殆ど苦も無く生きて来た甘ったれのこの連中はその違和感を察知するだけの危機感すら欠如していた。
「おっ、目的の村が見えて来たぞ。たくっ…本来ならゴールドランクの俺様達が何でこんなカスみたいな仕事をせにゃならんのだ……」
目的の村が視認できるとセゴムが疲れる様に溜息と愚痴を吐き出す。
この時の彼等はゴブリン退治などすぐに終わらせられる、そう確信を持っていた。だがすぐに自分達の身の上に起きた異常な現実に気が付く事になるのだった。