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第13話 復讐の暴食


 周囲の野次馬達は自分達が目撃している光景が現実だとはにわかには信じられなかった。

 この冒険者ギルド【戦士の集い】でもセゴム、クジィ、ネムの3人の圧倒的な実力は良く知っているつもりだ。そして同時に同じパーティーのユートがお荷物である事も知っていた……はずだった。


 だが視線の先で繰り広げられる戦いは完全に立場が逆転していた。


 「この、ファイアーボール!」


 「ふんっ」


 「うらああああああああ!!」


 「そんなスローな攻撃当たるかよ」


 クジィの放つ魔法はあっさりと片手で弾かれセゴムの剣は完全に見切られ掠りすらしない。


 「くっ、セゴムのスピードとパワーを強化します!」


 ネムは補助魔法でセゴムに強化を施す。だがそれでもセゴムの攻撃が当たる様子はない。それどころかまたしてもカウンターにより顔面に拳が叩きこまれてしまう。


 「あぎぃッ!? で、でめぇ……!!」


 「そらよ」


 「うぎゃあああ脚がぁぁぁ!?」


 倒れ込むセゴムの片脚を踏みつけて骨をへし折ってやる。

 すると遠方からクジィが魔法を放ってユートをその場から飛び退かせ距離を取らせる。


 「何であんなクズが私の魔法を避けれるのよ!? ネム、早くセゴムにまた回復魔法をかけて上げて!!」


 「わ、分かりました……」


 言われるがままにネムはズタボロのセゴムに回復魔法を施し全快させた。

 その様子を遠巻きに見ていたユートはそろそろ頃合いだと内心で考える。


 ここまでの戦闘でユートの攻撃によりもうこれでセゴムがネムによって回復を施された回数は5回目となる。《無限の魔力》のスキルを持つクジィとは違いネムの魔力は決して無尽蔵ではない。ステータスを表示させて現在のネムのⅯPを確認するともう底をつきそうだ。傷の回復どころかセゴムやクジィの能力を強化する事も出来ないだろう。そして《剣聖の加護》を持つセゴムも今の自分とは根本的にレベルの次元が違う為に脅威にはならない。

 自分達が劣勢に立たされている事を理解しつつあるクジィは醜く表情を歪ませながら唾を飛ばして喚く。


 「このっ、いい加減に倒れなさいよ! ユーズレスの分際で生意気なのよ!!」


 これまでは周囲の観客の目を気にしてぶつけてくる言葉を選んでいた彼女も今は余裕の無さから汚らしい発言を平気で吐き出している。

 尽きる事のない魔力を用いて次々と遠距離から魔法を放つクジィだが、その悉くが弾かれ躱されてしまう。しかも合間にセゴムが剣を振るってくるがそれも躱されてしまう。


 何でよ、何でアイツがこんなに強くなっているのよ!?


 もう完全に見切りをつけたクズ相手に3人がかりで攻めても未だに致命傷どころかまともにダメージを与えられない現実にクジィの苛立ちは最高潮に達していた。


 よしよし計画通りイラついているな。これならそろそろ上級魔法を使ってくる頃だな。


 実はその気になればユートは彼女が魔法を放つよりも速く距離を潰して力づくでねじ伏せる事など造作も無かった。にも関わらず未だにクジィに攻撃を仕掛けていないのには理由があった。


 「このッ! ちょこまかと逃げ回るな!」


 「いやぁ悪いなぁ。あんまりにもノロい攻撃で当たる方が難しいわ」


 そう言いながらユートはいつも自分が向けられる嘲笑の笑みをクジィにしてやった。すると沸点の低い彼女は激情に駆られて冷静な思考など不可能となる。


 「この雑用係……だったらこっちも手加減無しの本気の一撃を見せてやるわよ!!」


 そう言うとクジィは両手をユート目掛けてかざすと複数の魔法陣を握っている魔杖の前に展開した。

 何重にも重なった魔法陣を展開しクジィが上級魔法を放とうとすると周囲の野次馬達は慌て出す。


 「えっ、まさかこんな所で上級魔法を撃つつもりか?」


 「ちょ、ここに居たらヤバいんじゃ!?」


 永久に魔力量が減少する事のないクジィは通常の魔法使いと比べ多種多様の魔法を扱える。他の二人と同様に直接的な修行は行って来なかったクジィだが魔法の習得だけは真面目に取り組んでいた。その為に肉体面は脆弱な彼女だが扱える魔法数は他の魔法使いと一線を画す。しかも彼女は永遠の魔力生産が可能なために本来であれば苛烈な特訓でⅯPの限界量を伸ばした魔法使いしか扱えない魔法を1日に何度でも発動できる。

 そして今彼女がユート目掛けて放とうとしている魔法は上級魔法のインフェルノバーストと呼ばれる炎系統の中で最強クラスの魔法だ。


 だがこの魔法は上級モンスターなどの相手に扱う上位魔法、冒険者同士の決闘、ましてやこんな街中の広場で扱っていい代物ではない。

 ユート目掛けて上級魔法を発動するクジィに思わずネムが叫ぶ。


 「だ、ダメですクジィ! こんな大勢の人が居る場所でそんな魔法を使ったら……!!」


 「うるさいッ! コイツの減らず口を存在もろとも消し炭にしてやる!」


 もはや仲間の制止の声も届かない彼女は持ち前の最強魔法の1つであるインフェルノバーストを放った。

 魔法陣から放たれた特大炎の砲撃がユート目掛て一直線に迫る。だがユートは待ってましたと言わんばかりにその攻撃を凄まじい速度で横に飛んで避けた。


 そして標的であるユートを通り過ぎた火線はそのまま背後の観戦していた冒険者達に向かって行った。


 「うわあああああ!?」


 「ひっ! に、逃げ!?」


 迫りくる業火に野次馬達は悲鳴を上げて左右に飛んで避けようとする。幸いにも砲撃は野次馬達を巻き込みはしなかった。だが……進んで行ったその一撃はギルドの外壁へとぶちあたってしまったのだ。


 「きゃああああああ!?」


 「た、大変早く消火を!?」


 破壊されたギルドの中からは職員達の慌てふためく声が聴こえて来る。

 自分の見境の無い一撃によってギルドに起きた惨事によりクジィは我に返って青ざめる。


 これがユートの狙いだった。彼にとって【戦士の集い】の連中は全員が自分を見下していたクズ共、巻き添えでどうなろうと彼の知った事ではない。だからユートはあえてクジィが自分から高位魔法を使わせて周囲にヘイトを向ける為に挑発して攻撃を誘ったのだ。

 幸い死人こそ出なかったが破壊されたギルドの入り口を見ればこの決闘の後にクジィが糾弾される事は間違いないだろう。

 その証拠に周囲の野次馬達は危うく自分が巻き込まれそうになった事でクジィに怒りの瞳を向けている。


 よし、これで決闘の後のコイツ等が同じギルドの連中から白い目で見られる下準備は整った。


 勝負後に自分が居なくなった後、裏切り者共が攻撃される下地を作り終えたユートは最後の制裁を3人へと加える。


 まず今だに呆然としているクジィとの間合いを一気に詰めるとそのまま彼女の肩に喰らい付きその肉を食い千切った。

 

 「いああああああああッ!?」


 本気を出したユートの全速力はクジィの目で捉えられず気が付けば自分の肩の肉が喰われ鮮血が吹き上げていた。

 それから通り過ぎ様にセゴムの腕の肉を食い千切ってやる。そして最後にユートが向かった先はⅯPを使いつくして息を切らしているネムの元だった。


 「ひ、ひいいいい!?」


 仲間達が血を噴き出している姿にネムが悲鳴を上げる。

 だが彼女の持つスキルは物理攻撃を無効化する《鉄壁の護り》がある。本来であればユートが彼女の肉に喰いつく事は不可能だろう。動揺からその事をネムは忘れているようだがユートは勿論理解している。

 だからこそ彼はこのタイミングで自分の覚醒した《暴食》のスキルの追加能力の1つを発動する。


 ――『スキル効果吸引発動』!


 この能力は覚醒した《暴食》のスキルでレベルが600を超えた際に発現した力だ。この技は約十秒間程度だが相手のスキルによる『能力』を〝吸引〟して無効化する。

 実はユートがもっとも復讐に時間を掛けた存在がこのネムだった。何しろ物理攻撃を無力化するこの女の能力がある以上は肉を食い千切って発動する『スキル喰い』が使えない。だからこそユートは魔法の森でレベルを上げてこの女からスキルを奪える新能力の発現を待っていたのだ。


 無力化に成功したユートは座り込んでいるネムの肩に喰いつきそのまま柔らかな肉を喰らってやる。


 「いいいいいいいいい!?」


 肉の一部を噛み千切られたパニックと激痛からネムは涙や鼻水を垂らしてその場で蹲ってしまう。


 全員の肉を体内に摂取したユートは最後の後片付けをする。

 痛みに悶えて動かない3人の頭部に次々と蹴りを入れて意識を刈り取ってやる。勿論かなり手加減した蹴りだ。ここで本気で攻撃をして死に至らしめたらこの後に待ち構えている絶望を味合わせられない。


 「はんっ、どんな気分なのかな。今まで散々虐げて来たクズに一方的に打ちのめされた気分は?」


 そう言いながら問いを投げ掛けるが全員地面にうつ伏して返事はない。

 こうしてゴールドランクである3人の完全敗北した姿はギルド連中の冒険者達の脳裏に焼き付いた。


 そしてこの決闘からセゴム達の真の地獄が始まる事となる……。



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まあただ、傍から見たら、肉引きちぎってるで恐怖でしょうな。
[良い点] まさかカニバリズムがあるとは最高です
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