第12話 裏切り者達への復讐開始
裏切り者達の報復の為にユートはギルド前の広場でセゴム達との決闘を行う事となった。
この勝負にもし自分が負けた場合には王都を立ち去るようにセゴムから言われているがユートには焦りなど無かった。それどころか本当なら1対1の勝負を提示して来たセゴムに対して残りのクジィとネムの二人も一緒に相手取ると挑発してやった。すると分かりやすくこの単細胞共は顔を真っ赤に染めてその挑発に乗り3対1の構図が仕上がった。
広場の周囲を取り囲んでいる大勢の冒険者達は決闘の開始を今か今かと待ち望んでいる。だがこの群衆は決してユートの奮闘など期待してはいない。この野次馬達が期待しているのはユーズレスであるユートを憧れの的であるセゴム達が一方的に叩きのめす場面を望んでいる。その証拠に周りの見物人達は全員がセゴム達の応援ばかりでユートに声援を送る人物は皆無だ。
完全にヒール扱いを受けているユートに対してセゴムが嫌らしい笑みと共にこう言い放つ。
「おいおい随分と人気がねぇなユート。まぁ無能のユーズレスだから無理もないか」
そうセゴムが嘲りの笑みと共に侮蔑の言葉を述べるとクジィとネムも完全にこちらを見下す視線でニヤニヤと笑っていた。
だがそんな3人に対しユートは不敵な笑みを浮かべながら手招きをして更に挑発をする。
「随分と嬉しそうに笑うじゃないか。周囲の肩書きしか取り柄の無い自分達を敬う視線はそんなに心地いいか? まぁお山の大将のお前達らしい態度ではあるがな」
この状況下でも余裕を浮かべるどころか相手の怒りを煽るユートにクジィは馬鹿を見るかのように呆れ顔を浮かべる。
「はぁ? クズの分際で何を開き直ってるわけ?」
「気にする必要なんてありませんよクジィ。大方勝ち目のない事を悟ってせめて野次だけでも飛ばそうと言う考えなのですよ」
「ははっ、ユーズレスのコイツは口でしか攻撃できねぇから仕方ねぇか」
そう言ってこちらを指差すセゴムであるがその表情は明らかに苛立っている。分かりやすく額に血管まで浮かび上がらせている始末だ。
この時にユートは目の前の3人のステータス画面を開いて閲覧していた。
〇 名前 セゴム・ドゴーラ
LⅤ 24
種族 人間族
職業 剣士
HP 71
ⅯP 48
攻撃力 21
防御力 20
素早さ 20
こちらに怒りの目を向けるセゴムのステータスはハッキリ言ってユートの予想通り、いやそれ以上に低く内心で驚いていた。
この王都へと戻ってからユートはギルド内に居る他の冒険者達のステータスも数人調べていた。その基準から判断するとこのセゴムのレベルはハッキリ言って初級冒険者であるブロンズクラスだ。とてもじゃないがゴールドはおろかシルバーにすら届かない。
では何故この3人がギルド内の頂点に君臨できているのか、それはやはりスキルの恩恵だろう。
セゴムのスキル欄の説明にはこう記載されている。
《剣聖の加護》の効力により剣を装備する事で能力値が上昇、LⅤは最低保証により100上昇、攻撃、防御、素早さの数値も比例して上昇。
やはり睨んでいた通りセゴムの強さは全てスキルの力だよりだった。他の高ランク冒険者は自分の力を高めるためにクエストの様な実戦だけでなく自主鍛錬を積んでコツコツと強さを形成しているのだ。だがこの3人は鍛錬を積んでいる姿を見た記憶がない。
他の2人のステータスも似たり寄ったりだ。最高ランクに似つかわしくないレベル値、完全にスキルに負んぶ抱っこ状態だ。
こんなハリボテ連中に今まで虐げられていた自分が情けなくすらなって来た。今にして思えばいつもこの連中の重圧の中で生活をしてきたせいかユート自身も自分を鍛えようとしなかった。クエストの中では雑用だけ、幼馴染のパワハラを超えた理不尽な暴力と暴言に精神が摩耗していたからだろう。
思わず失笑を零しているとセゴムが自分達を嗤っていると勘違いして絡んで来る。
「何をヘラヘラ笑ってんだボケ。すぐに泣き顔しかできなくしてやるよ」
そう言って剣を構えるセゴムに対してユートは無言でくいっと手招きしてやる。
「この野郎がッ! 虚勢も大概にしやがれ!!」
完全にブチギレたセゴムは地面を強く踏み込むと一気に向かって来た。
流石は大当たりのスキル所持者、ステータス画面に記載されている通りゴールドランクに相応しい身体能力を発動させている。
怒りで周りが見えていないのだろう、セゴムは決闘と言う事も忘れ完全に殺す気で首目掛けて刃を横一閃させてきた。
その斬撃をユートは冷静に見極めて回避して見せた。
「なっ!?」
まさか自分の神速の一刀を回避されるとは思わずセゴムが思わず動揺から動きを止めてしまう。
こんな接近した状態で動きを止めるセゴムに対してユートはその顔面に拳を叩きつけてやった。
「ぶばぁッ!?」
その打突を受けたセゴムは一気にクジィ達の方へと吹っ飛ばされる。
決して殺さぬように加減したとは言え今のユートのレベルは608だ。倍以上のレベルである今のユートにとってもはやセゴムなど敵ではない。
無様に吹き飛んでいったセゴムはダクダクと零れる鼻血を手で押さえながら信じられないと言った表情でこちらを見る。
「ちょ、ちょっと何を遊んでるのよセゴム?」
「そ、そうです。あのユートに吹き飛ばされるなんて……」
後ろで余裕で観戦していたクジィとネムもまさかの展開にみっともなく取り乱している。
周りの野次馬達も予想外の光景を目の当たりにしてざわつき出す。そのリアクションにセゴムは慌てて立ち上がると誤解を解こうと大きな声で虚勢を口にする。
「はは、ちょっと手加減し過ぎたな。だがラッキーはもうこれで終わりだ」
自分はまだ本気を出していないとアピールすると周囲の馬鹿もその言葉を真に受ける。
「ああなんだ、手加減していたのか」
「意外とセゴムも役者だな」
セゴムの背後に居るクジィとネムもその言葉を信じた様で緊張が解けた顔を見せる。だが当の本人は冷や汗を流している始末だ。
ど、どうなってんだ? 何であんなクズが俺様の斬撃を避けれた? ただのまぐれ……だよな……。
「おい戦闘の最中によそ見するなよ」
一瞬だけユートから視線を切ったセゴムが顔を上げると既にユートが目の前に居た。慌てて剣を振るおうとするがそれよりも先にユートの拳が叩き込まれる。そのまま下から突き上げるアッパーが下顎を打ち上げた。
「あが……!?」
自分の下顎が砕ける音と激痛を感じながらセゴムが空中で縦回転しながらクジィとネムの間へと落下する。
「あ、あごがぁ……」
「う、うそでしょ?」
いつも頼りになるセゴムが口や鼻から出血して痙攣する姿にクジィの顔が青ざめる。
ここからこの3人の化けの皮は力づくで剥がされて行く事となる。