第11話 地獄から舞い戻って来たぜ
ギルドの受付でクエストの受理を行っていたセゴム達はギルド内の喧噪が突如消えた事に疑問を抱いていた。
振り返ってみると何やら騒いでいた他の冒険者達の視線がギルドの入り口に集中しており釣られてセゴム達の視線もそちらへと向く。
そしてゆっくりとこちらへ歩み寄る人物を見て思わず言葉を失ってしまった。
「久しぶりだなこの裏切り者共。俺が居なくなってからパーティーは快適だったかい?」
薄汚れた格好と共に現れたのは自分達の手で殺害したはずのユートだった。
彼は明確に敵を睨むかのような視線と共にじとっとこちらを見据える。
「ど、どうしてあなたが……」
あまりの衝撃に硬直していた3人の中で最初に我に返ったクジィが言葉を返すとユートは待っていましたと言わんばかりに声を張って返答をしてきた。
「どうして? それは『どうして俺が生きているのか』と言う疑問に対しての質問なのか? まあそりゃ不思議だよな。俺はあの魔法の森でお前達の手で瀕死に追い込まれ魔獣の生餌にされたんだからな。まさか生きてお前達の元に舞い戻るなんて思いもしなかっただろ?」
ワザとらしく周囲の冒険者やギルド職員達の鼓膜にも届くようにユートがそう言うと周囲は予想通りにざわつき出す。セゴム達の話ではユートはクエストの最中にモンスターに襲われ命を落としたと聞かされているのだ。それがまさか仲間内で殺害されかけていたなどと、それが事実ならば大問題だろう。
ギルド内に不穏な空気が漂う中でセゴムは露骨に焦った表情を浮かべる。だが逆に残りの二人は一瞬で顔から焦燥感を消し去ると毅然とこう言い返して来た。
「ちょっと待ってください。あなたはクエストの最中に上級モンスターに襲われ恐怖のあまり独りで逃げ出したのではないですか」
「そうだよユート。それからしばらく捜索を続けてもあなたが見つからなかったからこそ私達も仕方がないと引き上げたんだよ? あなたが運良く逃げのびて生きていてくれた事は嬉しい、でも最初に私達を置いて一人だけ逃亡した事を棚に上げてその言い方はあんまりなんじゃない?」
ユートの発言には何一つ証拠が無い。だからこそネムとクジィは彼の発言は言い掛かりだと糾弾し、更には彼がチームを置いて独りで逃亡を図ったとありもしない虚偽の事実を口にした。
この二人の偽りの言い分を聞いていた周囲の野次馬達はまたしてもざわめき出す。
「え、じゃああのユーズレスが最初に裏切ったのか?」
「何だよそれ。仲間置いて逃げてどの口が裏切り者扱いしてんだか?」
ざわめいている野次馬共は明らかにクジィ達の方に肩を持ち始める。
周囲がこの3人を信用するのはある意味では当たり前と言えるだろう。この連中は常日頃から仲間想いの優しい幼馴染を演じていたのだ。そもそも自分をパーティーからクビでなく殉職と言う選択肢を選んだ理由も周囲のイメージ低下を防ぐためなのだから。
当然だがユートだって馬鹿ではない。自分が仲間内で裏切り行為を受けた証拠が無い以上はお互いどんな主張をしようが水掛け論となる事は理解していた。いや、それどころか外面の良いゴールドランクの3人と無能と馬鹿にされてきたユーズレスの自分、周囲がどちらの言葉に耳を貸すかなど考えるまでもないだろう。
周囲の何も知らない間抜け共はユートに対して露骨に敵意の籠った視線を向け始める。
ふん、やっぱり周りの馬鹿共はコイツ等を信用したな。まあ元々このギルド連中の心象なんてどうでも良い。
そもそもユートはこの【戦士の集い】でこれからも仕事を続けるつもりなど毛頭ない。王都内には他にも冒険者ギルドは存在するのだからそちらに籍を移す気だった。
今回彼がこのギルドに足を運んだ理由はあくまで復讐なのだ。眼前で罪の意識すら持っていないクズ共への。
さて、この場は上手く周りを言いくるめているがこうして俺が顔を出したことでコイツ等も俺を無視は出来ないだろう。また口を封じるために何かしら仕掛けてくるはずだ。
実際この3人としてもユートが生きている事は無視できない。今は周りを味方に付けているがユートが生きている以上は自分達の悪事が露呈する危険性はやはりある。
表面上は冷静さを取り繕っているクジィとネムもこの男をどうすべきか思案している時だった。今まで黙り込んでいたセゴムが突然大声でこんな事を言って来たのだ。
「おいユート、俺様達を裏切っておいて挙句に言い掛かりを付けにわざわざ俺様達の前までやって来たのか? 俺様達はずっとお前を仲間だと、大切な幼馴染だと思っていたが流石に呆れたぜ」
いきなりこのような事を言い出すセゴムにユートが訝し気な顔になる。
いきなりどうしたコイツ? 今まで青ざめていながら急に強気になって……?
セゴムの真意が読めず首を捻っていると続けざまに彼はこんな提案をしてきたのだ。
「そこまで腐った性根、この俺様が正してやる。今から俺様と決闘しろ。そしてもし俺様が勝ったら二度とこのギルド、いや王都から立ち去れ!」
……なるほどね、この王都から俺を追い出して自分達の悪行の露呈を防ごうって算段か。単細胞なりに色々と考えた結果か。
まるで自分を悪の様に仕立て上げて決闘を申し込むセゴムに対し間抜けな野次馬共は大いに盛り上がる。心象的にも周囲を味方につけた事でクジィとネムも同調してユートを責め立てた。
「そうですね。私達を先に裏切ったあなたの顔など見たくありません。セゴムが勝利したあかつきにはこの王都から出て行ってください」
「今までパーティー内でも散々私達に迷惑だってかけてきて、挙句ギルドの皆にまで不快な思いをさせて私だって我慢の限界よ」
はんっ、あくまで俺を悪者にしたいのか。まあいい……お陰で一切容赦しないでぶちのめせる。
セゴムからの宣戦布告に対してユートはむしろ嬉々として受け入れこう挑発してやる。
「いいぜその決闘を受けたやる。何だったらお前達3人がかりでもいいんだぞ? 今の俺ならお前達なんて取るに足らない存在だからな」
そう言うと3人の顔は分かりやすく真っ赤に染まり挑発に乗ってくれた。
こうしてユートと裏切り者3人による決闘が幕を開けたのだった。