第10話 復讐者は王都に舞い戻る
「よし……これだけレベルを上げればもう十分だろう」
もうかれこれ100体のモンスターの血肉を自らに取り入れたユートが自分のステータス画面を見て満足気に独り頷く。
必ず自分を裏切ったクズ共への報復を確実に成功させる為に力を蓄え続けたユートはもはや次元の異なる強さを身に着けていた。
彼の現在のステータスに記される強さはもはや異次元レベルだった。
〇 名前 ユート・ディックス
LⅤ 608
種族 人間族
職業 拳闘士
HP 2128
ⅯP 2010
攻撃力 1965
防御力 1940
素早さ 1938
覚醒したスキルを使い異種族の肉を喰らい得た戦闘力にユートは我ながら圧巻だった。
この魔法の森では多種多様なモンスターと遭遇した。そのいづれもが隠された能力が目覚める前までは苦戦していたモンスターのはずだった。だが今や彼にとってこの魔法の森に住み着いているモンスターは敵ではない。ただの糧となる〝餌〟でしかない。
そして遂にユートはこの魔法の森を出る事を決心した。
復讐の為に必要な下準備はもう十分だ。レベル上げに伴い追加の特殊能力も複数個得た。今ならあの驕り高ぶっていたクズ幼馴染共に鉄槌を下せられる。
こうして森を出る事を決めたユートは地面を強く踏みしめて走り出す。
ただ地面を強く踏んだだけだと言うのに大地は震え周囲の木々は揺れ動き葉を散らした。そしてまるで閃光の様な速度でユートは一気に森の中を駆け抜けて行った。道中ですれ違うモンスター達は横を通り抜けるユートの動きを目で追いきれず疾風が通り過ぎただけとしか認識できなかった。
そしてものの十数分で魔獣の住み着く入り組んだ森を抜け出る。そして森を出てからも彼は一切足を止める事も無くクズ共が今も暮らしている王都を目指す。
レベル上昇に伴い素早さも上昇しているユートは閃光の様な速度で駆けて行く。
「このペースなら半日もしない内に王都に辿り着けるな」
ちなみに王都から魔法の森までは馬車移動を経由して1日の日数を使用した。今にして思えば自分の口封じを確実に成功させるために王都から離れた距離まで移動したのだろう。
神風の如く王都を目指しながらユートの口元は無意識に三日月の様な弧を描いていた。
さあもうすぐだ。もうすぐ俺がお前達の元まで行くからな……!!
怨嗟を力へと変えて走り続けてユートは全速力で奴らの元へと向かう。道中に休息を入れつつ移動を続けた結果、自身が予想していた通りユートは僅か4時間程度で王都付近までやって来ていた。
王都のすぐ間近まで辿り着くとユートは思わず足を止めてあの裏切りの日を思い返していた。
一緒に冒険者になろうと手を重ね合った幼馴染達に裏切られ、挙句には命を奪われそうになった。蔑みの視線と嘲笑を添えて3人がかりで自分を痛めつけたあの顔がフラッシュバックする。
「ぐっ……」
魔法の森を出てここに至るまでの道中では恨みに支配されていたユートの額から汗が垂れた。
例え万全の実力を身に着けたとしても自分を葬ろうとした3人ともうすぐ対面する事をイメージすると呼吸が荒くなり汗が滴り落ちる。
しっかりしろよ俺、ここまで来ておいて今更ビビッてどうするんだよ。返り討ちにされないようにとどれだけの魔獣の肉を喰って強くなったと思ってんだ。
この期に及んで腰が引けかけている自分を叱咤するかのように自分で自分の頬をガツンと殴りつける。口内を歯で斬ってしまったのか口の中に鉄の味が広がる。だがその血の味があの裏切りの際の怒りを思い出させてくれた。
「………行くか」
己の中にまだ残っていた惰弱な心を完全に殺し切って遂に王都へと舞い戻ったユート。
王都の中へと戻ると周囲の者達は怪訝な眼ですれ違う彼を見た。何しろずっと森の中でモンスターや魔獣と戦い続けて来たのだ。彼の恰好はお世辞には綺麗とは言えないだろう。森の中で一応は土や付着した血を洗ってはいたが当然その程度で染みついた汚れは綺麗に取れる訳もない。
だがそんな周囲の視線など今のユートにはまるで気にもならない。何しろもうすぐあのクズ共と対面するのだ。周囲の奇異な視線などに気を取られている余裕などある訳もない。
まず最初に彼が向かったのは彼等が居を置いている宿だった。
自分が帰って来た姿を見てこの宿の主人は大層驚いていた。まあだからと言って別にユートは彼との再会を喜ぶ事は無かったが。このオヤジもギルド連中同様に自分をユーズレスと馬鹿にしていた輩の1人だ。
そして目的の3人が居ないとなればこの宿にもう用も無い。次に彼が向かった場所は登録していた冒険者ギルド【戦士の集い】だった。
ギルド内へと踏み入ると周囲の連中達はユートの登場に驚く。
「え…アイツって【ブレスド】のクズじゃねぇか……」
「クエストの中で戦死したんじゃ……」
周囲の話し声を耳にしてユートは内心で小さく笑う。
分かり切っていたが自分はクエストの最中に戦死したと扱われているようだ。
自分の視線の先に居る〝裏切り者共〟達の虚偽によって……。
「久しぶりだな……裏切り者共……」
「ユ、ユート……どうしてあなたが……?」
既に死んだはずの亡霊に話しかけられたクジィは青ざめた顔で自分を見つめる。一緒に居るセゴムとネムも同じように言葉を失って間抜け顔を晒していた。
ああ……ようやく復讐が果たせそうだ………。
今まで胸の内で燃えていた黒い炎が全身の血液を煮えたぎらせる。
そしてここからユートはこの3人から全てを奪う。地位も名誉も、そして才能すらも……。