第1話 最高ランクの幼馴染達に紛れている外れスキル
少し前に予告していた新作の投稿を始めます。今回の作品では少しダークファンタジーを意識してみようと考えてはいますので応援よろしくお願いします。
この世界には生まれながらに《スキル》と呼ばれる特殊な力が1人1人の人間に備わっている。
その力は千差万別であり戦闘に向いている系統のモノもあれば、農業などの産業に向ているモノ、商業などに向いているスキルなど多種多様である。そして年齢が10歳となると教会でそれぞれの持つスキルの正体が判明し本格的に能力を開花させ、人々はそのスキルに合わせた職種に就く。
だが残念ながら全ての人間が生まれながらに持つこの能力は必ずしも役立つスキルが与えられるとは限らない。悲しいことに中にはあってもなくても意味が無いスキルを恩恵として与えられた者も居る。
役に立たない外れスキル所持者達は神より愛されなかった者と嘲笑われて蔑みを込めてこう呼ばれている――〝ユーズレス〟、つまり〝無用な存在〟と呼称されている。
巨大大陸【ワールシュア】の最北に位置する【クリスタル王国】内の王都には冒険者達が集う巨大な冒険者ギルドが三ヶ所存在する。
その中の1つであるギルド【戦士の集い】の酒場内では大勢の冒険者達の喧噪が響き渡っており喧しい。だがギルド内に入って来たとある〝冒険者パーティー〟の登場で酒場内の喧噪は収まり視線がそのグループに向いた。
「おっ、ウチのギルドの〝最強パーティー〟が帰って来たぞ」
中年冒険者の1人が口にした最強パーティー、それはこの王都のギルドで【ゴールドランク】の称号を持つ4人のパーティーだった。
冒険者ギルドに登録している者達は3段階の称号にランク分けされている。
もっとも一番下のランクの初級冒険者者は【ブロンズ】、その次にそれなりの実力と実績を身に着けた中級冒険者は【シルバー】、そして一番上の階級が【ゴールド】ランクなのだ。このゴールドランクに至った冒険者はこのギルド内でも一握りしかいない。
大勢の同業者の注目を集めている4人組のパーティー、その内の〝3人〟がその数少ないゴールドランクなのだ。
そのパーティーの名は【ブレスド】、そのパーティー名の由来は神に愛されている者達と言う意味から作られた名前だ。
このパーティーの中の3人は神に選ばれた者達と呼ばれるほどに強力なスキルを持っている。
まずこのパーティーのリーダーである剣士のセゴム・ドゴーラ。
彼の持つスキルは《剣聖の加護》と呼ばれるスキル。このスキルを持つ彼は剣を持てば相手が誰であろうと切り伏せる戦闘力を強制的に発揮する。この王国の騎士達が数十人束になっても剣を持った彼は容易く斬り捨てられる程だ。それ故に王都の騎士団からはよく指導を頼まれるほどに彼は頼られている。
そして魔法使いであるクジィ・オルトス。
彼女の持つスキルは《無限の魔力》と呼ばれるスキルだ。魔法使いは冒険者の職の中で最も魔力を消費する役職と言える。だからこそ通常の魔法使いは魔力回復のポーションを持参したり、戦闘中にも魔力配分を計算して戦わなければならない。だが彼女のスキルは尽きる事のない魔力を生み出す。それ故に彼女は本来ならば消耗の大きい上級魔法も無制限に撃てる。
そして聖職者であるネム・メルドーラ。
彼女の持つスキルは《鉄壁の護り》と呼ばれるスキルだ。聖職者は基本は回復や能力補助などを得意とする後方支援型の職だ。だからこそ他のパーティーメンバーは前線に立ち、彼女の様な人間は後方に控えるのがセオリーだろう。だが彼女の持つスキルは自分に降りかかるあらゆる物理的攻撃をゼロにする。例え相手が竜であろうと彼女に物理的なダメージは与えられないのだ。
この3人の生まれながらに持つ強大スキル、その力により彼等のパーティーは通常では考えられない程のスピードで最高ランクであるゴールドまで辿り着いた。
ギルド内の誰もが彼等3人に対して羨望の眼差しを向ける。だがそのパーティーの中には1人だけブロンズのランクの冒険者が紛れていた。
その最後尾の人物に対して周囲の冒険者が訝し気な視線と共にコソコソと話し出す。
「いつも思うけどやっぱり釣り合ってねぇよなアイツ」
「何であんな凄い3人の中にあんな〝ユーズレス〟が紛れてんだか?」
酒を煽りながら二人の冒険者の視線は一番後方に居る少年へと向いた。
その少年は自信に満ちている3人とは違い俯きがちの気の弱そうな人物だった。
この少年の名前はユート・ディックス。
彼はこの3人とは幼い頃から同じ村で育った幼馴染だった。だが不幸な事に彼の与えられたスキルはハッキリ言ってゴミ同然の外れ能力だった。彼が天より与えられた恩恵、それは【暴食】と呼ばれる力でありその能力は人よりも遥かに多くの量の食事が摂取できると言う意味不明なスキルだった。言ってしまえばただの大食い、どう考えても何の役にも立たないスキルでありギルド内からは彼が何故あの【ブレスド】の一員なのか理解できなかった。そもそもこんな戦闘の役にも立たないスキルで何故冒険者ギルドで働いているのかすら分からない。
何故こんな役に立たないスキルを持つ彼が冒険者稼業に足を踏み入れたのか、それはかつて同じ村で幼馴染達と語った〝夢〟が理由だった。