第六話
週末、昌平は繁華街にある居酒屋に来ていた。店内は客でごった返しており騒々しい。随分と繁盛しているようだ。
そんな喧騒も大学時代に仲間たちとよく飲みに行っていた居酒屋の雰囲気を思い出させる。自分でも不思議なほど気分が高揚しているのが分かった。
昌平が案内に来た店員に予約の名前を伝えると奥の座敷へと通された。店員が襖を開け、中へ入ると、すぐに声が飛んできた。
「遅いぞ、昌平!」
そう言ったのは昌平に連絡を寄越した中泉だ。昔から時間には五月蠅い男だったから今日もきっと一番にやって来たのだろう。
「まだ時間前だ」昌平は自分の腕時計を人差し指で叩きながらそう答えると、空いている席に座った。
部屋の中を見渡すとまだ半分くらい空席が見受けられた。
「集まり、悪いのか?」昌平が中泉に尋ねる。
「いや、もうそろそろ来るだろう」
中泉が答えると、その数分後、ぞろぞろと集団で旧友たちが現れた。その顔を一つ一つ眺めながら昌平は大学卒業から二十年以上の時間が経過していることを実感した。体型や頭髪の量、表情や顔に刻まれた皺の数、そして雰囲気に至るまで様々な変化を皆一様に見せていた。
だが、乾杯の音頭とともに酒が入ると、次第にみな昔のノリを思い出していく。
仲間の一人が往年のトッププロのスイングを真似して見せると、別の者も自分の好きだったプロのスイングを真似し始める。そのうちあーでもない、こーでもないとゴルフ談義に花が咲き始める。
そんな様子を昌平が懐かしそうな視線で見つめていると、隣に中泉がビール瓶を持ってやって来た。
「飲んでるか?」空になった昌平のグラスを見て中泉が言った。
「ああ、まあ、それなりにな」
「嘘つけ。お前、昔っから大酒のみだっただろうが。それくらいじゃ全然足りないだろ。ほら、もっと飲めよ。それとも明日、何か用事でもあるのか?」
「いや、特にそういう訳では……」
「じゃあ、いいだろ?」
昌平は中泉から酌を受けると、それを一気に飲み干した。
「ほら、まだ全然行けるじゃないか」中泉は楽しそうにそう言うと、少しだけ声のトーンを落とした。「何かあったのか?」
「え?」
「部で一番のお調子者だったお前が大人しくしてれば気にもなるさ」
「もういい年だからな。落ち着きもする」昌平はそう答えると、自分でグラスにビールを注ぐ。
「たしかにな。特にお前は会社の経営者だから余計にそうした態度が必要になる。でも今日くらい多少羽目を外してもいいだろう」
「私も今日はそのつもりだったんだが……」
どうしても会社のことが頭の隅に張り付いて離れない。そのせいで純粋に場の空気を楽しむことが出来ずにいた。
「何か悩みか?」閉口する昌平に中泉が尋ねる。「俺でよかったら相談に乗るぞ。これでもお前と同じ会社の経営者だ。人の相談を受けることは慣れている」
旧友のその言葉は崖っぷちに立たされていた昌平の心に強く響いた。こういうとき親身になって話しを聞いてくれる友人がいるということがどれだけ心強いか。
「ありがとう」昌平は持っていたグラスをテーブルに置くと、中泉に言った。「このあと、時間あるか?」