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第六話『不遇の王女』クレマンティーヌ視点

む、矛盾はない……筈だ(焦)


 いっそ悪趣味な程豪華な調度品や美術品で飾られた王族居住区を私、クレマンティーヌ・ローランドは怒りのままに歩いていく。


 今は亡くなってしまった正妃を実母にもつ私は、ローランド王国唯一の後継者として厳しい教育を受けてきた。


 母上が亡くなった半年後、まだ母上の喪が明けていないにも関わらず、父親である国王陛下は王城へと見知らぬ婦人とその娘を招き入れた。


「はじめましてお姉様、キャスティと申します!」


 礼儀作法もまともに受けていないのか、カテーシーすらできず、頭をさげる事もない。


「お姉様? 陛下、どうしてキャスティ嬢が私を姉と呼ぶのか説明いただけますか?」


「そのままの意味だ、王妃が亡くなった今、新たな王妃は必要だろう? キャスティは正真正銘私の娘だ問題なかろう」


 フンッと玉座にふんぞり返る王の姿に怒鳴りたくなるのを必死に手を握りしめて堪える。


 既に母に似て何かと意見する私は……王に煙たがられている。


 母が生きているうちは、国民の負担になるようなあまり目に余るような愚策は、止められていた。


 しかし母が病に臥せるようになると、口うるさい私を魔王の治める神魔国との外交と称して城から追い払い、母の危篤を聞き急ぎ戻ってみれば既に母は他界した後だった。


 国民から強引に取り立てた増税で私腹の限りを尽くしているのだろう。


 活気がある神魔国の国民とは違いローランド王国へと戻る途中に馬上からみた国民は一概に暗い表情をしており、豊作だったにも関わらず痩せ細った者が多かった。


 キャスティと名乗る娘は、神魔国でしか取れない蜘蛛の様な魔物からしか取ることのできないスパイダーシルクをふんだんに使用したドレスを身に纏っている。


 絹蜘蛛(シルクスパイダー)と呼ばれる獰猛な魔物の巣から少量しか取ることができない。


 光を反射して虹色に光るスパイダーシルクは本来、刺繍やドレスの縁を飾るレースくらいにしか使用されることはない。


 スパイダーシルクのレースをドレスに使用するだけでも国の年間予算の一割を失うほどの値が掛かる。


 それなのにキャスティの着ているドレスはレースどころがスパイダーシルクを編み上げた布地を使用して作られたのだろう。


 一見シンプルな純白のドレスに見えるが、光を浴びるところがキラキラと虹色に輝いている。


 いっそ何も着けないほうが品があると感じざるを得ないほどの宝石が散りばめられた宝飾品を重ねづけしている。


  一体どれほどの税金を使い込んだのか考えるだけで恐ろしい。

 

 そして神魔国と友好な関係を築こうと尽力してきた亡き母を嘲笑うかのように、私がいないときを狙って王は異世界から勇者を召喚するという暴挙に出たのだ。

   

 先々代の国王は豊かな神魔国を手中に治めようと当時の魔王を倒すために異世界から勇者を召喚した。


 そのせいで双方に沢山の犠牲が出たと言うのに……またあの愚策を演じるつもりなのかと憤慨する。


 分厚い絨毯は苛立つ足音を全てなかった事にしてくれるが、一体この絨毯はいつの間に作らせたのだろうか。


 度重なる重税と神魔国への侵攻資金と民兵として働き手を奪われた農民は満足に作物を作ることが出来ずにいる。


 それでも生きるために、戦争に駆り出された夫を待ちながら懸命に働く疲弊した民から……更に税金を搾り取ろうと思っているのだろうか?


 部屋の主である国王陛下から執務室への入室を許可されて室内に足を踏み入れる。


 手短に挨拶を交わし私は直ぐに本題に入ることにした。

 

「おぉ、クレマンティーヌよ戻ったのか……キャスティとは仲良くしておるだろうな? あれは私の可愛い娘なのだ」


 あなたの目の前に居るのもあなたの娘なのですが……

   

「キャスティ嬢について言いたいことはございます……ですが今は新たに召喚された勇者達についてです!」


 先代で召喚された勇者は女性だった、一緒に召喚されてきた仲間と共に当時の魔王を打倒し、強大な力を持つ魔王を封じるためにこの世界から魔王と共に消えたと言われている。


 それ以降、神魔国とは仮初めの和平交渉が亡き王妃主導で進められてきた。


 それなのに新たな勇者召喚など行えばローランド王国側の戦力が増し、和平交渉どころか軍事侵攻の準備をしているのだと取られてもおかしくはない。


「あぁ、あの子供か……幼い子どもであればいかようにも丸め込める、どうせ他国の平民風情使い潰したところでなんの問題もない」


 長く伸びたあごひげを撫でながらニヤリと笑う。


「問題がない? 問題ばかりではありませんか!」


「あー、うるさいの……子らはそれぞれ引き剥がして教育者を据えればよかろう、奴らを使えば神魔国など下すのは簡単だ」


「神魔国に略奪戦争を仕掛けると!? いけません!」


「あー、あー、あーうるさいのぅ」    


 ローランド王国の国王陛下と今は亡き正妃との間に産まれたクレマンティーヌを厭うている態度を隠しもしない。


「魔王のおらぬ神魔国など恐るるに足らん、勇者召喚は既に完了しているのだ、あとはこちらの言うことを聞くように調教すれば良いだけだ」


 いくら言葉を重ねても、目の前の……父親には届かない。

  

「そんなに勇者一行への待遇が気になるならお前がもてなせば良いではないか」


 王の言葉に顔を上げる。


「勇者と言えど平民風情の兵器をそれほど気にする必要を感じないが、早々に使い潰してはまた召喚をするのも面倒だからな」


 面倒ならば最初から召喚などするなと怒鳴りつけそうになりグッと言葉を飲み込む。


「かしこまりました……では勇者一行について私に一任頂いても宜しいのですね?」


「あぁ構わぬよ」 


 色々と言いたいことはあるけれど、話を聞くつもりがない者に真摯に言い募ってもなんの解決にも繋がらない。


 とりあえず勇者一行の今後の扱いについて王の言質は取ったのだから良しとしよう。


 こちらの勝手な都合で勇者召喚という儀式を強行し本人の同意無しに世界を越える拉致を強行してしまった事実は変わらない。


 恨まれても仕方がないような事をしておいて彼らを平民風情と蔑み使い潰すつもりの王の言葉に反吐が出る。


 この王はローランド王国の国民すら税金を搾り取る為の存在としか考えていない。


 王の執務室から出ようとしたところで、私が開けるよりも先に目の前の豪華な彫刻が施された扉が外側に向かって開いた。

 

「おとうさまぁぁん!」


 甘えるような猫なで声で部屋の主へ入室の許可を得ることなく走り込んできたキャスティの不作法に頭痛がする。


「おぉキャスティよ、どうかしたのか? ん?」


 そんな不作法を諫めるでもなく自分に縋るように駆け寄るキャスティを愛しそうに抱きとめる。


「キャスティはセイヤ様が気に入りましたぁ! キャスティの側仕えに召し上げたいのですぅダメですかぁ?」


 語尾を伸ばしながら話すキャスティに視線を送る。    


「キャスティ勇者一行の身柄について陛下よりたった今私へ一任する許可を頂きました、彼らは勇者、側仕えには出来ません」


 私の言葉が気に入らなかったのだろう、こちらを睨みながら口先をとがらせるキャスティの素直すぎる反応は、本音を微笑みに隠す社交界において王女どころか貴族の令嬢としてすら失格だ。

 

 キャスティは直ぐにポロポロと涙を流して床に座り込み、執務机野椅子に座る王の足に縋り付いた。

 

「そんなぁ、おとうさまぁぁん!おねぇさまがキャスティに意地悪をするのですぅ!」


 キャスティの反応に苛立ちが募る、今回の勇者一行についてだけではない、キャスティはことあるごとにこうして男性に自分の涙を見せて同情を誘うような真似をするのだ。


「すまんが勇者一行は神魔国侵攻の戦力だからなキャスティにはやれんのよ、侵攻が終わり神魔国を和が国へと取り込んだ後ならば下げ渡そう」


 王がキャスティの我が儘を断ったことに安堵する。


「それでは陛下、私は下がらせて頂きたいとおもいます」


 執務室から廊下へと出て自分の背後で扉が閉まるの音を確認し、勇者一行の教師陣を手配するべく私はあるき出した。


 なるべく早く勇者一行の教師陣を手配しなければならない。


 適任者は誰だろうかと思案しながら護衛騎士と共に進んでいると前方から我が国の騎士団ディートヘルムがこちらへと歩いてくる。


 筋肉隆々の鍛え抜かれた巖のような身体と綺麗に剃り上げたスキンヘッド、顔に頬から顎に掛けて三本の傷跡が残ってしまっているためその見た目から子供や可愛いものが好きにも関わらず、泣かれると言っていた。


「ディートヘルム騎士団長」


「クレマンティーヌ殿下、いつ本国へお戻りになられたのですか?」 


 声を掛けるとその場で礼をするディートヘルムの声色は本当に私の帰還を知らされていなかったようで驚いている。


「昨夜遅くに帰還したのです、陛下が異世界から勇者召喚を行おうとしていると魔導師団長のグスタリスから速達魔術便が届きましたから」 


 馬を乗り換えながら強行軍で戻ってきたのだが、残念ながら勇者召喚を未然に防ぐことは失敗に終わってしまった。

 

「そうだったのですか、あまりご無理をなさいませんように……ご無事で何よりです」


 今回勇者召喚の情報を知らせてくれたグスタリスとディートヘルムは元々平民出身で冒険者として名を上げて実力でこの国の魔導師団長斗騎士団長までのし上がった男だ。


 そしてこの王城で疎まれる私を守り育ててくれた師匠たちでもある。


 私を導いてくれた彼らならば、勇者一行を正しく導いてくれるのではないだろうか……


「心配をかけましたね、ディートヘルム、異世界から来た勇者様の教師役を打診したいと思っていたのですがいかがかしら?」


「わっ、私がでございますか?」


「えぇ、勇者様方はこちらの都合で拒否権すら与えられず右も左もわからないこの世界へ強制的に連れてこられました……」


 本来ならば成人すら迎えていない子供ばかりだとも聞いている。


「私は、そんな彼らに少しでも信頼できる教師役とこの世界で生きていくための支援をしていかねばなりません」


 私達に勇者様方を元の世界へとお戻しするすべがない以上、衣食住の保証とこの世界で生活していくのに必要な知識や力を提供するのは召喚した我々の義務でもある。


「お願いしますディートヘルム」


 この腐り切ったローランド王国で私が信頼できる人物はとても少ない……


 勇者様方のステータスが書き写された書類を確認した結果、勇者様方全てに信頼に足る人物がつけられない以上、純粋な戦力となる方から優先に人材を手配しなければならない。

   

「わかりました、至らぬ我が身ですが可能な限り勇者様方を支える一柱となりましょう」


 そう言って引き受けてくれたディートヘルムに自分の心を押し隠して今日も王女にふさわしく優雅に微笑む。


 眩しいほどに凛々しく決して私が結ばれる事が叶わない愛しき人へ……

     


 


        

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[一言] うーむ… じゃあ、このお姫様… 主人公とウマが合うかも…
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