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第二話『人族と魔族』


「勇者召喚きたー!」


「きたー」


「おまえらは少し落ち着け」 


 テンション爆上げの陸斗(りくと)が右腕を上げると、遥斗(はると)が棒読みで右腕を上げる。


 そんな二人の頭に蒼汰(そうた)はゴチンと握りしめた拳を振り下ろした。


「蒼兄ちゃん暴力反対!」


 涙目の陸斗と遥斗を無視して蒼汰(そうた)は私達家族を庇うように一歩前へ出る。

  

「私達は自宅のリビングから突然ここに拉致されました、誘拐犯に突然勇者になれとか、魔王や魔族を倒せと要求されても困ります」


「そうです、僕達を元いた場所へ返していただきたい」


 どうやらあまりに非現実的な状況に置かれたことで星夜(せいや)の低血圧はどこかへ飛んでいったらしい。


 なまじ外見が整っているし、年齢的に現在反抗期真っ只中、不機嫌な時は笑顔でバッサリ切り捨てるそれが我が家の次男(魔王)様だ。


「まぁ、そんな悲しいことをおっしゃらないで?」


 それまで国王陛下の隣りにいた姫君がボリューミーなロングスカートのドレスを華麗に捌いてこちらへやってくると星夜の腕に自らの細い腕を絡めて擦り寄った。


 その際にコルセットで寄せてあげた胸を押し付けるのも忘れないあたりこの姫様侮れない。


「ローランド王国第二王女キャスティ・ローランドと申します! せっかくこうしてお会いする機会に恵まれたのですもの、客間でお話いたしましょう? 皆様が置かれている状況や今後の事についてご相談させてくださいませ」


 上目遣いで目を潤ませ星夜を見つめ懇願する姫様は一見儚げに見えるけれど、同性の私から見れば完全に星夜をロックオンした雌豹だった。


 そうこの手の女性に……星夜の歳上の彼女だと勘違いされて何度罵られたことか。


「はぁ、とりあえず移動しませんか?」


 奏音(かなと)を保育所へ送ってから高校へ行くつもりだったため制服に割烹着姿の私はそろそろ地面に座るのがきつくなってきた。


 冷たい地面にスカートで正座を外側に崩してぺたりとお尻を付く形で座っているため正直お腹が冷え始めた。


 こんなことならスカートの下にジャージ履いておけばよかったよ。  

  

「そうだな……では移動しよう」


 ざわめきが続く中、そう告げた国王が出口に向かって歩き出すと、お姫様が嫌がる星夜の腕をご機嫌で引いて行く。


 その後ろに続こうとする陸斗を遥斗が引き止めていた。

 

「姉ちゃん、奏音俺が抱っこしようか?」


 そう言って蒼汰(そうた)がこちらに手を伸ばした。

 

「ぼくおねぇちゃんの抱っこがいいもん!」


 私や蒼汰(そうた)のピリピリとした空気を敏感に感じ取っているのだろう奏音(かなと)は、私の割烹着の胸元を必死に掴んで離さない。    


「わかったわかった、奏音が姉ちゃんを守るんだもんな?」


「そうだよ!」


「奏音は偉いなぁ、でもそのまま貼り付いてたら姉ちゃん立ち上がれずに病気になるぞ?」


「えっ!? おねぇちゃんごめんなさい早く立って?」


「奏音ありがとう、直ぐに抱っこしてあげるからちょっとだけ蒼汰(そうた)兄ちゃんに抱っこしててね?」


「うん!」


 私の体調を気遣う弟二人がかわいい。


 まぁ……弟が五人もいるので皆それぞれ可愛いし、たまにどうしょうもなく苛立つこともあるがなんだかんだで皆家族思いのいい子達なのだ。


 私は石の床から立ち上がり制服のスカートの汚れを払う。


「まぁはしたない」


「あんなに脚を曝け出すなど正気かしら」


 私が立ち上がった途端今まで以上に外野が騒ぎ出した。


「異世界で女人はあのように素足を曝け出して暮らすのか、それはぜひ一度行ってみたいものだなぁ」


 どうやら膝上のスカートはこの世界ではあまりよろしくないらしい。


 男性陣からはねっとりとした色を含んだ視線が……女性陣からは批難を多分に含んだ視線が突き刺さる。


「では部屋を移動しステータスの確認をいたしましょう」


 にこやかに案内され連れて行かれたのは豪華な調度品が置かれた五十畳はありそうな部屋へと通された。


 私を見た侍女の一人が慌てた様子でどこからか持ってきたマキシ丈のワンピースを渡された、別室にて着替えさせられた。


 よく見れば侍女たちが来ている制服と同じものだ。


 長テーブルの上座、ひときわ立派な椅子に国王と思われるおじさんが座り、星夜の腕にしがみ付いた王女が案内して王様の左斜め隣に座ると星夜をその隣に半ば強引に座らせた。


「さあこちらに座ってくださいませ!」


「しがみ付かないでください」


 強引な肉食系女子に追いかけ回されるのが苦手な星夜が、本気で嫌がっているので助けに入ろうか迷ったが、とりあえずこの何も分からない状況で王女様に気に入られているうちは星夜は安全だろうと思い直す。

   

 長テーブルに座るように促され、それぞれが席へと案内され座らされる。


 星夜の隣に蒼汰が座り陸斗と遥斗が座る、私はその隣の席に座り人見知りを発揮して不安そうな奏音を抱き上げて膝の上乗せた。


 長テーブルを挟んで反対側に豪華な衣服と宝石を身につけた偉そうなおじさん達が次々に座っていく。


 きっとこの国の宰相とか大臣とかそう言う役職についている人々だろう。  

 

「えー、皆様席に着かれましたので改めまして勇者様一行にご挨拶させていただきたいと思います、私はこのローランド王国で宰相の任に着いていますワルテール・レイス侯爵と申します。以後お見知り置き下さい」 

  

 王様の右斜め隣にから三つ目の席で立ち上がり頭を下げる。


 それから私達がなぜこの世界に召喚されたのかレイス宰相から装飾語たっぷりに回りくどく説明を受けた。


 要約すると、この世界には多種多様な人種がおり、大まかに分類すると私達のような人間が多い人族とエルフやドワーフ、獣人や竜人など人間以外の人種で構成されている魔族がいるらしい。


 そして魔族を束ねているのが魔王であるらしい。


 魔族は凶暴かつ残忍で人族の治める国々を侵略するために度々戦を仕掛けており、沢山の人々が苦しんでいるそうだ。

 

「お願いいたします、悪しき魔王を打倒し、この国を……人族をお救い下さい!」  


 宰相さんは長々と熱弁していたが、まぁ纏めるとこんなところかな。


 説明を聞きながら遥斗と陸斗が目をランランと輝かせて話を聞いている。


 あなた達、勇者召喚とか異世界転生転移好きだもんね。

 

「話はわかりました、仮にその魔王という方を倒したとして、私達は元の世界へと返していただけるのでしょうか?」


 それまで口を開かなかった蒼汰が宰相さんへと問いかける。


 蒼汰は普段は家族や親しい友人には俺という一人称を使うが、こうして知らない人の相手をするときには、私を使う。


「残念ながらそれは出来ません、異世界から勇者様方を召喚することは可能ですが、元の世界へと戻られた前例がございませんので……」


「はぁ~? 人を拉致しておいて帰せないとは聞き捨てなりませんね」


 下だけフレームのある銀縁のアンダーリムタイプの眼鏡をクイッと上げて星夜が不機嫌に言い捨てた。


 普段冷静であまり怒ることがない星夜の絶対零度の声に、私の隣で陸斗と遥斗が手を取り合っておびえている。


「せっ、セイヤ様? どうかなさったのですか?」


 もともと邪険にされていたものの突然、怒りを顕にした星夜に王女様が戸惑っている。


 心なしか部屋の温度が下がったような気が……いや、これ本当に下がってないかこれ?


「おねえちゃんなんか寒い……」


 私の腕の中で奏音が両腕で自分の身体を抱きしめこちらを見上げている。


「星夜、落ち着け奏音を見てみろ」


 蒼汰に促され奏音の顔を見ると、グッと両目をつぶり深呼吸を繰り返した。


 それまで漂っていた冷気が鎮まる。


「いやはや流石勇者様方ですな、鍛錬されておられるわけでは無いのに漏れ出た魔力だけでこれほどまで周囲に影響を及ぼされるとは」


「本当に素晴らしい」


「弟君を諫めることができる、素晴らしい兄弟愛ですな」 


「セイヤ様はお強いのですねぇ!」


 この国のお偉いさん達と王女様が星夜と蒼汰を次々に褒め称える。


「ご帰還に関しましては大変申し訳ございませんでした、しかし我々にはもう異界から勇者様をお呼びするより他に道はなかったのです……」


 わかりやすく被害者は自分たちだと言わんばかりの誘拐犯たちだが、王女様だけはニコニコしている。


「勇者様方は最重要国賓として出来得る限りの便宜をお約束いたします、ですのでどうか我らを魔族の魔の手からお救い下さい」

     

     

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[一言] うわお! この「冷気」の正体を、まだ気づかんのか!?
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