19.乙女を尾行する男達と、嫉妬と、予期せぬ質問
「じゃあ、服を買いに行きましょうか! 晴れて良かったですね~、今日」
「はっ、は、はい! あの、すっ、すみません。こんなことでお時間を取らせてしまって! あと、くれぐれもダニエルさんには秘密でお願いします……!!」
「大丈夫ですよ、言ってませんから~」
視線の先でメイベルがにこにこと笑いながら、しきりに恐縮するエレンをなだめている。それを見て、思わず胸が痛んだ。ごめん。知ってるし、なんなら俺は今、ここにいるんだ……。今日はアレンとハリーに誘われ(断りきれなかった)、エレンとメイベル、フレデリックとカイルを尾行することになった。
公園の茂みに身を潜めながら、噴水近くに佇んでいる二人を見守っていると、唐突に、背後のアレンが俺の肩を掴んできた。尾行するということで今日のアレンは、地味な黒いパーカーとズボンを履いている。そうしていると、まるで学生みたいだ。かくいう俺も、黒いポロシャツにズボンを合わせている。
「おいおい、おいおい……あんなにおしゃれする必要があったのかよ? おい、見てみろよ。ダニエル。あのおっさん、でれっでれに鼻の下伸ばしてるぞ。気持ち悪いな」
確かに、さっぱりとしたアイスグレーのジャケットを羽織って、格好良くきめたフレデリックが二人を見てにやけている。そんなことにも気付かず、笑顔でエレンと話しているメイベルは栗色の髪をおろして、小さなリボンが連なったカチューシャをつけ、小花柄のカシュクールワンピースを着ていた。一方のエレンは焦げ茶色の髪をまとめ、白地にレモンイエローの花柄が浮いたワンピースを着ている。でも、微妙にサイズが合っていないし、胸元がぱっくりと開いている。だから、メイベルと似合う服を買いに行くというのは、理解、出来なくもないんだが……。
「俺もあの輪の中に加わりたかったのに、俺もあの輪の中に加わりたかったのに……!!」
「おいおい、騒ぐなよ。ハリー。さっきつけたイヤーカフは、あの二人から姿が見えないってだけで、クソの色ボケパン屋とシェラの弟には気付かれるんだからな?」
「性能悪いね、これ」
「ああ!? てめぇな、むごっ!?」
「あっ、アレン、き、聞こえるから静かにして欲しい……!!」
一瞬、自分の心の声がもれているのかと思った。慌ててアレンの口を塞ぐと、しまったと思ったのか、気まずそうな顔をする。チェック柄の帽子とジャケットを身につけた、新聞記者のような出で立ちのハリーが口元を押さえ、ふすふすと笑い出す。
ばれやしないか、心配になって見てみると、案の定、カイルがこちらを見ていた。まずい。……その顔立ちはシェラにそっくりで、深いダークブルーのジャケットがよく似合っている。こちらを見ていたものの、すぐに目を逸らしてくれた。だ、大丈夫か? その時、耳につけたイヤーカフがキィンと、不思議な音を立てる。これは四人の会話を盗み聞きするためのもので、つけているとどうやら、エレンとメイベルの二人がこちらを認識出来ないらしい。
出来ればフレデリックとカイルにもばれないようにして欲しかったけど、これを作ったアレンいわく「四人から見えない上に、会話を聞くとなると魔力消費量が増える」とのことだった。しかも、アレンの精神が乱れた時は会話が聞こえなくなるし、ちょっとだけ使い勝手が悪い。口が裂けてもそんなこと、アレンには絶対に言わないけど……。
「メイベルさん、エレンさん。それじゃあ、行きましょうか」
「あっ、はい! カイルさん、すみません。巻き込んじゃって」
「いやいや。メイベルさんからのお誘いならいつでも大歓迎ですよ。それに、アレンさんもいないし」
「俺はいてごめんな~。そういや、シェラの弟とこうして会って喋るのは初めてか。よろしく」
「よろしく。いつも姉がお世話になっています」
カイルとフレデリックが握手を交わし、フレデリックだけが人当たりの良い笑顔を浮かべる。カイルは姉譲りの無表情で応えていた。
「はーっ……よ、良かった。き、気が付いたけど、言わないでおいてくれるみたいだ」
「あ? 弟、気が付いてたか? 今の騒ぎに」
「俺、ばっちり目ぇ合っちゃった。ばれてた、ばれてた。アレンがうるさく騒ぐから~」
「そこの噴水に顔突っ込んで放置するぞ、お前。置いていかれたくなきゃ、今日は普通の人モードでも発動させておけ」
「でも、アレン嫌がらない? 俺が普通の人になったら嫌なんだよね? ねっ? ねっ? 気持ち悪いんだよね? ねっ? ねっ?」
ハリーが茶色の瞳を見開いて、アレンの肩をゆさゆさと揺さぶると、あからさまに嫌そうな顔をした。見てみると、四人は遠ざかりつつある。早く追いかけなくては。
「うるせえ。普通でもおかしくてもお前は気持ち悪いんだ。なら、俺らに迷惑かけない普通の人間になっとけ。いいな?」
「うん、分かった!!」
「バカ! 声がでかいっての!!」
「いだっ!?」
「だっ、だから、静かに……」
ハリーの頭を殴ったアレンをなだめ、四人の後を追いかける。乗り込んだトラム内でばれやしないか、ひやひやしたが、メイベルとエレンの後ろの座席に座ることに成功した。今日はメイベルの言葉通り、天気が良く、窓から見える青空が綺麗に透き通っていた。
「そっ、それでわ、私、でっ、出来れば、ダニエルさんの好きそうな服が欲しいんですが……可愛いって言って貰いたいし」
可愛い。頬が熱くなってきた。こ、これ、聞かない方がいいんじゃ……? 隣のアレンを振り返ってみると、こくりと頷いた。それから前を指差し、口パクで「気にせずに聞け」と言ってくる。焦っていると、メイベルが低く唸った。
「うーん……。ダニエルさんの好きそうな服ですか。なら、フレデリックさんの方が絶対に詳しいですよね?」
「ああ、まぁ、ある程度は? 任せとけ、エレンちゃん」
「よっ、よろしくお願いします……!!」
エレンちゃん? ちょっとなれなれしいような気がする。二の腕を組み、渋い顔つきをしていると、アレンがぽそりと「意外と嫉妬深いんだな、お前」と呟いた。ばれるかもしれないから、やめて欲しい……。ハリーもハリーで構って欲しいのか、ひたすら後ろから俺の肩を揺さぶってくる。やめて欲しい……。
「ふふっ。それじゃあ、私はカイルさんにアレン好みの服を教えて貰おうかなぁ~。二人とも、意外と仲が良いみたいだし!」
「えっ? まぁ、別にいいですけど。仲良くはな、」
「今度、アレンと一緒にピクニックに行きたいなって思ってるところなんです~! そこで動きやすい服装にするか、でも、ちょっとおしゃれして行くかですっごく悩んでて~」
「ジャージでいいですよ、ジャージで。アレンさん、女性がジャージ着てるの見ると興奮するって言ってましたよ」
「ええっ!? アレン、そんな特殊な性癖は持ってない筈ですけど……」
今度はアレンが渋い顔つきをする番だった。分かりやすくむすっと不貞腐れ、苛立ったように足の踵をとんとんと、動かして貧乏ゆすりをしている。なんだ。アレンも意外と嫉妬深いじゃないか……。そこまでを考えたところで、「ん?」と脳内に疑問符が浮かぶ。
(アレン、メイベルのこと、好きなんじゃ……?)
俺にはもうエレンがいるし、二人には幸せになって欲しい。でないと、いつまで経っても気になったままだ。メイベルに対して、エレンに抱くような恋愛感情はもう無いものの、楽しそうに笑っている姿を見るとつい、胸が締め付けられてしまう時はある。────嫉妬なのか、アレンの鈍い態度を見ていると苛立つ。
(今日は二人のアシストをするか……盗み聞きをしている訳なんだし、もしかしたらメイベルがアレンのことを好きだって、そう言うかもしれない)
ぜひとも、エレンと恋バナをして欲しい。……聞いていたらその、いたたまれない気持ちになってくるかもしれないが。罪悪感が少しと、期待半分、不安半分。複雑な気持ちを抱えながらも、トラムからおりて、ショッピングモールへと向かう四人について行く。
「わっ、わ~! こっ、このターコイズブルーのワンピース、綺麗~! 素敵!」
「あっ、エレンさん? その色はちょっと、鮮やかすぎるんじゃ」
「わっ、わわわ私、似合ってないですかね!? ださいですかね!? 色のセンス、なさすぎですかね!?」
「いえ、そうじゃなくて……ええっと、落ち着いてください。ださい訳じゃないんです! ただその、年齢層がちょっと高めなお店かなぁって」
鮮やかなターコイズブルーのワンピースを取り出したエレンが、ショックを受けて青ざめる。でも、確かにメイベルの言う通り、色が鮮やかすぎると思う。それに、そこはミセス向けの店なんじゃ……? 声をかける訳にもいかず、壁にしがみつきながら首を伸ばしていると、フレデリックがにこやかに笑って、エレンの肩に手を置いた。なれなれしい……。
「そうそう! メイベルちゃんの言う通りだよ。もっともっと、エレンちゃんにぴったりの可愛い服が売ってる店に行こうよ」
「かっ、可愛い服……!! おっ、大人っぽい服がいいんですけど! でっ、出来たら! 私、もう二十八なんだし」
「ええっ? 見えなかったよ。可愛いね~」
やたらとべたべたと、エレンの背中を触っている。無言でそれを眺めていたら、背後のアレンとハリーがおののいて、俺の肩を叩いてきた。
「ま、まぁ、落ち着けって。あのおっさんの悪いくせは今に始まった話じゃねぇし、エレンも嫌がってるようには見えないし……」
「アレン、なだめるのがへったくそだな~! それじゃ、殺意に火を注ぐだけだって!」
「ああ!? お前、人をイラつかせてばっかのくせに偉そうなんだよ! なら、お前が手本を見せろよ!?」
「分かった、分かった。任せとけ! 今日は俺、絶好調!」
「もっ、もういいから、別に……」
ハリーが俺の肩に手を置き、にこやかな微笑みを浮かべる。見失ってしまいそうだし、もういいから早く追いかけたい……。が、ハリーがやる気に満ちた顔をしているし、断れなかった。
「いいかい、ダニエルさん!? エレンさんはきっと、ダニエルさんのことが好きだから! いくらべたべたされて、可愛いねって褒められてもよろめかないって! 大丈夫、大丈夫!」
「うわ、お前。普通すぎて、聞いててだるいな……。俺の方がマシじゃねぇか」
「いや、アレンはなだめる気も慰める気もないじゃん? むしろ、フレデリックさんの肩を持ってたじゃん?」
「くそ! 普通モードのお前、うっとうしいな!? 行くぞ、ダニエル! ぼやぼやしてないで早く! 見失っちまうじゃねぇか! ほら早く!」
「あっ、うん……ごめん」
二人は俺より年下だし、手のかかる弟の面倒を見ている気持ちでいなきゃな……。アレンに急かされ、急いで後を追う。黒や紫色の服を売っていたさっきの店とは違って、淡いパステルカラーで統一された店に入って行った。大きな襟やリボン、透け感のあるスカートなどが並んでいて、確かに二人によく似合いそうな店だった。アレンが俺の肩を掴み、声を潜ませる。
「おい……。あいつら、ここで買い物するのかよ。男だけだと入りにくいな」
「あっ、た、確かに……」
「よし。じゃあ、俺が何の恥ずかしげもなく入ってみるよ! 彼女へのプレゼントを探してるって嘘を吐くんだ」
「お前、頼りになるな……!! 流石は変態。よし、先に行け。俺の前を歩け」
「褒めてる? それ。てか、アレンに妹がいることにしてもいいかもな」
「だな。妹へのプレゼントと称して、メイベルに何か買って贈るか」
(買って贈るんだ……)
いまいち、アレンがメイベルのことをどう思っているのかがよく分からない。気おくれするので、ハリーを先頭にして店に入って行く。あっちに気付かれたら嫌だなと思ったけど、店内はなかなかに広い。それに良い香りがする。緊張しながらも、レース襟のついたワンピースやブラウスがかけられたラックを横目に、店の奥まで入って行く。幸いにも、綺麗な格好をした女性の店員さんは「いらっしゃいませ~」と言うだけで、近寄っては来なかった。でも、まだハリーを先頭にして、アレンと二人で若干その背中に隠れて進む。
「おっ、いたぞ。ほら! メイベルとフレデリックが」
「どれっ、どれ!? 俺の後ろ!?」
「横だって。あと静かにしろよ。会話が聞こえねえだろうが」
「いだっ!」
アレンに小突かれ、ハリーが不満そうな顔をしながらも黙り込む。マネキンの前で話しこんでいる四人にばれないよう、ラックに半分身を隠したまま、耳を澄ませる。
「ふぉうわっ!? でっ、でっ、でででもこれ、腕がっ、腕が透けてるし、私にはよく似合わないんじゃ……?」
「いやいや。ダニエルさんはきっと、こういう透け感のある素材が好きだって。今のこの、着ているワンピースもよく似合うんだけどさ? サイズも合ってないし、肌見せしない方がエレンちゃんの品の良さを引き出してくれるよ。どうかな?」
「そっ、そうですかね……? じゃあ、着てみようかなぁ」
フレデリックが爽やかな笑顔ですすめているのは、手首まで覆われた花柄ワンピースだった。首元にはフリルがついていて、胸元から腰のリボンベルトにかけ、縦一列に並んだ胡桃ボタンがクラシカルで可愛い。確かにエレンによく似合いそうだ。水彩タッチの花柄といい、ぼかされたグリーンと淡いピンクといい、よく似合ってはいるものの……。
「なんか……フレデリックが選んだ服なんて、着て欲しくないなぁ」
「えっ? 意外だな。お前、そういうこと言うのか」
「いや、そりゃあね……俺と行ってくれたら良かったのに」
「どっ、どどどどどうしよう!? 邪魔したい、邪魔したい! 今すぐ普通の人モードを解いて邪魔したい!」
「やめろ! あとでアイスでも買ってやるから落ち着けって。それに後半、邪魔しようぜ。あいつらが一番楽しそうなところで邪魔しようぜ。ぶち壊しにしよう」
「アレン!?」
「うん! それがいいね! 俺、ミントチョコアイスをアレンに買って貰う!」
ま、真顔でとんでもないことを言い出した……。実は意外とストレスが溜まっているのか? たかだか、メイベルに置いて行かれたぐらいで? 物言いたげな俺を無視して、じっと、食い入るようにカイルとメイベルを見つめていた。視線の先で二人が楽しそうに笑い合い、服を手に取っている。
「あっ! これいいかも~。可愛いチェック柄のワンピース!」
「いいですね。でも、メイベルさんにはこちらの方がよく似合うかと」
「本当? でも、ピクニックには不向きかなぁ」
「俺が買って贈りますよ。アレンさんも好きそうだし、これ」
カイルが取り出して見せたのは、白地にさくらんぼ柄が散ったワンピースだった。袖は丸く膨らみ、腰には真っ赤なリボンが巻かれている。確かに、メイベルがこれ、麦わら帽とかと合わせたらよく似合いそうだ……。想像しつつ、眺めていると、アレンがぎりぎりと歯軋りをし出した。ハリーも咄嗟にぎょりぎょりと、動物の威嚇のような音を立て始める。
「あいつ、俺好みの服を出してきやがって……!!」
(好みではあるのか……)
「大体、メイベルもメイベルだ! いくら似合ってても、他の男が選んだもん、着てるの見て喜ぶ訳がねぇだろうが! クソが! カイルとフレデリックめ!」
「……」
「俺、飽きた。チョコミントアイスが食べたい」
アレンはメイベルのことが好きなんだろうか? ひとまず一旦、フレデリックにばれるとまずいし、ハリーの腹もぐるるるると鳴り出したので店から離れる。昼ご飯を食べることにしようと結論を出して、エスカレーターに乗った。俺の前に立つアレンがぶつぶつと、まだ文句を言っている。
「あー、大体なんだよ。あいつ、カイルのやつ……。メイベルもメイベルで以前、キスされそうになったから嫌だって言ってたくせに。俺を置いて行きやがって。なんっで、下心丸出しの変態パン屋は良くて俺はだめなんだよ。おかしいだろ。普通、逆だろ。逆」
「俺もアレンと似た気持ち……!!」
後ろを振り返ってみると、何故かハリーが胸元に手を当てて、両目を閉じていた。戸惑いながらもベルトに掴まり、アレンを見上げる。
「あ、アレン? ええっと、嫉妬? それ」
「あ? いや、うーん。こいつがいるしなぁ」
「俺がいるから何!? 何か言いにくい話でも!?」
「うるせえ、黙れ。叫ぶな。周りの迷惑になるだろうが」
「普通の人モード、普通の人モード。よし、これで大丈夫。もう俺は普通の人間だよ……」
「そんなモードが搭載されている時点でおかしいんだ。気付け」
「いや、本当におかしい人間は普通の人モードなんて搭載されてないから。マッパで騒いだりしてるから」
「お前が正論言うと本当、ムカつくな……」
アレンが俺の後ろのハリーを見つめ、眉をひそめる。それには構わず、ハリーがつとめて明るく言い放った。
「マッパで騒いでる人、俺の友達なんだ。今度紹介してあげるね!」
「いらねぇよ、これ以上変態を連れて来るな!」
「新メンバー……」
「いらねえ! ガチでいらねえよ!! 部屋も無いし、ふざけんな!」
「俺と同じ部屋で寝泊りするとか?」
「ご、ごめん。ハリー……。服をちゃんと着れない人はちょっと」
「たまに人気がない公園や海岸で脱ぐのが好きなんだって。それまではちゃんと服着てるから大丈夫。寝る時もパジャマ着て寝るって言ってた」
「むしろ、そこで裸になれよ。なんで一人の時に着込むんだよ」
騒ぐハリーに怒り出すアレンをなだめ、結局、ブッフェ形式のレストランに入った。木目調のカウンターには出来たての料理が並び、食欲がそそられる匂いを漂わせている。が、しかし、子供連れや学生で賑わっていた。なかなか順番が回ってこなくて、トレイを持って佇んでいると、アレンが後ろからやって来る。
「おい。鈍臭いな、お前。すみませーん。取りたいんでそこ、のいて貰っていいですか?」
「あっ、すみません」
若い女の子達がそそくさと逃げ、アレンが溜め息を吐く。お礼を言おうと口を開きかけたところ、俺を押しのけ、無言でトングを取った。あれ……?
「どれぐらいだ?」
「えっ?」
「だから、このイカと帆立のバジルソテー。どれぐらい食うんだ?」
「じゃ、じゃあ、ええっと、少しでいい。ここに載るぐらいで」
「おう。なんだ、意外と食うんだなぁ」
そう呟きながらも、大皿を手に取って空いた隙間に載せていく。カボチャサラダとサニーレタス、さらした玉ねぎとチーズポテトグラタン、鶏肉のトマトソースのせとバゲットを見下ろし、少しだけ考え込む。ハリーは今、席でソフトクリームをもりもりと食べているだろうから、話すのなら今しかない。
「よし。これぐらいの量でいいか? 次行くぞ」
「えっと、ありがとう。あの、」
「いや、お前、こういうとこ慣れてないだろ? 見てたらさっきから、順番抜かされまくってるしなぁ。あいつら、お前が強く言わないから付け上がるんだよ。言え、そういうのは。文句言え。アランを見てるみたいで、イライラさせられる」
「アラン……?」
「俺の弟。まぁ、似てないけどな。俺と」
そう言えば、メイベルから聞いたことがある。その似てないという呟きに、複雑な感情が滲んでいるような気がした。トレイを持って、アレンを追いかける。
「あっ、アレン? 聞きたいことがあるんだけど、ちょっと」
「ん? なんだ? あと俺、クロワッサン食べるけど。お前もいるか? お前の分も取ってやるぞ」
「あ、ああ、じゃあ、せっかくだから貰おうかな……」
「何個にする? クロワッサンだよな? あと他は?」
「クロワッサンは一個で。あとバターロールも一個だけ」
「分かった」
アレンが優しくて気持ち悪い……。が、口に出すと怒られそうなのでやめておく。アレンがクロワッサン一個にバターロールを一個、白い皿の上に載せてくれた。それから、几帳面に皿を俺のトレイに置く。
「ありがとう……。それで、聞きたいことがあるんだけど」
「おう。続けろ。別に大した話じゃないだろ?」
「アレンって、メイベルのことが好きだよね?」
その瞬間、ぴたりと動きが止まった。トングからクロワッサンが転がり落ちそうになって、すんでのところでアレンがそれを、もう片方の手でキャッチする。しばらくの間、俺に背を向けて黙っていた。でも、またトングでパンを取り始める。
「ダニエル。まさか、お前が誰よりも早く気が付くとはな……」




