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優しい彼女と変人だらけのシェアハウス  作者: 桐城シロウ
第三章 春を楽しみ、夏に思いを馳せ
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20.フレデリックの誕生日パーティーと彼女の迫り方

 




「いやぁ~……忘れてたな、すっかり。お前の誕生日パーティーなんか。別にしなくてもいいんじゃないか? フレデリック」

「何でだよ!? しろよ!」

「アレン~。どうぞ、はいっ」

「おう。ありがとう、メイベル。あ~あ、飾りつけめんどくさ……」


 リビングの奥の窓近くに脚立を置いて、アレンが渋々とガーランドを飾っている。そんなアレンの下に待機したメイベルが、嬉々として飾りをダンボール箱から取り出し、手渡していた。


「でも、楽しいね! 二人きりで飾りつけするの~」

「えっ? いや、俺達もいるんだけど……!?」

「フレデリックさん。キッチンにいる、ダニエルさん達を手伝いに行きましょうか!」

「えっ? いや、ヘンリー? 今日、俺、一応主役なんだけど……!?」

「シェラさんとダニエルさんが二人きりで調理してるんですよ……怖くありませんか?」

「怖いけどさ! 確かに!! でも、俺、ハリーがケーキ買いに行くのが一番怖くて、」

「ノアとマリエルさんがいるから大丈夫ですよ、多分」

「ごめん。そこは断言して欲しかったな……?」

「ははは」


 誕生日パーティーだからか、ちょっとおしゃれをして、派手な光沢のロイヤルブルージャケットを着て、蝶ネクタイをしたヘンリーが不満そうなフレデリックの肩を叩き、キッチンの方へと連れて行ってくれた。当の主役はおしゃれする気が無いらしく、灰色のジッパー付きシャツを着ている。


(良かった! これでアレンと二人きりだ~)


 嫌々ながらも、せっせと窓付近を飾り立てているアレンは、綺麗な紺色のジャケットを羽織って下は白いシャツを着ていた。珍しく、耳にはエメラルドグリーンの石が付いたイヤーカフを並べている。私も私で一応、おしゃれしようと思って、ピンクのオーガンジーリボンカチューシャを付けて、白黒ギンガムチェックのスカートと白ニットを着たんだけど。沢山、沢山アレンが褒めてくれた……!!


(でも、変。距離が縮まった感じは全然しないのよね……)


 下からじっと眺めていると、アレンがふと気が付いて「どうしたんだ?」と不思議そうな顔で尋ねてくる。笑顔で首を横に振った。


「ううん、何でもない~。でも、楽しみだね! 娘さん、来るかな……?」

「どうだろうなぁ。俺が娘だったら来ないなぁ」

「で、でも、お小遣いも貰えるみたいだし」

「ありゃバイト代だろ。笑顔でパパおめでとう~って言う、短期バイト。あいつ、そのためだけによくもまぁ、四、五万も払って」

「あ、あれ!? そんなにあげることになっちゃったんだ……!? 結局」

「今日、友達と遊ぶ予定だったんだとよ。まぁ、嘘だろうがな。金額を盛るためのな」


 アレンがとんっと、床に下りながらぼやく。見てみると「お誕生日おめでとう」の文字が踊る、カラフルなガーランドとポンポンが飾られていた。虹色でふわふわしてて可愛い。


「わ~、アレン、器用だね! フレデリックさんも喜びそう」

「俺はお前が喜ぶ顔だけ見れたら、それでいいんだけどなぁ」

「ねっ、ねえ、アレン?」

「ん?」


 足元のダンボール箱を片付けようとしていたアレンの袖口を引っ張ると、ぴたりと動きを止め、不思議そうな顔で見下ろしてくる。その澄んだ青い瞳に、私と同じ熱は灯っていないような気がして、胸の奥がきゅっと苦しくなってしまった。


「う、ううん。何でもない……。あの、庭先で娘さんとマリエルさん達、一緒に待たない? ひょっとしたら早く来るかも」

「遅刻してくる。もしくは無断欠勤に一票!」

「えっと、バイトじゃないと思うんだけどな……?」

「ありゃバイトだろ。金巻き上げて演技するんだからな」

「演技……」


 うーん。やっぱり、浮気したお父さんの誕生日は祝いたくないのかも? 庭に生えていた、猫じゃらしを振ってバニラちゃんの気を引きながら、玄関先の階段に座り込んで待つ。隣に座ったアレンはいつものように、カメラを構えて、私とバニラちゃんの写真を撮り続けていた。春がもうすぐ過ぎ去ってしまう庭は、それでも美しくて、柔らかな陽射しが木々を照らし、地面に細かなレース模様を作り出している。どこからか、ほんのりと甘い花の香りが漂ってきた。


 顔を上げて見てみると、曲がりくねった小道の両脇に木々が生い茂っていて、その根元には、青い花々がひっそりと咲き誇っている。庭のあちこちに並べられた、テラコッタ色の植木鉢にも、ラベンダーやローズマリーなど、沢山のハーブが植えられていた。思わずその光景を見て、くちびるの端を持ち上げる。ここは綺麗で、穏やかで、沢山の鳥が機嫌良く囀っている。そして、隣には好きな人が座っていた。足元の子猫ちゃんは毛が白く、ほわほわとしていて、悪い顔であぐあぐと猫じゃらしを齧っている。景色に見惚れ、見上げているとカシャッと、アレンがまたシャッターを切った。


「……ねぇ、アレン? 私にも一枚、撮らせて欲しいんだけど?」

「えっ!?」

「だめかな?」

「いや、別にだめじゃないけど……俺なんかの写真、撮って楽しいのかよ? お前は」

「ふふっ、アレンを撮るって私、まだ言ってないけど?」

「あっ」


 気まずそうな顔をして、アレンが黙り込む。微笑んで見守っていると、耳たぶをほんのりと赤くさせながら、ぶっきらぼうな顔で「ほいっ!」と言って手渡してきた。ふふっ、可愛い。照れちゃってる! 丁寧に受け取ると、すぐさまこちらをくるりと振り向いて「操作方法、分かるか? これがシャッターで」と説明してくれる。


「だ、大丈夫だよ? 普通のカメラだし、難しいことは何もない……」

「ああ、まぁ、一応な。ほれ、バニラでも撮ってみろ。ちょうどよく、変な顔してるぞ? こいつ」

「あっ、本当だ。じゃあ……」

「ん」


 ふと横を振り返ってみると、まだ機嫌の悪そうな顔をしていた。でも、こんな顔のアレンを見ているのが好き。大抵は照れている時にする顔だから。微笑みを深め、気付かれないよう、ゆっくりとカメラを動かして、息を止めてシャッターを切る。カシャッと音がしたあと、アレンが驚いて振り返った。ピチピチと、小鳥が囀りながら飛び立ってゆく。


「おい……やっぱり俺を撮るんじゃねーか! 返せっ!!」

「なんで!? だめなの!?」

「いやっ、それはお前を撮る専用であって、他の人間を撮るカメラじゃないんだよ……!!」

「それこの間、ノアにも言ってたよね……!? でも、まだ撮りたーいっ」


 笑いながらカメラを持ち上げて遠ざけると、アレンがにやりと悪戯っぽく笑った。そして次の瞬間、むんずと、脇腹を両手で掴んでくすぐってくる。


「ひゃっ!? ちょっと、アレン!?」

「お前の弱点はここだろ? 知ってるんだからな!」

「ひゃっ、ふっ、ふふふふっ! ちょっとくすぐったいから、やめてよ~」

「うにゅうん」


 アレンの手を押さえて見上げてみると、意外と距離が近かった。アレンもそのことに気が付いて、はっと青い瞳を瞠る。こっ、これはチャンスかも……!?


「アレン、あの……」

「……ウィルがお前のこと心配してたぞ? もっと太った方がいいんじゃないかってそう」

「えっ!? なんでいきなりウィルの話なんか、」

「いや、今のは体型チェックと言うかその……まぁ、距離が近かっただろ? ごめん」

「アレン」


 私は全然平気なのに。アレンがちょっと赤くなって座り直し、そっぽを向く。こっちを向いて欲しくて、じっと黙って見つめていると、気まずそうな顔で腕を伸ばして、私が持っているカメラを奪い取っていった。


「あっ」

「ほら、写真。……お前がいらないのなら、捨てるけど?」

「いっ、いるいる……わっ! よく撮れてる! アレン、可愛い~」

「その仏頂面の一体どこがだよ……まったく」


 カメラから出てきた写真は綺麗で、よく撮れていた。いつもの照れ臭そうな、でも、不機嫌そうな顔をして頬杖をついたアレンの横顔、可愛い~。にまにまと笑って見下ろしていると、ぐっと指を重ねてきてこの写真もまた、奪い取ろうとしてくる。


「えーっ!? なんでなんで!? 飾りたいのに!」

「あ? なんでだよ。時間と手間の無駄だろ?」

「無駄じゃないもん! 私のっ、私の大事なものだから、これ……!! それに、アレンだって私の写真、枕元に飾ってるでしょ!? 私もそうしたいからっ!」

「お前の写真飾ってるのは、空気を吸うがごとく自然なことなんだよ! 必要不可欠なんだよ!!」

「わっ、私だってそうだもん……!!」


 ぐぐぐぐっと、写真を奪い取ろうとしてくるアレンの手を握り締め、見つめてみる。私のおねだり視線に弱いアレンが「うっ」と言葉を詰まらせ、たじろいだ。チャンス! 思い切って両目を閉じ、アレンの額へとちゅっとキスをする。驚いて、ぱっと両手を放してくれた。だっ、大胆なことしちゃった……我ながら。


「おっ、お前な……!?」

「ごっ、ごめんなさい。その、写真を手放して欲しくて」

「だからってこんな……まだ、他にもなんか方法あるだろ? あ~あ……」


 両手で額を押さえ、参ったようにうつむいている。バニラちゃんが心配そうな顔をして覗き込み、「うにゅうん?」と鳴いていた。いっ、言い訳、言い訳……!!


「えっ、えっと、写真、破れちゃいそうだったし……ごめん。前、前にもしたよね? その、キス。あの、だから大丈夫かなぁって。それで」

「……バカ野郎」

「えっ」


 アレンが額を押さえたまま、ぽつりと呟いた。初めて見るアレンの姿に、胸がきゅんと高鳴ってしまう。手を伸ばして、その肩に触れた瞬間。


「メイベルちゃーんっ! おーいっ!」

「……ハリー、おかえり。それにマリエルさんも……」

「ハリー、そのケーキ重たいだろ? 俺が持つよ」

「えっ!? アレンがまた俺に優しく……!?」


 ああ、時間切れになっちゃった……。酷く落ち込んでいると、青と白のチェック柄ジャケットを羽織ったノアが、ぽんと肩を叩いて慰めてくれた。小さな赤いハートが浮かんだ、白のチュールワンピースを着ているマリエルさんも、苦笑して慰めてくれる。


「大丈夫よ? まだチャンスはあるだろうから。ねっ?」

「ごめん。止めようとは思ったんだけど、ハリーがスキップして行っちゃって」

「ううん……玄関先で迫ってた私が悪いから。今度はもうちょっと、アレンの逃げ場が無い場所で迫ってみるね?」

「意外と肉食系だよね、メイベルちゃんってさ……」

「そんなメイベルちゃんも、ライさんに似てて可愛いわぁ~。ふふふふ」







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