10.お願いだから、黒のラッシュガードだけはやめてください!
「いいかい、メイベルちゃん? 絶対に君はおしゃれをしていった方がいい。いいね?」
「う、うん。分かった……」
ヘンリーが鬼気迫る顔で、私の両肩を掴んでそう強く主張していた。何気なく、「今日はアレンと二人でお出かけするんだ~」と言ってみたところ、リビングのソファーで紅茶を飲んでいたヘンリーが激しくむせ、すっくと立ち上がって「さぁ、行こうか! 服を選びに行こうか!!」と高らかに宣言して、私の部屋まで来たんだけど。ヘンリーが「よし」と、満足そうに頷いて、私の肩から手を放してくれた。春だからか、今日は淡いピンクと白のストライプシャツとデニムを着ている。
「まずは服を……って、チェストの中、ぱんぱんだなぁ」
「あっ、ええっと、マリエルさんが最近、買ってきてくれるから。それで」
「そうか。もう姪っ子扱いしてるもんね、メイベルちゃんのこと……」
「うん。何だか不思議な感じだけど、嬉しいな」
頬を緩めて笑っていると、優雅にチェストの扉を開けていたヘンリーがこっちを振り向いて、「良かったね」とでも言いたげに、優しく笑いかけてくれる。春の陽射しに、ダークブラウンの髪と瞳が煌いていた。ああ、そうだ。
「ね、ねえ、ヘンリー?」
「ん? どうしたの、メイベルちゃん? ああ、こっちのワンピースもいいかもなぁ。流石はマリエルさん、ヒラヒラフリフリでありながらも、センスが良いものばかりで、」
「ヘンリーって、彼女いるっけ?」
「いないけど? 別に欲しいとも思わないしね……」
白地に鮮やかな黄色の、檸檬と若葉が浮き出たシフォンワンピースをひらりと取り出しながらも、どこかその眼差しを暗くさせて呟く。あ、あれかな……? 恋愛で嫌な思いをしたことがあるのかも?
「じゃ、じゃあ、その、無理だよね……? 私、あの、前に言っていた好きな人を完璧に諦めるためにも、誰かいい人がいないかなってそう、」
「えっ!? それでどうして俺になるのかな!? アレンは!?」
「アレンは……恋愛なんかもうこりごりだって、そう言ってるし。あと、多分、違うと思うんだ。あれ。距離も近いけど、そういうことじゃないと思うんだ……」
困って首をふるふると横に振ると、ヘンリーが「ああっ……だよね!? そうだよね……メイベルちゃんまで、ついにそんなことを言って」と低くうめいて、両手で頭を抱えてしまった。最近のアレンは、ちょっとだけ怖いから。
(こんなこと、思うの申し訳無いなぁ……アレンは善意でやってくれてるのに)
でも、娘扱い? それともなんだろう? どれもこれも違う。アレンにとって一体、私ってどういう存在なんだろう。
「あ、えーっと、もうそろそろ時間になっちゃうから……」
「あー、だね。服を選ぼうか。俺としてはこの、檸檬柄ワンピースが爽やかでいいと思うんだけどなぁ。でも、アレンにはこれかもしれないなぁ」
「アレンは何を着ても褒めてくれるから、適当に選んでも大丈夫だと思っ」
「っそりゃあ、アレンはメイベルちゃんがジャージを着ていようと、ボロを着ていようと気にはしないさ!! どーせ、真剣な顔で可愛いな、よく似合ってるなしか言わないよ!?」
「あっ、う、うん……だね」
でも、ヘンリーならいいと思ったんだけどなぁ。でも、どこか取り憑かれたような顔をしてぶつぶつと「いや、こっちのオフショルダーの方がいいか? それとも、ミントグリーンのフリルワンピースか?」と呟きながら、チェストの中を漁っていた。ひ、引き出しは開けないで欲しいんだけど……。
「あ、あの、ヘンリー? なら、ヘンリーのお友達で誰かいないか、」
「いやいやいやいや! 恋をする気になったのは別にいいんだけどさ!? 俺の友達、ろくでもないやつばっかだし……そ、そうだ! アレンに聞いてごらん!? 彼氏が欲しくなったよ~って、そう! きっと用意してくれるよ、何か!!」
「何か……」
「ま、まぁまぁまぁまぁ、これ着てきて……俺、もう部屋出るからさ? それに申し訳無いけど、俺にとってメイベルちゃんはその、友達だからさ……」
「うん、大丈夫。私にとってもそうだから」
ヘンリーが選んだのは、白いノースリーブワンピースだった。胸元はハートネックになっていて、腰には、夏の青空のような濃いブルーリボンが可憐に巻かれている。裾には繊細なレースとフリルが縁取られ、スカート部分には向こうが透けて見える、柔らかなシフォン生地が重ねられていた。うっすらと、その透けて見える生地の向こうには、黄色や青の花々の刺繍が施されている。
これはマリエルさんが店頭で一目惚れをして、買ったもので、見るなり「やだっ! メイベルちゃんのために作られたワンピースじゃないの、これ!」と叫んでさっそく、レジへと向かっていた。お値段を見てみると、ちょっといいところのマンションを一月借りれるようなお値段だったので、すごく驚いてしまった。私のお友達発言を聞いて、ヘンリーがほっと息を吐く。
「なら良かった。まぁ……メイベルちゃんもメイベルちゃんで、きっと誰か良い人が見つかって、」
「うん、ありがとう。……ヘンリーもね? きっといるよ。今はまだ、そんな風には思えないかもしれないけど」
ちょっとだけ秋の琥珀色のような瞳を瞠って、ふっと切なげに微笑んだ。ヘンリーは女嫌いという訳じゃない。でも、どこか、警戒しているような、怯えているような、女性に対して、そんな感じで接しているような気がする。
「ねぇ。……だって、世の中には沢山の人がいて。ふとしたきっかけで誰かのことを好きになるかもしれない。この人ならって、そう思える人と何年後か、いや、明後日にでも会うかもしれないね?」
「う、うん……メイベルちゃんの場合、運命の人はすぐ近くにいそうなんだけどなぁ」
「そうかな? ……でも、近過ぎるのも困りものだよね。私、なるべく遠くにいる人がいいなぁ。私のことなんて、何も知らなさそうな人の方が、きっといい……」
叔父さんへの想いは、ここで封印してしまおう。そうしよう。春先に芽吹いた瑞々しい花々を箱の中に閉じ込めて、クローゼットの奥にしまいこむみたいに。この初恋は封印してしまおう、そうしよう。いつかその蓋が開いて、閉じ込めていた花びらが零れ落ちてしまうみたいに、この気持ちも溢れ出してしまうのかもしれないけど。でも、いい。それでもいい。
切っても切っても、切り離せない想いがあるというのなら、いっそのこともう、この胸に抱えて誰にも触れさせず、弱らせてじわじわと締め殺していこう。呆気に取られているヘンリーの手から、そっと、美しい白色のワンピースを取り上げる。
「じゃあ、着てこようかな? ありがとう、ヘンリー。服を選んでくれて」
「あ、ああ。うん、じゃあ……」
ばたんとドアが閉まる。彼女はそれでいいんだろうか? アレン以外の誰かを探したりするだなんて。知らず知らず息を詰めていたことに気が付き、ふっと大きく息を吐く。無意識に、その手を組んで神に祈っていた。
「ど、どうかどうか、アレンとメイベルちゃんがこのまま上手くいきますように……!! アホみたいなイチャイチャを散々見せ付けられていた、俺達の苦労が報われますようにっ」
「ああ、よく似合ってる。可愛いな。でも、そのヒールは……」
「だっ、大丈夫! 痛くならないやつだし、これ! アレンがほら、かけてくれたでしょう? 靴擦れ防止の魔術を、」
「でも、スニーカーの方が歩きやすいだろ? 買うか?」
「う、ううん。大丈夫、気持ちだけ貰っておくね……」
しゅわしゅわと、レインボー色の光と水が溢れ出して、浮き輪をしたペンギンや人魚達が溢れ出して楽しく泳いでいる、魔術仕掛けの噴水の前でアレンと合流した。上には青とオレンジ色のステンドグラスが張られ、まるで木漏れ日のようにきらきらと、幻想的な色が白い大理石に浮かび上がっていた。
今日はデート気分を味わうためにと、ハリーが真剣な顔でアレンの肩を掴み、「いいか!? 先に行って待つんだ!」と説得したところ、そんなハリーに怯え、「まともじゃん。ずっと朝からお前……わ、分かったよ。行けばいいんだろ!? 行けば!」と叫んで、そそくさと逃げるように出て行っていた。う、うーん……デート気分? 始まりからして、違うと思うけどなぁ。当のアレンはまだ私の白いパンプスが気になるのか、顎に手を当てて、じろじろと検分している。今日は白と青のマリンテイストなTシャツの上から、白いジャケットを羽織って、紺色のデニムを履いていた。どことなく、いつもとは違っておしゃれだ。そ、そうだ! 私もアレンのこと、褒めないと!
「ねぇ、アレン? その服、すっごく素敵だね! よく似合ってるよ!」
「ん? ああ、ありがとう。まぁ、お前ほどじゃないけどな」
「そっ、そっか。行こうか……」
「ん」
さらりと褒めてくれるなぁ、いつもいつも。ぽつぽつと人がまばらに歩いているアーケード通りを黙々と、ただ歩き始める。かつんかつんと、ヒールの音だけが響き渡っていた。何度かあくびもしてるし、眠いみたい?
「あの、アレン? 迷惑だった? ごめんね?」
「いや……昨夜、お前の弟と遅くまで喋ってて。それで」
「すっかり仲良しなんだね……いつもどんな話をしてるの? そうだ、ウィルはクリケットが趣味なんだけど」
「へえ……初めて知ったな、それ」
「えっ!? しゅ、趣味すら知らないの!? い、いつも二人で一体何を話してるの?」
「……お前の話? そういや、好きな食べ物も知らないなぁ。あいつの」
「ウィルは牛肉の赤ワイン煮とか……ポトフとか、ミートソースが好きなんだよ」
「へー。じゃあ、嫌いな食べ物は?」
「ん~、ちょっと難しい子で。昔から。エシャロットとか、セロリが苦手みたいで」
「ふーん。じゃ、今度来た時出してやろっと」
「や、やめてあげて……?」
どうも、あんまり仲良しじゃないみたい……? 途方に暮れて、まじまじと気怠そうな横顔を見つめていると、ふとこちらを向いた。青い瞳が光にきらりと照らされて、透き通っている。
「メイベル。足りないのは水着だったか?」
「あっ、うん。あと、せっかくだから可愛いパジャマも買いたくて」
「そうか……フロアガイド、持ってきて良かったな」
「さ、流石だね……用意が良い」
ファッションや雑貨の店が沢山入っている、複合施設へと向かう途中、アレンと二人で色んな店を覗いて楽しんでみる。開くと本物そっくりの小さな動物が出てくる図鑑や、自分の好きな曲を歌ってくれる、可愛い小鳥達が集まったカーテンレールに、たまに焼き立てのジャムクッキーを食べてしまう時もあるけど、自動で火加減を調節して完璧に焼いてくれる、オーブンのふりをした魔生物と、せっせと、外れかけたボタンを縫い付けたり、綺麗な刺繍を施してくれる、陶器製のリス夫人。色々とあってすごく楽しかった。
「ねぇ! 見てみて、これ~!」
「おっ、いいな。似合うな、その帽子。買うか?」
「も~、二言目にはそれなんだから! アレンってば!」
つばが広い、大きな麦わら帽子に沢山の花が咲いたものを被ってみる。季節によって、咲く花が変わるみたい。それをかぶってはしゃいでいると、無邪気に笑ってひょいっと帽子を取り上げた。
「買ってくる、これ。よく似合ってるし」
「でも、帽子だけで十個もあって」
「一年は三百六十五日あるんだよ……知ってたか? メイベル」
「知ってるけどでも、先月、アレンは五個も帽子を買って、」
「買ってくる。これからの季節、紫外線もどんどん強くなってくるしな……」
ずんずんと、有無を言わさない足取りで歩いて行った。その背中を、狭い店内で見つめながらうーんと考え込む。
(違うと思うんだけどなぁ? あれは……)
早速買って貰った帽子を被って、混んで来たので手を繋いで歩いてみる。でも、アレンはきりりと真面目な顔をして、ぎゅっと私の手を握り締め、「いいか? 迷子になったらすぐに連絡するんだぞ? 迷子シール、お前が嫌がるから付けないだけで、俺は本当は付けたいんだからな?」と言ってきた。
(ごめんなさい、マリエルさん。ノア。一体どういうつもりなのか、そ、その、彼氏とか何とか、聞けそうに無いかも……?)
ライ叔父さんへの気持ちだとか、デートとか全部を忘れて楽しんでみよう。そうしよう。そうやって気持ちを切り替えて、話しかけてみると、すごく楽しかった。私、やっぱりこういうのはあまり向いてないみたい。ふらりと立ち寄った水着屋さんの中で、アレンが「うげっ」と嫌そうに顔をしかめる。
「ビキニはやめような、ビキニは……お前、小学生の時、夏に行った旅行先で背中が真っ赤に日焼けして辛かったんだろ? 中々寝付けなかったって、そう聞いてるけど?」
「えっ? あの、そんなこと、あったかな……?」
「あったんだよ。俺は弟から聞いて覚えてるから。それじゃなくて、こっちのワンピースタイプで……いや、この黒のラッシュガードで」
「か、可愛くないもん。やだ」
「あ? 彼氏と海に行く訳じゃないんだから、別に露出する必要は無いだろうが。これにしておけ、これに」
「で、でも、せっかくの海なんだし……!!」
そこで腰に手を当てて、ふうと大げさに溜め息を吐く。だ、だって、ビキニとか着たことが無いし(お父さんとお母さんが厳しくて、許してくれなかった)、この夏、初挑戦してみたいんだけど! ダイエットも最近、成功して細くなってきてるし! 赤や青のカラフルな浮き輪やサーフボードが、所狭しと並べられたポップな店内でぎゅうっと拳を握り締める。
「あっ、あのね? 私、せっかくだからビキニに挑戦したくて」
「なんで? ナンパされるぞ、お前。すぐに」
「あっ、アレンやノアと一緒にいるから、大丈夫だもん……それに、ノアだって女性に変身する魔術薬を飲んで、素敵なビキニを着るみたいだし!」
「なら、余計にだめだ。絶対絶対、ナンパされるからな……ビキニはだめだ、ビキニは。着るのならこの、ラッシュガードにしておきなさい。いいな?」
「や、やだ! お父さんと似たようなことばっか言う……アレンは」
「お前にもしも何かあったら、ライ叔父さんにも弟にも、アランにも向ける顔が無いんだよ、俺は……ああ、そうだ」
そこでラッシューガードを持ち上げて値札を確認していたアレンが、ふとこちらを向いた。そうだ、アレンは水着、どんなのを着るんだろう? 何だか今いち、想像出来ないな……。
「お前、彼氏が欲しいんだって? ハリーから聞いたぞ?」
「へっ? なん、なんで……」
「俺の弟、アランはどうだ? あいつならまぁ、一応美形だし。浮気も絶対しないだろうし、今彼女もいないみたいだし」
「あっ、連絡取ってるんだね? 良かったね、すっかり仲良くなって、」
「やめろ!! いきなりふわふわさせんな! ぞっとするだろ!?」
「ぞっとしちゃうんだ……?」
「ま、まぁ、あれだ。俺の弟はどうだ? あいつならいい。メイベルを任せられる」
こほんと咳払いをして、一旦ラックへと戻した。でも、私はこのセールになっている黒や青のラッシュガードが並んだコーナーじゃなくて、奥のヒラヒラフリフリのビキニやワンピースが並んだ、華やかでカラフルなコーナーに行きたいんだけどなぁ……。アレンを見てみると、真剣な顔をしていた。やっぱり、まるで私のことを意識していないみたい?
「そ、その……タイプじゃないからいいかな」
「タイプ。お前のタイプって一体どんなやつ?」
「ん、んー、まず目つきが悪くて」
「おい。まずはそこからかよ。アランはだめだな、ぽややんとしてるから。あいつ」
「だね……アラン君は王子様系だと思う。儚げな」
「だな。弱っちいしな、あいつ」
「だから、えーっと……実はその、ライ叔父さんがタイプで。でも、あんまり似すぎていてもちょっと辛いから、私よりも背が高くて、目つきが悪くて、気の合う人! がいいかな!」
「そっか。いるかな、そんなやつ……」
うーんと低く唸って、アレンが顎に手を当てる。でも、外見だけでいったらアレンも好みのタイプかも?
(私はアレンのこと、全然好きじゃないけど……何かみんな、好きになって欲しそうな顔してるよね! 最近!)
マリエルさんもダニエルさんも「アレンのこと、どう思う?」って、困った顔で聞いてくるし。きっと多分、私とアレンにくっついて欲しいんだ。凛々しく前を向いて見上げてみると、眉間のシワを深くさせて、「目つきが悪いやつ……? いないな、周りにそんなやつは」とそう呟いていた。
「アレンもあれだよね! 目つきが悪いよね!!」
「おい、お前……俺を捕まえて、爽やかなイケメンだの何だの言ってたくせにか?」
「も、もちろん! 爽やかなイケメンでもあるんだけど! そ、そうだ! 私、料理も出来て、甘やかしてくれる人がいいな!」
「へー……まぁ、必須条件だろ。それは」
「ひっす……じょうけん?」
「ああ。それぐらい、してくれるような男じゃないとな。お前に相応しくないからな……」
おもむろに真面目な顔をして、アレンが「こっちもいいな。いくらだ?」と言って値札を確認し始める。でも、色が変なグリーンに変わっただけでそれ、さっきと形が一緒だよ……アレンったら、もう。
「あー、何だっけ? お前より背が高くて、目つきが悪い男だっけ?」
「う、うん! で、怒りっぽいけど実は優しい人で、そ、その、口が悪いとなお良いんだけど!?」
「ん~、難しいなぁ。それ。それで、気が合うやつだったか……? まぁ、料理も出来て、お前を甘やかしてくれて、口も悪くて短気で、実は優しいやつがいたら紹介してやるよ。それでいいだろ?」
「う、うん。あの」
「あ? これにしような、もう」
「やだ。その変なグリーンのやつは……ええっと、アレンはさ? 自分のこと、一体どう思ってる?」
「自分のことぉ? 好きか嫌いかで言ったらそりゃ、好きだけど?」
「あの、自分が好きかどうかの話じゃなくて、その、性格的には……?」
ちょっと黙り込んで顎に手を当て、「……常識人? どこにでもいそうな男」とだけ呟いた。ど、どうしよう? 間違ってる……。
「あ、あのね? アレンはそんな人じゃないと思うんだけどなぁ……」
「あ? お前、俺が非常識なやつだって、そう言いたいのか? ああ?」
「ち、違うの、違うの……ええっと、そういう意味じゃなくて、常識的な人ではあるんだけど!」
「よし。これを買うか、決定。もうお前はビキニとか絶対に無しな!! 三泊四日、ずっとこんな変なグリーンのラッシュガードで過ごせよ!? 男よけになるからな!?」
「やっ、やだやだ、ごめんなさい! せめて、せめて黒色にしてくださいっ……!!」
<帰宅後>
「あの、マリエルさん……黒のラッシュガードもグリーンのやつも、その、嫌だったんですけど」
「……無理やり買わされたのね?」
「はい。旅行中、危ないからオシャレもだめだって、そう言ってきて」
「うわっ。なんで黒のラッシュガードが何枚もあるの?」
「ノア……おかえりなさい。あのね? これは何かあった時に破けた用で、黒が二枚とグリーンが一枚で。うっ、かわ、可愛いビキニが欲しかったんだけどなぁ、私……」
「……」
「……今度、俺と一緒に買いに行く?」
「う、ううん。アレンに心配かけちゃうから……それに、私が可愛い水着を買って着ても、魔術で帰るからって。そう言ってきて」
「知ってたけど病気だね? あいつ」




