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優しい彼女と変人だらけのシェアハウス  作者: 桐城シロウ
第三章 春を楽しみ、夏に思いを馳せ
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6.金で解決出来るのなら、もうそれでいいんだ

 




 みんなで楽しく話して待っていると、ふいに「ねえ」と声をかけられた。真っ先に目に飛び込んできたのは、艶やかに光る黒い革のジャケット。驚いて見上げてみると、黒髪黒目の美女が佇んでいた。薄いサングラス越しにすうっと目を細めて、赤いくちびるを開く。



「メイベルちゃん、だっけ? パパが言っていた特徴とそっくり」

「メリンダちゃん!? どうしてそっちに話しかけるかな!? パパは!?」

「どうも初めまして。こいつの娘です」

「め、メリンダちゃん……!?」



 白い手が差し出される。思わず握って握手を交わしていると、「へー、初めまして。アレンです」と隣のアレンが自己紹介した。続けてヘンリー達も「よろしく~」と挨拶をする。そんな風に声をかけられても、彼女はちっとも笑わなかった。



「帰っていい?」

「何で!? メリンダちゃん、今来たばっかだよね!? パパがパスタでも奢ってあげようか!?」

「それは食べるけど。……ああ、ごめん。ありがとう」



 ひとまず奥へと移動して見上げてみると、ちょっとだけ口角を上げて、気怠そうに腰を下ろした。な、なんだか意外……。



(ハードボイルドで綺麗な人だなぁ……わ、私より年下の筈なんだけど)



 落ち着かない気持ちで、すぐ隣に腰かけた彼女を見つめていると、整った眉を持ち上げて「何?」と聞いてくる。ああ、失礼だったかも。今の。



「ご、ごめんなさい……綺麗な人だなぁって、そう思いまして」

「よく言われる。あと、別に敬語じゃなくてもいーよ。そっち、年上でしょ? メイベルちゃん」

「あっ、うん。二十五歳なんだ、私。もうすぐで二十六歳になるけど」

「そっか。お前、春生まれだもんな? 盛大に祝わなきゃなぁ……」

「やめろよ、アレン。怖いって!」



 ヘンリーがぞっとして両腕を擦ると、不思議そうな顔をして見つめる。でも、私も分からないなぁ。どうして怖いんだろう? きっと、アレンのことだから盛大にお祝いをしてくれる。そう考えると、口元が緩んだ。



(良かった、楽しみ! ……アレン、私がライ叔父さんのこと好きだって知っても、何も変わらない。態度を変えたりなんかしない)



 元々優しい人だなとは思っていたけれど。ああ、本当に良かった。しみじみほっとして、さっき運ばれてきたレモネードを飲んでいると、メリンダがメニュー表を掴んで「注文していい?」と聞く。



「あ、ああ……もちろん。でも、メリンダちゃん? さっきからパパの顔も見ずに、」

「誕生日プレゼントだっけ? 私が会いに行けばいいの?」

「そ、そうなんだよ!! そして、出来ればおめでとうって言って欲し、」

「お誕生日おめでとう。今日会ったし、もうこれでいいんじゃない?」

「よくない!! 今日、ただの祝日~! 俺の誕生日じゃないからな!?」



 そこでわずらわしそうに、舌打ちをした。フレデリックが青ざめて押し黙り、熱心にメニュー表を眺める。ヘンリーは気の毒そうな顔をしていたけど、ノアとアレンはどうでもよさそうな顔で、小さなチーズケーキと苺のパフェをつついていた。どっかり乗せられたチョコアイスの上には、白いココナッツファインとカラースプレーがまぶされている。



「ごめんね? メイベルちゃんも。こんな鬱陶しいパパに振り回されて……」

「うっ、ううん。大丈夫……あの、来ない? 本当に」



 おそるおそる聞いてみると、押し黙る。長い黒髪を揺らして、正面に視線を戻した。アレンがすかさず「だろ? メイベル、可愛いだろ?」と言って、ノアが「アホくさ……」と呟きを漏らす。ちょ、ちょっと、ううん、かなり恥ずかしいかもしれない!



「もっ、もう、アレン? その、一旦禁止ね? 私を可愛いって言うのは!」

「えっ、可愛い……あと、パフェ一口いるか?」

「あっ、欲しいかも。じゃあ、ちょっと待って、スプーンを取って」

「ほい」

「んっ!?」



 口の中にふわりと、チーズケーキと冷たいチョコアイスが押し込まれる。わ、わりと大きかった。必死にもぐもぐと食べていると、アレンが「ご、ごめん。大きかったか?」と言って覗き込んでくる。隣のメリンダがどことなく、呆れた顔をしていた。



「なぁ、メリンダちゃん……そこの二人、カップルじゃないんだぜ?」

「は? 嘘でしょ。うわ、やば、見ちゃった。パパの顔」

「俺はお化けか何かか!? あと、その、今日ママは、」

「面倒臭いから言ってない。帰っていーい?」

「お願いだから、もうちょっとだけパパとの一時を」

「気持ち悪……」

「分かる。だよな」

「あ、アレンったら、もう……」



 たしなめると、気まずそうな顔をしてパフェをつつき始める。それを見て溜め息を吐いていると、向かいのフレデリックが青ざめてノアの肩を掴み、がくがくと揺さぶった。ノアがすごく迷惑そうな顔をしている……。



「……まぁ、メリンダさんでしたっけ? 一応初めまして、ノアです」

「どうも……」

「来る気、無いですか? ささやかですけど、おもてなししますよ」



 ゆったりと微笑を浮かべたノアは美しく、どこか神々しい。その隣でフレデリックが「そうだ! もっとやれ!!」と言っていた。すかさずテーブルの上にあったメニュー表を持ち上げ、びたんとその顔にぶつける。「ぶぉっ!?」と叫びが漏れた。



「まぁ、鬱陶しい気持ちはよく分かるので。別に無理して来なくても、」

「行く」

「早くないか?」

「あ、アレン、静かにな……?」



 ヘンリーが慌てて人差し指を立てて、「しーっ!」と言う。アレンが眉を顰めて、私のレアチーズケーキプレートの上にそっと苺を置いてくれた。い、いいのかな……?



「ほっ、本当にか!? 来てくれるんだな!?」

「んー、やめよっかな? うるっさ」

「ごっ、ごめんごめん、マジでごめん……!! 騒がないから、来てくれるか?」

「ん~、騒いだら帰るけど。あと、時給ちょうだい。時給」

「時給……!?」

「一時間一万ね。それでどう?」

「ふっかけるなぁ。水商売か?」

「た、確かに……」



 ヘンリーが青ざめて、苺と生クリームがふんだんに乗せられたパンケーキを切り分け、口へと運ぶ。それを何となくじっと見つめていると、アレンが「なぁ、ヘンリー。一口くれないか? それ」と聞き、ヘンリーが怯えて「何だよ? どうせメイベルちゃんにあげる気なんだろ……? はい」と言って、お皿の端にそっと置いてくれた。ゆるりと、生クリームが流れ落ちてゆく。



「ご、ごめんね? そんなつもりは無かったんだけど、ありがとう……」

「い、いや、何かもう、アレンの目が怖いからさ」

「何だよ? ただ見てるだけだろ?」

「言っとくがそれ、母犬の目だからな!? 寄こせよ、おらって顔してるからな!?」

「してない、そんな顔」

「いや、してるって」



 ノアにあっさりそう指摘され、アレンが「何だよ」とぼやいて不貞腐れる。うーん……でも、確かに母犬かも? 貰ったパンケーキを突き刺して、口元へ運ぶ。ふんわりとした、優しい食感と苺の甘酸っぱさが広がった。程よく甘くて美味しい。



「じゃ、じゃあ、あの、払うから来て欲しいなー……?」

「マジかよ、お前。気持ち悪いな」

「必死ですね、フレデリックさんも……」

「俺だったらこんな父親、絶対に嫌だ」

「お前ら、さっきから何なの? 俺の心を抉るの、やめてくれないか? なぁ?」



 そこでふうと、大きくメリンダが溜め息を吐く。おそるおそる、全員でそちらを見てみると、メニュー表を持ち上げてフレデリックを見つめた。



「もういい? 帰って。本当は何か頼もうと思ってたんだけど、今月金欠だし、」

「奢るから食べてって……」

「やったー、わーい、ありがとうー、パパー」

「死ぬほど棒読みだな……おい、諦めた方がいいんじゃねぇの? フレデリック。関係改善は」

「い、嫌だ!! オムツも替えたし、積極的に今まで面倒を見てきたのに!? 本当に可愛がってきたのに、一体どうして、俺の何が駄目だったんだ!?」

「てめえの女に刺されたいっていう願望が、全部駄目なんだよ!! それまでの献身的な行動がチャラになるだろうが、分かれよ!?」

「い、いいや、分からない……そうだったんだね、パパって言って欲しかったんだよ、俺は……!!」



 だんっとテーブルに拳を打ちつけたフレデリックを見て、ノアが不愉快そうに眉を上げ、「アホくさ」とだけ呟く。その瞬間、フレデリックの肩が小刻みに震えた。



「でもさー? じゃあ、私がそれ言ってたらどうなの? 夫に刺されたいって言ってたら?」

「いいや、それはちょっと……かなり理解に苦しむ」

「それだよ!! 娘が言ってるのはそれだよ! アホかよ!? お前は!」

「アレン、アレン? 店内だし、もうちょっとだけ静かにしようなー……?」



 ヘンリーになだめられ、アレンが「くそっ!」と悪態を吐いて、ソファーへと座り直す。気付けば、店内はちょっとだけ混んでいた。慌てて、レアチーズケーキを切り分けて食べる。



「すみませーん。この春限定苺パフェ、一つくださーい」

「はーい。お一つですね? かしこまりました」



 店員がにこやかに通り過ぎて行き、それを見送ったあと、メリンダがフレデリックに向き直った。



「ねえ。……だから、何で理解してくれないの? あんまり関わりたくないんだけど?」

「あっ、俺、もう死にそう……」

「自分で蒔いた種だろ? 知るか」

「そうそう、娘に嫌われることぐらい、ちょっと考えればよく分かるでしょ」

「ノア、アレン……」



 二人は平然と苺パフェを食べている。ヘンリーがそんな二人を見て、苦笑していた。



「ごめん。その、俺……」

「まー、可愛い女の子とイケメンがいるし。別にいいよ、行ってあげても」

「頼むー!! ノア、ヘンリー、アレン、メイベルちゃん!? 当日もシェアハウスにいてくれないか!?」

「まぁ、俺は最初から祝うつもりなので……」

「あー、どうだろ? スケジュール。空いてたらね」

「私は空いてまーす。お祝いしますね、盛大に!」

「メイベルがいるのなら俺もいる」

「「だろうね」」



 ああ、楽しみだなぁ。お誕生日が!



「でも、その前に海外旅行だね! どの国にする?」

「そうだな! 俺としては花とフルーツの、」

「待て待て、新婚旅行の……ああ、でも、いっか! 二人だけで行ってくれば!?」

「いや、メイベルがみんなと一緒がいいって言ってるから……」

「くそっ! やりにくいな!?」

「い、一体何が……? どうしちゃったの、ヘンリー?」

「いや、何でもない……くそ! 海外旅行先でもアレンがメイベルちゃんのことを心配して、おかんパワーを発揮するところしか想像出来ないっ……!!」

「あ? 大丈夫か? 頭」

「アレンったら、もう……」





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