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優しい彼女と変人だらけのシェアハウス  作者: 桐城シロウ
第三章 春を楽しみ、夏に思いを馳せ
58/134

4.春の大掃除と意外な新事実

 





「それじゃあ、今日は春の大掃除をしようか……」

「あ? 大掃除? そういやあったな、そんなもん」



 黒髪をきっちり結び、リネンの白いエプロンを着たダニエルを見て、アレンがそう返しながらも体を起こして、テーブルの上に合ったウィスキーボンボンを取る。ぱりっと、包装紙を破く音が響いた。そんなアレンを見てから、黒いリボンでシニョンを作ったメイベルが、戸口にぼうっと立ったダニエルを見つめる。



「ええっと、まずはみんなで共有部分から……? ですかね?」

「お前は座って、ここで茶でも飲んどけ。ほら」

「ううん。もうお腹もいっぱいだから。でも、ハリーとシェラは……」

「見るからに働く気ないな、そいつら。待て、シェラ! 新しくボトルを開けるんじゃねぇ、紅茶でも飲んでろ!!」

「いたっ、ゴミを投げつけないで欲しい……」



 スピリッツの瓶を抱えたシェヘラザードが眉を顰め、頭に当たって転がり落ちた包装紙を、膝からぺいっと払い落とす。メイベルの横でぐったりと眠っていたハリーがのろのろと顔を上げて、珍しくソファーに座り直した。



「いてててて……あーあ、ダニエルさん。春の大掃除って?」

「各部屋を回って、掃除をしようか……」

「うぇーっ、めんどくさ。あれだろ、ハリー。お前、部屋の掃除機とかは?」

「ああ~……埃に埋もれてたなぁ、そういや」

「持ってることに驚きだよ、俺は」

「聞いたくせに……取ってやろ、フィナンシェ!!」

「やめろ! てめぇの分もあるだろうが、それでも食ってろ!!」



 ああ、また始まっちゃった。おろおろしつつ見守っていると、ぼんやり立ったダニエルの後ろから、紺色ストライプのエプロンを着たヘンリーがひょっこりと、顔を覗かせる。



「はいはーい、喧嘩しないの! アレン、ハリー、これが終わったらみんなで飯でも食いに行こうぜ~」

「でも、メイベル、腹減ってないって言ってたしな……」

「夕食の話をしているんだけど? 俺は」

「あっ、ええっと、夕食はアレンが豚肉と、ローズマリーのオーブン焼きをしてくれる予定で……」

「いいから、とにかく掃除をしよっか! ハリー、そろそろパジャマから着替えたらどうだ?」

「ああ、変身してこよっかなぁ、それじゃあ……」

「む、無理しないでね? ハリー……」



 ずるりと、ソファーからテーブルの下へとハリーが潜り込む。気になって覗き込んでみると、のそのそと四つん這いでドアへと向かっていた。



「大丈夫。生きてること自体が無理してることだし……」

「……そろそろ転職したらどうだ? ハリー」

「んんんん、そうしよっかなぁ。上司のデスクの上に、女児用パンツ置いてから退職したい」

「悪質な嫌がらせだな、おい。呪いでいいじゃん、別に。呪いで」

「いや、それだと、誰かにされたんだなーって分かっちゃうじゃん? 被害者になっちゃうんじゃん? 俺はあのクソ上司を加害者にしたいんだよ」

「とにかく、とにかく掃除を……」



 よし、のんびりしてたけど気持ちを切り替えてっと。髪を解いて結び直していると、アレンがこちらをじっと見ていた。



「どうしたの? アレン」

「いや……水仕事はしなくていいからな? 俺がするからな?」

「ありがとう! じゃあ、お願いしようかな」

「にゅうん」

「じゃあ、バニラはあたしが見てるね」

「さぼる気満々かよ、お前。まぁ、いい。付いて来い、バニラ抱えてな」




 みんなでエプロンを付けて、二階へと上がる。まずはそれぞれの部屋を掃除してから、共有空間をってことになったんだけど。



「あれ? 私、そういえばみんなの部屋、入ったことないかも……?」

「まぁなぁ。お前は気にしないみたいだけど、大体入られるのが嫌だからな。きっちり鍵閉めてる」

「俺は別に気にしないんだけどなぁ。ええっと、じゃあ、まずはダニエルさんの部屋からで……」

「うん……この前、掃除したから。はい、どうぞ」

「お邪魔しまーす……って、わっ」



 思ったよりも狭かった。これが大家さんの部屋? 首を傾げていると、ダニエルがのそのそと入っていって「鎧戸……開けなきゃ」と呟き、奥の小さな窓に手をかける。暗くて怖いのか、ハリーが震えて私の肩にしがみついていた。その瞬間、アレンがばっと、私の肩からハリーの手を払い落とす。



「いたっ!? なんだよ、もう」

「メイベルが嫌がってるからやめろ、お前」

「えっ? いや、もしかして嫌なのはアレンの方なんじゃ、」

「へ、へへへヘンリー!? 裏切り者的発言だぞ、それは!」

「わっ、わるふぁっふぁ、わるふぁっふぁ……」



 うにょんと、頬を引っ張られながらヘンリーが困った顔をする。後ろの方で「にゃあ」とつまらなさそうに、シェヘラザードに抱えられたバニラが鳴いた。



「ヘンリーって、本当に何をされても怒らないよね? あっ、でも、貴族関係の話をすると」

「「あっ」」

「っとと!」



 がちゃんと、鎧戸を開けたダニエルが転びそうになりながらも、ばっとこちらを振り返る。あっ、ああ、どうしよう? 最近、爆発してなかったのに……。後悔しながら両手で口元を押さえていると、ダニエルがすっ飛んできた。



「あっ、あああああ!! やっぱりあれかな!? あのドス黒くて、ねちゃねちゃした粘着質の存在はいつまでもこの世の片隅にこびりついて、」

「どっ、どうどう……!!」

「ほっときゃいいのに、ヘンリーの発作なんか。やーい、やーい、この貴族め!」

「えっ、アレン、適当感すごいし、性格悪くない……?」

「うるせぇよ、性格良くなった覚えなんかねぇよ、黙れ。社畜」

「でも、貴族って何百回か言ってたら慣れるんじゃ? 貴族、貴族、ほぅ~ら、貴族貴族、貴族貴族貴族貴族……」

「いいから、黙っててくれないかな!? 二人とも!」



 苛立ったダニエルに一喝され、気まずそうな顔で押し黙る。慌てて「手伝いましょうか?」と申し出ると、ヘンリーの口元を押さえながら、困ったように笑った。



「掃除……掃除どころじゃないね、これじゃ」

「任せて、ダニエルさん!! ヘンリーに代わってこの俺が、あなたの部屋をぴかぴかに磨き上げてみせるよ!?」

「不安要素しかないやつじゃん、お前な」

「大丈夫。アレンの部屋も磨いてやるから、ちゃんと」

「いや、いいって別に。日頃からちゃんと掃除してるし……」

「あたしもちゃんとしてる」

「「それは絶対に嘘だろ」」

「め、珍しく揃ったね……ええっと、じゃあ、私が手伝って」



 狭苦しい部屋には窓が一つと、クローゼットしかなかった。私の部屋にはバルコニーとバスルームまであるのに……。掃除とは言っても、部屋の隅の埃を片付けるだけかな? 無垢床のフローリングが陽の光に照らされ、ふわりと白いカーテンの裾が舞う。狭いベッドの上には、洗濯に出すつもりなのか、パジャマやスウェットらしきものが積み上げられていた。それから、奥の方に傷だらけのデスクと椅子が置いてある。モップを片手に、アレンが首を傾げた。



「お前の部屋……前はもうちょっと汚かったのにな?」

「頑張ってお片付けしたんですね? ダニエルさん」



 振り返ってみると、気まずそうな顔をして「ああ、うん……」とだけ呟く。ヘンリーは足元に崩れ落ちて、「どうせ俺は貴族なんだ、俺は貴族なんだ……」とぶつぶつ呟いていた。ハリーがその肩に手を置き、シェヘラザードがぽんと、目の前にバニラちゃんを置く。すかさず起き上がって抱き寄せ、ふがふがとお腹の匂いを嗅いでいた。その様子を見て、ハリーとシェヘラザードがハイタッチをする。



「じゃあ、まぁ、役に立たなさそうなあいつらは放っておいて。掃除するかぁ」

「モップ……モップがけして、あと、その、メイベルが言ってた精油の……」

「ああ! 良い香りにするやつ……ええっと、アレン?」

「お前がそう言うと思って、ラベンダーとユーカリ、ティーツリーを揃えておいた」

「すごい! 流石はアレン! 頼りになる……」



 誇らしげな顔をして、すちゃっとボトルを取り出してくれた。何故かそれを見て、ダニエルが困った顔をする。



「まぁ、まずは魔術で綺麗にしてからな、埃を」

「だ、大丈夫? 体力を消耗しちゃうんじゃ」

「お前の笑顔を見たら、回復するから大丈夫。ヘンリー、おーい、いい加減に立ち上がれよー? お前。魔術がかけにくい! 気も散る!」

「貴族も掃除してくれないか……?」

「俺が捕まるだろ、やだ。いいからどけ、早く」



 アレンが指先を振ると、さぁっと黒い結晶のようなものが煌いて、床の上で消えていった。ハリーが「おお、すっげ」と呟き、シェヘラザードも「楽ちんでいい」と言って手を叩く。



「お前らな……まぁ、いい。えーっと、モップがけだな。モップがけ。その次はハリーの部屋で」

「あ、え、ええっと、俺が自分でするから……」

「あ? 出来んのか、お前」



 アレンの持ったモップを掴み、ダニエルがこくりと頷く。何故か青い瞳は真剣に光っていて。



「アレンは……メイベルと一緒に、ええっと、ハリーの部屋を掃除して、」

「えええええっ!? 俺の部屋なんか掃除しなくていいよ、もう。汚部屋だよ? ぶっちゃけ」

「だから掃除するんだろうが! 叩くぞ、お前! このモップで!!」

「困る。退去して貰う羽目に、」

「掃除しまーす! 俺、お掃除大好き人間でぇーすっ!! ふっふ~い!」

「ははは……まぁ、俺も手伝うし」

「だ、大丈夫? ヘンリー。ごめんね……?」



 顔色が悪いヘンリーがバニラちゃんを抱えながらも、すぅっとダークブラウンの瞳を暗くさせる。戸惑っているとダニエルが「じゃ、じゃあ、よろしく……」と言って、アレンからモップを受け取った。みんなで部屋を出て、ハリーの部屋へと向かう。



「うっわ~……絵に描いたような汚部屋だな、お前」

「匂い……これ、何の匂いだ? あと、一体どこで寝てるんだ……?」

「どっか適当にそこらへんで!」

「まずいぞ、これ。メイベルが病気になっちまう……」

「えっ? ならないよ?」

「ん、それぐらい汚くて臭い……」



 食べかけのお菓子や洗濯物、ティッシュや雑誌、郵便物にくたびれた鞄など、ありとあらゆるものがうず高く積み上げられていた。足の置き場も無い部屋を見て、一同が言葉を失くす。



「なっ? 掃除しない方がいいって、この部屋は」

「お前……よくこんな部屋でスーツ掘り出して、会社に行ってるなぁ……」

「嘘ぉ!? アレンが俺のことを褒めただと!?」

「褒めてんじゃねぇよ、貶してんだよ! この幸せポンコツ頭が!!」

「いでっ!?」

「怖いなぁ~……でも、まぁ、洗濯物はまとめて出して」

「あ、あとは、ええっと、ゴミ出しかな……?」

「ん、だね。あたし、窓を開けてこようかな……」

「よ、よろしくお願いします、シェラさん」




 シェヘラザードが何も恐れず、勇敢にゴミを掻き分けて、のっしのっしと歩いていった。そこからがもう大変だった。ゴキブリの死骸を見つけて気が遠くなっていると、アレンが怒って「ハリー、てめぇな!?」と叫んだあと片付け、私を廊下に閉め出す。



「あっ、あの、アレン!?」

「俺が悪かった、メイベル。お前はゆっくり下で休んでこい!!」

「で、でも、手伝う……」

「お、俺も手伝うから……」

「ダニエルさん。終わったんですか? お掃除」



 ほっとして振り返ってみると、力なく笑って頷く。アレンがそれを無視して私の両肩に手をぐっと置き、力説し始める。



「いいか? 埃もカビもお前の体に悪いし……」

「でも、みんなが掃除をしている間に私、のんびり出来ないよ……」

「アレン、いいから落ち着いて。ん、ん~、でも」

「にゅうっ」

「バニラちゃん、どうしたの? ちょっと待っててね?」



 ダニエルがじっと足元を見下ろしたあと、素早くバニラちゃんを抱き上げ、私にぐいっと押し付けた。



「メイベルは……バニラの面倒見てて、庭で」

「えっ? でも」

「いいか? そうしてろよ!? 終わったら呼ぶからな!?」

「は、はい……」



 追い出されちゃった。目の前でぱたんとドアが閉まる。でも、離れがたくて廊下の壁に背を預け、どたどたと、響き渡る物音に耳を澄ませていた。吹き抜け天井からの光が柔らかく、無垢床の廊下を照らしている。思わずにんまりと口角が上がった。



(思い出すなぁ、ここに来たばかりの頃を……)



 あれからもう、半年以上が経つ。こんなに可愛い子猫ちゃんも飼えたし、みんなとの距離もぐっと縮まった。



(まだ分からないことだらけだけど。アレンは私のこと、一体どう思ってるのかな?)



 好きな食べ物、嫌いな食べ物。こんな場所が好きで、ああいった場所は苦手。そんなことはよく分かるのに、心の動きはちっともよく分からない。深く息を吸い込むと、花のような香りがした。どこかできっと、噎せ返るような香りの白い花が首をもたげている。



(……どうして気になるんだろう。子供扱いしないでって、そう言えば済む話なのに)



 やっぱりまだ、代わりにされているのかも? ってそう不安に思っちゃうから? 両目を閉じてのんびりしていると、部屋の中から「おい! てめぇ! 一体いつのだよ、これ! カビ生えてるし!」とか「ハリー! この一年でどれだけ溜め込んだんだよ!?」とか、そんな賑やかな声が聞こえてくる。



(ああ、私も参加したいんだけどなぁ。でも、無理かも。アレンが心配しちゃうから)



 一時間ほど経ったあと、おもむろにドアが開いた。



「おい……メイベル。なんで下で休んでねぇんだよ!?」

「あっ、お疲れさま。アレン。ごめんね? みんなの傍にいたくて……」

「うっ、うう、すごく、すごく怒られたっ……!!」

「当たり前だろ! あーあ、次はシェラの部屋なー? 残りのやつはどうする?」

「とりあえず……今、ここにいる人達の部屋だけで……」

「まぁ、フレデリックさんもマリエルさんも、ノアも綺麗好きだしなぁ」

「あー、だな。あいつらの部屋はいいな、別に」



 みんなでそんな話をしながら、シェヘラザードの部屋へと向かう。わくわくしてると、アレンとハリーが顔を見合わせ、私にそっとドアを譲ってくれた。お礼を言ってから開けてみると、そこに広がっていたのは。



「わっ、わ~……可愛い! マゼンタピンクの絨毯だ!」

「うわっ……酒くさ。転がってるじゃん、ボトルが」

「片付けるの面倒臭いんだもん、だって……」

「ああ、でも、楽そう。ハリーの部屋よりかは!」

「だな」

「そうだね……疲れた」

「みっ、みんなで俺のことをいじめるっ……」

「にゅうん」

「あっ、だめだよ。バニラちゃん、いたずらしちゃ」



 マゼンタピンクのふわふわシャギーな絨毯の上を、満足げな顔をして歩いていく。白い家具にローテーブル、黒いパイプベッドに大きなビーズソファー。しげしげと辺りを見回していると、アレンがボトルを拾い上げつつ「この死ぬほどボトルが転がった部屋でよくもまぁ、絨毯の色に言及できたな。流石はふわふわメイベル」と呟く。ふ、ふわふわメイベル……?



「掃除は……ああ、まぁ、いらないか」

「毎日かけてるよ? かけてるって言ったのに、あたし」

「悪い、悪い。意外と綺麗にしてたな、お前」

「意外だったな……ああ、眉間に皺が! すみません、シェラさん」

「ん……」

「ダニエルさん、俺のこと褒めて?」

「一体どこを……?」



 そこで即座にさっと、ハリーが床に寝転がって仰向けとなり、「もう俺はここで生きていく……!!」と言い出したので、ダニエルが困った顔をしていた。シェヘラザードがものすごく嫌そうな顔をして、口元をひん曲げる。



「あーあ、お前のせいだぞ。ダニエル。褒めてやれよ、ハリーのことをさ」

「お前な、アレン……」

「えっ、う、うーんと……じゃ、じゃあ、会社に行ってて偉いね、毎日……」

「今日は行ってませんけど!? 俺」

「めんどくせぇな、こいつ。鼻をほじるな、鼻を」

「ああ、じゃあ、まぁ、部屋のお片付けをして偉かったね……?」

「みんなもしてましたけど!?」

「こいつを片付けようぜ、もう」

「こらこら、待て待て、アレン……」



 モップを掴んだアレンをヘンリーが止める。そうこうしている内に、バニラちゃんが飛んできて「にゅうっ!」と鳴き、ハリーの顔を踏んづけた。



「いだっ!?」

「あっ、ああっ!? だめだよ、バニラちゃん!? そんなことしちゃ!」

「よくやった、バニラ。躾けた甲斐があったな!」

「そんなことをしていたのかよ、お前……」

「うっ、ううぅ、今の、マリエルさんなら嬉しかったのに! 泣いてやるぅ! みんなが俺のこと構ってくれないんだ、泣いてやるうぅっ!!」

「うわ、めんどくせぇ。こいつ。片付けより面倒臭い」

「あ、アレン……だめだよ、そんなこと言っちゃ」

「ほ、ほら、生きてるだけで偉いから……」



 しゃがみこんだダニエルに励まされ、ようやく鼻をすすって起き上がる。



「じゃあ、次はアレンとヘンリーの部屋だな?」

「おう。行くぞ、メイベル」

「あっ、うん」

「アレン、さっきからメイベルちゃんの方しか向かないな……?」

「監視カメラなんだよ、きっと」

「多分、視界にメイベルしか入ってない」

「ごちゃごちゃうるさいな、お前らは! 見たいもん、見てて悪いか!?」

「「いいえ……」」

「見たいもの……」



 シェヘラザードがそこでじっと、私のことを見上げてきた。う、うーん、私もよく分からないんだけどなぁ。



「……次。行こうか、ヘンリー」

「あっ、はい。行きましょうか」

「はーあ、まったく。お前らはいつまで経ってもうるせぇな」

「……」

「もう何の言葉も出てこないよ、俺……」

「出てきてるじゃねぇか、良かったな。社畜」



 それからまた、廊下に出てアレンの部屋へと向かう。



「初めて~、見るの~」

「そういや初めてか。お前は」

「狭いよ、特に何も無いし。どうぞ~」



 ヘンリーがにっこりと笑って、部屋のドアを開けてくれた。奥の小窓から風と光が入って、白いレースカーテンがはためいている。二つ並んだデスクに、二段ベッドに肘掛け椅子。




「ん!? 何で二段ベッドが……?」

「あ? 俺とヘンリーの部屋だからだよ」

「二人で一緒に住んでたの!? どうして!?」

「いや、俺、最初の頃は家事とか全然出来なかったし……」

「誤魔化すなよ、ヘンリー。こいつが一人で寝るの、淋しいって言うから一緒に寝てる。あと、まぁ、洗濯物とかも俺が片付けてやってる」

「……」

「意外と甘えん坊だよね、ヘンリーは」

「ああ、昔からそうなんだ……」



 みんなに生温かく見つめられ、ヘンリーが気まずそうに押し黙る。そ、そっか。一緒に寝て……。



「じゃ、じゃあ、私ってアレンにとって、第二のヘンリーなのかな……!?」

「ん!? どうしてそうなった!?」

「め、メイベル、多分、それは違うと思っ」

「そ、そうそう! 何かよく分からないけど、アレンにとってメイベルちゃんはヘンリーなんだよ! そうなんだよー!!」

「ハリー、うるせぇ! 黙れ!! 耳がきーんってする!」

「いや、アレンが一番うるさいからな……?」



 で、でも、そっか。腑に落ちたかも、何か。



(わ、私……特別扱いされてると思ってた、今までてっきり)



 でも、良かった! 勘違いだった!



「でもさ? お前……」

「ん? どうしたの? アレン」

「何で今まで気付かなかったんだ? 俺とヘンリーが暮らしてることをさ。寝る前だって、同じ部屋に入って行ってただろ?」

「あっ、うん。仲良しなのかなって」

「仲良し……」

「まぁ、仲良しではあるな」

「め、メイベル、あの、何か君は勘違いをして、」

「いっ、いいいいから! ダニエルさんは黙ってて!? こうやって誤解を固めていくんだよ! じゃないと、二人の間に恋が生まれちゃうだろ!?」

「むが……」



 それから、みんなで家中の大掃除をした。全部が終わってからお茶を飲んでいると、ダニエルがひそひそと話しかけてくる。



「め、メイベルはさ?」

「あっ、はい。どうかしましたか?」



 紅茶のカップを持ったまま、見上げてみると、どこか困ったような顔をして黙り込む。あれ? どうしたんだろう、本当に。



「俺の頑張り、潰されてるような気がする……主にメイベルに」

「えっ!?」

「じゃあ、これで……」

「えっ!? あの、ダニエルさん……!? 一体何が!?」



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