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優しい彼女と変人だらけのシェアハウス  作者: 桐城シロウ
第二章 新しい年を迎えて、春を待つ
37/134

3.冬の庭と子猫の散歩と、彼女の恥じらい

 





「で? 飼うって決めたのね?」

「ああ。まぁ、元々前から、メイベルは猫欲しいって言ってたし……俺が世話をすればいいだけの話だし。あっ、名前はメイベルが決めるからな。お前は決めるなよ? クソババア」

「あら、それはもちろん。だって、メイベルちゃんが拾ってきた子猫ちゃんだもの。ねー?」

「んにゅう」



 マリエルが子猫を抱き上げて、優しく笑いかける。な、なんて素敵な空間なんだろう……。マリエルさんがソファーに座って、子猫ちゃんを抱っこしてる……。ふるふると震えながら見つめていると、マリエルがにっこりと笑って「メイベルちゃんも抱っこする? はい」と言って渡してくれた。ふわふわの子猫が、膝の上にちょこんと乗る。



「わっ、わ~……可愛い! ありがとうございます、マリエルさん」

「ほい、これ飯」

「あっ、ありがとう……食べれるかな?」

「大丈夫じゃない? そこまで小さくないし……」

「ちゃんとふやかしたから大丈夫」

「次、あたしも抱っこ……」

「はーい。どうぞー」



 隣に座っているシェヘラザードに受け渡すと、嬉しそうに頬を緩めて、子猫の背をふわふわと撫でる。丁寧に撫でて貰って気持ちが良いのか、青い瞳を細めてごろごろと喉を鳴らし出した。かわ、可愛い……。



「うわ~、猫……猫かぁ~」

「ハリー、苦手だっけ? 猫」



 シェヘラザードの膝に乗った、子猫ちゃんにご飯をあげていると、それを見たスーツ姿のハリーが嫌そうな顔をする。その隣に立ったフレデリックが、珈琲を片手に首を傾げた。



「いやぁ~、俺の可愛い地位が脅かされるなって。それだけ」

「可愛い地位? 何だそれ……」

「お前はただの変態社畜だろ。あと、可愛いのはメイベルだけだから」

「えっ? 今、何て?」

「さらっと褒めるな……メイベルちゃんのこと」

「いや、本当のことだろ。ここの連中、全員可愛げが無いからな」

「俺にはあるもんっ! ぷんっ!!」

「うるせえ、やめろ、社畜。その尖ったくちびる切り落とすぞ」



 かわ、可愛い。可愛いのはメイベルだけ……。つい嬉しくなって挙動不審になっていると、子猫がご飯を食べつつ、「んにゃっ、んにゃっ」と鳴いて見上げてくる。あれかな? 褒めて欲しいのかな。



「ご飯美味しい? えらいねぇ、ちゃんと食べて~」

「んん」

「可愛いわぁ。癒される……」

「ん。あ、こぼれてる」

「ありがとう、シェラ。ああ、駄目だな。床であげた方が良かったかな……?」

「俺! 拭くもん持ってくる!!」

「いつになく生き生きしてるな、アレンは……」

「まぁ、最近、メイベルちゃんを甘やかしてても甘やかしてても、物足りない! って顔してたから……」



 アレンからクロスを受け取って拭いていると、ご飯を食べ終わった子猫が「んにゃんにゃ」と鳴き出した。その途端アレンが()()()、青い瞳を見開き、「さてはトイレだな!? もう催したんだな!?」と叫んでさっと抱き上げ、リビングの隅に設置したトイレへと連れて行く。



「いいか~? トイレはここだからな~? ここでちゃんとするんだぞ~?」

「んん……」

「甲斐甲斐しい……すげえ」

「俺だって、ちゃんとトイレで出来るもんっ……!!」

「ハリー、お前の年になって出来ていなかったら大問題だよ」

「可愛い……猫、可愛い」

「そうね。大きくなったらリボンとかお洋服とか、買い揃えてもいいかもしれないわね。子猫の内に慣れさせておいてね」

「あっ、それ、素敵です! いいかも……!!」

「ね~。また一緒にお出かけしましょうね、メイベルちゃん」

「はい! 楽しみです!」

「あたしも行く、あたしも」

「行こう、行こう~」



 何だろう? 楽しいし、嬉しいんだけど。子猫にかかりきりになってるアレンを見ていると、ちょっとだけ淋しくなっちゃうような……。みんなで笑い合いながらも、一抹の淋しさが胸の奥に残る。



(だ、駄目よ。駄目。我が儘だー……私)



 あれだけ猫ちゃんが欲しいって言ってたのに、私ったらもう。自己嫌悪に陥って首をぶんぶん振っていると、フレデリック達が訝しげに「どうしたの? メイベルちゃん」と聞いてくる。



「あっ、なん、何でもないです……!! ただその、アレンとあんまりお喋り出来ないのが淋しいなぁって。駄目ですね、私。甘えん坊で……」

「今の台詞、アレンは!? 聞いてた!?」

「聞いてないぞ、ハリー! 神妙な顔つきで猫のうんこ拭いてる!!」

「そっちうるせぇぞ! 一体何だ!?」

「何にも無いよー! 本当に本当に何にも無いよー!!」

「メイベルちゃんと子猫ちゃん可愛いねって、そう話してただけだからー! 俺達ー!」

「貴方達ね……」

「必死……人の幸せ、妨害しようとしてる」

「え、えーっと?」



 でも、恥ずかしいから伝わらなくてほっとした。良かった。ハリーを呼び寄せて、耳元でこっそり「アレンにはその、内緒にしててくれる? さっきのこと……」とお願いしてみたら、両手で顔を覆って、「駄目じゃん、アレン。清楚系純朴女子大好きなアレン、速攻で落ちて下僕とかすやつじゃん……!!」と言ってめそめそ泣き出した。清楚系純朴女子……? 



 首を傾げていると、フレデリックが真面目な顔をして話しかけてくる。



「いいか? メイベルちゃん。実はアレンにはな、将来を誓い合った恋人がいて……」

「何大真面目な顔をして、そんな嘘を吹き込んでいるんだよ!? そんな女いねぇし!!」

「いたっ!? 足蹴るのやめてくんない!? 年長者なんだけど、俺! 一応」



 フレデリックが振り返ると、アレンが澄ました顔で子猫を撫でる。良かった、気乗りしなかったみたいだけど、ちゃんと可愛がってくれているな……。



「ふーん? マリエルとお前、一体どっちが年上なんだよ?」

「殺すわよ、アレン。いちいち年齢を詮索しないでくれる?」

「で、でも、その、マリエルさんは大人の女性としての色気もあるし、教養もあるし、お上品だし、年齢関係無く素敵な人だと思って、ふぉ!?」

「可愛い~! も~、アレンとじゃなくて、私と一緒に出かけましょ?」

「えっ? いや、メイベルは俺と出かけたいんだし……」

「子猫はどうするんだよ、お前」

「そうだぞ、無責任だぞ? 一度飼ったからにはふらふらと遊びにも行かず、きちんと最後まで面倒を見るべきで、」

「うるせぇぞ、お前ら。いちいち……」



 ぎゅうぎゅうとマリエルに抱き締められながら、アレンを見てみると、子猫を抱えて「まぁ、またヘンリーにでも預けて、一緒に出かけようぜ」と言ってくれる。良かった! 私がアレンに笑いかけていると、ささっとハリーとフレデリックがやって来て、アレンの視界を両手でひらひらと遮る。鬱陶しかったのか、「お前らな!? この間から一体何なんだよ!?」と言って怒り出した。



「絶対阻止! 絶対阻止! 復唱っ!!」

「復唱ーっ! 絶対阻止します! はいっ!」

「あ? 何を……?」

「絶対阻止! 誰も幸せになんてならない、甘々カップルの生誕は阻止すべし!」

「すべしーっ!!」

「ヘンリー、お前まで一体何言ってんだよ……あと、寒いからリビングの扉閉めろ。早く」













「お散歩、お散歩~」

「んにゃあっ!!」

「長いリードにして正解だったな……全力疾走かよ」



 ふんわりと甘い匂いがするから、バニラちゃんと名付けた子猫が、白い尻尾をぴんと立てて、雪の上をさくさくと走ってゆく。アレンが白い息を吐いて、黒いコートのポケットに両手を突っ込みながら、苦笑した。青いリードをぎゅっと握り締め、そんなアレンを振り返る。



「雪やんで良かったねー、アレン」

「だな。前見て歩けよ、メイベル」

「うん。あっ、おしっこした……」

「まぁ、雪だし、庭だし、別にいいんじゃないか……?」

「あとでダニエルさんに聞いておこ……」

「まぁ、お前が気になるのなら、魔術で綺麗にしておくか。ほい」

「ありがとう、アレン! 頼りになる……」



 笑ってお礼を言うと、照れ臭かったのか真顔で「いや、別に。大したことないし、こんなこと」と言い出す。うん、ちょっとだけ分かってきたかも。アレンの心の動きが。ほのぼのしちゃって、笑って見つめていると、顔を少しだけ赤くして「いや、俺はいいから。念願の子猫だぞ? そっちを見とけ、そっちを」と言ってきた。可愛い。



「うん! バニラちゃん、おいで~。わ~、本当に来た! 可愛い……」

「お前に懐いてるよな、やっぱり。最初から腹出して、膝の上で眠ってたし……」

「ふふふふ……私、自慢じゃないけど昔から動物には好かれるんだ」

「まぁ、だろうな。だと思った」

「えっ!? なん、何で!?」

「んにゅっ」

「あっ、はいはい……ごめんね? 大きい声出して」

「にゃあ」



 可愛い。いちいちお返事してくれる……。じーんと感動して抱えて歩いていると、また歩きたくなったのか「んにゃあ、んにゃあ」と言って暴れ出したので、雪の上にそっと置いてみる。また尻尾をぴんと立てて、さくさくと雪を踏みしめて走ってゆく。か、可愛い……癒される。



「はー、楽しい。可愛い……」

「まぁ、お前が楽しいのなら良かったよ」

「うん! でも、その、ね?」

「ん? どうした? 猫用ベットなら今日の午後、ヘンリーと一緒に買いに行って、」

「あっ、違うの。えーっとまた、アレンと一緒にお出かけが出来たらなぁって。それだけ……」

「ああ。何だ、そんなことか。そうそう俺も、お前が喜びそうなところ見つけてさ」

「えっ、なになに?」



 驚いて振り返ってみると、優しく微笑みながら、足元の雪を見つめる。昨日ヘンリーがぼそっと「あれだよな。穏やかな顔するようになったよな、アレン……」って言ってたけど、確かにそうだ。こうやって、穏やかな顔をするようになった。庭の野鳥がぴるぴると、高く鳴いては飛び去ってゆく。



「香りの博物館。ロープウェイで登って行くんだけどさ、昔の貴族が使ってた香水とか復元してはんば、」

「いっ、行きたい!! すごいね、アレン! 何でも私のことが分かってる……」

「いや、何でもじゃないけど。流石にな。でも、マリエルよりかは分かってるぞ、俺」

「だねぇ、ありがとう~」

「よっしゃ、勝った……!!」

「あっ、駄目だよ。バニラちゃん」

「うにゅう」



 小さいのに、木の幹に爪を立てて登って行こうとする。「絶対に降りれなくなっちゃうから、駄目だよ~」と言って抱えると、不満だったのか「にゅうっ」とだけ鳴いた。可愛い。



「もうすぐあれだな。飯の時間か。こいつ」

「そうだね。ちょっと痩せてるし……早く太ってくれるといいんだけど」

「まぁ、良かったな。何も無くて。健康で」

「そうだね。野良ちゃんだとおめめが腫れてる子だったり、鼻水が出てる子もいるけど……健康で良かった。長生きしてくれるといいけど」

「大丈夫だろ。ちゃんと世話をしてやったら」



 でも、厳密に言うと私の猫じゃないし。バニラちゃんを降ろしつつ、不安になってアレンを見てみると、「大丈夫大丈夫。ヘンリーが看取るって言ってたから。もう既にべろべろだし、あいつ」と言ってくれる。すごいな、顔を見ただけで分かってくれる……。



「あれだね。何だか読み取り機みたいだね、アレン……」

「は? い、一体何が……?」

「だって、見ただけで色々分かってくれるから、それで……」

「いやぁ、お前が分かりやすいだけだと思うけどな……」

「あっ、そうだ。猫ちゃん飼ったこと、ウィルに教えてあげよう~。喜ぶかな~、どうかな~」

「えっ!? よく、良くないか!? 言わなくてもさ、別にさ!?」

「なん、何で? だって、ウィルも猫ちゃん好きだし……」



 アレンが動揺して雪に足を取られて、「うおっ!?」と言って転びかける。咄嗟に腕を掴むと、がしっと私の両肩を掴んできた。茂みの匂いを嗅いでいたバニラちゃんが、「うにゃあ?」と心配そうな声で話しかけてくる。



「だってさ!? そんなこと言ったら、また連れ戻しに来ないか!? あいつ!」

「な、何で? 来ないと思うけど……」

「いやぁ~……来る来る。だってあいつ、不満でいっぱいだったし……あっ、そうだ。俺が今日のメイベルの様子って、魔術手帳に写真でも毎日送ってやったら、」

「へっ!? いや、恥ずかしいって! それは!」

「何で? 大丈夫だけど」

「あ、アレンが大丈夫でも、私は大丈夫じゃないの……!!」



 今日の私の様子って、ご飯食べてるところとか? バニラちゃんを膝に抱えて、変な顔してる時とか……? 嫌だな、絶対に無理だ。アレンに撮られているところを想像するだけで、何だか落ち着かない気持ちに……!! 恥ずかしくなって俯いていると、アレンが慌てて「まぁ、嫌だって言うのならしないけどさ!」と言ってくれる。



「本当? 私、その、バニラちゃんの前では相当変な顔してるんじゃないかって、そう不安になっちゃって……」

「何で? お前はいつどの角度から見ても可愛いし、そんな心配する必要無いし」

「ありがとう、励ましてくれて……」

「いや、別に。励ましでも何でも無いんだけどなぁ……」



 アレンが庭の雪をさくさくと踏みしめて、茂みの前でうんちをし出したバニラちゃんを見て座り、「こんなこともあろうかと持って来た。良かった」と言ってコートのポケットから、ビニール袋とティッシュを取り出す。



「励ましでも何でもない……?」

「うん。あっ、そろそろ戻るか。肉球が熱くなってきた。きっとこいつ、もう眠たいんだろうな……」

「うん、そ、そうだね。えーっと」

「待て、袋閉じるから。今来たら匂うぞ」

「あっ、ありがとう……」



 さらっと褒めてくれるな、最近。嬉しくなって両手を組み、真剣な顔つきでビニール袋を閉じているアレンを見つめる。木々の間から、冬の透明な陽射しが零れ落ちていた。清廉な雪の匂いと、ぴちぴちと歌う野鳥達。何もかもが美しくて、胸の奥が詰まってしまう。冬の美しい庭にて、ビニール袋の口を閉じたアレンがこちらを振り返り、青い瞳を細める。



「じゃ、帰るか。バニラがもうちょい大きくなったら、日帰り旅行にでも行くか?」

「いいね、それ! あっ、でも、その前にピクニックがしたいかな……春にね、サンドイッチを作って持って行ってね? アレンとバニラちゃんの三人でまったり遊びたい。春を満喫したい!」

「いいな、それ。色々作って持って行くか。春が楽しみだな」

「うん。楽しみだね……あっ、何? 抱っこ? 可愛い~、疲れちゃったのかな?」

「でもまぁ、マリエルも喜びそうだしな……お前とバニラの写真、撮るか」

「えっ!? はず、恥ずかしいんだけど……!?」



 眠たくなったバニラちゃんを抱えて、驚いて見てみると、アレンが嬉しそうに笑う。わぁ、最近、弾けるように笑うなぁ。何だか嬉しい……。



「いいじゃん、別に。残しておこうぜ。俺も見たいし。バニラとお前の写真」

「えーっ!? 何で!? どうして!?」

「癒されそう、何か。疲れた時に見る」

「だっ、だったら、バニラちゃんの写真だけでいいんじゃないかな……!?」

「そこの二人……!!」

「うおっ!? ハリー!? って、ええ!? 何かいっぱいいるし!!」

「わ、わあああっ!? みんな!? えっ? い、一体いつから……!?」

「バニラちゃんがうんちするちょっと前。博物館に行こうねって、ゲロ甘オーラを出してた時からだよ……!!」

「結構前だったな、へー」

「へーって、おい」



 後ろを振り返ってみると、やれやれとでも言いたげに肩を竦めているヘンリーとノア、悔しそうに震えている、樹木の着ぐるみを着たハリーにシェヘラザードと、フレデリック、そしてダニエルとマリエルまで佇んでいて。思わず、顔が赤くなってしまう。あれかな、ずっとやり取りを見ていたのかな……。



「アーレーン……俺達は一体いつ、お前らが気付くかなと思って、ずっとずっと後をつけて、怨念を送っていたんだよ……!!」

「中々似合ってるぞ、その着ぐるみ。流石はシェアハウスの可愛い枠」

「何の抑揚も無い! 感情も篭ってない!! 圧倒的真顔なのは一体何故!? どうして!?」

「いや、ハリー。落ち着けって。アレンがにこにこ笑顔で、お前のことを褒めても怖いだろう……?」

「いや、ヘンリー……だって、これ、俺の勝負下着同然の着ぐるみだし……」

「相変わらず、訳の分からないことを言いやがって……」



 すっかり眠ってしまったバニラちゃんを抱え、さくさくと雪を踏みしめて、みんなのところに行ってみると、何故か一様に生温かい笑顔を浮かべる。白いコートを着たマリエルが近付いてきて、眠っているバニラちゃんをふわふわと撫でた。



「もうね……ちょっと淋しいわね、何か。アレンにメイベルちゃんを取られたみたいで」

「いや、そもそもの話、俺と張り合おうとするお前が悪いんだよ……クソババア。お前は俺みたいに色々と覚えてられないし、結局は俺が、一番メイベルのことを考えているんだよな……」

「いや、だから何で張り合おうとするんだよ? おかしいだろ、色々とさ」



 紺色のコートを着たフレデリックが困惑していると、淡いブルーのコートを着たノアが、ひょいっと肩を竦める。えっと、何だかすごく恥ずかしいな……。



「仕方ないよ。アレンは最近変だし、メイベルちゃんもメイベルちゃんで、甘えん坊度が増してるし?」

「わっ、わ~……!! 恥ずかしい、どうしよう……?」

「あたし、メイベルはそれでいいと思う。最初、気を張り詰めてたし焦ってた」

「えっ……?」

「そうだね。俺にも無理に優しくしてくれていたよね……? 俺はどうせ酸素も何も生み出さないし、光合成も出来ないぐじぐじ陰湿男なのに、メイベルだけは無理して優しくしてくれていて、」

「鬱陶しいな、もう! おい、ヘンリー。どうにかしろよ、こいつのこと」

「うーん……おかしいなぁ。最近は比較的、明るかったんだけどなぁ~」

「でも、みんな? どうしてここにいたの? バニラちゃんに会いに来たの?」



 さくさくさくと、冬の静かな庭に、大勢の足音が響き渡る。楽しいな、やっぱり。でも、ほんの少しだけ淋しくなってしまう。あともうちょっとだけ、アレンと穏やかな時間を噛み締めていたかったなって。そう思ってしまうのが、みんなに申し訳無くて。でも、これからのことを考えると胸が弾む。何をしよう? 春になったら。



(美味しい葉物野菜も出てくるし。苺もそうだし、冷たい飲み物もだんだんと美味しくなってくるし……)



 ひっそりと笑って歩いていると、腕の中の子猫がもぞもぞと動く。温かい。冬の冷たさに鼻先が赤くなっちゃうけど、眠る子猫の体温が腕に染みてゆく。木漏れ日が降り注いで、辺りを眩しく照らしていた。



「ほら、アレンから聞いたと思うんだけどさ? 俺とアレンが猫用ベッド買いに行くって言ったらさ、俺達も行く! ってみんなが騒ぎ出してさ……」

「ああ、ヘンリー……お前は所詮、アレン側の人間だからな。血の同盟を忘れたのか?」

「血の同盟……?」



 フレデリックの発言を不思議に思って尋ねてみると、真剣な顔でこくりと頷く。首に巻いた、紺色と赤のマフラーがお洒落でよく似合っていた。



「うん。メイベルちゃんからは遠くかけ離れたことなのかもしれないが、少しでも、邪悪なカップルどもを減らすべく俺達は行動して、」

「何言ってんだ、また……」

「まぁ、俺には彼氏もいるし、その頭の悪そうな、血の同盟とやらには嫌悪感しか湧いてこないけど」

「待って、二十三歳。もうちょっとだけ、おじさん達に気を使って欲しいなー?」

「なら、態度で示しなよ。尊敬出来ない発言ばっかしといてさ? 尊敬しろ、敬えってのは赤ちゃん以下の存在でしょ。尊敬して貰えるおじさんになろうとは思わないの? ねぇ?」

「す、鋭すぎる……!! 誰か助けて、ぐうの音も出ない!」

「今の、マリエルさんの発言だったら興奮してた! ヨダレ垂らしてた!!」

「気持ち悪いからやめてくれる? ヘンリー、ちょっとどうにかしてくれない?」

「いや、あの、マリエルさん? 何でみんな、俺にそうやって頼んでくるのかな……?」



 マリエルに頼まれたヘンリーが困惑して、ダークブラウンの瞳を揺らす。そうこうしている内に、玄関ポーチに辿り着いた。ささっとアレンがやって来て、ドアを開けてくれる。



「わ~! ありがとう、アレン! ごめんね、いつもいつも……」

「いや、別に。疲れただろ? 一休みしてから行こうな?」



 玄関先で雪を落としていると、背後にいたフレデリック達が嫌そうな声で囁き合う。



「えっ? ちょ、何? あれ。世界で二人だけみたいな発言……」

「これで付き合ってないんだよね……」

「アレンなんて……アレンの家賃、上げてみようかな……?」

「それは切実にやめて欲しい……あと俺は、もう決めたから。前にメイベルが傍にいて欲しいって言ってきたからさ、なるべく傍にいて色々しようと思って……」

「真顔……いや、覚悟を決めた顔してるな……」

「本当、ばっかみたい。それでメイベルちゃんのこと、」

「待って、マリエルさん!? 駄目ですよ、それ以上言ったら!」

「妹、妹ー! お友達ぃ! ふうっ!」

「必死よね、貴方達……」

「ん、醜い」

「同意」

「女性陣からの受けが死ぬほど悪いな、血の同盟……」









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