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優しい彼女と変人だらけのシェアハウス  作者: 桐城シロウ
第二章 新しい年を迎えて、春を待つ
36/134

2.シェアハウスに子猫がやって来た日の話

 




「ぷにぷに~。わ~、可愛い……」

「んにゅ」



 シェヘラザードから貰った、猫ちゃんバックの肉球をぷにぷにする。でも、温かくない。当たり前だけど引っ掻いたりもしないし、甘えたりもしてこない。このバックが可愛いからか、本物の猫ちゃんが恋しくなってきた……。ベージュ色のカチューシャを付けて、白いニットを着たメイベルがぎゅっと、猫バックを抱き締める。



「う~っ、猫が欲しい! ダニエルさん、ここってペットは……?」

「みんながいいよって言ったら、別にいいかな……」

「俺は猫好きだから、別に~。この家に暫く住む気でいるし、ちゃんと最後まで面倒見るよ?」



 黄色と黒のラガーシャツを着たヘンリーが、珈琲を飲みつつ、にっこりと笑ってそう言ってくれた。やった! 隣に座っているノアを見てみたら、爪を削っている最中だったけど、「いいよ。俺も猫派だし」と言ってくれる。あとはアレンとハリーと……そう考えた瞬間、足首をがっと掴まれた。



「わっ、わああああっ!? お化け!?」

「残念、俺でしたー! いいよ、メイベルちゃん! 俺も猫派だから賛成! 激務のあと癒されたい!」

「は、ハリー……? もう、驚かせないでよ……」

「ごめんごめん、最近テーブルの下が気に入っててさぁ~、って、おわっ!? 誰!? 俺の足踏んでんのは!?」

「俺だよ、このバカ社畜め!! メイベルを驚かすなって、一体何度言ったらお前は分かるんだよ!?」

「アレン? あのっ、珈琲がこぼれちゃいそうだから……!!」



 それまでげしげしとハリーを蹴っていたアレンが、ふとこちらを向く。だ、大丈夫かな……反対されるかな。どうしよう。ひとまず猫ちゃんバックを横に置いて、小さなカップケーキが乗ったトレイを受け取る。



「わっ、すごい……可愛い! 薔薇が乗ってる、薔薇が!」

「食用だから安心しろ。あとバターも使ってないし、なるべく低カロリーで作ったから。好きなだけ食え、お代わりもあるぞ。向こうに」

「とうとう手作りカップケーキの上に、薔薇を乗せ出したか……」

「もう一回踏むぞ、社畜。あといい加減、そこから出てこい。鬱陶しいんだよ、目障りだ」



 その言葉を聞いて、スーツ姿のハリーがずるずると床を這いながら、「へいへい……今日もイチャイチャ、明日もイチャイチャ、きっと、これからもずっとイチャイチャ……」と呟きつつ、テーブルの下から出てくる。だ、大丈夫かな? スーツ、皺になっちゃわないのかな……。そこで、爪を削っていたノアがアレンに話しかける。



「甘やかしすぎじゃない? メイベルちゃんのこと。何で赤い薔薇なんか乗せてんの? ねぇ?」

「メイベルが喜ぶかと思って……たまたま、その、スーパーに売ってたし……」

「嘘だろ、絶対。あとノア、これは甘やかしじゃないんだってよ! 可愛いピンク色のクリームまで絞ってあるけど」

「これは苺パウダーとビーツパウダーを混ぜ込んだヨーグルトクリームで、低カロリーなんだ。ちなみに、俺のオリジナルレシピ」

「「聞いてないけど? そんなこと」」

「何なの、お前ら。本当にうるさい……色々と心置きなく、メイベルに出来ないじゃん……」



 アレンがげんなりした顔をしながら、私の隣に座る。差し出された、小さな金色のフォークを受け取って、可愛い薔薇のカップケーキを眺めていたら、隣でそわそわとし出した。あっ、早く、早く食べなきゃ……!!



「ありがとう、アレン! でも、ごめんね? 美味しそうでもったいなくて、つい……じゃあ、食べてみるね!」

「あっ、うん。ごめん、急かしたつもりは無かったんだけど……」

「うん、知ってる! 大丈夫~。ありがとう、いつも美味しいおやつを作ってくれて!」

「いや、別に……お前がそうやって喜んで食べてくれるし、どれもこれも簡単なやつばっかだし」

「う、嬉しい……ありがとう。でも、崩すのに勇気がいる……!!」

「ああ、もう、無理して食べなくてもいいから、別に……。あっ、俺が花びらをよけてやろうか? そしたら、ちょっとは食べやすくなるよな?」

「あっ、おね、お願いします……!!」



 アレンにフォークを渡していると、ヘンリー達が何かをひそひそと話し始める。



「日に日にイチャつき度が増してるよな、あの二人……」

「まぁ、いつものことでしょ」

「社畜の目に染みる、つらい……薔薇色のカップケーキつらい」

「アレン、猫……メイベルが猫飼いたいって言ってるけど……?」

「ああ、聞いてたけど。一応」

「ど、どうかな!? まだ、マリエルさんやシェラには聞いてないけど……」



 さっくりとカップケーキを切り分ける。中はふわふわとしていて、綺麗な卵色だった。美味しそう……。我慢し切れずにぱくりと食べたあと、アレンを見てみると「うーん」と低く唸って、腕を組んでいた。どうしよう、やっぱり反対なのかな……。



「あのババアも猫カフェに行くぐらいだから、反対はしないだろ。シェラもシェラで猫は好きだし。以前、野良猫を追いかけ回してた……」

「そ、そうなんだね? でも、つい声をかけたくなっちゃうよね……分かる」

「じゃあもう、猫を飼う感じで行く? ペットショップにでもみんなで」

「いいね、それ。でも、アレンとメイベルちゃんと猫かぁ~……」

「うるさそう、アレン。超絶うるさそう~」

「おい、待て。お前ら、何で猫を飼う方向で勝手に話を進めてるんだよ? 猫なんか飼ったら、メイベルが手に怪我をするだろ!?」

「「はい?」」

「えっ? 今、何て? 手に怪我?」

「し、しないと思うけど……?」

「引っ掻き傷とか出来るじゃん? だから駄目」

「えっ……」



 でも、猫を飼っていたらそんなのは当たり前だし。それに、猫が嫌がるようなことはしないんだけどな……。困って見てみると、少したじろいで、「いや、弟が……せっかくの綺麗な手に、傷を付けたらその、弟が……」とごにょごにょ言って、そっぽを向く。でも、多分、十秒ぐらい見てたら「いいよ」って言ってくれるんじゃないかな……一旦フォークを置いて、アレンのことをじっと見てみる。



「ねぇ、アレン? 駄目? この猫ちゃんバックじゃなくて、本物の猫が触りたいんだけど……」

「じゃあ、今度俺の実家にでも来るか? いるぞ、猫。三匹ぐらい」

「メイベルちゃん家でも飼ってるじゃん。何でそこで誘うの? 自分の実家にさ……」

「いや、二人とも。一旦落ち着こう? 色々すっ飛ばして両家に挨拶はちょっと……俺の気持ちが追いつかない。やめて欲しい」

「落ち着くのはお前だよ、ヘンリー。メイベルと二人で実家に帰るだけじゃん……」

「しれっと二人! よし、俺も行く! アレン大好き!!」

「うるせえ、嘘を吐くな!! 永遠に黙ってろ、お前は!」

「本当だもーん、嘘じゃないもーん! チューしてやる、チュー!!」

「いらっねえ!! 世界で一番いらねえ!! やめろ、来るなっ!」



 立ち上がったハリーがアレンを追いかけ回して、抱きついて、ほっぺにキスしようとしていた。それをものすごく嫌そうな顔で防ぎながらも、アレンが怒鳴り散らす。



「いいか!? とにかく猫なんか、絶対に絶対に飼っちゃ駄目だからな!? そのバックで我慢しとけ、何だったらまた今度、俺が新しい猫バックを買ってきてやるから!」

「ちゅーしてやるから、ほら! 絶対に絶対に、メイベルちゃんと二人で実家になんか行くなよ!? 二人でキャッキャウフフ、アルバムを添えてとかやめろよ!?」

「うるっせぇよ、何言ってんだよ!? お前は! はーなーせって! 鬱陶しい!!」

「嫌だあああああっ!! 赤ちゃんだもん、俺! 赤ちゃんだから、パパにこうして縋ってなきゃ生きて行けないんだもんんっ!! ばぶばぶぅーっ!」

「スーツ姿で言うな、生々しい!!」



 二人が騒ぐ中で、またヘンリー達が囁き合う。



「そんなこと言ってあれだよ、どーせまたすぐに飼うんだよ。メイベルちゃんのためにさ……」

「何日保つか賭ける? 俺、三日にする。いや、二日」

「俺は三日~」

「俺は……明日。明日になったらきっと、いいよって言ってると思う……」



 そうかな? 許してくれるかな。不安に思って聞いてみると、みんなが慈愛に満ちた微笑みで頷いてくれた。そ、そっか。なら、待っていようかな……。



「メイベルちゃん……何も不安に思うことは無い。アレンはね、君の言うことなら何でも聞くんだよ」

「う、うん。ヘンリー。でもね? 私ね?」

「大丈夫大丈夫。どーせ、またすぐにいいよって言うだろうからさ……」

「アレンは……メイベルをほら、妹だと思ってるからさ……それでだよ、大丈夫」

「た、確かに……!!」

「相変わらずちょろ、素直だね~。メイベルちゃん……カップケーキ美味しい?」

「美味しいよ~! ノアも一口いる?」

「じゃあ、ちょっと貰おうかな……」

















「……そんな訳で、猫を飼うのを反対されちゃったんです。アレンに」

「あら~、残念だったわね。メイベルちゃん。心配性の彼氏を持つと大変ね~」

「えっ? あの、ヘレンさん? 彼氏じゃな、」



 その時ちょうど、店の電話が鳴った。店主のヘレンがぶつくさと「もう、閉店したのに一体何?」とぼやきつつ、レジカウンターへと向かう。でも、何でだろう? 何で勘違いされちゃったんだろう……。



(確かにアレンはカップケーキを焼いてくれたり、いつも私のことを心配して、色々してくれるけど。でも)



 私をきっと、亡くなった弟さんの代わりにしているだけなんだろうし。それにアレンは恥ずかしがり屋さんだから、意地を張って、何も言えなかったんじゃないかな……? きっと弟さんに、お兄さんとしての愛情を注げなくて。だから、私を代わりにしている。私に沢山、優しいことを言ってくれる。



(うっ……ちょっとだけ悲しくなってきたかも。まぁ、いいや。帰ろう……)



 アレンと一緒に帰って、みんなで美味しいご飯を食べて、熱い温泉に浸かって眠ろう。そう考えると、わくわくしてきた。電球がぶら下がっている、薄暗いバックヤードにて着替えていると、ちりんと魔術手帳が鳴る。見てみると、アレンからだった。珍しく文字が乱れてる。



 “ごめん、メイベル! ちょっと仕事が長引いて遅れそう。でも、店の近くで待ってて。不安だから”



 いいのに、気にしなくても。でも、アレンと一緒に帰ろうと思ってた矢先に、これはちょっとへこんじゃうな……。一つ深い溜め息を吐いて、白いダッフルコートを着たあと、魔術手帳から羽根ペンを取り出す。



 “心配しないで、アレン。大丈夫だから。ごめんね、いつもいつも。お仕事で疲れてるのに……アレンと一緒に帰れないのは淋しいけど、先に一人で帰ってるね。あとで会うの、楽しみにしてるね!”



 これでよし。アレンと一緒に帰れないのは淋しいけど、前まで一人で帰ってたし。お昼ご飯も一緒に食べたし。気持ちを切り替えてヘレンに挨拶したあと、店の外に出る。真っ暗だった。冬だからか、日が沈むのが早い。首筋が震えてしまう。慌ててコートのポケットに両手を突っ込んで、足元を見て歩く。



 ほうっと息を吐いて見上げてみると、白くたなびいて消えていった。その向こうに、丸い満月が浮かんでいる。綺麗だ。小さな星々が煌いている中で、こうこうと光り輝いている。金貨の色、黄金の色、カボチャの色、ブーゲンビリアの色、砂丘の色。あの満月の色を、何て表現しよう? そんなことを考えつつ、淋しさを紛らわせる。



(猫ちゃん、飼いたかったなぁ……)



 ライ叔父さんも猫が好きで飼っている。また会いに行こう、いつか。堂々と。それにしても、アレンが心配してくれるのは嬉しいんだけど、猫ちゃんが飼いたいな……。



(駄目かな? みんなで飼うのはきっと、楽しいのに)



 街灯に照らされた階段を登って、高級住宅地へと向かう。この辺りは静かで暗い。後ろを振り返って、変な人が付いてきていないかを確認する。若い女の人しかいなかった。ちょっとほっとして、前を向いて階段を登る。



 会いたかったな、アレンに。心細いし、怖い。そんなことを考えながら、ひたすらてくてくと歩いていたら、公園から「ミィミィ」と子猫の声が聞こえてきた。ぴたりと、足が止まってしまう。どうしよう? 普段ならこんなに暗い公園、怖いから入ったりしないんだけどな。



 街灯に照らされ、浮かび上がった自分の影を見つめて考え込む。そう悩んでいる間にも、子猫の「ミィミィ」という声が大きくなってきた。だめだ、怖いけどちょっと頑張ろう!



 思わず走って行ってみると、小さなダンボール箱に一匹の子猫が入れられていた。小さい、可愛い。白くてふわふわしていて、円らな青い瞳を持っている。咄嗟に座り込んで、手を伸ばしてみると、「にゅっ」と嬉しそうに鳴いて、よたよたと近付いてきた。良かった、怖がってないみたい。そのまま、ふわふわとした小さな体を抱き上げて、立ち上がる。



「こっ、これはきっと運命……!! 飼う! 絶対に飼うっ!」

「にゅっ、にゅうっ」

「ああ、良かった。怪我もしてない……お母さん猫がちゃんと、お手入れしていたのかな? それとも飼い主さんのおかげかな……綺麗。多分、ノミも付いてない」

「にゅ、んん」



 私が指先であちこちを確認すると、ちょっとだけ嫌がって両目を閉じる。慌てて「ごめんね? でも、必要なことだからね?」と話しかけてみると、もにもにと動いて、ちょこんと私の腕の中に収まった。まるで、「連れて帰ってね」と言ってるみたいだ! 可愛い! 思わずぎゅっと抱き締めて、その可愛さを噛み締める。す、好き……。絶対うちの子にする!



「は~、でも、どうしよう? アレン、あんなに嫌がってたし……」



 するとその時、魔術手帳から金色の乙女が飛び出てきた。アレンからかな? 子猫を一旦、ダンボール箱の中に戻して、バックを探って魔術手帳を取り出す。夜の闇を払うために、金髪の乙女がランプを取り出して、かざしてくれた。



 “今どこにいる!?”



 それを見て「えっ、教えたくない……」って言っちゃった……。どうしよう? 周りに人とかいないよね? 辺りを見回して確認してみると、公園の出入り口前をハリーが「トマト缶~」と歌って、通り過ぎて行った。わっ、わああああ! ばっ、ばれなくて良かった……ドキドキしちゃった。胸元を押さえて、息を吐いていると、また新しいメッセージが入る。



 “こんなこともあろうかと思って、お前の防犯グッズに追跡魔術をかけておいて良かった! それ辿って行くから待ってろ! なるべく明るい場所で! いいな!?”



 ど、どうしよう!? アレンが来ちゃう! すぐさま子猫を抱き上げて、ひしっと抱き締める。どうしよう? 引き離されたくない。でもアレンのことだからきっと、里親を探すって言うと思う……。近くの動物病院も保護猫活動してるし。もしかしたら、そこの先生に渡して任せちゃうかもしれない……。



「かっ、隠さなきゃ! アレン、魔術師だし、魔術使えるし……!!」

「にゅう、にゅう」



 慌ててコートのボタンを開けて、ひとまずそこにしまっておく。子猫は何かの遊びだと思ったのか、ちょっとだけ嬉しそうに「みゅっ」と鳴いて、もぞもぞと動いて潜ってゆく。それからボタンを閉じて、猫を下から支えて、公園を出る。焦って歩く私を、黄金色の満月が静かに照らしていた。夜風は冷たく、凍えるかのようで。



(早く……早く! アレンが来る前に早く帰って、みんなに子猫ちゃんを見せて、めろめろにして!)



 それで飼っちゃおう、もう。きっとアレンも、諦めてくれるだろうから。でも、数十歩も歩かない内にとんっと、アレンが目の前の道路に着地する。は、早いよ~……アレン、早いよ。アレン。



「メイベル! 良かった、いて! 変な奴に絡まれてないか!? お前のあとをつけている奴は!?」

「いっ、いないよ。大丈夫……」

「お前……薄着じゃないか? それ」

「えっ? そう、そうかな……?」

「何で後ろに下がっていくんだよ? 一体どうした……?」



 ごくりと唾を飲み込み、子猫がいる辺りをそっと押さえつつ下がる。黒いコートを着たアレンが、訝しげな顔をして近付いてきた。ああ、どうしよう? ばれちゃう! ばれて、どこかの誰かがこの可愛い子猫ちゃんを飼っちゃう……!!



「ほら、マフラー。俺のを貸してやるからさ……」

「いっ、いらない! だい、大丈夫! ほ、ほら? アレンも寒そうだし……」

「いや、俺は別に。大丈夫。いいから、はい」

「えっ、あっ、ありがとう……」



 アレンがふわりと、私に真っ赤なマフラーをかけてくれる。ばれてないかなと思って見てみると、真剣な顔でマフラーをせっせと巻いていた。よ、良かった……ばれていないみたい?



(でも、大丈夫かな? 猫ちゃん、息苦しくないかな……)



 焦って膨らみを持ち上げていると、アレンがまた訝しげな顔をする。ば、ばれたかな? とうとう?




「……メイベル、お前」

「えっ? な、何? どうしたの?」

「胸が痛いのか……? 大丈夫か?」

「あっ、う、ううん! あっ、でも痛いかも! ちょっと痛いかも!!」

「よし、病院行くか。ええっと、今やっているのは……」

「だっ、だだだだ大丈夫だよ!? 大したことないから、こんなの! 別に! ほらっ? 生理前でちょっと胸が張ってるだけだから!」

「そうか? ならいいんだけど……」



 それでもアレンがじっと、私のことを見てくる。どう、どうしよう。これは絶対にばれちゃうやつ……。アレンがきゅっと眉を顰めて、すごく言いにくそうに、私の胸元を指差した。



「メイベル、お前。そこに一体、何を入れてんだ……? 言っちゃ悪いけどさ、お前の胸ってそこまで無い……」

「パ、パッドだから! これ! 何も、何も入ってなんかないもん……!!」

「いや、パッドは手で支える必要ないだろ……それに何か、もぞもぞと動いてるしさ?」

「うっ! えっ、えーっと、これはその……動くパッドなの!!」

「怖ぇよ、何だよそれ。そんなの入れる奴なんかいないだろ……と言うか、会社も会社でそんなの売り出さない。付けている内にずれ落ちてきそう」

「あっ、アレンとはもうちょっと話したくない! さようなら!!」

「何で!? メイベル!?」



 ミィミィと鳴く子猫を抱えて、夜の道路を走る。アレンが慌てて「ごめんって! そのっ、胸のことをとやかく言ったのは悪かった! ごめんって!!」と言って追いかけてくる。ど、どうしよう。ばれる、絶対にばれちゃう……!!



「メイベル!? ごめんって……あっ」

「みゅうっ!」

「あっ、ああああああ!? と、飛び出してきちゃ駄目じゃない! わっ、う、うう~……!!」



 ぴょこんと飛び出てきた子猫を見て、アレンが硬直する。だ、駄目だ、終わった……。悲しい、この子とお別れしなきゃいけないだなんて。半泣きになりながら、アレンを見てみると、呆然とした表情で手を伸ばしていた。子猫が「にゅうっ」と鳴いて、アレンの指先をふんふんと嗅ぐ。あっ、羨ましい……それ、私にもして欲しい。



「……飼うか、猫」

「えっ!? いいの!?」

「ああ。俺もあれからちょっと考えたんだけど、お前の代わりに俺が世話すればいいだけの話だし……本当はお前の誕生日に、お前が好きだって言ってた茶色いメインクーンの子猫を木籠に入れて、リボンをかけて、プレゼントしようと思ってたんだけどな……」

「えっ!? そ、そんなに素敵なことを考えてくれていたの……!?」

「おう。喜ぶかと思って、お前が。でも、こいつを飼いたいのならそれでいいよ。また別のを考えるから、プレゼントは」



 えっと、でも、私は春生まれ……。年も明けたばかりなのに、もう考えてくれているんだな……。やっぱり、アレンは優しくて愛情深い人だ。ぎゅっと、子猫を抱えてアレンを見上げる。子猫と同じ、青い瞳が私のことを優しく見つめていた。



「あ、ありがとう……!! アレン、私ね? アレンのそんな優しいところが大好き! これからもよろしくね……」

「いや、別に……感謝されるようなことじゃねぇし。あっ、重たいだろ。持とうか? 荷物」

「えっ、でも」

「猫抱えてたいだろ? とりあえず、動物病院に行くか。俺、あれから調べたんだけど、この近くに遅くまでやってる動物病院があって……」






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