1.揚げたてのドーナッツと空飛ぶ自転車
「わ~、すごい! 綺麗~」
「俺ばっかやってるけど、いいの? お前もするか? 次」
「えっ!? いいの!? でも、難しそうだし……」
「まぁ、見てるだけで満足するタイプだもんな。お前は」
きらきらと輝く水面の上を、青と白の帆船が進んでゆく。ばさりと白い帆が風を受け、アレンの操作によって、カモの群れを避けた。その小さな魔術仕掛けの帆船を見て、白いコートに赤いマフラーを巻いたメイベルが、ほうっと白い息を吐く。
「楽し~……やっぱりその、私もちょっと」
「操作するか? でも簡単だぞ、これ。こっちのボタンを押すと、」
「何イチャついてんだあああああっ、ていっ!!」
「うおっ!? ハリー!? てめぇ、俺とメイベルが川に落ちるところだったじゃねーか! ぶん殴るぞ!?」
後ろから抱きついてきたハリーを見て、紺色のダブルコートを着たアレンが怒鳴る。リモコンが落ちそうになったので、慌てて受け取っていると、黒いロングコートを着たヘンリーがやって来た。
「メイベルちゃん、ごめん。ハリーがうるさくて……」
「大丈夫だよ~。わっ、楽しい……えーっと、もうちょっと近くに来て欲しいんだけどな、船」
「なら、貸してみろ。一度右の方に行ってから、」
「俺もやるっ! 俺もやるぅっ!」
「壊しそうだからやめておこうな、ハリー……」
空は青く透き通っていて、快晴。目の前に広がっている川は雄大で、午前の陽射しを受けて、きらきらと光り輝いていた。こういう景色を見ていたら何だか、海に行きたくなっちゃうな。アレンの説明を聞きつつ、帆船を動かす。すいすいと川の上を進んで、白い帆を揺らしていた。
「わ~……楽し~。あっ、ハリーもやる?」
「やるっ!! 貸して欲しい、リモコン!」
「だから、やめとけって。壊すだろう?」
「これ、メイベルのために作ったやつだから。まぁ、メイベルがいいって言うのなら別に貸しても、」
「うわっ、また作ったんだ……」
「マフラーもそれ、アレンの手作りだもんな。その内、家でも作りそう……」
「だから何で、一気に引くんだよ……」
何故か真顔になっちゃったハリーがリモコンを握り締め、帆船を見つめる。その横に立っているヘンリーも同じ顔をしていた。ど、どうしたんだろう……。
「あのな? 俺がメイベルのことを一番把握してるし、一番色々しているからな?」
「えっ、いや、それは知ってるけどさ……」
「今更何? どうしちゃったの? 頭」
「うるせぇよ、社畜。それなのに、マリエルが張り合ってくるから……」
「あ~、張り合ってる感じね。はいはい……」
「もう別にいいんじゃないか? ボタンを自分で直したこともないくせに、必死に練習して、一ヶ月も前からマフラーを編んで渡してさぁ~……」
「えっ!? そ、そうだったの!? でも、刺繍は……? 得意だって言ってたよね?」
驚いてアレンを振り返ると、きゅっと眉を顰めて、赤いマフラーを持ち上げる。最近、ちょっとだけ分かってきた。照れ隠しなんだ、これ。アレンの。
「あー、クロスステッチだから。滅茶苦茶簡単だし……まぁ、マフラーは難しかったな。あんなもん、ぱぱっと編めるやつの気が知れねぇ。狂人だ、狂人。手先が器用なド変態だ」
「へ、変態……で、でも、ありがとう。苦手なのにその、わざわざ、私のために編んでくれて……」
「まぁな。お前が喜ぶ顔を想像したら、編めた。実際喜んでくれたし。本当、渡して良かった」
「すぐにそうやってまた、二人だけの世界に入る……」
「なぁ、ヘンリー。この川にダイナマイトでもぶち込んで、爆発させようぜ! そうでもなきゃやってられないよ、本当」
「えっ? ど、どうしちゃったの? 二人とも……」
戸惑って二人を見てみると、ふんと鼻を鳴らして笑う。目が遠い……。アレンがそんな二人を見て、嫌そうな顔をした。
「警察に通報するぞ、俺が」
「うるせーよ! このナチュラル甘々製造機が!!」
「どの口が言ってるんだよ、どの口が!」
「この間から当たりが強いの、一体何……? 俺、何かした? お前らに」
「「いつもしてる」」
「揃ったな、見事に。あー、メイベル? こいつら放置して、これで遊ぼうぜ」
「えっ!? なになに!?」
アレンが地面にリュックサックを下ろすと、ヘンリーとハリーがそれを見て、はんと乾いた笑みを浮かべる。
「何を持ってきたんだよ、アレン。また」
「ピクニックセット? ハンモック? とにかく、メイベルちゃんを甘やかすやつが入ってるんだよな? 社畜、知ってる!」
「甘やかすやつって、一体何だよ? 言っておくが、俺の甘やかしはこんなもんじゃないからな……? 普段メイベルにしていることは、甘やかしの内に入らん」
「えっ……こっわ」
「言葉が出てこないよ、もう。何て言ったらいいの、俺ら」
「何も言わなくていいだろ、別に。一度とことん甘やかしてみたいんだが、こいつが嫌がるからな……」
「も、申し訳無くて……!! だ、だって本当にその、アレンの本気がすごくって……!!」
「何? 何があったの? 二人の間でさ……」
「変な方向に進展してて笑う。どんな関係性だよ、一体……」
「どんな関係性……?」
リュックサックから何かを引き摺りだしていたアレンが、ぴたりとその動きを止める。その瞬間、二人の体が揺れ動いた。
「いいからな!? 深く考えなくて!」
「あれだよな!? アレン君はメイベルちゃんを甘やかしたくて、甘やかしたくてしょうがないんだよね!? ねっ!? ねっ!?」
「えっ? いや、だから、甘やかしてなんかいないって……」
「じゃあ、昨日もメイベルちゃんのためにパンナコッタを買ってきて、食べさせて、髪の毛をドライヤーで乾かして、雑誌で見た可愛いヘアアレンジをして、スリッパに滑り止めの魔術をかけて、ハンガーが無いって言ってたら、すぐに魔術で取り寄せていたのは一体何……?」
「ヘンリー、距離が近い。鬱陶しい」
ヘンリーが切羽詰まった表情で、戸惑うアレンの両肩をがっと掴んでいる。ハリーもハリーで、食い入るようにアレンのことを見つめていた。でも、アレンは優しいから、してくれているだけであって……。その問いかけにアレンが「うーん」と低く唸ったあと、首を傾げる。
「して当然のこと? どれもこれも全部、して当たり前のことだろ……他の奴ら、しないし」
「しねぇよ、そんなこと!! 当然だろ!? 頭がおかしいんじゃねぇの? なぁ?」
「メイベルちゃんに優しくすることは、国民全員に義務付けられていることってか? 違うだろ? なぁ?」
「何で責められてんの、俺。義務付けられちゃいないけどさ……でも、少なくとも、シェアハウスに住んでる奴はそうするべきだろ。まぁ、マリエルは論外だけど。自分のしたいことしか、メイベルにしてないからな。あいつ」
「駄目だ、もう手遅れだ……アレンのことは諦めよう。俺達は最善を尽くしたんだ……」
「そうだな、ヘンリー。俺達は最善を尽くしたんだ……」
「何? また訳の分からんことを言いやがって……」
「「それはこっちの台詞だよ!!」
そこでまた、喧嘩が始まってしまった。いつもは温厚なヘンリーも怒って、アレンにげしげしと蹴りを入れ、アレンが怒ってすねを蹴り返し、ハリーが「よっしゃ! 追いかけっこしようぜ、追いかけっこ!」と言い出したからか、三人で笑って走り去ってゆく。
言い合いをしながら、走ってゆく三人を見て、淋しくなってしまった。ぽつんと、置いてきぼりにされた感じがして淋しい……。
深く溜め息を吐いて、リモコンを持ち上げる。私もああやって混ざりたいけど、走るの苦手だしな……。ゆったりと流れてゆく川を見つめ、帆船を動かしつつ、ちらりと、遠くの方にいる三人を見てみる。三人は飛んで走って、マフラーを放り投げて、芝生の上で楽しそうに遊んでいた。ぽかぽかと、春の陽気が漂う冬の川辺にて、三人のはしゃぐ声が響き渡る。
「わ、私も混ざりたいんだけどなぁ~……」
「ん? 行ってきたら?」
「あっ、フレデリックさん。お帰りなさい~」
「ただいま~。メイベルちゃんも飲む? 一応買ってきたんだ。お菓子も。ドーナッツ売ってた」
「ドーナッツ! 食べたい~!」
「どうぞ。揚げたてで熱いから、気をつけて。あとこっちは、ホットワインと林檎ジュース。温かいの。どっちにする?」
「じゃあ、林檎ジュースで……」
紙袋にいっぱい、揚げたてのドーナッツが入っていた。じゃりじゃりとした茶色いお砂糖と、シナモンがかかっている。はふはふしつつ食べてみたら、ほろりと生地が崩れ落ちて、中から甘酸っぱいレーズンと胡桃が転がり落ちてきた。温かくて美味しい、寒い川辺で食べるドーナッツ、最高……。
「おっ、おいし~……ありがとうございます。あっ、三人の分も」
「ここから声、届くかな?」
「どうでしょう……」
シナモンスティックが入った、温かい林檎ジュースを啜ってみる。甘酸っぱくて、胃に染みるような美味しさだった。晴れ渡る青空の下で、冷たい風がびゅうびゅうと吹く。そんな中で、フレデリックが「おーい! 飯があるぞー!」と声を張り上げると、それまでじゃれ合っていた三人がぴたりと立ち止まり、こちらを振り返る。そして顔を見合わせてから、一目散に駆け寄ってきた。
「飯ーっ! 飯って何!? ただいま、メイベルちゃん!」
「おかえり、ハリー。ご飯じゃなくてドーナッツだよ。美味しいよ~」
「わ~、うまそう! ちょーだい、ちょーだい!」
「フレデリックさん、俺にも~」
「俺の分は!? あるよな!?」
「お前ら全員、くださいの一言も言えないのか?」
「「「ください!」」」
三人が手を差し出しているのを見て、フレデリックが「やれやれ」と言って笑う。おかしくて、私もついつい笑ってしまった。
「まったく。こんな時だけは聞き分けが良いな……ほい、喧嘩せずに食えよ?」
「ありがとう!」
「ありがとうございます!」
「メイベル、お前は? あと何個食べる?」
「一個でいいよ、大丈夫~」
太っちゃうかもしれないし。最後の一口を放り投げて食べていると、アレンがすっと、無言でドーナッツを渡してくれる。戸惑って見上げてみると、両手にドーナッツを持って、じっと見下ろしてきた。も、もしかして、それ全部私の……?
「あの、アレン? 私、太っちゃうかもしれないし」
「あのな? お前は全然太ってないから。好きなだけ食え、とりあえずそれを食え。いいな?」
「アレン、どうした……?」
「限界なの? 何?」
「とにかく構いたくて、構いたくて仕方が無いんだな……」
「いいや、構いたいと言うか……あっ、そうだ。食ったあと、これしような。こう、バーを掴んで空を飛ぶやつ。翼の形になっていて、お前が好きそうな青い翼を貰ってきたから、」
「やった! する! ありがとう、アレン! 私ね、アレンに色々こうやってして貰うのはその、有難いんだけど……」
私が戸惑って見上げていると、三人がひそひそと何かを囁き合う。
「とうとう来たか、メイベルちゃんの拒絶が……」
「いや、あれは違うだろ。拒絶じゃないだろ」
「滅んでしまえばいい、カップルは全員。もちろん、妙齢の男女も全員」
「ハリー、それはちょっと違うんじゃないか……?」
「それを言うなら、甘酸っぱい雰囲気を漂わせている、カップル未満の男女は滅びてしまえっていう、」
「うるせぇよ、お前ら! どっか言ってろ、メイベルの話を遮るなよ!?」
「えっ、えーっと、それで」
伝えておかなくちゃ、ちゃんと。ひとまず林檎ジュースを飲んで、心を落ち着かせていると、アレンが眉を顰めて、ドーナッツをもそもそと食べ始める。でも、これも多分、照れ隠しなんじゃないのかな……?
「嬉しいんだけど、その。私、アレンがさっきみたいに、どっかに行って、置いてきぼりにされるのが淋しくて……だから、その、何もしなくていいの。私の傍にいてくれる?」
「ストーップ!! 駄目だ、メイベルちゃん! それは! ほらっ、みんなで輪になって踊ろう!? さぁっ! アレンも一緒に楽しく!!」
「何でだよ!? ハリー、やめろって! 俺の手を握るなって、鬱陶しい!!」
「メイベルちゃん、やめよっか。それ! やめよっか! それ! でも、ごめんね!? 置いてきぼりにしちゃってさ!?」
「えっ? ヘンリー、一体どうしたの……?」
無理矢理アレンの手を握って、ハリーが芝生の方へと引き摺ってゆく。アレンがずるずると引き摺られながらも、「おい! やめろ! 放せって、このクソクソ社畜が!」と言って怒る。だ、大丈夫かな……。呆然と見ていると、ヘンリーが両肩を掴んで揺さぶってきた。
「あれ!? 実はメイベルちゃんも悪女とか!? さらっと自然に男を口説き落としてものにしてる的な!?」
「えっ? 何? 口説き……?」
「いやいや、落ち着けって。ヘンリー。戸惑ってるし、メイベルちゃん」
「で、でも……!! あんなのされたら、アレンも落ちちゃうじゃないですか!! 危険ですよ、危険!」
「じゃあ、ここは俺に任せてお前は」
「あっ、すみません。弟君の件以降、俺はフレデリックさんを信用しないことにしているんで……」
「えっ? 何かしたっけ? 俺」
よく分からないけど、何かが駄目だったみたい。アレンが怒ってハリーの胸倉を掴んでたけど、すぐにはっと我に返って私を見て、手を放した。それから、溜め息を吐きつつ、私の方へやって来る。
「あー、ごめんな。メイベル。その、お前を置いてはしゃいでて……」
「ううん、大丈夫。えーっと、その、ちょっとだけ淋しかったけど……」
「そうだよな? ごめん。俺が悪かったよ、本当に……」
「よし、川に突き落とそう。川に突き落として治療するしかない、二人とも」
「すぐにそうやって、二人だけの世界に入る……」
「カップル感しかないよな、二人とも! いっそ付き合っちゃえば? もう」
「「フレデリックさぁん!?」」
驚愕の顔をしたハリーとヘンリーが慌てて、フレデリックの胸倉を掴む。二人に揺らされつつ、楽しそうに笑って「ごっめん、俺、その場の雰囲気をぶち壊しにするのが好きなんだよねー! そのあと、みんなに責められるまでがセット! 楽し~!」と言い放った。その発言に頭が真っ白になって、アレンを見上げてみると、深い溜め息を吐くだけで。
「そんなんじゃないって言ってるのに、学習しないな。お前らは本当に……」
「でもさ? メイベルちゃんも何か、照れ臭そうだし! もうアレンのことが好きなんじゃないかって、ぐふぅ!?」
「駄目だった。真の敵は身内にあり……」
「まずはこの、実は頭がおかしいフレデリックさんを、先に黙らせておくべきだったか……」
ハリーにいきなり、どっと鳩尾を殴られて膝を突く。だ、大丈夫かな!? 声をかけようとしたら、嬉しそうな顔をしつつ、お腹を押さえて見上げてきた。
「ほ、ほら? 二人とも、君達がカップルになるのが怖くて仕方が無くて、おわ!?」
「排除あるのみ、せいっ!!」
「黙れよ、一旦! 黙れ!」
「ヤンキー二人がおっさんに暴行加えているようにしか見えないぞ、それ。大丈夫か?」
「手加減はしているから、大丈夫だ……」
「ま、まぁ、俺も悪気百パーセントだったしそれに、二人が付き合ってから、」
「よし! 二人はここから離れるといいよ! 俺達はフレデリックさんと、楽しくお喋りしてるからさ!?」
「飛んできたら!? それ使って飛んできたら!?」
「へいへい、分かった、分かった……」
「あっ、うん……遊んでくるね」
アレンと一緒にそこから離れて、パラグライダーにちょっとだけ似ている、魔術仕掛けのカイトを取り出す。青い両翼の下には、一本のバーが付いていた。それを持って頭の上に掲げて、芝生の上を全力で走ってから、地面をとっと蹴ってみると、体がふわりと宙に浮く。地面から足が離れ、冷たい風が吹き渡った。
「わっ、わ~! 飛んでる~! すごい! 楽しい~!」
「あっ、これ。ぐっと押してみろ、ぐっと」
「えっ? な、何を?」
「えーっと、バーを強く握り締めてみろ、メイベル」
「こうかな? わっ!」
ぼんっと青い翼が一回り大きくなって、足の裏にペダルのようなものが現れた。普通のカイトはちょっと浮いてから地面に降りて、また走って、浮いての繰り返しで遊ぶものなんだけど。呆気に取られていると、サドルまで現れる。すとんと座ってみると、いつの間にか、空飛ぶ自転車のようになっていた。
えーっと、多分、これはカイトじゃない……。突然現れたハンドルを握り締めていると、「よっ」と呟いて、アレンが後ろに腰かける。
「う、後ろにもあるの!? これ」
「俺の叔父さんが開発したやつなんだけどさ、これ。試作品って言ってくれたんだよ。どうだ? すごいだろ? お前が好きそうだなと思って!」
「す、好き! ありがとう、アレン! あっ、じゃあ、これで二人で漕いで空を飛べるんだよね!? ねっ!?」
「おう。俺が漕ぐから景色見てていいぞ。これはカイトにもなるやつで、最終的には二人乗りの空飛ぶ自転車になるんだ」
「わ~、すごい! ありがとう、嬉しい! 何よりも、アレンと一緒に遊べるのが楽しいかな! 私」
「まぁ、喜んでくれて良かった……」
両足でペダルを漕いで、真っ直ぐ空を飛ぶ。眼下には芝生と川と、美しいリオルネの街並みが広がっていた。冷たい風が吹いて、コートの隙間から入り込んでくるけど。でも、大丈夫だ。ハンドルを握り締めて、後ろのアレンに話しかける。
「嬉しい~……楽しい! アレン、ありがとう! マフラーも編んでくれて! おかげで寒くないよ~。大事にするね、一生」
「いや、まぁ、適当に使い古したあと、雑巾にでも何でもしてくれたら、」
「しないよ!? 雑巾になんて絶対! せっかくアレンが私のことを考えて、編んでくれたものなのに……」
「あっ、ふーん……まぁ、お前の好きにしたらいいんじゃねぇの?」
「私もアレンにお返しに、何かしたいなー! 何がいいかな~」
「いやぁ、別に何もいらないし。お前がまた明日も、呑気に笑っていてくれたらそれで」
「ふふふ、アレンの照れ屋さーんっ」
「えっ? 何でそうなるんだよ、メイベル」
アレンが後ろで笑って、ペダルを漕ぐ。目の前には、青空と白い雲が広がっていた。た、楽しい! 青い翼も可愛いし、冷たい風も心地良いし。あっ、でも。
「アレンがいてくれるから、楽しいんだよね。今。さっきは淋しかった~」
「ご、ごめん。もう二度と離れないようにするから……」
「えっ? 大丈夫だよ。そこまでしなくっても。でも、そうだなぁ。いてくれたら、すっごく嬉しいかな!」
笑って振り返ってみると、アレンが何故か焦って頷き、「分かった! いるようにする!!」と言ってくれる。嬉しくなってそのまま歌を歌っていると、アレンも小声で歌ってくれる。可愛い、ひっそりと合わせてくれてる。
「は~、楽し~。でも、そろそろ帰ろっか! 三人も心配してるかもしれないし……」
「えっ? いいだろ、別に放っておけば。まだこうしていたいし、俺」
「じゃあ、もうちょっとだけ飛ぼうか! えーっと、市街地は避けて川の上で……わ~、綺麗~! あっ、鳩だ! 鳩! 近い!」
「だな、近いな」




