29.みんなで雪遊びと楽しい記憶の積み重ね
雪だ、雪が降っている。大粒でふわふわとしていて、静かに舞い降りて、寂しい冬の庭に降り積もってゆく。その光景を、リビングの窓から見てほうっと息を吐く。
どうして、見ているだけでこんなにも胸が弾むんだろう。昔に、ウィルと一緒にプレゼントを抱えて、家に帰った時のこと。お母さんが作ってくれた温かいコーンクリームスープに、チキンの皮が焼ける香ばしい匂い。暖炉の前に座って、ウィルと一緒に濡れてしまった靴下を脱いで、ぐーんと足を伸ばし、笑い合いながら、足先を温めていた時のことを思い出す。
こうやって白い雪がそっと、記憶の扉を叩いてくれるからかもしれない。ひらひらと、白い雪が舞う度に、幸せな記憶が蘇ってくる。ああ、好き。冬が好き。赤いニットに焦げ茶色のスカートを履いたメイベルが、ぴたっと、窓ガラスに張り付いたまま、背後のアレン達に話しかける。
「雪! 雪遊びしようよ、ねぇ!」
「大丈夫か? 風邪引かないか? 最近ちょっと出かけすぎだし、」
「大丈夫だろ、アレン……いいから、その珈琲飲み干せって」
振り返ってみると、黒いニット姿のアレンが珈琲を飲んでいた。もう年末だし、お仕事は無いみたい。深緑色のカーディガンを着たヘンリーがそれを見て、顔を顰め、「あー、さむ」と呟いてマグカップを持ち直す。
「雪遊びか~……ん~、俺は遠慮しておこうかなぁ」
「俺は遊ぶ! 俺は遊ぶ!!」
「もうお前は遊んでるだろ、ハリー。何でカーテンに包まってんだよ」
「いや、寒いから……? でもここ、何となく落ち着く」
「ねぇ、じゃあ、ハリー。一緒に雪遊びしない? アレンもヘンリーも乗り気じゃないみたいだし、」
「何も行かないとは言ってないだろ? ハリーが行くのなら俺も行く。何か事故りそうで怖い」
「アレンが行くのなら俺も行く!! ここで一人、紅茶を飲んでたって仕方ない……」
アレンが椅子から立ち上がると、それと同時にヘンリーも立ち上がる。やった! みんなで遊べるんだ。楽しみ。
「あら? じゃあ、私もたまには童心に帰って、雪遊びでもしてみようかしら?」
「マリエルさん! おはようございます!」
その時、リビングのドアを開いて、マリエルが入ってきた。これからお出かけするところなのか、白いニットワンピースを着て、金髪を綺麗に纏めている。私を見てにっこりと笑い、青い瞳を細めた。
「メイベルちゃん、雪遊びしましょ。私と一緒に」
「します! やったー!!」
「あたしもいるよ、しよう……」
「シェラ! 楽しそう~」
「よっしゃ! マリエルさんがいるのならソリ持ってこよう、ソリ!」
「落ち着けって、ハリー……持っていないだろ? ソリなんて」
「そうだっけ? 忘れた……部屋の隅にあったような気がするんだけどなぁ」
「メイベルがいるのならそうだな。俺も色々と準備をしなくっちゃな……」
「怖いの一言に尽きるよ、それ。アレン。たかだか庭に出るだけなのに、一体何を準備する気なんだよ……」
せっかくハリーから貰ったんだし、獣人なりきりセットの、犬耳カチューシャと尻尾でも付けてみようかな? 白いダッフルコートの上から、その尻尾を付けてみる。魔術で、服の上からでもぴたっとくっつくらしい。タグにはチワワの尻尾と耳です、これであなたも世界最小の犬に! と書かれていた。確かに茶色いチワワの耳と尻尾だし、ふわふわしてる!
「わ~……変じゃないかな? あっ、動く! すごい!!」
装着した人の感情に合わせて、尻尾も耳も揺れ動くって、そう書いてあったけど。雑貨屋さんで一目惚れして買ったアンティーク調の鏡の前で、くるりと回って、お尻の方を見てみる。すると、チワワのふわふわとした尻尾が、ぶんぶんと激しく振られていた。
「わっ、わ~……恥ずかしい! 私の感情が丸分かりだ~……」
慌てて前を向いてみると、茶色い耳がへんなりと下がって、元気を無くしている。あっ、そっか! 耳もちゃんとこうやって動くんだ! 驚いていると、耳がぴんと前を向いて立つ。おお、すごい……楽しい。
「あっ、ど、どうしよう。アレン、何て言うかな……呆れられちゃうかな?」
嫌だな、それは。渋い顔つきで「二十五歳にもなって何をしているんだ、お前は」って言われたらどうしよう……。びくびくと怯えつつ、部屋のドアを開ける。でも、大丈夫。マリエルさんやシェラはきっと、「可愛いわね」って言って褒めてくれるだろうから……。
「あっ、メイベル。これ、防寒対策で、」
「わっ、アレン!? いたの!?」
「いたよ。てか、お前を待ってたんだよ。あっ、マフラーは? 何で付けてない? 寒いぞ、外」
「あっ、えーっと、動くと暑くなってくるからなのと、せっかくアレンに貰ったものだし、大事にしたいなぁって。ほら、あんまり使うと痛んじゃうでしょ? カシミヤの素敵なマフラー……」
「……まぁ、それならいいけど。別に」
駄目だったかな。アレンが真顔になってる。そんなアレンは紺色のダッフルコートを着て、赤いマフラーを巻いていた。色合いがテディベアみたいで可愛い。
「あっ、ボタン。掛け違えてるぞ、それ」
「あっ!? 本当だ、気が付かなかった……」
アレンがさっと近付いてきてくれて、ボタンを直してくれる。でも、一人で出来るんだけどな……。多分言っても無駄だし、それに、アレンの可愛い妹大作戦を忘れないようにしないと……!! フレデリックさんもノアも、ヘンリーも「可愛い妹を目指すべき!」って、そう言ってたし。それまで神妙にボタンを直していたアレンが、じっと私のことを見てくる。
「えっ? 何? あっ、そうだ。みんなもう、庭に出ているんじゃ……」
「寝不足か? メイベル。目がちょっと赤いぞ、お前」
「あ~……昨日、その。遅くまで本を読んでいたから、それでかな?」
「ならいいけど、別に。ほい、終わった。そんじゃあ、行くか」
「あっ、うん! 行こう、行こう!」
ぶんぶんと尻尾を振り回していると、そこでアレンがようやく気が付いてくれたのか、呆然と青い瞳を瞠る。
「お前……それ」
「えっ!? えーっとその、普段はこれ付けて出かけられないから、だからせめて、お家の中でと思って、」
「捨てちまえ、そんなの! 日常使いできねぇもんをあいつ、わざわざメイベルに渡しやがって……」
「す、捨てたりしないよ!? せっかく貰ったものだし!」
「あっ、面白い。耳がびゃって、後ろになってる。すごいな、これ。魔術仕掛けのカチューシャか?」
「あっ、そうそう。これね? 何かね、付けた人の感情に合わせて動くんだって……あ、あれかな……? どう? 似合ってるかな……?」
犬耳に触りながらアレンを見上げ、聞いてみる。どうしよう? ちょっとだけ怖い。アレンがぱっと、無表情になる。ど、どうしちゃったんだろう? こんな真顔で無表情のアレン、初めて見た……。
「……いや、似合っているんじゃないか? あっ、そうだ。防寒グッズ。持っとけ、これ」
「ありがとう~。いいの?」
「おう。俺も同じの持ってるし。効果は二時間な? 持っている間中、体がぽかぽか温かいから。ポケットにでも突っ込んどけ」
「うん、そうするね~……わっ、可愛い。野薔薇と小鳥ちゃん柄だ……!!」
「お前、最近、カラフルな鳥柄にはまっているもんなー。この前も買ってただろ? 小鳥柄のペンケース」
「うん! 今ね~、パステルカラーの小鳥ちゃん柄にはまってるんだ。綺麗なペールグリーンとか、淡いピンク色とかブルーとか! 冬はシックな色が多いんだけど、その分だけその、可愛いパステルカラーが見たいなぁって。最近、そう思うようになってきて」
「へー……そっか。なるほどな」
一階に降りて玄関ドアを開けると、白い雪景色が飛び込んできた。眩しい。冬の陽射しがきらきらと、こちらの顔や髪を眩しく照らしてくる。鼻先がつんと冷たくなってしまうような寒気に、清涼な冬の風。吸い込むと、胸がわくわくと弾む。玄関ドアをきちんと閉めて、アレンと一緒に滑らないよう、おそるおそるタイルの上を歩いてみる。どうしよう、もう、これだけで楽しいかも!
「わ~……楽しいね、アレン! 庭が綺麗、陽射しがきらきらしてる……」
「だな。しまったな……お前、サングラス必要だったか?」
「へっ? う、うん。そりゃ、あれば眩しくないんだろうけど……」
「あー、しまったな。流石にそこまで気が回らなかった……今度、買ってくるか」
「えっ!? いいよ、別に! 自分で買ってくるから、」
「おーい! アレン~、メイベルちゃん~」
「ヘンリー! おーい!」
木々が並び立つ小道の向こうに、赤いダウンジャケットを着たヘンリーが立って、ぶんぶんとこちらに手を振っていた。雪柄の黒いニット帽も被っている。しゃくしゃくと、アレンと一緒に雪を踏みしめて歩けば、笑顔で「みんなはあっちにいるよ~。あの辺はまだ、雪がしっかり残っていて」と教えてくれる。
「へー、楽しみ! マリエルさんもいる?」
「いるよ~。あれ? それって、ハリーがあげてたカチューシャ? よく似合ってるよ、メイベルちゃん」
「ありがとう、褒めてくれて! ヘンリーもそのニット帽、よく似合ってるよ~」
「へっ? そう? ありがとう」
「えっ……俺は?」
「へっ!? あっ、ああ、そうだ。お揃いだよね、コートが! あと紺色と赤の組み合わせがその、可愛いなって!」
「どうしたんだよ、アレン。いきなり拗ねちゃって」
「いや、疎外感がな。気になって……大体お前、優勝者だしな」
「あっ、まだ根に持ってたんだ……祝祭の時のこと」
でも、アレンが優勝者だってちゃんと伝えたんだけどな……。不貞腐れて、ポケットに両手を突っ込んでいるアレンを見上げ、口を開きかけたその時。
「おーい、こっちこっち! 今から雪でデスゲームをしようぜ!!」
「何を言ってるんだ、お前は! この変態社畜が!」
「何でいきなり機嫌が悪いの……? あっ、メイベルちゃん? 付けてくれたんだ!? 可愛い、良かった! ワニにしなくって!」
「ワニもあったんだ!?」
「いや、そこは犬耳一択だろ。メイベルの雰囲気によく合ってる」
「えっ!? あ、ありがとう……」
思わずアレンを振り返ると、アレンが珍しく満面の笑みを浮かべた。わっ、すごい。そんな風に笑えるんだ。ぽかんと口を開けて見ていたら、どしゃっと、アレンの顔に雪がぶつかる。
「いってぇな! 一体誰だよ!?」
「俺でしたあああああっ! イチャつくんじゃねーよ、この邪悪なカップルどもめ!! そういうことがしたいんだったら、即刻退去するんだな! 身も心もがりっがりに削って、働いてる俺に悪いとは思わないのか!? なぁ!? 残酷なカップルどもめ、俺に何て惨いことを!!」
「あ!? イチャついてないし、別に!! 雰囲気に合ってるって言っただけじゃん、雪原に沈めてやらああああっ!!」
「来いよ、バーカバーカ! お前ごときに何か、沈められましぇーんっ! へっへーん!」
「言ったな!? 顔面から沈めてやるよ、そこがお前の墓だ!!」
怒り狂ったアレンが雪の上を走って行って、黒いダウンを着たハリーが「へへーんっ! お尻ぺんぺーんっ」と言って舌を出したあと、全力で走って逃げてゆく。隣のヘンリーが「あーあ、あいつら。本当、騒がしいな……」と言って苦笑いをする。
「ふふ、アレンもハリーも本当に仲良しだよね……」
「メイベルちゃーん? 一緒に遊びましょ、こっちに来てー」
「こっち、こっちー」
「あっ……メイベル、可愛い……」
見てみると、笑顔で手を振っているマリエルと、足元でせっせとボールを作っているシェヘラザードがいた。その横には、青いダウンを着たダニエルが座り込んでいる。ヘンリーと二人で手を振り返したあと、雪をざくざくと踏みしめて、そちらへと向かう。辿り着くと、白いロングコートを着たマリエルが鼻先を赤くしつつ、笑ってくれた。
「似合ってるわ、それ。可愛い~」
「あっ、ありがとうございます……!! マリエルさんも白くて素敵ですね! コート! すごく似合ってる……」
「ありがとう、メイベルちゃん。今ね? ダニエルさんとシェラとで、雪のボールを作ってるの。投げ合って遊んでみない?」
「いいですね! 私も作ります!」
「えっ? ちょ、誰がマリエルさんにぶつけられるんですか……?」
私が頷くと、ヘンリーが不安そうな顔で戸惑って、マリエルを見つめる。
「そう心配しなくってもヘンリー、アレン辺りが全力で私にぶつけてくるわよ。まぁ、私も私で、全力でやり返すんだけどね?」
「でしょうとも、マリエルさん……」
「あっ、めい、メイベル。ありがとう、手伝ってくれて……」
「いいえ~。楽しいですよね、こういうの!」
うろたえるダニエルの横に座り込んで、雪を集めてボールを作る。ぎゅっぎゅっと、紺色の手袋をはめた手で握ってみると、あっという間に固まっていった。楽しい……。
「メイベル。こっち、雪を全部バケツに集めてきたから……」
「わ~、すごい! えっ? でも、シェラ? それで今から何を作るの?」
「頑張ってあたし、お城でも作ってみようかと思って……」
「わ~、いいですねぇ。じゃあ、私はダニエルさんと一緒にボールを作りますね~」
「それじゃあ、私はぐーすか寝てるフレデリックを起こしてくるわ。うるさいでしょ? 何で起こしてくれなかったんだって言って、起きた時に騒ぐだろうから」
「あっ、じゃあ、俺はアレンとハリーを探してこようかな……何か、遠くの方からコケコッコーって聞こえてくるし」
「あれかな? 楽しくてはしゃいじゃってるのかな……」
「うん……まぁ、だろうね」
二人がいなくなったあと、よく晴れた青空の下で、せっせと雪を固めてボールを作る。冬の木々を照らしている陽射しと、囀っている野鳥の賑やかさが心地良い。のんびりとボールを整えていたら、ふいに、隣のダニエルが話しかけてきた。シェヘラザードは真剣な顔でヘラを握って、黙々と、雪のお城を作っている。
「あ、あの、メイベル……?」
「はい? どうかしましたか? ダニエルさん」
「その、楽しいんだね……ずっと、尻尾がぶんぶん回ってるから……」
「わっ、わ~……恥ずかしい! ど、どうしよう? もう外しちゃおうかな!?」
「えっ……もったいない。ええっと、その、マリエルも喜ぶし、癒されると思う……」
「そ、そうですかね……? わ~、本当だ。尻尾が回ってる……恥ずかしい」
照れ臭くて両手で顔を押さえていると、黒縁眼鏡の向こうにある青い瞳を細めて、笑ってくれた。良かった、痛いやつだと思われなかった……。
「何か、お腹減ってきたね……」
「あっ、そうですね。もうすぐお昼ご飯の時間だし……どうします? みんなでこのあと、一緒にご飯でも食べに行きますか?」
「いや……昨日のトマトスープも残ってるし。俺はバケット焼いて、チーズとアンチョビでも乗せて食べようかなぁって、そう……」
「わ~、いいですね! 美味しそう……」
「あと、その、苺ジュースも買ってきたから。いつでもいいんだけど、飲もうかなって。その、メイベルと……」
「苺ジュース! 飲みます! 美味しそう~」
ダニエルと二人で喋っていると、ようやく不貞腐れた顔のアレンとハリー、くたびれた顔のヘンリーがやって来た。そしてその向こうから、しっかり黒のダウンを着込んで、期待に目をきらきらと輝かせている、フレデリックがやって来る。
「よっしゃ! しようぜ、雪遊び!」
「しようぜ、雪遊び! いぇーい!!」
「おい、ヘンリー。ハリーとフレデリックが揃うと最悪なんだが……?」
「まぁ、この二人、仲が良いからね……」
わーいとはしゃいで、両腕を上げている二人を見て、アレンが嫌そうな顔をする。微笑ましいのに、一体どうしてだろう。でも、それよりも! さっき作った雪のボールを持ち上げて、ぎゅっと握り締めてみた。
「ねぇ? ほらっ、アレン? ぶつけ合って遊んでみようよ!」
「えっ? いや、危ないし……」
「何が? じゃあまぁ、アレンが投げないのなら俺が……」
「わっ!? ふふ、楽しい!」
ヘンリーがぽんと軽く、私の顔にぶつけてくれた。笑って雪を払い落としていると、アレンが怒って、凄まじい勢いでヘンリーに雪を投げ付ける。
「ってめぇ! もっと他にあるだろ、ぶつけるところ!!」
「うわぁ!? 痛い!! メイベルちゃんにぶつけると、倍になって返ってくるんだけど!? 痛いって、アレン!」
「マリエルさん、ぶつけてください! 俺の顔に!! ぶっ!?」
「いちいちうるさいんだよ、お前は! 俺がぶつけてやらぁ!」
「ちくしょう! いらないんだって、男からのは!! 何度もそう言ってじゃん、いじめかよ!?」
怒ったハリーが、アレンにぽんぽんと雪を投げ付けて、アレンが「どっちに飛ばしてんだよ、お前は!? 下手くそか!!」と叫んで、綺麗に投げ返してゆく。笑って眺めていると、ダニエルがぽすんと、遠慮がちに投げてきたので、お返しに、腕の辺りに投げ付けてみる。
「わっ……ありがとう、メイベル……」
「た、楽し~! 雪、楽しい~! もっと降って雪、積もらないかな!?」
「良かったわね、メイベルちゃん。尻尾が可愛い~、ぶんぶん回ってる~」
「本当可愛いですよね、メイベルちゃんの尻尾」
「な、可愛いよな」
「フレデリック? 何か嫌だから、同意しないでくれる?」
「何で!? 理不尽過ぎない!?」
「ま、まぁまぁ……」
ざくざくと雪を踏みしめて、アレンの下に行ってみる。ちょうど、「冷たいぃ~!」と騒いでいるハリーの頭に、雪をばっさばっさとかけているところだった。
「アレン~……わ~、それって」
「おう、メイベル。気にすんな。これは去年も一昨年もしてたから」
「してたね……さぶっ。遊ぶ? 投げ合いっこする?」
「する! 二人を見てるとね、何だか羨ましくなってきちゃって……」
「えっ」
「じゃあ、思いっきり俺が、アレンにぶつける感じでメイベルちゃんにも、」
「おい、やめろ! その腕の動き、ガチだろ!? 俺がやるから、俺が!!」
「か、過保護~。大げさパパ~」
「うるせぇよ……大体な、こういうのはちょっとでいいんだよ、ちょっとでな」
アレンが足元の雪を適当に集めて丸め、ぽんと、私の前に放り投げる。それを見たハリーが顔を顰め、「いや、当たってないじゃん……そこは地面って言うんだよ? 知ってる? アレン」とぼやいた。た、確かにこれはちょっと、私もつまらないかも……。
「アレン? もっとこう、ほら! 思いっきりぶつける感じでいいんだよ……?」
「え? えーっとじゃあ、こうか……? 難しいな、これ」
「いや、すねだって。そこは。何? 今のへなちょこボール! 俺の時は思いっきり首を狙って、投げて付けてきたくせに」
ぼしゅんと、私のすねに当たって崩れ落ちてゆく。じっとアレンを見てみると、アレンが戸惑って「わ、分かったよ……こうか?」と言って、私の手元にぽんと投げてくれた。
「わっ!? わわっ」
「ナイスキャッチ! やるな」
「いや、だから、また何を過重労働人間の前でイチャついてんの!? 酷くない!? 虐待だろ、もう! それは! それにメイベルちゃんが望んでいるぶつけ合いってのは、こうだよ! お前のはただのキャッチボールだよ!!」
「ほぶっ!?」
「てめぇ!! 何で思いっきりメイベルの顔にぶつけたんだよ!? 目に泥でも入ったらどうするんだ、このクソ社畜が!!」
「うわあああああ!? 滅茶苦茶返ってくるじゃん、こっわ!! こっわ!」
そのあと、三人で雪を投げ合って遊んでいると、見事な雪のお城を作り終えたシェヘラザードがやって来た。目を輝かせて見て欲しいと言うので、ヘンリー達も連れて見に行ったら、確かに、素敵な雪のお城がそびえ立っている。
「わっ、わ~……すごい! 一体どうやって作ったの?」
「一生懸命作ると出来る、城」
「あっ、ヘンリーが震え出したぞ……」
「まさか、こんなのも駄目なのか……?」
「貴族なんて、貴族なんて……!! 人間が生み出した、最も醜悪で忌まわしい人種なんだああああああっ!! そぉいっ!」
「「うわあああああ!?」」
「せっかく作ったのに!」
「えっ!? えっ!?」
「あーあ、まったくもう……」
お城を壊されてしまい、怒ったシェヘラザードが次から次へと、凄まじい勢いでヘンリーに雪をぶつけ、ヘンリーがそれを腕で防ぎながらも、「だって! シェラさんがそんな、悪の象徴を作ったりするから悪いんだろ!?」と言って騒ぎ出す。楽しいのかマリエルが笑って、足元のボールを持ち上げ、フレデリックとハリーを見つめた。
「誰か、私にも投げ付けてくれない? 遊びたくなってきちゃった。混ざりたいわ、私も」
「えっ……」
「分かりました。それじゃあマリエルさんが俺の爪先を踏んで、百回雪をぶつけてくれたあと、俺のことを椅子にしてくれたら、一回投げ付けます。それでどうですか? 譲れない条件なんですが、これは」
「メイベルちゃん、お願い出来る?」
「諦めるの早っ……ハリー、俺が投げ付けてやろうか?」
「いや、だから、それは意味が無いやつなんだって……たまの休みにぐらい、マリエルさんに踏んで欲しいんだけどな」
「休みの日ぐらい、誰のことも踏まずに過ごしたいんだけど?」
「ま、マリエルさん! ほらっ」
「わっ!?」
なるべく顔にぶつけないよう、気を付けていたのに、雪が顔にべしゃっと当たってしまった。「わー!? ごめんなさい!」と謝ると、楽しそうに笑ってから雪を掴み、ボールを作って、思いっきりフレデリックの顔にぶつける。「何で俺!?」と叫ぶフレデリックを見て、ハリーが「マリエルさぁん!? 酷い! 俺以外の男にそんなことをするだなんて!」と悲しげな声で叫ぶ。
「もう、うるさいわね。分かったわよ、はい!」
「ぶふ!? ありがとうございます! ワンモア!!」
「図々しいな、お前」
「ダニエルさーん? ダニエルさんもほらっ」
「わっ……ええっとじゃあ、お返しに……」
ぼすんと、顔に雪がぶつかる。払い落としながら、ダニエルと笑い合っていると、どこからか急に雪が飛んできて、ダニエルの横顔にぶつかった。見てみると、アレンだった。ヘンリーとシェラをなだめていた筈なんだけど……。
「おい、てめえ……ダニエル。倍にして返してやるからな、お前」
「えっ……」
「あ、あの、アレン!? ほらっ」
「ぶっ!?」
アレンが何故か怒っていたので、試しに顔にぶつけてみる。アレンが悪戯っぽく笑って「やったな、お前!」と言ってきたので、わくわくして待っていると、ぽしゅんと、足元の地面に投げてきた。あれっ? 想像してたのとちょっとだけ違った……。
「おいおい、アレン……何だよ、それ。お前。そのしょっぼい投げ方は。てか、当たってないし! メイベルちゃんにさ!」
「いやぁ~……ヘンリー。お前になら、容赦なく投げ付けれるんだけどな? こんな風によ!!」
「いったぁ!? 雪の固さじゃないって、これ!!」
「アレンは……メイベルにだけいっつも優しいね……」
「へっ? そうですか? で、でも、それはそうかもしれない……!!」
つい嬉しくなって、尻尾をぶんぶんと振り回していると、ダニエルが両手で顔を覆った。不思議に思って見上げていると、そっと震える片手を伸ばして、私の頭を撫でてくれる。嬉しい、楽しい!
「は~……こんな日々がずっと続かないかな」
「続くといいね……でも、きっと続くよ。来年はどんな年になるかな……」
「あっ、それもそうですね? そっか。もうすぐ年が明けますね……」
年が明けてもきっと、まだこの家にみんなはいて。そんなことを考えて、深く息を吸い込んだ。清涼で冷たい空気が肺を満たして、体を元気にしてくれる。
「よし! もうちょっとだけ遊ぼう! アレンー? ヘンリー? 私も混ぜて~」
「来るなって、お前は! 風邪でも引いたら、一体どうするんだよ……」
「今更?」
「さっきからそわそわしているんだよな、アレンは。どーせ、夕飯にはメイベルちゃんの好きなコーンクリームスープでも出てくるんだろうよ。けっ」
「何か文句でもあるのか? 社畜。そう心配しなくっても、お前のスープにはハバネロを入れてやらああああっ!!」
「いった!? またアレンが俺のことをいじめるううううっ! そおいっ!」
「っわ! はは! 楽し~……」
「何で今、メイベルにぶつけたんだよ!? 許さん! 絶対に許さん!! このクソクソ社畜が!!」




