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優しい彼女と変人だらけのシェアハウス  作者: 桐城シロウ
第一章 秋に出会って、冬を越す
30/134

26.栄光の冠を手にするのは

 



 ああ、どうしよう。わくわくしてしまう。赤いリボンをかけておいた、茶色い袋を持って、そわそわしていたら、部屋から戻ってきたアレンが呆れた顔をする。



「何だ? その妙な動きは……それで隠してるつもりかよ、メイベル」

「あっ、えー、えーっと、これはアレンへのやつで……どうしよう? いつ渡せばいいのかな?」

「とりあえず、マリエルさん達が戻ってきてからだな~……アレン、多くない? それ」



 沢山の白い箱を抱えたヘンリーが、アレンの持っている可愛い金と花柄の箱を見て、眉を顰める。すごい、アレンも気合いが入ってる。誰に何を渡すんだろう、気になるなぁ。



「……絞り切れなくてだな。四つにした」

「あー。やっぱり全部、メイベルちゃんへのプレゼントか……」

「えっ!? わた、私へ!? 四つも!?」

「よく分かったな、ヘンリー。こんだけあるのに」

「だって見てみろよ、あれ」



 箱を抱えたまま、ヘンリーがソファーの方を見つめる。そこには無機質な、灰色の箱がテーブルの上に積まれていた。その向こうには、落ち込んでいるフレデリックがいて、ダニエルが励ましている。うっ、そっちも気になるけど、でも……。



「あれが他のみんなへのプレゼントだろ? 灰色じゃん。で? それは?」

「あー、メイベルが好きなイラストレーターがデザインした箱みたいで。たまたま、その、店の前を通りかかったら売ってたから……」

「絶対に嘘だろ。その凝ったつくり……受注生産とかのやつじゃん、作りもしっかりしてるし。てか、木箱だし」

「わっ、かわ、可愛い……!! も、申し訳ないけど貰っちゃうね……!! 可愛い!」



 プレゼントを抱えたまま、アレンが持っている木箱に手を添える。私がチョコの空き缶とか、ビスケットの箱とか、集めてるの知ってるから、これにしてくれたのかな……。



 深い緑色の木箱には金と赤の薔薇が咲き誇り、しなやかに蔦が伸びていた。それらと戯れるようにして、小鳥と木苺が描かれている。うっとりするほど優美なのに、可愛い……。何を入れようかな、これに。飾るだけでもきっと楽しい。



「別にいい。そんなことよりもっと喜べ。マリエルが来たらな!」

「あからさまだなぁ、アレン……お前」

「あ? 別にいいじゃねぇか。負けず嫌いなんだよ、俺は」

「負けず嫌い……?」

「あ~、なんでもないよ! メイベルちゃん! ほらほら、フレデリックさんが落ち込んでるみたいだし、ちょっと励ましに行ってあげてよ!」

「自業自得の犯罪者だろ、あいつ」

「で、でもさっき、不法侵入はしてないって言ってたよ……?」









 わぁ、すごい。正面に座ったマリエルが、にこにこと、満面の笑みで私へのプレゼントを並べている。でも、申し訳ない……。いいのかな、誕生日でもないのにこんなに貰っちゃって。



「すごいな、マリエルさん……」

「でも、よく考えたら後の方がよくない? メイベルちゃんに渡すの」



 マリエルがふうと溜め息を吐いて、ちらりと、私の横に座ったアレンを見つめる。アレンが何故か、獰猛に笑って腕を組んだ。



「いいぞ、お前がその気なら……クソババア」

「アレン……?」

「……メイベルは一番最後で、全員でどっと渡す感じで……えーっと、とりあえずマリエルから、他のやつらに渡せばいいんじゃねぇの?」

「そうね。そうしましょう。とりあえずシェラ? はい、プレゼント~。いつもありがとう~」

「お酒!!」

「毎年毎年、同じものなのに喜んでくれるわよね……」

「シェラさん、お酒しか喜ばないし……」

「えっ!? そう、そうなの!? どうしよう、私、お酒以外のものにしちゃった……」



 どうしよう、失敗してしまった。私がうろたえていると、シェヘラザードが凛々しい顔つきで「大丈夫。みんなから貰うから。たまには、お酒以外のものがあってもいい……」と言ってくれた。良かった。それを聞いて、アレンが指を折り、何かを数える。



「そうだよなぁ~……俺も用意したし。どうせノアもハリーも、酒にしたんだろ? シェラへの贈り物」

「うん、それ以外喜ばないし……」

「銘柄は毎年変えてるけどな! 今年は子犬柄のやつにした!」

「んで、フレデリックも? ダニエルも?」

「ああ。普段、あんまり喋らないしな……何を喜ぶのか、いまいちよく分からなくって」

「俺も酒にした……一昨年ハンドクリームを贈ったら、飲めないって嫌がられたから、もう二度と贈らない……でも、そうだよな? シェラだけじゃなくて他の女性も俺のプレゼントなんか、」

「はいはい、ダニエルさん。落ち着いて~……俺も酒にしたなぁ。だから、別にいいんじゃないか? すごい量になるし、メイベルちゃんまで酒贈るとさ」

「ありがとう、ヘンリー……ほっとした」



 ついでだからと言って、みんながシェヘラザードにお酒を渡す。そのあとで、私もせっかくだからプレゼントを渡した。どうしよう、大丈夫かな。外してないといいんだけど……。



 向かいに座ったシェヘラザードが、早速、中からずるりと取り出した。それを見た瞬間、はっとダークブルーの瞳を瞠る。



「これ……おつまみセット……」

「そう! シェラ、生ハムとかチーズが好きって言っていたでしょう? それで、すごく美味しいものがあったから……」

「ありがとう。すごく嬉しい……大事に食べて、飲むね……」

「そっか。つまみという手もあったか。じゃあ、俺もそうしようっと。来年から」

「ハリーは何選ぶか、よく分からなくて怖い……お酒がいい。化粧水じゃないやつ」

「何だと!? 真の酒飲みじゃないな、お前!」

「化粧水を飲むのはアル中だけだから、ハリー……」

「そういや、去年はそれにしてたな。アルコール入りの化粧水」

「飲む用として、渡したのが本当に駄目だよね……普通に、化粧水として渡せば良かったのに」



 ノアから冷たい目で見られ、ハリーがふるふると震える。頭の上にある、赤いトサカが震えていた。可愛い。



「じゃあこれ、あたし、運んでくる……」

「えっ? もう?」

「手伝いますよ、シェラさん」

「あっ、私も手伝う~」

「よし、それじゃあ、みんなで酒運ぶか……」

「何でだろうな? 全員で酒抱えて運ぶと、犯罪の匂いがするのは……」



 みんなで笑い合って、酒瓶を抱え、二階へと運ぶ。とりあえず廊下に酒瓶を並べたあと、リビングに戻ってダイニングテーブルに座った。そして、マリエルがみんなにプレゼントを配り始める。



「はい、アレン。貴方に魔術の恩恵がありますように」

「うおっ!? 魔術書!? 嘘だろ、明日は天変地異が起きる! 世界が滅びる!!」

「いや、素直にありがとうって言えよ、アレン……」

「だって、ヘンリー!? 滅茶苦茶高いんだぞ、これ!? うわ~……どうしちゃったの? お前」

「素直に喜ばないのなら、返してくれる? 今すぐ」

「すっ、すみませんでした……ありがとう。はー、うわー……どうしよう、避難準備でもしておくべきか?」



 アレンが感嘆の息を吐いて、剣とドラゴンが描かれた魔術書を眺めている。どうしよう、絶対私のプレゼントで喜ばない……霞んじゃうよね。



(あ、駄目だ。そんなこと考えたら……でも、私もいいやつにすれば良かったかも。コートとか? いや、でも……)



 手元を眺めていると、向かいに座ったノアが興味深そうな顔で首を伸ばす。



「何、そんなに高いやつなの?」

「気になるな……ちょっと見せてくれよ、後で俺に」

「おう、いいぞ。別に。ただし、表紙だけなー? 一応、魔術師以外が術語を見ちゃ駄目って、決まりになってっから……」

「そう言えばそうだったな」

「あ、フレデリック。貴方にはこれ、はい」

「ありがとうございます……えーっと」

「はいはい、俺が回すから……」



 マリエルの隣に座っていたノアが腕を伸ばして、それを受け取り、小さな箱をフレデリックに渡す。フレデリックが、それを見て首を傾げた。



「えっ? 何? 首輪?」

「貴方達に渡すんじゃなかったわ、本当。ルームフレグランスよ。最近、部屋に加齢臭が漂ってるって、そう言ってたじゃないの」

「あ~、はいはい……どうもありがとうございます。何だろう、ちょっとだけ悲しくなるプレゼントだな……」

「ヘンリーにはこれ。チョコ。好きでしょ?」

「えっ!? ありがとうございます! あっ、俺が好きなメゾンのやつ!」

「うわ~……黒い箱だ。高そ~」

「ん、おいしそう……」



 ほくほくとした顔でヘンリーが受け取る。良かったね、ヘンリー……。でも、さっきみたいに嫌な気持ちにはならない。どうしてだろう。隣のアレンを見てみると、まだ嬉しそうな顔で魔術書を見つめていた。どうしよう、きっと、私のプレゼントは喜んで貰えない。



(……あ、駄目だ。せっかくの祝祭なのに……気持ちを切り替えないと)



 慌てて顔を上げて見てみると、ノアが細長い箱を受け取っているところだった。ノアが「開けてもいい? マリエルさん」と聞くと、マリエルが笑顔で頷く。そっと開けてみると、そこには綺麗なパールのネックレスが入っていた。



「わっ! すごい! ありがとうございます……覚えていてくれたんですね、これ」

「そうそう。あのワンピースと合うでしょ? ぜひ使ってみて~。また見せてね?」

「はい、ありがとうございます!」

「珍しいな、ノアが嬉しそう……」

「お前、ハリー……毎年言ってるからな、それ」

「そうだっけ……? ニワトリ頭だし、俺よく分かんないや」

「そうだな、ニワトリの着ぐるみも着てるしな……」



 そんなやり取りの横で、マリエルが立ち上がり、一番端のテーブルに座っているダニエルにプレゼントを渡す。安眠出来る枕だった。ダニエルが口角を持ち上げ、もにょもにょと「ありがとうございます……」と呟く。何だか微笑ましい気持ちになっちゃった。可愛い。



「じゃあ、次は俺からみんなへ……」

「フレデリックさんの、毎年予想がつかないんだよな……」

「まぁ、ハリーみたいに、変なのじゃないからいいんだけどさ……」

「何で毎年、俺の番になると微妙な空気になるの? まぁ、とりあえず、メイベルちゃんにはあとで渡すことにして。はい、ノア。先に」

「あ、どうも……」

「愛想がゼロで笑う」

「まぁ、あの二人、仲が悪いからな……」

「えっ!? そ、そうなの? 知らなかった……」



 ノアには綺麗な硝子瓶に入った、オーガニックのラベンダー水。ヘンリーには落ち着いた赤紫色と白のネクタイ、ハリーにはシリコン製のポップコーンメーカー、アレンにはお菓子のレシピ本、マリエルには上質なレースのハンカチ、ダニエルにはアロマスプレー。



「おっ、いいな。これ……ありがとう。メイベル、何が食べたい?」

「つ、作ってくれるの!? じゃ、じゃあね? このクリームチーズを使ったレアチーズケーキを」

「ああ。レシピには無いけど、ブルーベリージャムも作ってやるからな」

「やったー! ありがとう、アレン! 楽しみ~」

「おい、イチャつくなよ! 渡したそばから!!」

「やると思ってた、そうやって……」

「フレデリックさん、そういうの渡しちゃ駄目ですよ……」

「はいはいはい! 今度は俺っ! 俺がみんなに渡すっ!」



 ハリーが白い羽根部分を上げて、主張し出す。その瞬間、何故か全員がぞっとした顔で、ハリーのことを見つめた。



「はい、アレン。まずは裁縫箱」

「裁縫箱!? あ、ありがとう……お前、毎年嫌がらせか? ってぐらい、頓珍漢(とんちんかん)なものを贈ってくるよな……」

「まぁ、嫌がらせの気持ちもちょっとだけある。はい、ヘンリー。どうぞ」

「わ~……ありがとう。やたらと大きくて、嫌な予感しかしないな……」



 足元に置いてあったらしく、続々とテーブルの下からプレゼントが出てくる。何だかわくわくする光景で、楽しいな……。開けてみると、大きなテディベアだった。それを見たヘンリーが、ほっと息を吐く。フレデリックにはパン屋さんごっこが出来るおもちゃのセットで、フレデリックが「今更!?」と言ってびっくりしていた。



 ノアには何故か、ゴム手袋で……。ノアがそれを嵌めて、無言で両目を閉じている。それを見たハリーがうろたえて、「いや、お皿洗い……だって、手荒れが嫌だって言ってたからさ……」と呟く。ダニエルには船と海の写真集で、首を傾げつつ「ありが……とう?」と言って受け取っていた。



 そして最後のマリエルには、薔薇が付いた、シンプルな金のブレスレット。にっこりと微笑み「ありがとう」と言って、早速付けてくれたので、ハリーが左右に揺れ動いて喜ぶ。隣に座ったヘンリーとフレデリックが「良かったな! でも、痛い! ぶつかってるって!」と言って、嫌がっていた。



「よし! じゃあ、次は俺の番だな! とは言っても、全員同じものだけどな……」

「何でそんなに手を抜いているんだよ、アレン! メイベルちゃんにばっか、いいやつを用意しやがって!」

「そうだ、そうだー! 差別だーっ!」

「おいおい、あのハリーでさえ、ところどころまともなプレゼントを用意したってのに……」

「あたしもあたしで、ちゃんと頑張って用意したのに……」

「て、ことであっちのテーブルに積んである。各自、部屋に持って帰るように。いいな?」

「軍隊の武器支給か? なぁ?」

「あの灰色の箱、何だよ……」

「あっきれた、私、せっかく魔術書を贈ってあげたのに……」



 みんなからのブーイングに、アレンが両目を閉じて耳を塞ぐ。わぁ、すごい。聞く気がゼロ……。



(でも、何だろう? 嬉しい……そっか、私にだけか)



 喜んじゃ駄目なんだろうけど、でも。何だろう? 口元がそわそわ、むずむずしてしまう……。



「はいはい、じゃあ、次は俺の番ってことで! まずはハリーな?」

「わ~、何だろう? ありがとう!」

「赤いマフラーが欲しいって言ってから。それ」

「言ってたっけ? そんなこと……」

「言ってたぞ? はい、フレデリックさん。ワインとチーズのセット」

「ありがとう! えっ、意外と滅茶苦茶嬉しい……!!」

「次はマリエルさん~、はい~」

「ありがとう、ヘンリー。不安が無くていいわ、貴方からのプレゼントは……」



 マリエルにはシルクの綺麗な薔薇色のストール。箱を開けて、「まぁ、綺麗!」と喜び、早速ふわりと羽織っていた。白い肌に映えて、よく似合っている。ノアには最新の美顔器。狙っていたものだったらしく、「うわっ!? ありがとう、ヘンリー! すっごく助かる!」と言って喜んでいた。



 ダニエルにはふわもこパジャマで、それを見たダニエルが「わ~……何でみんな、安眠グッズをくれるんだろう……ありがとう」と呟く。そして、一番仲良しのアレンには高級プリンの詰め合わせと、クラシックコンサートのチケットが二枚。



「おっ、ありがとう! メイベル、二人で行くか!」

「えっ!? いいの!?」

「言うと思った、絶対! そう思って、二枚入れておいたんだ……」

「おいおい、おいおい、ヘンリー……」



 がっと、ハリーがヘンリーの肩を掴む。どうしたんだろう……。



「待ってくれ、距離が近い……」

「誓いはどうした、誓いは。まさか、この期に及んで裏切るのか……?」

「待って、フレデリックさんもハリーも落ち着いて……? 実験したくてちょっと、」

「「アレンのことだから、メイベルちゃんを誘うに決まってんだろ!?」」

「揃ったね、完璧ね。まぁ、アレン、二秒で誘ってたね……」



 ノアがどうしてか、呆れた顔でこっちを見てくる。駄目だったのかな、嬉しかったんだけどな……。見つめ返していたら溜め息を吐き、「じゃ、次は俺ね」と言ってプレゼントを取りに行く。



 マリエルにはレバーパテとキャビアのセット、ハリーには箱に入ったローストビーフ、フレデリックには目覚まし時計を贈っていた。フレデリックが虚ろな目で「お願いだからみんな、俺がパン屋だってことは忘れて欲しい……」と呟く。



 それから、ヘンリーには紺色のカーディガン。ダニエルには気持ちを落ち着かせる効果がある、ハーブティーのセット。アレンには「怒りのコントロール方法 ~これでもう自分の怒りに振り回されない~」というタイトルの本を渡していて、早速「余計なお世話だ、てめぇ! 俺は怒りたくて怒ってんだよ!!」と言って、怒っていた。それを聞いて、みんなが爆笑する。



(ああ、楽しいな……でも、もう終わっちゃう)



 来年も、そのまた来年も祝祭はあるんだけど。でも、毎年ちょっとだけ淋しくなってしまう。しみじみと祝祭の賑やかさに浸っていると、シェヘラザードがすっと手を上げた。



「あたし……渡す。とりあえず、マリエルから。はい」

「ありがとう~。まぁ、可愛い。さくらんぼのお酒?」

「ん、飲みたいって言ってたから……」

「毎年毎年、酒を贈ったら酒が返ってくるんだよな……物々交換か?」

「フレデリックさんに俺も同意……」



 シェヘラザードがお酒をみんなに配ったあと、ダニエルがおずおずと「じゃあ、次は俺で……」と言い出す。



「ダニエルで最後か?」

「多分、そう」

「そのあとは、みんなでメイベルちゃんにプレゼントを渡しましょうか! 楽しみね~」

「まぁ、俺が優勝する、もご!?」

「ゆ?」

「め、メイベル……!! ええっと、あとで渡すね。ごめん」

「あっ、はい。大丈夫ですよ~」



 慌てたヘンリーが、アレンの口を塞いでいた。何があるんだろう? どうしたんだろう、みんな。不思議に思って見渡していると、さっと目を逸らされる。ノアまで何故か、気まずそうな顔をしていた。口を開きかけた瞬間、がたんとダニエルが立ち上がる。



「俺……取ってくる、ソファーから」

「あっ、うん。手伝おうか? ダニエルさん」

「いや、いい……とりあえずヘンリーからだな、渡すの……」

「そういや、二人は親戚だったな」

「うん。それもあってかな、みんなが言うほど鬱陶しくはない」

「だよね……俺はどーせ、いっつもうじうじしてるから誰からも嫌われて、」

「そんな! 大丈夫ですよ、私は好きですよ! ダニエルさんのこと!」



 ぺたぺたと、ソファーの方へ向かっていたダニエルが勢い良く転ぶ。だ、大丈夫かな!? 眼鏡、割れてないかな!?



「だ、ダニエルさん!? 大丈夫ですか!? 顔、怪我は、眼鏡……」

「おいおい、派手にすっ転んだな……」

「あれだよ、人から好意を示されることなんて無いからだよ……」

「ハリー、そろそろ着ぐるみを脱いでくれないか……? いちいち羽根が当たってきて、何気にストレス」

「ごめん、フレデリックさん。俺、今、裸なんだよね……」

「「何だって?」」



 助け起こすと、真っ赤な顔をして「大丈夫! 取ってくる!!」と言って、逃げてしまった。まぁ、怪我が無いのならいいんだけど……。



(何だろう? 避けられた気がする……)



 落ち込みつつ、椅子を引いて座る。すかさずアレンが「どうした? あれだぞ、俺も他のやつらも、気合い入れて選んだからな」と励ましてくれた。



「えっ? 本当? 気合い?」

「ん、あたしも頑張って選んだよ……」

「わ~、嬉しい……!!」

「楽しみにしていてね、メイベルちゃん。可愛いわぁ、も~」

「完全に姪っ子を見るおばさんだな、お前」

「魔術書、返して貰うわよ?」

「すみませんでした……まさかお前、これが目的で俺に贈ったとか……?」

「一理あるね、それ」

「嫌がらせを兼ねた、贈り物……? 酷いな」

「裁縫箱を贈った、お前がそれを言うのかよ……ハリー」



 ダニエルがよろよろと、沢山のプレゼントを抱えて戻ってきた。まずはヘンリーに、ずっと欲しがっていたという懐中時計。「わ~、ありがとう! ダニエルさん!」と言って、無邪気に喜んでいた。ハリーにはドーナッツの詰め合わせ、ノアにはシルクの洗顔パフ、マリエルには百貨店の金券、フレデリックには小麦粉とエプロン。死んだ魚の目で「パン屋、やめようかな……」と呟いていた。



 そして、アレンにはガーリックのオリーブオイル漬け三個とドリアン、サメの肉を発酵させて干したハカ―ルと、エピキュアーチーズを渡していた。アレンが「うげっ! 何で口が臭くなるのばっかり……?」と嫌そうな顔で呟く。あれかな、私が知らないだけで、実はこの二人も仲が悪いとか……? 戸惑っていると、ダニエルが後ろに立つ。



「あ、あの……俺から先に渡すね、メイベルに」

「まっ、待ってください! あの、私から先に皆さんに渡したいんですが……その、大丈夫ですか?」



 後ろを振り返って聞いてみると、赤い顔でこくこくと頷いてくれた。良かった。急いでプレゼントが置いてあるソファーの方へ行くと、ダニエルが付いてきてくれて、その次にアレンが立ち上がって、こっちに来てくれる。



「メイベル? 俺のは?」

「だ、駄目! 最後!」

「えっ!? 何でだよ。これじゃねぇの? アレンへって書いてあるし……」

「わっ、わ、えーっと、駄目! まだ!!」



 どうしよう、袋にメッセージカードを貼り付けておくんじゃなかった。慌ててその袋を奪い取ると、アレンが青い瞳を瞠って、面食らった顔をする。



「うん。別にまぁ、いいんだけどさ……」

「ご、ごめん。びっくりしちゃって、つい……」

「珍しいな、メイベルちゃんが大きな声出すの」

「あっ、ごめんね? ヘンリー……うるさかったよね? えーっと、じゃあ、最初にダニエルさんにお渡しして」



 隣に立っていたダニエルに渡すと、嬉しそうな顔で、ぎゅっと袋を握り締める。良かった、喜んで貰えたみたい。でも、まだ中は見てないよね……?



「あ、ありがとう、メイベル……座ってから、その、開けるね……」

「あっ、はい。行きましょうか……えーっと、アレン? ごめんね? その、あとで……」



 プレゼントを抱えたアレンが、ふと顔を上げて「いや、いい」と呟いて、ダイニングテーブルへと向かう。どうしよう、言い方がきつかったかもしれない。それでも、みんなに渡す予定のプレゼントを、私の代わりに運んでくれている。



(どうしよう……ちゃんと謝らなきゃ、あとで)



 でも、怖かった。マリエルさんが渡していたのと比べると、本当に私のプレゼントは大したことがないから。何だか一気に落ち込んでしまう。私が沈んだ顔のまま座ったからか、みんなも何て言っていいのかよく分からない、といった顔で戸惑っている。



「あーっ……と、ダニエルさん? 何貰ったんですか? メイベルちゃんから」

「マフラーと……耳当て。前、耳が冷たくて出かけたくないって、言うの、覚えてくれてたみたいで……」

「良かったですね! メイベルちゃん、俺にはー?」

「あっ、うん。えーっと、アレンが持ってると思うけど……」

「ああ、これか。ほい。そんでこっちはフレデリックと、ハリーの。おい、ノア。これ」

「ありがとう~」

「何だろうな~。絶対変なものじゃないって、開ける前から保証されてる……この安心感、すごいな!」

「そ、そうですか? なら、良かった……」



 ヘンリー、ありがとう! 一瞬、変な空気になっちゃったけど戻った……。あとでお礼を言っておかないと。



 今回、フレデリックには好きだと言っていたウィスキーボンボンと、お酒が美味しくなるという、金属製タンブラー。フレデリックが「良かった、パン屋関係じゃなくて!」と言って喜んでいた。ノアには彼氏さんと使える、手を繋いだり体に触れたりすると、ふっと現れる金色のイヤーカフ。意外と嬉しかったのか、目を瞠って「わ~……ありがとう、メイベルちゃん。えっ、滅茶苦茶嬉しい」と言ってくれる。



 それから、ヘンリーにはアイスが楽に掬えるスプーンと、綺麗な葡萄柄のパフェグラス。ころんとしたフォルムのそれを持ち上げ、「そうそう。俺、こういう柄が好きなんだよね。ありがとう~」と言って笑ってくれた。次に、ハリーにはもちもちとしたアザラシのクッション。



 早速抱えて、「ありがとう! 俺がアザラシ好きだってこと、ちゃんと覚えててくれて!!」と叫びつつ喜ぶ。耳が痛かったのか、ヘンリーとフレデリックが耳を押さえていた。マリエルには手作りのクッキーと、アンティークレースの付け襟。青い瞳を潤ませ、「可愛い~。クッキーがハートの形してる……」と言って、喜んでくれる。



 ああ、良かった! 緊張した! ほっと息を吐いていると、ふいに肩を叩かれる。アレンだった。感情が窺えない、静かな表情で私のことを見てくる。



「……俺のは?」

「あっ、ごめん、ごめんね? はい、これ。でも、マリエルさんが渡していたような……その、魔術書とは違って本当に、大したことないんだけど」

「大丈夫。何でも嬉しいから。大体、今回俺が、こいつらに用意したのって皿だしな……灰色の」

「いらっねぇ!! アレン、何でそれにしたの!? だったら俺、安売りのチョコの方が良かったんだけど!?」

「何よ、灰色の皿って。もしかして、あれ全部がそうなの?」

「おう。安売りしてたから、買ってきた」

「うわぁ~……プレゼントって意味、知ってる? ねぇ?」

「一応な。メイベルの選んでたら、何かどうでも良くなって……お」



 こ、怖い。隣が見れない。ぎゅっと、膝の上で拳を握り締める。変だったかな、もうちょっと普通のにすれば良かったかも……。



「鉱石標本か。……そっか、あの時の。俺が欲しいって言ってたから」

「ご、ごめんね? アレン、勿体無いからって、買うのやめてたから、それで」



 アレンが手を伸ばして、鉱石を摘まみ、照明にかざす。見てみると、青い瞳を煌かせて、嬉しそうに笑っていた。



「何で謝んの? ありがとう。今日貰った中で一番嬉しいよ、俺」

「ほ、本当!? はー……良かった!」

「メイベルちゃん、気にしてたの? っふふ、アレンなら何でも喜ぶでしょうに」

「えっ、で、でも、マリエルさんがその、既に素敵なプレゼントを贈っていたし……」

「あれに気持ちはこもってないし、半分嫌がらせだからな……」

「あら、酷い。せっかく贈ったのに。返してもらおうかしら? お金も」

「すみませんでした……くそっ!」



 アレンが悔しそうに呟いたところで、ハリーが椅子から立ち上がる。



「ねぇ、メイベルちゃん、俺へのプレゼントは!?」

「落ち着け、ハリー。今、腕に抱えているそれは何だ?」

「アザラシクッション……あっ! 貰ってた!!」

「っぶふ、ニワトリの着ぐるみ着て、アザラシクッション抱えてるとか……」

「笑えるよね、何かね」



 フレデリックとノアが笑い合い、それにつられてみんなも笑う。ハリーがクッションを抱きかかえ、座ったところでアレンが立ち上がった。



「よし。これから戦いを始めようか……まぁ、優勝するのは俺なんだけどな!」

「言ったわね? じゃあ、貴方は最後で」

「おう。絶対絶対、俺が優勝するからな……」

「優勝……? えっ? 何の話?」

「じゃあ、まぁ、俺から先、渡してもいいか?」

「フレデリック。いいよ、別に」

「変なもの、贈ったら怒るよ。あたし……」

「大丈夫だよ!? シェラまで何だよ、本当に……メイベルちゃん、はい。どうぞ~」

「あっ、ありがとうございます……!!」



 受け取って袋から出してみると、ハンドクリームと綺麗な紅茶缶が入っていた。湖で泳ぐ白鳥の絵だ。綺麗で可愛い!



「へー、意外。無難なものにしたんだね、フレデリック」

「ああ、まぁな……俺、別に優勝は狙ってないし」

「じゃあ、次は俺~! 俺もあれかな、別に優勝は狙ってないよ~ん」

「ハリー、貴方、生半可なものを贈ったら承知しないからね……?」

「あっ、はい。その時は俺のことをめっためたに踏みつけて、罵ってくださると有難いです!」

「き、気持ち悪い……」

「シェラさんか。ならOK! ハッピー!」

「不死身かよ、お前。やばいな、メンタル」



 わくわくして開けてみると、中には猫耳と尻尾が入っていた。可愛い! カチューシャになってる! それに、美味しそうな苺フィナンシェまで入ってる!



「わ~! どうですか? 似合いますか?」

「可愛い~! 可愛いわ、メイベルちゃん! でも、ハリー。これって……」

「そうです、マリエルさん。俺が猫耳姿のメイベルちゃんを見たかっただけです……」

「そのゲス顔、やめろ! 社畜が!! 私利私欲百パーセントで贈りやがって!」

「はいはい、落ち着いて~。まったく、すぐに喧嘩するなぁ、お前らは」

「次、あたし……」

「ありがとうございます! わ~、何だろ~。楽しみ!」



 シェヘラザードからの贈り物は、赤とオレンジが混ざった硝子瓶に入っている、ヘアオイルだった。それに、私の飼い猫そっくりのアニマルバッグ。袋から取り出して、テーブルの上に置いてみると、本物のように動いて「にゃあ」と鳴く。



「可愛い~! あっ、背中にファスナーが付いてる! ここに入れる感じ……?」

「ん、お願いすると、口に鍵とかくわえてくれる……」

「可愛い~! 肉球もぷにぷに~!」



 膝に白い猫を抱えて、肉球をぷにぷにしていると、ヘンリーが立ち上がって、目の前にプレゼントを置いてくれた。二つあって、一つはピスタチオやアーモンドのチョコレート。もう一つの箱を開けてみると、そこには。



「わっ! ……こ、これは!」

「っぶふ、想像以上の喜びっぷりで何より」

「何だ? それ。ヘンリー、何だ? これ」



 陶器の滑らかなピンク色リボンが付いた、フォトフレームかと思ったんだけど違った。そこには雪景色の中で動く、アレンとみんながいて。



『あ? 何撮ってんだ? ヘンリー』

『えっ? 何? 写真でも撮るの?』

『いいから、いいから~。アレン、ハリーとかフレデリックさん呼んできて。早く!』

『嫌だよ。あいつら、黙々と雪でボールを作ってやがる……』

『あっ、ダニエルさんならここにいますよー! ほらっ』

『お、俺、カメラ苦手なんだけど……?』



 じわっと、思わず涙が滲み出てくる。そうだ、撮ってた。この時。雪が積もった庭に、みんなが出てきてわちゃわちゃと騒ぎ出す。



『なになに? 写真? 映るぅーっ!!』

『近い、近い! ハリー、どアップすぎるって! 鼻しか見えないって、それじゃ!』

『食らえ、俺の鼻くそパワー!』

『やめろって、ガキかよ! お前は!』

『ヘンリー! もっと下がれ! 俺も撮って、俺もー!』

『はいはい、順番に映していくからー! メイベルちゃん、どう? 楽しい?』

『楽しいーっ!』

『おい、メイベル。マフラー解けかけてるって! ちゃんと巻いとけって!』

『ありがとう、アレン。でも、自分で巻けるよ……?』



 画面がふっと暗くなって、次にまた、新しい景色が映し出される。いつの間にか、アレンが手元を覗き込んでいた。ニワトリの着ぐるみ姿のハリーも、マリエルも、フレデリックも、私の肩にしがみついてそれを見ている。



『マリエルさーん。美味しいですか? それ』

『美味しいけど。何? それ。撮ってどうするの? ヘンリー』

『んぐ、ヘンリー……ヘンリーは食べないの? パフェ』

『あとで食べるよ~。どう? 美味しい? 苺アイスとチョコブラウニーのパフェ』

『美味しいよ~、ありがとう~』

『あたし、次、コーンフレーク足して食べる……』

『あっ、じゃあ、俺も足して食べる~』



 みんなでパフェを作って食べた時のやつだ、これ。その他にも、シェヘラザードとフレデリックがお酒を飲んで、どっちが先に酔い潰れるか、勝負した時の動画。アレンとノアが真剣にジェンガを積んでいる様子に、私が生クリームを泡立てていて、ついうっかり鼻先に付けた時のこと。『わーっ、こんなところ、いきなり撮らないでよ~!』と、私が文句を言っている。



 最後は、みんなで晩ご飯を食べている時の動画だった。



『おい、ヘンリー。お前、こんなとこ撮って一体どうするんだよ?』

『ピース、ピース! 映ってる? 俺』

『映ってる~。ほら、ノアも~。フレデリックさんも!』

『よしっ! ほらほらっ』

『ちょ、肩に触んないで欲しいんだけど!? 暑苦しい!』

『俺もぉっ、俺もおおおおっ!』

『うるっせぇな! いちいち声がでかいんだよ、お前は! この社畜が!!』

『いや、一番うるさいのお前だからな!? アレン!』



 みんながフォトフレームの中で笑い合っている。どうしよう、このプレゼントが一番嬉しいかもしれない。全てを見終わってから、みんなで同時に息を吐く。



「だから、このために? ヘンリー」

「そうなんです、マリエルさん。ご協力ありがとうございました。ほら、メイベルちゃんの憧れだから。貴女は」

「ああ、なるほど。道理で……」

「いやぁ、ごめん。俺、思いっきり邪魔してたな……ごっめん、楽しかった!」

「反省してないだろ、お前。まぁ、いいや。次マリエル行け、次」

「いや、俺が渡したい。ハリーと同じく、別に優勝なんか狙ってないし」

「そう? それにしては、値が張る贈り物だったけど?」

「勘弁してくださいよ、マリエルさん……はい、どうぞ。メイベルちゃん」

「あっ、ありがとう、ノア……わ~、何だろ」



 さっきの動画を見て、胸がいっぱいになってたけど、開けて中を確かめてみる。中には、幻想的な薔薇色のドレスが入っていた。驚いて見てみると、苦笑して「ごめん。つい、着てるところが見たくなっちゃってさ……」と呟く。手に持って広げてみると、ふわりとオーガンジー素材のスカートが揺れた。



「わ~っ……き、綺麗! 可愛い! 幻想的!」

「うん。やっぱり似合ってるわ、メイベルちゃん~」

「本当……良かった、買って。あれだな、やっぱりネックレスは……」

「お~。ノアにしては良いチョイスだな……」

「よく似合ってるよ、メイベルちゃん」

「き、綺麗だね……」



 軽く当ててみただけなのに、みんなが褒めてくれる。ひとしきり褒めて貰ったあと、マリエルがこほんと咳払いをした。



「じゃあ、次。私! いい?」

「もちろん。どうぞ、どうぞ~」



 そわそわと落ち着かない様子のマリエルがくれたのは、白いファー付きのケープコートだった。色は冬の雪を霞ませたような、白にほんの僅かな灰色が混じった上品な色。生地はとても上質なもので、銀色の刺繍が裾に入っている。



 白いふわふわが付いているのに、貴族のお姫様が着ていそうな、三十歳になっても着れそうなケープコートだった。それに白いマフと、こっくりとした茶色の編み上げブーツまで!



「わ~っ……可愛い! いいんですか!? こんな、こんな、高そうなもの貰っちゃって……」

「いいのよ~。ごめんね? 靴、サイズが分からなかったけど買ってきちゃったの~。似合いそうだったから。サイズ調整はアレン、貴方がして?」

「丸投げかよ、おい。まぁ、するけどな……」

「するんだ……?」

「だ、大丈夫。中敷、持ってるし……」



 そのケープコートを着て、白いマフを持ってみると、マリエルが青い瞳を輝かせて喜んでくれた。



「可愛い~! お嬢様~! 似合う~!」

「本当、マリエルさん。メイベルちゃんのことになると、テンション高くなりますよね……」

「じゃ、じゃあ、次、俺……」

「あ、そっか。ダニエル、渡して無かったよな……」



 ダニエルがおそるおそるくれたのは、四つの箱で。その内の一つを開けてみると、そこに陶器のお人形が入っていた。驚いて取り出し、テーブルの上に置いてみる。それはどこかマリエルに似た、金髪に青い瞳の人形だった。青いドレスに、白いリボン付きの靴を履いている。



「わ~、可愛い……!! これは……?」

「えーっと、そのネジを回すと動き出すみたいで……魔術仕掛けの、オルゴール人形なんだ。それ」

「わ~……えーっと、こうかな? ふぁっ」

「おっ、動き出した。へー……魔術仕掛け」



 かりかりとネジを巻いてみると、白い頬が薔薇色に染まって動き出す。金髪の乙女が青いドレスを揺らし、テーブルの上でステップを踏み、その動きに合わせて、ころんころんと、子守歌のような音色が響き渡る。



「あっ、ありがとうございます……!! ダニエルさん、こんなに素敵なものを……」

「うん、喜ぶと思った……あと、そっちは陽だまりのカシミヤニットカーディガン。あれだって、着ると、春の陽だまりに包まれるんだって……メイベル、寒そうにしてたから」

「あ、ありがとうございます……!! 嬉しい~……次はええっと、キャンドル?」

「う、うん。スパイスが沢山入ってて……火を付けると、甘い香りがするんだって。ごめんね、喜びそうだと思ったからつい」

「いいえ! 嬉しいです、ありがとうございます! ええっと、最後の一つは?」

「あっ、そ、それは」

「ネックレスか何かか?」

「形状的にはそんな感じだよね?」



 ノアとアレンが、興味深そうに首を伸ばす。青いリボンをしゅるりと解いて、細長い蓋を外すと、綺麗なエメラルドグリーンの宝石が付いた、華奢なネックレスが出てきた。可愛い。繊細で上品だ。



「わっ……可愛い、綺麗。でも、これは」

「だ、駄目かな、やっぱり……」

「いいえ、でも、高かったんじゃ? これ……」

「ダニエル、お前……そんなにメイベルに、ここにいて欲しいのかよ……賄賂か? 買収か? なぁ?」

「あ~、なるほど。弟君も連れ戻しに来てたしな……」

「まぁ、ダニエルさんに優しくしてるのって、メイベルちゃんだけだからな……」

「俺も優しくしているんだけどなぁ、ハリー?」

「そっか! ごめんごめん!」



 そこでふいに、全員の視線がアレンに集まる。アレンがふっと笑い、立ち上がった。



「はー……やれやれ。やっと俺の番か」

「嬉しそうね、アレン……」

「悪いな、マリエル。優勝は俺がいただく」

「えーっと、あの、優勝って……?」

「ほい、メイベル。開けてみろ」

「わっ、すごい! ありがとう……」



 アレンが魔術でしゅるりと、プレゼントを呼び寄せてくれた。その可愛い木の箱を見て、全員が「うわっ……」と呟く。どうしてみんな、嫌そうな顔をしているんだろう。



「えーっと、じゃあ、開けてみるね?」

「ん、どーぞ」

「どんなのかな……わっ! 苺タルト!? すごい!」



 箱を開けてみると、中には艶々とした苺タルトが入っていた。でも、これって。隣を見てみると、アレンが誇らしげに話し始める。



「お前がな、開けた時に喜ぶと思って苺タルトにしたんだ。ちなみに、俺の手作りでバターも牛乳も砂糖も使ってない。低カロリーの苺タルトだぞ? ほら、お前。太るのが怖いって言ってただろ? あと、保存魔術もかけてあるから。一週間持つし、ちみちみ削り取って食え。そういうの好きだろ、お前」

「好き! ありがとう! どうしよう、すっごく嬉しい……!! あっ、こっちは!?」

「そっちは俺が描いた絵」

「「描いたの!? えっ!?」」



 それは木のフレームに収められていた。色鮮やかな黄色と赤で描かれた、秋の木立と鹿。奥には湖まである。その湖のほとりには、私によく似た、栗色の女性が描かれていた。しかも、綺麗な白いドレスを着てる。可愛い! 可愛い上に幻想的だ。すごい、帰って部屋に飾ろう……。



「何だよ、うるさいな。お前ら。ほら、俺の叔母が絵を教えていて……小さい頃に習ってたんだけどさ、教室に通い直して描いた。お前が好きな栗鼠にしようかと思ったんだけど、それは前にも描いたし。あっ、それ。実は四枚あって。春と夏と、冬があるから。季節に応じて変えろ。好きだろ、そういうの。部屋に飾って、ほわーって見るの」

「ありがとう、好き! 嬉しい~……!! あっ、ねぇ、これは?」



 次の箱を開けて見てみると、中には綺麗なコスモスと薔薇、白百合が描かれた絵本が入っていた。こ、これは……!!



「し、試作品って、そう言ってたけど……」

「おっ、よく覚えていたな。そうそう、お前に渡すためにいくつか試作していて。開けてみろ、メイベル。お前の好きなもん、詰めておいたから」

「わ、わ~……うん、ありがとう。じゃあ、開けてみるね……」

「おう」

「試作……品?」

「ああ。これも一月前から用意してて。いやぁ、大変だった。タルトの練習と絵と、それと同時進行で作ってたからさ……」



 そっと開けてみると、ふわりと清涼で甘い香りが漂う。目の前に、白く幻想的なお城がぽんっと現れた。雪のお姫様が住んでいるような、どこか淋しげで美しい白亜の城。



「「城……」」

「そう。こいつ、あからさまな城は好きじゃなくて……かと言って、幽霊が出てきそうな古城は好きじゃないんだよな。王道を踏まえつつ、どこか切なさがある、童話に出てきそうな綺麗さを持った、クラシカルで幻想的な城。ただ、ディティールよりも色にこだわる傾向があって、こいつ。いやぁ~、ちょっとだけ難しかったな! こいつが理想とする、ほんのり青みを帯びた、乳白色を表現するのが中々に難しくってさ……」



 そのお城の前に、七面鳥の丸焼きや苺のバターケーキ、優美なティーセットがふわりと現れる。綺麗。キラキラとしていて、ほんのり透けている……。



 見惚れていると次はお城の門が開いて、ラッパを鳴らした栗鼠やネズミが、列をなして出てきた。どこからともなくふっと、ドレス姿の小さな動物達も現れて踊り出す。たんたんと、栗鼠やネズミがステップを踏む音と、軽やかな音楽が響き渡る。



「わっ、わ~……音楽も可愛い、綺麗……ピアノ? 何?」

「そう、お前、ピアノの音色も好きだろ? だから弾いて録音した。これはな? 開くと小さな舞踏会が、十五分ほど現れるやつで……」

「さい、最後は? どうなるの!?」

「大丈夫。お前が淋しくならないように、十五分後に動物達が欠伸をして、のそのそと城に帰っていく設定にしといたから。みんな、眠たくなったから帰るんだね的な。お前、そういうの好きだろ? だから、ある程度ストーリー性を持たせておいた。そんで、途中で閉じると消えて無くなるから安心しろ。あと、十五分で終わるから、おやすみタイマーは無しな? それから、香りも開ける度に変わるから。五種類あるんだ、それ。その日の気温と天気によって変わるから、また雨の日にでも開けて確かめてみろ。お前はな、こういう変化が好きだからな!」

「うん……ありがとう、アレン! すっごく嬉しい……!! どうしよう、泣けてきちゃった……」



 赤いトサカを揺らしたハリーが「俺達も泣けてきちゃったよ、違う意味でな」と呟く。しかし、メイベルの耳には入らなかった。涙ぐみながらも、次の箱を開けてみると、真っ赤なマフラーが入っていた。でも、ちょっとだけ違和感がある。何だろう?



「あ、それ。俺が編んだやつ」

「えっ!? あ、編んでくれたの!? 嬉しい~!」

「アレン、なぁ、お前……」

「そうだ! よく聞け、お前ら!」



 がたんと椅子から立ち上がって、アレンがみんなを見渡す。興奮しているのか、やたらと目がキラキラと輝いていた。



「お前らは全然何も分かっちゃいない……!! メイベルへのプレゼントはな、金をかけたって無駄なんだよ!! 手間暇をかけた、想いのこもった手作りを喜ぶんだよ! こいつはな! だから俺は、せっせと一ヶ月前からマフラーを編んでいたし、絵だって習い直して、隙間時間に描いてた! あとな? こいつは善人だから、部屋に飾って、貰ったものをぽーっとアホみたいに眺めるのが好きなんだよ! どうだ!? これで文句は無いだろうが、俺が優勝者だ!!」



 しんと、沈黙が落ちる。何故か、みんな青ざめていた。アレンも訝しげな顔をしている。数十秒後、ようやく口を開いたのはヘンリーだった。



「お前な……ドン引きだよ、もう……」

「は!? 何でだよ!? 大したことないだろうが、どれもこれも!!」

「アレン、嬉しい~……ありがとう! でも、優勝って? 一体何の話なの?」

「ああ、メイベルちゃん。誰からのプレゼントを、君がその、一番喜ぶかなって……そう、ひっそりと勝負を始めていたんだけどね」

「ヘンリー、頭でも痛いのか? 何だよ、青ざめて……」

「そ、そんな勝負をしていたの? でもね」

「……どうしたの? メイベルちゃん。はーあ、もー……」



 マリエルが青ざめつつ、額を押さえる。早く伝えなきゃ、ちゃんと伝えなきゃ。この、抱えきれない嬉しさと喜びを。ぎゅっと胸元で、アレンが編んでくれたマフラーを握り締める。



「私ね……みんながね、誰からのプレゼントを一番喜ぶんだろうって、そう考えて、私へのプレゼントを選んでくれたこと自体が、すっごく嬉しくて……だから、その気持ちが一番のプレゼントかな! あとね、ヘンリーのやつが一番嬉しかった!!」



 さっきのフォトフレームを持ち上げ、固まっているみんなに見せる。大丈夫。いつか離れて暮らすことになっても、あの時見た景色や、同じ時間を過ごして笑った瞬間が、ここに閉じ込められているから。だから大丈夫、淋しくなんてないよ。



「ヘンリー、ありがとう! 優勝者はヘンリーだと思う! ええっと、ごめんね? 偉そうに言って……でもね? 私、これを再生したらみんなに会えるから、これが一番嬉しい! 本当に本当にありがとう、今日は……いつか、その、一緒に暮らせなくなっても。これを見て、元気を出すね! っう、本当にありがとう。嬉しかった……!!」



 お酒がまだ、入ってるのもあって泣けてきてしまった。すると、つられてアレン以外のみんなが泣き出す。



「っう、駄目だ……年取ると、涙もろくなっちゃって……!!」

「メイベルちゃん……うん……もう、良かった」

「嘘だろ、何で全員泣いてんの!? 俺がおかしいの、これ!?」

「っぐ、つらい。泣ける……!!」

「は!? ヘンリー、ハリーも! 何で!? ノアもかよ!? あれ!? 結局、優勝逃したし! 俺!」

「でも、これ、一生忘れないと思う……宝物にするね、ありがとう! アレン! それでね、実は」

「おう。何だ? メイベル」



 不思議そうな顔のアレンの袖を引っ張って、他の誰にも聞こえないように、耳元でこっそり告げる。



「私ね? 鉱石標本をあげた時、すっごく嬉しかったの! アレンが今までで一番、嬉しそうな顔をしていたから! だから、それがアレンからの贈り物だと思ってる。ありがとう、あんなに素敵な笑顔をくれて。だから実はね、優勝者はアレンで……」

「はい、駄目。俺も涙腺が崩壊した……見くびってた、善人パワーを……」

「えっ!? ない、泣いちゃった!? アレンも!? でも、どうしよう? 私もまた、泣けてきたな……」



 こうして、楽しい祝祭は涙と共に終わった。来年も、そのまた来年もこうして楽しく過ごせるといいな。でも、大丈夫。きっと大丈夫。まだ、この楽しい時間は続いてくれるから。



 そんなことを考えて、アレンに貰ったマフラーとフォトフレームを抱き締める。宝物だ、今日から私の。大切な宝物。








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