25.煌く祝祭の時間と淋しい気持ち
朝、起きて外を見てみると、ほんのり白い雪が積もっていた。思わず口角が上がる。今日は楽しい祝祭、魔術の訪れを祝うお祭り。パジャマ姿のメイベルが起き上がって、スリッパに足を入れた。
(史実では、人類が初めて魔術を手にした日だって言われてるけど……どこからどこまでが本当の話なんだろう、歴史って面白いな)
昔、学校で習っていたことが、もうほんのちょっとだけ変わっているのかもしれない。今の子達はどんなことを学んでいるんだろう、机を並べて。ふんふんと鼻歌を歌いつつ、着替えて洗面所へ向かう。部屋に小さなバスルームが付いていて良かった、楽ちんだ。
「あっ、そうだ。服、どうしようかな……マリエルさんに買って貰ったやつにしようかな?」
クローゼットの中から黒い肩出しニットと、ふんわりと広がる、綺麗なラズベリー色のチュールスカートを出す。これは上質な赤い生地の上に、チュールがふわりとかけられた可愛いスカートで、見る度に、あの日の楽しい記憶とマリエルの美しい笑顔が蘇る。とっておきの大事なスカート。
(私の大事なスカート。どうしようっかな~、アクセサリーは何を合わせよう……)
ネックレスはいつもの、ダニエルから貰った、小粒のダイヤモンド付きのネックレスにして。イヤリングはどうしよう? ああ、そうだ。栗鼠が苺を持っているやつにしよう。
メイクを済ませて外に出ると、ちょうどアレンが廊下を歩いていた。いつもとは違って、黒髪を上げてワックスで固めてる。それに、深い赤色のシャツに黒いニットベストを着て、ツイードのズボンを履いていた。お洒落!
「アレン! おはよう! わ~、お洒落! 新鮮、格好良いね!」
「んあ? おはよう。まぁ、お前もお前で、気合入れてめかしこむんじゃないかと思って……」
「あっ、そうだ。髪の毛、お願い出来る? この間のがいいな、この間の!」
「緩く巻いてハーフアップにして、バレッタを留めるやつか? それともギブソンタックか?」
「ギブソンタック! マリエルさんとね、お揃いにしたいから……」
「あいつが今日、凝った髪型にするとは限らないけどな……」
「でも、いいの。何となく、豪華でマリエルさんっぽいから……」
「へいへい、マリエルマリエル……」
「あっ、憧れなんだもん! だって!」
アレンと楽しくお喋りしながら、共有の洗面所へと移動する。白と青を基調にした、どこか異国情緒溢れる洗面所にて、赤いパジャマ姿のハリーとヘンリーが並んで歯を磨いていた。
「おひゃよ~、メイベルひゃん」
「んにゃ、んにゃ」
「おはよう~」
「いいから磨いとけって、お前ら……いや、退け。今からそこのドレッサー使うから」
「んぐっ、んぐ」
「まはぁ? おまへな、いふらなんれもメイベルひゃんに色々としふぎなんひゃ……」
「何言ってるのかよく分かんねぇよ、いいから退けよ。ヘンリー」
「ごめんね、ヘンリー。使わせて貰うね……?」
アレンが椅子を引いてくれたので、そこに腰かける。ブラシを手にしたアレンが眉を顰め、「お前な……寝癖ぐらい自分で直せよ」とぼやく。そ、そうだった……忘れてた。鏡に映ったアレンを見つめて、謝る。
「ごっ、ごめん……うっかり忘れてた。えーっと、今から部屋に戻って」
「いや、いい。大丈夫だ。水に濡らして取るか……」
「へー、アレン君。寝癖まで直してあげちゃうんだ? へー」
「ハリー、いや、社畜うるさい。黙れ」
「何だって!? 大体な、俺はせっかく、もごっ!?」
「はいはい、行こう……俺はちょっとほっとしてるよ、アレン。お前がいちいち、メイベルちゃんの寝癖まで毎朝直してなくて……」
「あ? するかよ、そんな面倒臭いこと」
「ま、またあとでね~。ハリーにヘンリーも~」
「うん、ばいばい。またあとでね~」
そっか。じゃあ今、私はアレンに面倒臭いことをさせているんだな……。水に濡らした髪を、ドライヤーで乾かしているアレンを見て、ずきりと胸が痛む。
「よし、出来た。あとは綺麗に梳かして……」
「ごっ、ごめんね? 面倒臭いよね? 私、やっぱり自分で、」
「いや、いい。大丈夫だ。俺がやる、全部」
「いや、でも申し訳な、」
「いや、ヘンリーがいる手前、ああ言ったけどな……」
「へ? うん」
鏡に映ったアレンが深刻そうな顔をして、私の髪を持ち上げている。ど、どうしちゃったんだろう。一体……。
「寝癖もこれから、俺が直すべきなんじゃないかって……」
「だっ、大丈夫だよ……自分で直せるから、寝癖ぐらい」
「でも、弟が見たら怒るんじゃないのか……?」
「ウィ、ウィルが? 一体どうして?」
「いや、姉さんになんてことをさせてるんだって、そう……」
「えっ……? そ、そんなことで怒ったりしないから大丈夫だよ……大体私、いつもね? 自分で寝癖を直してるから……でも、ありがとう。心配? してくれて」
「そっか……いいか」
「う、うん……」
何でちょっとだけがっかりしてるんだろう、アレン。あっ、そうか! 可愛い妹になる作戦をつい、うっかり忘れちゃってた……!!
「じゃっ、じゃあ! 寝癖! これから直して貰おうかな、お兄ちゃん!」
「何でいきなりお兄ちゃんなの? 今、どうなった? 思考回路」
「えっ……? だ、だって、アレンは可愛い妹が欲しいんだよね……?」
「いや、特にそう思ったことはないかな……」
「そ、そうなの……?」
あっ、それともヘンリーやハリーにだけは「可愛い妹が欲しかった」って、そう言ってるのかもしれない。あの二人が嘘を吐くとは思えないし。アレンはシャイだし、照れ臭いのかも。
「……うん! 大丈夫だよ、アレン! 分かってるからね、ちゃんと」
「あ? 何が? ギブソンタックするぞ、ギブソンタック」
「お願いしまーす!」
昼間、実家に帰って軽くご飯を食べたあと、みんながいるシェアハウスに帰る。さくさくと、白い雪が降り積もった庭を歩き、野鳥達の賑やかなお喋りに耳を澄ませる。今日は祝祭、楽しい祝祭。両手に紙袋を提げ、歌を歌う。気に入ってくれるかな、みんな。私が選んだプレゼントを。どうかな?
「エール、エールを持ち上げて乾杯しましょう。柊の葉を飾ったケーキに、しゅわしゅわと泡立つ林檎のお酒は子供達のもの。火で炙った雛鳥を食べれば、この胸は弾む。さぁ、乾杯をしましょう。今日は誰もが楽しみ、歌う祝祭……」
玄関のドアを開けて、雪と土で汚れてしまった靴を脱いで、スリッパに履き替える。以前に、ハリーが家中を泥まみれにしちゃったらしく、そこからみんなはスリッパに履き替えることにしたらしい。きっと、お掃除がものすごく大変だったんだろうな……。
でも「俺一人だけスリッパは嫌だ!! みんなもしよーっ!?」と泣いて嫌がるハリーに気を使って、スリッパに履き替えるなんて、やっぱり何だかんだ言って優しいな、みんな……。
「おう、帰ったか。メイベル。ケーキ、今から焼くぞー」
「わーいっ! アレン、ありがとう! でも、全部アレンの手作りなんて負担が……」
「俺も作るよ~。てか、みんなで?」
「ノア! おはよう、今日、初めて会ったね~」
「おはよう、メイベルちゃん。俺は朝からデートしてたからね」
「滅べばいいのに……」
「社畜うるさい、黙って。あと生クリームのパック、持つのやめてくれない? 事故りそうでやだ、怖い」
怒ったハリーがべこっと紙パックを握り締めたので、慌てたヘンリーが「はいはい! そ、そうだ! メイベルちゃん、ハリーとお喋りでもしててくれないかな!?」と言いつつ、なだめる。お喋り! でも、いいのかな……。私だけ、何もせずにソファーでのんびりしていて。
「メイベル。ご馳走が控えてるからな……一個だけだぞ、オレンジピールのマフィンは」
「わ~、ありがとう! 半分に切ってある……?」
「あ、そうそう。一個だけだと大きかったから……切ったんだった。おい、ダニエル。お前な……」
テーブルの下からぬっと青白い手を出して、ソファーに這い上がってきたダニエルを見つめ、アレンが眉を顰める。
「ダニエルさん、おはようございます」
「おは、おはよう……アレン、俺の分のお茶も欲しい……」
「え、やだ。……と言いたいところだが……分かった分かった、持ってくるから。ちょっと待てって、見るなって、メイベル……」
「パパーっ! 僕の分もおおおおっ!」
「うるせぇな、そのパパ呼びやめろ! 背筋がぞっとする!!」
ハリーとダニエルと、一緒にソファーに座ってマフィンを食べる。白いタートルネックのニットを着て、黒髪を結んだダニエルが、私を見て嬉しそうに笑った。
「それ……付けてくれたんだね。ありがとう……」
「いえ。今日は祝祭ですし、ダイヤがぴったりかなって」
「メイベルちゃん、メイベルちゃん。アレンに何用意したの? プレゼント!」
「それがね、ハリー……私ね、アレンの好きな食べ物や好きなものをあんまり知らなくって」
「あちゃ~」
「え、えーっと、俺も、俺も知らないから大丈夫だよ……?」
「ありがとうございます。でも、私、いつもいつも、アレンにして貰うばっかりで……駄目ですね、本当。反省しなくっちゃ」
冷たい手のひらをじんわりと温めてくれる、紅茶入りのカップに目を落とす。駄目だな、本当に。喜んでくれるのかな、あんなプレゼントで。落ち込んでいると、私の膝に寝転んだハリーが笑う。
「大丈夫、大丈夫~。俺もアレンの好きな食べ物とか知らないからさ、適当に用意したもん。お裁縫箱にした。針とか付いて無いやつ」
「お裁縫箱……でも、アレン。確か刺繍も出来た筈で……」
「メイベル、あ、あの。アレンに一体、何を用意したの……?」
「ふふっ、内緒でーす。あっ、もちろん、ダニエルさんとハリーの分も用意しましたよ? がっかりさせてしまうかもしれないけど、」
「やったあああああーっ! 腹筋五百回出来る! てか、今からする! モデルを目指すぅ! とうっ!」
「だっ、駄目だよ、ちゃんと休んでなきゃ……」
「は、ハリー、ほら、俺がマフィン、あーんしてあげるから……」
「やったぁ! ラッキー!! みんなに甘やかして貰おうっと!」
ダニエルが震える手で、ハリーの口に林檎のマフィンを運んであげる。アレンが「オレンジピールのマフィンは、俺がメイベルに買ってきたやつだから」と言って、出してあげたやつ。私にだけなんだ、これ。さっきの言葉を噛み締め、オレンジピールのマフィンを見つめる。
(何だか勿体無くて、食べれないな……まだかな、ご馳走。ちょっとだけお腹空いてきたかも。あんなに食べたのに、ウィルと二人で)
帰ってきて欲しいって、そう泣かれちゃったけど。お父さんもまた「そんな危ないシェアハウスなんかにいて……」ってぶつぶつ言ってたけど。げふげふとむせているハリーの背中を擦りつつ、思いを巡らせる。
「私、ここにいたいな……ずっとずっと」
「いれば、いればいいよ、メイベル……家賃、上げたりしないし……」
「っげふ、俺の部屋の家賃、下げてもいいんですよ? ダニエルさん……」
「それは下げない。今でも十分安いから……」
「っふふ、楽しみですね。ご馳走……数年後にはもしかしたら、みんないなくなっちゃってるのかもしれないけど」
「メイベル……」
「メイベルちゃん。大丈夫だよ、俺は一生ここにいるつもりだからね!」
「えっ、えっ……!?」
赤いハート形のクッションを抱えたダニエルが、何故か青ざめてハリーを見つめる。ハリーが満面の笑みを浮かべ、親指をぐっと立てた。良かった、器官に入ったマフィンも無事に飲み込めたみたい……。
「でも、駄目ですね。せっかくの楽しい祝祭なのに……淋しがってちゃ」
「でも、分かるよ~。俺も俺で、ずーっとこの暮らしが続かないかなぁって思うもん。超楽しい。踏むメンバーに最近、メイベルちゃんが仲間入りしてくれたしね! またお願いします!」
「あっ、うん。じゃあ、今踏んでおこうか……?」
「お願いします!!」
「ハリー……どうかと思う、それ……」
「すみません。俺、男からの罵倒は受け付けてないんで……遠慮してください」
ずっとずっと続かないかな。出来る限り、長く続いてくれないかな。この楽しい日々が。
(冬の冷たさも、祝祭ならではの賑やかさも好きだけど。でも、やっぱりちょっとだけ淋しくなっちゃうな……)
さっき淹れて貰った紅茶は、もうほんのりと冷めていて。それがまた、少しだけ淋しい気持ちに拍車をかける。ちょっとでも長く、こうして一緒にご飯を食べて、みんなと楽しく騒げたらいいのになと。
そう願って、ぬるい紅茶を口に含んだ。ふわりと、深呼吸したくなるような香りが漂って、舌の上に上質な苦味だけが残る。その苦味に泣きたくなったのはどうしてだろう、いつもと同じ紅茶なのに。美味しいのにな、ちゃんと。
アレンやヘンリー、ノア達が作ってくれたご馳走がテーブルの上に並べられる。
私の好きなスモークサーモンのマリネに、カボチャとクリームチーズのほんのり甘いサラダ。かりかりに揚がったポテトと、ローズマリーをまぶした小さな骨付きチキン。とろりと滑らかなコーンクリームスープに、胡桃とバジルのパンにラズベリージャム、ガーリックと玉葱が練り込まれた丸パンにハーブバター。ちゃんとハーブが刻まれて、ホイップされている。
お待ちかねのメインは見ただけで心が踊ってしまう、七面鳥の丸焼き。中にはセージと卵とポークハムと、檸檬の皮やガーリックを混ぜ合わせた、スタッフィングが詰められているらしい。ナイフとフォークを持って、わくわくしている私を見て、アレンが苦笑しつつたしなめる。
「待てよ、お前。待て! まだシェラ達が到着してないからなー?」
「えっ!? 酷い、アレン! 私、食べたりなんかしないのに! それに今の、飼ってるわんこに言うみたいな感じで……」
「相変わらずナチュラルにイチャつくよね、二人とも……俺、肩身が狭い」
私の隣に座ったノアが、早速ワイングラスを傾けつつぼやいた。あっ、駄目なのに。みんなで揃ってから、乾杯したいのに! 咄嗟にその、白い手を驚かせないように掴む。
「駄目、ノア! みんなで乾杯しよう!? 淋しい~……」
「……ごめん。まだかな、マリエルさん達」
「ははは、流石のノアもメイベルちゃんを前にすると謝るしかないか」
向かいに座ったヘンリーが、ゆったりと腕を組んで笑う。今日は祝祭だからか、ダークブラウンの髪を後ろへと撫で付け、オールバックにしていた。格好良い! 今着ている、黒地に赤いストライプが入ったスーツともよく合っている。
「ふぁ~……格好良いね、ヘンリー。すごい! き、えーっと、品が良い!」
「あれ……? 今、何て言おうとした? き? 何だって? メイベルちゃん」
「なんっ、何でもないよ……えーっと、ノア、き、綺麗だね! 今日も! あっ、そうそう。今、ヘンリーのことも綺麗って言おうとして!」
「やめろよ、ヘンリー。しまえ、その殺気」
「殺気立ってないし、別に……」
ノアがふっと笑って、口元に手を当てる。今日はいつもの黒髪なんだけど、白と黒のチェック柄スーツを着ていた。ポケットに挿してある、白い薔薇と深いダークブルーのハンカチが美しい。角度によっては青にも黒にも見える、神秘的な瞳とよく合っていた。
「ヘンリーは普段、常識的なのにあれが絡むともう駄目なんだよね……。ありがとう、メイベルちゃん。褒めてくれて。メイベルちゃんもそれ、よく似合っているよ。何か、初々しい色気が出ていて」
「初々しい色気……?」
「普通に可愛いでいいだろ、ノア」
「え? 嫉妬? アレン」
「いや、弟が不安になるかと思ってだな……」
「メイベルちゃん、俺は!? 俺の服装は!?」
「え、えーっと、ニワトリだよね!? 着ぐるみ……?」
ヘンリーの隣に座ったハリーが、赤いトサカを揺らして胸を張る。お洒落……? のつもりなんだろうな、多分。それか、みんなを笑わせようとしているとか……? 戸惑っていると、ハリーの横に座ったダニエルが話しかけてきた。
「めい、メイベル、その、俺は……?」
「あっ、似合ってますよ! スーツ! 初めて見たけど、格好良いですね!」
「あれなんだけど? 俺からしたらダニエルさん、音楽関係の怪しいプロデューサーに見えるんだけど?」
「えっ……」
「あれかな、髪を結んでいるからかな……一応、俺のスーツなんだけど。これ。ダニエルさんにはもっと、シックなやつが良かったか……? 青と白のストライプ柄じゃなくて」
「普通にツイードのスーツでも貸してやれよ、ヘンリー……」
「ごめん。何か、サイズが合うやつがこれしかなくて……他のはいまいちだった。どれもこれも微妙だったからさ……」
普通に似合っていて、格好良いと思うんだけど。両手で顔を覆って、しょんぼりとしてしまったダニエルに「大丈夫ですよ、変じゃないですよ! 新鮮で格好良いですよ」と伝えてみると、ぱっと両手を離して、嬉しそうな笑顔を浮かべる。よかった!
「おお~、流石。メイベルちゃんの善良パワーは、ダニエルさんのネガティブをも吹き飛ばす……」
「ただいまー。面倒臭い男もちゃんと、連れて帰ってきてあげたわよ~」
「マリエルさん! あれ!? フレデリックさん、一体どうしちゃったんですか!?」
「いや……娘の家に押しかけたら、警察を呼ばれそうになって……せっかく、友人も使って調べ上げたのに」
「やめてやれ! 何してんだ、お前は」
「はいはい、ご馳走ご馳走! 食べようぜー!」
「待ちきれなくなっただけだろうが、お前は。ちょっ!? ヘンリー、そのふざけたトサカ頭のナイフとフォークを取り上げろ!! そいつ、七面鳥の一番美味しい部分を一人で食おうとしているぞ!? 頭をかち割ってやれ! やれっ!」
「いや、普通に止めるから……」
実家に帰っていたマリエルと傷心中のフレデリック、起きてきたシェヘラザードも加わって、晩餐が始まった。
「「乾杯ー!」」
「ほらほら、次、こっちも! メイベルちゃん!」
「別にいいじゃん、わざわざ全員とグラスをぶつけなくても……」
「せっかくだから~、ちょっとお行儀悪いけど~」
「じゃあ、俺も~。とりあえずシェラと?」
「ん。お酒早く飲みたいけど、我慢する……」
「メイベルちゃーん、私とも~」
「はーい、かんぱーい」
「俺もおおおおおっ!!」
「やめろ! 努力するな、羽根が汚れるぞ!?」
わいわいと賑やかにお喋りをして、時には喧嘩もして、楽しい晩餐の時間が過ぎてゆく。ああ、終わらないでいて欲しいな。このまま、ずっとずっと続いて欲しい。時が止まって、この祝祭がずっとずっと続いてくれるといいのにな。
またおはようと言い合って、一緒に美味しいご飯を食べて、ワインを飲んで楽しむ今日が終わらないといいのになぁ。涙がちょっとだけ出てきた。酔っ払っているのかな、私。
でも、淋しい。今日が終わってしまうことが淋しい。新しい年を迎えることも、何もかも。このキラキラとした時間を、スノードームにでも閉じ込めておけるといいのに。そしてまた、この日のみんなと会えたらいいのに。何でだろう、今を楽しんでいる筈なのに。
楽しければ楽しいほど、終わりが近付いてきて、それが淋しくて切なくて。泣けてきちゃうんだ、どうしてだろう。
(でも、楽しいな……)
ワイングラスを持って涙ぐんでいると、向かいに座ったアレンが「しまった、水を飲ませるべきだったな……ノア! ノア!」と焦った表情で言い出す。ノアが深い溜め息を吐いて、私にお水をくれた。それを飲んで、酔いを醒ましつつ、また美味しいご馳走に舌鼓を打つ。
「よし! じゃあ、プレゼント交換するか……!!」
「アレン、怖い。何その、目は……」
「うるせぇよ、ノア。優勝は俺がいただく……」
「あーら、自信満々でえらっそうに」
「悪意がすごいな、相変わらず。シミとシワが増えるぞ、お前」
「まっ、まあまあ……」
「マリエルさん、睨むのなら俺を睨んで欲しい……!!」
みんながやけにわくわくとした顔で、それぞれプレゼントを取りに行った。私も取りに行かないと、プレゼントを。でも、どうだろう? 喜んでくれるかな……。少しだけ肌寒い階段を上がりつつ、笑う。
(っふふ、気に入ってくれるかな~。みんな。でも、どうしよう? アレンへのプレゼント、本当にあれで良かったのかな……ウィルに相談すべきだったかな?)
でも、何だか一人で選びたくて選んじゃった。どうしよう、外してないといいんだけど。ちょっとだけ渡すのが怖い。




