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優しい彼女と変人だらけのシェアハウス  作者: 桐城シロウ
第一章 秋に出会って、冬を越す
26/134

22.これは別に恋心なんかじゃなくて

 






「いや、まぁ、その。色々あって……ただ、恋愛的な意味で優しくしてる訳じゃないから……」

「嘘臭いんだよ! 何で目を逸らすんだよ!? こっちを見ろよ、こっちをさ!?」

「でもはぁ~、んぐ」



 胡桃とオレンジピールのパンを頬張っているハリーが、呑気な声を出して問いかける。た、助かった……。社畜も社畜でたまには役に立つな。



「何でそんなに猫被ってんの? どちらかと言うと、メイベルちゃん鬱陶し~みたいな顔してたよね? みゃあ、えんひらっはへほ」

「……姉さんに引かれたくなくて……ああ見えて、結構ドライなとこあるし」

「ああ、まぁ、あるよな……」

「何で知ってるんだよ!? この害虫蛆虫アレンが!!」

「どっちか一つで良くないか……? にしてもさ、俺としてもメイベルちゃんいなくなるときっついんだけど……? せっかくの常識人が消えてなくなる」

「俺も常識人!!」

「うるせぇよ、お前は常識人の皮を被った変態パン屋だろ!」

「やっぱり駄目だ、こんなところに姉さんを置いておけない……不潔だ、病気になる」

「「不潔って、おい」」

「むわっ、むわっ!」



 ハリーがもごもごと口を動かしつつ、かんかんとナイフとフォークを打ち付ける。やめろ、うるさいし品が無い。何だって、ここの馬鹿どもは常に騒いでなきゃ気が済まないんだ? キレようとしたが、ぞっとするような仄暗い眼差しで弟が見てきたので黙る。何故、何故メイベルに親切にしているだけで、こんなにも敵視されるんだ……?



「あの、あのさ? 俺は別に、メイベルのことが好きで親切にしてる訳じゃ、」

「だから言えよ、まどろっこしいな。つべこべ言わずにさっさと吐け、自白しろ!!」

「情緒不安定~、ヘンリー。そのチキンちょうだい?」

「申し訳ないが、ハリー。今日の食卓にチキンは並んでいないんだよ……これは鹿肉なんだよ」

「まぁ、メイベルちゃんにはこれからもこのシェアハウスに住んで貰うということで……」

「フレデリックさん、流さないで貰えますか? 絶対に絶対に連れて帰ります……こんなところには置いておけない。またいつ犯罪に巻き込まれるか……」



 俺が送り迎えをしているから、大丈夫なんだけどな……。スーパーに行く時や急に「夜のお散歩がしたい!」とか言い出した時も、付いて行ってるし。防犯グッズも一応持たせているし、本当に本当に心配いらないんだが……。



「あー、ウィルフレッド? 大丈夫だ、姉さんのことならちゃんと俺が、」

「だーかーら!! お前みたいな男に任せられる訳ないだろ!? 短気だし、絶対に絶対にモラハラとかDVをするタイプだ!! 死ね!」

「メイベルちゃんの弟とは思えない、口の悪さだな……」

「遺伝子どうなってんの? どこで何を間違えちゃったの?」

「でも、俺の両親は一応まともだったんだけどな……」

「フレデリックさん、気が散るから黙ってて貰えませんか……?」

「すまん、黙っとく。また語る」

「いらねーよ、永遠に黙っとけ!」

「ほらぁっ!! 口が悪い! 任せられない!」

「ブーメランだから落ち着け、弟!」

「お前の弟になった覚えはない!! 二度と呼ぶな、弟って!」

「でもさぁ~」



 面倒臭いな、もう嫌だなと思った時にまたハリーが尋ねる。良かった、あとで水の一杯でもやろ……。



「そんなに離れたくないなら、全寮制とか行かなきゃ良かったのに」

「た、確かに……!!」

「ハリー、お前にしては珍しく冴えてるな」

「だろ? もっと褒めてもいいよ、俺のこと!!」

「えっ? す、すごいね……?」



 それまでもそもそとパンを食べていたダニエルの方をぐるりんと向いて、催促し出したので、陰気臭いダニエルが戸惑いつつ褒める。ただ、物足りなかったのか、ハリーが憤慨して「もっと! もっと俺を褒めて!?」と言って絡み出した。相変わらず頭が沸いてやがる。ダニエルに任せとこ。



 そんなアホ臭いやり取りを前にして、メイベルの弟が深刻な顔をしていた。マジかよ、お前、器用だな……。



「俺は……その。昔、姉さんにものすごく優しいおじさんがいて」

「おっと、嫌な予感しかしないぞ……?」

「俺も優しいおじさんではあるが、どちらかと言うと女性に滅多刺しにされたいタイプだから……」

「だから無害ってか? ふざけんなよ、どこからどう見ても有害だろうが!!」

「分かった、俺。それでメイベルちゃんは、気持ち悪い目に遭ったんだ……!!」

「うんだけ言えよ、ここは神妙そうな顔で頷く場面だろうが! アレン! 何とかしてくれ!」

「そうやって甘えてくるところはそっくりだな……まぁ、いいから。こいつらの言葉は無視して。進まないから」

「それは確かに……!!」

「それで、そのおじさんが」



 フレデリックの言葉をさらりと無視して、また深刻そうな顔を作る。すっごいな、集中力……。そう言えば最初は、ちょっと大人しそうな文学青年に見えた。演技力たっか。



「いつもいつもお菓子とか、その、姉さんと俺にくれたんだけど」

「「アレンだ……」」

「アレンだな……」

「うるせぇよ、お前ら。俺はそのおじさんじゃないっての……」

「そんな日々が何年か続いて……それなのに、姉さんが中学生になった時に豹変して。急に刃物で切りつけてきて」

「怖すぎだろ……」

「警察案件じゃん……」

「そうか、女性を庇って死ぬというのもありか……」

「めい、メイベル。大丈夫かな、トラウマになってないかな……」

「良かった、俺。おじさんからお菓子を貰ってなくって……」

「ハリー、パンでも食べていたらどうだ……?」

「ん、そうする」



 ヘンリーが遠回しに「黙れ」と言ってくれたお陰で、パンを二個ほど一気に突っ込んで黙る。助かった。何故か俺の言葉は聞きやしないからな、このクソ社畜は。



「どうも姉さんを誘拐しようとしてたみたいで……俺がその、連れ去られそうになった姉さんの腕を引っ張ったら、目の上を切られて」

「うぇっ、つら……」

「てか、捕まったよね……?」

「うん、もちろん。その時に姉さんの美しい顔は奇跡的に無事だったんだけど……腕を数箇所切られて。そこから俺、心配で心配で……」

「あっ、うん。それは分かったんだけど、何故そこから全寮制の大学に……?」

「ハリー、大学じゃなくて中学と高校な」

「何でお前が知ってんだよ、クソアレン……!!」

「いや、その、メイベルから聞いたから……?」



 お前が十三歳の時に、おたふく風邪で寝込んでいたことも知っているが。まぁ、言わないでおくか。風邪と言えばメイベルは毎年必ず一回、重たい風邪を引くみたいだから気を付けておいてやらないとな……。ジンジャーティーやエキナセアでも買っておくか。それとも薬飴の方がいいか。



 そう言えばあいつ、最近はきちんとマフラー巻いて外出してないから注意しとかないとな……。繊維が首に当たって、ちくちくすると言っていたような気がする。カシミヤのマフラーがセールで安くなってたな。今度買ってくるか。



「お前……どんだけ姉さんと仲が良いんだよ? ずっとずっと喋ってるんだな? さては……」

「まっ、まぁまぁ、それはさておき、一体どうして全寮制の学校に……?」

「……母さんが。心配して」

「「お母さんが」」

「えっ? シスコンのべったべたで?」



 ウィルフレッドが沈鬱な顔で頷き、ようやく椅子に座る。よ、良かった……。にしてもメイベル、遅いな。フィオナって言うのは確か、彼氏と最近ずっと揉めている女友達か。ならその相談に乗っているんだろうが。あいつのことだからどうせ、感情移入してべそべそ泣いているんだろうな……。



 あとで飴でもやろ、一昨日食べたいと言っていたハーブ飴。ただ、くせが強いみたいで。口直しに蜂蜜とオレンジの飴も買ってきたが。だけど、あいつ、べたべたに甘いやつは嫌いだしな……。まず一粒、ハーブ飴を与えてから様子を見よう。それでまずいって言い出したら、甘い飴をやるか。そうしよう。



「俺にそんなつもりは一切ないのに……母さんがトラウマになったからと言ってべたべたしすぎ。大袈裟。過保護。姉弟の距離感じゃないって言って、俺を全寮制の中学校に入れちゃって……」

「「あ~……」」

「……どんだけべたべたしてたんだよ、お前」

「そんな地獄からようやく戻れたのに、姉さんに会って喜ぶ俺を見てまた、全寮制の高校に……」

「あ~、うん。まぁ、お疲れ様……」

「お母さんの心配も分かってあげよ……?」

「俺が親でも、そうするかもしれないな……」

「たまにふっと正気に戻るのやめてくれよ、フレデリック」

「俺はいつだって正気だよ、アレン君。高校の時から何も変わらない」

「こっわ、ぞっとした。今。心底……」

「一体どうしてだ……?」



 こいつの中身が一番キモくて怖いな。まぁ、それはともかく。そうか、心配になっちゃったんだな……。メイベルの母親は。騒いで腹が減ったので、鹿肉を切り分けて食う。うん、うまい。良かった、一人でひっそりと練習した甲斐があった……。メイベルも無事、喜んで食べてたし。ああ、でも、元はと言えば俺が太ってると以前にからかったせいだな。



 だからあんな、公園で無茶な運動をしていて……。探しに行って良かった。今度からはもうちょっとちゃんと、気を配ってやらなきゃな……。



「だ、だから俺、大学に入ったら、姉さんとウルトラハッピーな生活が送れると思ってたのに……!!」

「えっ、ごめん」

「完璧邪魔じゃん、俺ら」

「でも、俺。またメイベルちゃんに腕枕をして貰いたいから……」

「おれ、俺も、その、メイベルがいないと困る……つらい」

「……まぁ、メイベルのことなら俺がちゃんと、」

「絶対に絶対に、貴様との結婚なんて認めないからな……!!」

「飛躍しすぎだろ、考えが」

「いやぁ~……うん」

「アレン、アレン。お前は気が付いてないのかもしれないけど、最近はずっとメイベルちゃんのことしか話してないからな……?」

「あ? 気のせいだろ」



 確かに、メイベルは目を離すと怪我したり寝込みそうだから、何かと気は遣ってるが。常にってことはない。別に、メイベル以外の話もしてるし。にしても遅いな、様子を見に行った方がいいか……? 



 その時、リビングのドアが開いた。振り返って見てみると、やっぱり軽く泣いていた。目の端の方に涙が溜まってる。それでも拭いて、メイク直しもしたんだろうが。あいつのことだから、階段を降りている途中でまた思い出して泣けてきたんだろうな……。



「ごめんね、ウィル。みんな……」

「姉さん。いや、別に大丈夫だけど?」

「おかえり~、メイベルちゃん」

「「おかえり~」」

「温め直すから座ってろ、お前は」

「あっ、ありがとう。アレン……」



 すかさず椅子から立ち上がって、メイベルの皿を持つとヘンリーがこれ見よがしに深い溜め息を吐きやがった。てめぇ、後ろからそのお綺麗な髪の毛を毟ってやろうか!? しかし、いちいちキレていても仕方が無いので耐える。それに、最近はしょっちゅうメイベルが見てくるし……。



(どうもあの目には弱い……弟に似てるからかな)



 じっと澄んだ瞳で凝視されると、言葉に詰まってしまう。それに弟の姿と重なる。まぁ、俺がいくら何を言ったって無駄なんだろうな……。メイベルには到底敵わない。



 メイベルが食べていた鹿肉はラップにかけて冷蔵庫に入れ、鍋に火をかけて温め直す。この方がうまいし、早い。残りは夜にでも食うだろ、また。



(そうだ、落ち込んでたな……)



 向こうにいるメイベルを見てみると、弟と話をしながらもどことなく元気が無かった。感情移入しすぎだろ、あいつ。よくもまぁ、そんな、他人の恋愛話を聞いて入り込んで落ち込めるな……。



(パン……いや、腹がいっぱいになるか。じゃあ)



 確か冷蔵庫に苺があったはず。こっそり保存魔術をかけて、丁寧に隠しておいたやつが。それに、冷凍庫にヘンリーのアイスがあったっけ。いや、寒い。こんな寒い時期に食うもんじゃねぇよ、アイスは。何故かあいつは、もちゃもちゃ食ってるけど。チョコもあるにはあるが、甘いやつだし。鹿肉とは合わんだろ。いや、苺を出したら他の連中もうるさいし、ここは帆立を切って追加してやるか。



(そう言えば、使いかけの玉葱もあったな……)



 急遽小皿を出して、玉葱を切って帆立を乗せる。ついでにオレンジソースもかけておく。俺が慌ただしく動いていると、リビングの方から「どーせあいつ、メイベルちゃんのために何かしてるぜ」と聞こえてきた。聞こえてるからな、ヘンリー! あとでぶん殴ってやる、絶対に。



 キレつつ両手に皿を持って、メイベルの下に行くと「あっ! きた、慰めの帆立が!」と言い、やたらとキラキラした目で見上げてくる。何で知ってんの、お前……。



「……まぁ、これでも食って元気出せ。あと他に何か欲しいものは?」

「俺、胡桃パン」

「俺はシチュー」

「俺はサラダをお代わりしたい!」

「み、水をください……」

「てめぇらには聞いてねぇよ。はーあ……んで、ダニエル? 水だって?」

「つま、詰まりそう……」

「分かった、待て。急いで持ってくるから。クソが!!」



 そう悪態を吐きながらも、空になったコップを受け取って走ってゆく。やっぱり優しいな、アレンは。その後ろ姿を見つめて笑っていると、隣に座ったウィルフレッドがとんとんと、遠慮がちに肩を叩いてきた。



「ん? どうしたの? ウィル」

「姉さん……帰ろうよ、俺と一緒にさ」

「えっ!? でも、だったら今から荷造りしないと……」

「ええええええーっ!? メイベルちゃん、消えちゃうの!? せっかくの常識人が!」

「消え……?」

「ちょっと待て、落ち着こう。ただ、泊まりに行くってだけの話だよね!?」

「お前ら、うるさい!! ほい、ダニエル。水」

「うぐっ……めい、メイベルが。かえ、帰っちゃう……!!」



 帰るつもりは特にないんだけど。何故か、アレンまで不安そうな顔で私を見てくる。戸惑って見つめ返していたら、ウィルフレッドが苛立った様子で、私の手を握ってきた。



「ウィル? あのね、」

「姉さん……帰ろう? 俺、ずっと淋しかったのに……」

「でも帰ると、マリエルさん達もがっかりしちゃうから……それに楽しいし、私」

「姉さん。俺、嫌だよ。前みたいにまた……」

「も~、それは昔の話でしょ? ほら、傷もすっかり治ったし」



 みんなには多分、よく分からない話なんだろうけど。私が笑って袖を捲ってみたら、ウィルフレッドが慌てて「寒いだろうからいいよ、もう」と言って袖を上げてくれる。やっぱり優しいな、ウィルは。すごく可愛いし……!!



「ねっ? 何も心配はいらないし……今日は一人で帰ってね?」

「ねっ、姉さん……!!」

「えっ? 泣くんだ、そこで……」

「やばいな、メイベル弟。裏表も激しいし……」

「まぁ、これでメイベルちゃんがどこにも行かないなら……一件落着ということで!」

「うん……良かった……」

「ふが!? 俺、完全に寝てた! どうしよう、遅刻しちゃう!!」

「落ち着けよ、ハリー。休みだろ、今日は」



 泣いちゃったウィルフレッドを励ましつつ、アレンがくれた慰めの帆立を口に運ぶ。夜にまた食べるのが楽しみだな、鹿肉もサラダも。もぐもぐと食べていると、「お願いだから帰ろうよ~」と泣いて縋ってきた。胸が痛むけどでも、楽しいしな……ここ。アレンも甘やかしてくれるし、家にはお父さんもいるし。申し訳ないけど最近、ちょっとお父さんのことが鬱陶しくなってきたし……。



 ウィルフレッドの柔らかな栗色の頭を撫で、なるべく優しい声を出してなだめる。



「あのね? ウィル? 私ももういい年なんだし、一人暮らしぐらい」

「ここ、シェアハウスだし……男がいっぱいいるし」

「でも、女性もいるよ? それにみんな優しいし……嫌なことなんて何もしてこないし」

「姉さんは許容範囲が広いから……」

「「それは確かに」」

「変態だもんな、メイベルは。異常な優しさ」

「俺にも……優しくしてくれるし。出来たらずっといて欲しいな……」

「大丈夫、いますよ~」

「ねっ、姉さん……!!」

「ほら、ウィル。ソファーでゆっくりしよう? いつもみたいに」



 ソファーに移動して、ぐすぐすと泣いているウィルフレッドの頭を撫でていると、アレンが「確かに近いな、距離が……」と呟く。でも、膝枕してるだけだし、いつもより抑え気味なんだけどな……。



「姉さん、キスしてもいい?」

「どうぞ~」

「えっ」

「アレン、メイベルちゃんを見てないで後片付けを手伝ってくれないか? なぁ?」

「何でキレてんの? ヘンリー……別にいいけどさ、手伝うけどさ」



 アレンがぶつぶつ言いつつ、キッチンの方へ向かうと、ハリーが勢い良く立ち上がった。



「俺は寝る! 二人の横で!!」

「そうだな、それが一番俺らにとっては有難いよ。皿を割りそうでやだ」

「何だと!? わざと割ってやろうか!?」

「それはフォークだな。好きに投げてれば」

「そうする!! ていっ!」

「アホか、本気で投げるやつがいるか!? ああっ、照明に引っかかって……!!」

「思いっきりぶんって投げたな、今な」

「おいおい……落ち着くんじゃなかったのか? 二十七歳。いや、お前。確か二十九歳だったよな……?」



 みんなが騒いでいるのも気にならないぐらい、落ち込んでいるのか、ゆっくりと起き上がる。ウィルフレッドが両腕を伸ばして、私をぎゅっと抱き締め、頬に何度もキスをしてきた。そのくすぐったさに笑っていると、虚ろな眼差しのダニエルがやって来る。



「めい、メイベル……あの」

「はい?」

「いや、その、ウィルフレッド君……やめた方がいいと思う」



 ダニエルがテーブルに手を置いて、腕を伸ばし、ウィルフレッドをぐんっと無理矢理引き剥がす。そんな力が出せたんだ。びっくりした、ちょっと怖かったかも。いきなりべりっと剥がされてしまったウィルフレッドが、赤い目でダニエルのことを睨みつけた。



「何だよ、せっかく会えたのに……」

「駄目だ、その……距離が近すぎるし……見てる方も困っちゃうから」

「えっ? えーっと、すみません。あの、私達、家ではいっつもこうだから……」

「いい。メイベルは何も悪くないから……ただ、そういうことはやめて欲しい。このシェアハウスで」



 いつになく険しい口調で告げ、ウィルフレッドを強く睨みつける。いつもは優しいのに。こんな顔、初めて見た……。ウィルフレッドがそんなダニエルを見て、ぽつりと呟く。



「……あんたは自覚がある分、クソアレンより厄介だな」

「えっ……まさか分かって、」

「クソアレン……?」

「ね、姉さん? いや、今のはちょっと流れで言ってみただけで」

「流れで言っていいことと悪いことがあるでしょう? もう! 二度と言っちゃ駄目だからね?」

「はい……姉さぁーん……」

「あ、あの、だか、だから、ちか、近いんだってば……!!」

「ごめんなさい、ダニエルさん。この子、甘えん坊で……」










 まだちょっぴり泣いているウィルフレッドを、アレンと一緒に駅まで送る。ウィルフレッドは何故かヘンリーやハリーをちらちらと見ていたけど、二人は「まぁ、うん。アレンと一緒に行くといいよ……」と言って目を逸らしていた。そう言えば二人とも、寒がりでインドア派だった。きっと、暖かいお家にいたいんだろう。



「じゃ、気をつけて~」

「ね、姉さん……本当に俺と一緒に帰らない? 電車賃出すからさ……往復分」

「帰らない。ごめんね~、ばいば~い」

「お前、たまに笑顔で人のことを拒絶するよな……?」

「えっ!? アレンのこと、拒絶したことあるっけ? 私」

「いや、俺はお前に拒絶されたことなんて一度もないけど?」

「イチャつくのやめてくれない? じゃ、姉さんに何かしたら殺すから。よろしく」

「も~、ウィルってば!」

「何もしないって、だから……」



 何度も何度も振り返って、こちらを見てくるウィルフレッドに笑って手を振っていると、隣でアレンが「シスコンじゃん……あれ。シスコンじゃん」と呟く。そうかな、確かに私のことはそれなりに好きなんだろうけど……。黒いロングコートを着て、紺色のマフラーを巻いたアレンが、こちらを見て呟いた。



「よし。そんじゃ、買いに行くぞ。マフラー。あとお前が好きな苺フィナンシェの店が期間限定オープンで、」

「えっ!? そうなの!? 期間限定オープンって何!?」

「今日と明日と、明後日だけやってるみたいで。行くか、地下に」

「行く~! やった~!」






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