15.女装男装パレードと社畜がずっと憧れていた一日
「わぁ~、すごい! すごい人出……」
「おい、はぐれんなよ。ノア、手を繋いでやれ」
「はーい。俺さ、てっきりアレンがお母さんみたいに、メイベルちゃんの手を繋いで歩くのかと思ったよ……」
「蹴り飛ばしてやろうか? お前。無駄口叩く暇があったらしゃきしゃき歩け。はぐれたらめんどい」
エオストール王国首都リオルネで行われる女装男装パレードは毎年、秋に行われる。参加人数は二千名までと決められていて、当日は酷い混みようだと聞いていたけど────……。
「はーい! そっちの人押さないでー! パレードに参加する予定の方はこちらでーす、一応男女別に更衣室もありまーす! ただ今一時間待ちでーす」
「おっ、あれ。戦争の英雄じゃん……流石は雑用課。駆り出されてる……」
「ライ叔父さんいるかな、ライ叔父さん……」
紺色のダブルコートを着たアレンがさり気なく私を誘導しつつ、人混みの中でメガホンを持って叫ぶ戦争の英雄“火炎の悪魔”を見つめる。長い赤髪に琥珀色の瞳を持った彼は紺碧色の制服を着ていて、苛立った様子で「押さないで、押さないでー。そこ! 気をつけて!」と叫んでいた。何度かお店に来てくれたし、一応知り合いなんだけど、忙しそうなので声はかけないでおく。
がやがやと人でごった返す道をゆっくり歩いて、集合場所へと向かった。
「私、もう軍服に着替えてきて良かった……」
「あれだって、男はどっかそこらへんの道端で着替えるやつが多いんだって。どうする? ノア? 魔術で囲いでも出してやろうか?」
「そんな、豚みたいに言わないで欲しいんだけど? 大丈夫、対策はしてあるから。トイレで着替えてくる」
「公衆トイレで? どこの?」
「いや、知り合いが貸してくれるって。そいつの家がワンルームだからさ、ちょっと窮屈だけど中で着替える予定」
「おう。そんじゃあえーっと、どうする?」
「迷子防止のやつ持ってきたから、はい」
「わっ、ありがとう。用意がいいね……」
ノアから体に貼るタイプの迷子シールを二枚渡され、受け取る。これは相手が今どこにいるのかを把握して、「あと二歩進めばいます」という指示を出してくれる魔術仕掛けのシールだ。白いシールに浮き出る指示に従って歩けば、相手に会えるという仕組みで。
「魔力登録出来た? アレン」
「出来た出来た。えーっと、どこに貼ろうかな……」
「私は手の甲に貼っておこうかな……左手をノアにして、右手をアレンにするね!」
「へー、良かったね。アレン。大事な利き手に貼って貰って」
「この間から本当、お前ら何なの? 鬱陶しくて仕方が無いんだが?」
「あっ、ノアのシールを右手にしようか……?」
「いや、別にいいから。そんじゃあ、また後で~。でも合流し辛いからアレン、メイベルちゃんの傍から離れないようにしてて~」
「分かってる。そのつもりだ。じゃあな~」
シェヘラザードにマリエル、ヘンリーとダニエルとハリーが「別行動でいいんじゃない? どうせパレードで一緒になるでしょ」と言い出したので、別行動をしている。
「何かあれだね……統率と言うかみんな、自由だね……ちょっと淋しいかも」
「俺じゃ不満か? メイベル」
「そんなことないよ、アレン。でも、みんなで一緒にわいわい行きたかったなぁって……」
「あのな? よく考えてみろよ。どうしてもニワトリの着ぐるみを着ていくって言ってうるさいハリーと、高級車に乗ってゆうゆうと着替えるつもりのマリエルとシェラ。ずっと泣いてるダニエルに発作を起こすヘンリーと、嫌味なノア。そんな俺らが集まると喧嘩しかしないだろ……?」
「喧嘩しかしないんだね……?」
「以前、みんなで居酒屋に行って酷い目に遭ったから。そこからはもう現地集合、現地解散が基本だな。おい、はぐれんなよ。お前……」
「あっ、はい。ごめんね……」
アレンが「俺の服の裾にでも掴まっとけ」と言ってくれたので、コートの袖を引っ張る。だけどコートの袖は嫌だったのか、振り返ってじっと見つめてきたので慌てて裾に変更する。
「ごめんね、歩きにくかったよね……?」
「……いや、別にいいけど。あっ、あっちの方に白いテントがある。俺、適当に着替えるからお前はよそ向いとけ。いいな?」
「分かった! その、メイクは……?」
「待機場所でする。ファンデーションとチークは塗ってきたから、立ったままでもいけるだろ?」
「いける~、わーいっ! 楽しみだなぁ、ふふふふっ」
「程々にしろよ、お前。まぁ、大丈夫か。お前なら……」
「わぁ~、すごいな! メイベルちゃん、かっこいい~」
「あっ、そう言えば見てなかったっけ……? ハリー、どう? 似合う? 似合う?」
「似合う~、凛々しい~、かっこいい~」
いつもより更に顔色が悪いハリーが力なく笑って、両手を叩いて褒めてくれる。黒い修道服がよく似合っていた。マリエルが施したのか、口紅まで塗っている。
「メイベル、俺も。俺も褒めて欲しい……」
「ダニエルさんもよく似合ってますよ~! 素敵です! 落ち込んでいる未亡人みたいで!」
「ありがとう……」
「褒め言葉か? それ」
「アレンも素敵でよく似合ってるよ! 美人さん!」
「いや、俺も褒めてと催促した訳じゃないんだが……? まぁ、有難く受け取っておく」
緩やかに波打っている金髪に深い青色のドレスを着たアレンは、本当に美しかった。艶々と光っている血色の良いお肌に、ぷるんとした赤いくちびる。伏せられた睫は長く、青い瞳は神秘的に透き通っていた。ほんわりと乗せたチークといい、まぶたに乗せたブラウンとワインレッドのアイシャドウといい、色っぽくて貴族の美しいご令嬢みたいだ。あまりの美人さんっぷりに感動して、ふるふると震えてしまう。
「本当に素敵だよね、アレン……!!」
「そうか? まぁ、そうかもしれないな……」
「お前な、一番嫌がってたくせに一番ノリノリって一体何だよ……? それ絶対魔術も使ってんだろ、詐欺かよ」
「おっ、ヘンリー。流石だな、腹筋割れてる」
「わーっ! ヘンリーも素敵ーっ!!」
白いテントに現れたのは燃えるような赤髪を持った踊り子で、きゅっと引かれた紅が美しい。ダークブラウンの瞳を細め、ヘンリーが妖艶に笑う。確かに腹筋が割れていて素敵なんだけど、ちょっとだけ目のやり場に困ってしまった。逞しい腰周りに下げた金色の飾りをじゃらりと揺らし、足首に付けた鈴がその動きに合わせてしゃりんと鳴る。
「ほらっ、ショールも持って来たんだぞ~。真っ赤なやつ~」
「うわ、派手。やっぱ、ちょっといかがわしい雰囲気で纏めてきたんだな……」
「まぁ、いいんじゃない? 私よりかは見劣りするけどね」
「マリエルさん! ひゃあああああっ!」
煌く金髪を後ろで一本結びにし、凛々しい騎士服姿のマリエルが笑う。腰に下げた長剣も聡明な青い瞳も美しく、どこか男性的な雰囲気を漂わせていた。いつもと違って口紅も塗っていないからかな、なんだかやけにドキドキしてしまう……。
「かっこいい~! 素敵!」
「ありがとう、メイベルちゃん。貴女も素敵よ~。やっぱりいいわぁ、それ~」
「ん、メイベル。おはよう……いや、こんにちはかな?」
「シェラ! しゃっ、写真! 写真撮りたいです、私っ!」
「落ち着け、持ってきてやったから。あと一応、酔い止めと頭痛薬も持ってきたから。いつでも言えよ、メイベル」
「はい! お母さん! いや、アレン」
「すっかりお母さん扱いじゃん、アレン……」
シェヘラザードは柔らかな茶髪のウィッグを被って、甲冑を着こなしていた。長身ですらりとして、無表情だからか余計にクールな格好良さが漂っている。どこを見つめているのかよく分からない、ぼんやりとしたダークブルーの瞳が美しい。思わず二人に駆け寄って、その顔を見上げる。
「素敵~! 後で一緒に写真を撮りましょうね~」
「撮りましょうね~、楽しみだわぁ~」
「どうしてだろう……あの格好のマリエルさんに踏んで欲しいとは思えないな、あんまり」
「あんまりなのかよ、ハリー……てめぇ」
「俺はやっぱりあれだな、メイベルちゃんだな! 俺とメイベルちゃんが並んで歩いたらこう、いい感じにならない!?」
「だな、ちょっとあれな感じになるけどな。絵面が」
「俺、俺……後でメイベルと一緒に写真を撮る……」
「親子感出そう、何となくだけど」
「えっ……」
わあぁっと、すごい歓声が上がった。大通り沿いの歩道が人で埋まっている。すごい。興奮気味の人々の顔を見渡し、黒い軍服を着て馬に跨っているメイベルが息を吐き出した。
(マリエルさんかな? それともシェラにかな……すごい歓声)
ぶるんと鼻を鳴らす大人しい馬の首を撫で、前を向く。手綱を握って馬を引いているのはアレンで、逆なんじゃないのかなと思うんだけど……。
「ねぇ、アレン? 私とやっぱり交代した方がいいんじゃ……」
「お前、馬の扱いに慣れてないだろ? 俺は慣れてる」
「でも、そんなに素敵なドレス姿なのに……」
「手を振ってやれ、メイベル。群衆が注目してるのはお前だぞ。まぁ、前方にいるシェラ達にもなんだろうけど……」
「えっ? 本当に……?」
アレンの言葉を聞いて辺りを見回してみると、確かに可愛い女の子達が私を見て「わーっ! 可愛い! かっこいい!」と叫んで手を振っていた。ぎこちなく笑って振り返してみると、「きゃーっ! 可愛い~」と歓声が上がる。どこか色気を漂わせたドレス姿のアレンがふんと鼻で笑い、手綱を握り締めた。
「単純だな、服装が変わっただけで」
「アレン。ほら、アレンもあそこのおじさんに手を振られてるよ~。振り返さなくていいの?」
「そういうことは言わなくていいから! 見ないようにしてたのに、まったく……」
「俺は余裕で振り返せるよ~。アレン、意外と繊細だなぁ、お前」
「うるせー、ヘンリー。黙って歩けよ、お前。いやもう、お前がアホみたいにずっと手を振っとけ。それで解決だ」
「俺はきゃあきゃあ騒がれない……!! ニワトリの着ぐるみを着てきた方が良かったかも!?」
「やめろ! 女装じゃないだろ、それは」
「そうだね、トサカが付いてるし……」
「そういう意味じゃねぇよ、この社畜野郎が……」
全員に手を振り返さなくてはいけない気がして、必死で振っていると「可愛い~、あの子」という声が聞こえてきて居た堪れなくなってやめる。どうしよう、今、絶対顔がものすごく赤い……。
「アレン、代わってくれる? あ、いいや。私もちょっと乗ろうかしら、馬に」
「うえっ? マリエル? ちょっと待ってくれ、一旦止まるから……あ、いや、こっちの方が早いか」
アレンが少しだけ考え込んだ後、指先を振った。するとふわりと魔力の風がマリエルを包み込み、馬へとそっと乗せる。振り返ってみると、眩いばかりの笑顔を浮かべたマリエルが座っていた。まぶ、眩しい……かっこいいし、緊張してしまう。
「まっ、マリエルさん。あの?」
「緊張しているんでしょう? メイベルちゃん。大丈夫よ、ほら。私が手を握っててあげるから」
「ひゃっ、ひゃい」
相変わらず指が細くて華奢で、手のひらがふっくらと柔らかい。ますます緊張していると、耳元でくすりと笑った。
「大丈夫よ、ほら。今日晴れて良かったわね、メイベルちゃん」
「あっ、はい。陽射しにマリエルさんの金髪がとっても映えて綺麗……」
「ありがとう。可愛いわぁ~、本当に。後で一緒に写真を撮りましょうね~」
「はい……!!」
「後で俺と二人だけで写真撮らない? メイベルちゃん」
「ノア! やっと来た!」
白い羽根飾りを揺らし、ノアがにっこりと妖艶に微笑む。真っ赤な薔薇を連想させる、深紅色のドレスと緑がかった黒髪が美しい。多分、一番美しいのはノアだ。いや、でも、マリエルとシェヘラザードもすっごく素敵だし……。そう言えばシェヘラザードはどこにいるんだろうと思い、首を伸ばしてみるといた。大通りの端っこを歩いて、真っ赤な顔の女の子達にひらひらと手を振っている。
「すごいな、シェラ……人気が」
「本当に。でもあの子、普段からちょっと男性っぽいから」
「何となく分かる気がします……!!」
「マリエルさん。修道女はやっぱ人気が無いんですかね……?」
「貴方の顔色が悪いからじゃない? ハリー。よく似合ってるんだけど、ドレスにした方が良かった?」
「いえ……」
ハリーがすぐ横で黒い裾を持ち上げ、沈鬱な表情で歩いていた。どうも横のノアやアレン、ヘンリーと比べて人気がちょっとだけ無いので落ち込んでいるらしい。
「ハリー。でも、ハリーもハリーで……」
「何だよ、あのおっさんども。カメラがごつくないか? あと確実に俺のことを狙ってるだろ、あれ」
「良かったな、アレン。知らないおっさんどものアルバムに、お前の美しい女装姿が収められるんだ……」
「ヘンリー、落ち込むようなことを言うなよ……」
ハリーがそんなやり取りをじっと見つめてから、笑顔で私を見上げて「やっぱり注目されなくて良かったかも! 俺!」と言い出した。するとアレンが怒ってドレスの裾を持ち上げ、「蹴ってやる! 蹴ってやる!」と叫び出す。
冬の青空が遠く澄み渡る中で、青いドレス姿のアレンが「こらっ! 待て、ハリー! このクソ社畜が!」と言って追いかけ、ハリーが満面の笑顔で「お前のことだから、すね毛もわき毛も剃っているんじゃないかーっ!? やーいっ、やーい!」とからかう。
(ああ、良かった。楽しそうで……)
きっとハリーはこんなことがしたかったんだ。思いっきりはしゃいで馬鹿なことをして、友達と遊んで。辺りにいる女装と男装をした人達もアレン達を見て笑い、弾むように歩いてゆく。
「微笑ましいですね、何か……」
「そう思うのはメイベルちゃんだけでしょ……くだらな」
「ノア? 何か言った?」
「いいえ……別に何も。マリエルさん」
ダニエルはあの遊びに混じるつもりは無いらしく、緊張してぶるぶると震えてヘンリーの背中にしがみついていた。するとすかさず、腹筋が綺麗に割れている踊り子姿のヘンリーが苦笑して、「大丈夫ですか?」とダニエルを励ます。
「ダニエルさん、大丈夫ですか? この後、すぐにでも帰った方がいいんじゃ……?」
「いやだ。俺もこのままその、メイベル達と一緒にパレードする……」
「大丈夫か? 人気投票とかあるけど」
「人気投票……って一体何? ヘンリー」
「勝手に向こうのスタッフが見目の良い人間を選んで、ステージに上げて投票開始するやつ」
「えっ」
「やだ、何それ。真っ先にメイベルちゃんが狙われちゃうじゃない、も~。やだ~」
「だっ、大丈夫だと思いますが……」
マリエルがぎゅっと私を抱き締めると、何故か女の子達から「きゃああああっ! 素敵っ!」と黄色い歓声が上がった。思わず耳まで真っ赤になってしまう。どうしよう、物凄く緊張する……。こんなに人から見られるのは初めてだから。
「マリエルさん、あの。緊張しちゃうのでもう少しだけ離れて……」
「ハリー、貴方。カメラ持ってるでしょ? こっちに来てこの、今すぐ真っ赤な顔のメイベルちゃんだけを撮りなさい。分かった?」
「仰せのままに、女王様!!」
小さな声でも聞き取れたのか、修道服姿のハリーがカメラを持って全速力で走ってくる。素敵な修道女姿なのにガ二股で踏ん張って、「メイベルちゃーんっ! 笑って笑ってー!」と叫んでカメラを向けてきた。どうしよう? 上手く笑えないし、絶対に情けない顔になっちゃってる……。
「おい、こら。嫌がってんだろうが、ハリー。メイベルがさ!?」
「おっ、来たな。メイベルちゃんの番犬が! お前も撮ってやろう! はははははは!!」
「やめろおおおっ!! てめぇ!! ぶっ殺す!! てかそのカメラをぶっ壊してやる!!」
「きゃああああーっ、修道女に対してひっどぉーいっ!」
「うるせえっ!! ただの仮装だろ、ただの仮装! いやっ、本物の修道女でも許さん!! 神の御許に俺が送ってやらああああっ!!」
今日は二人とも、随分と楽しそうだ。良かった。時計台の広場から王宮の前まで賑やかにパレードした後、どこからかにこにこ笑顔のスタッフさんがやって来て馬を回収する。どうしよう、ステージがある……と思って緊張していると、やっぱりアレンとマリエルとシェヘラザードとノア、ヘンリーと最後に私が呼ばれた。
「うぐっ、緊張する……どうしよう、マリエルさん……」
「大丈夫よ、メイベルちゃん。私が手でも握ってあげましょうか?」
「おい、メイベル。優勝したら牛肉一キロ貰えるんだってよ! 優勝しような? なっ?」
「アレン。だからお前、さっきメイク直しをしていたのかよ……」
「ほんとアレンってさ~、ケチ臭いと言うかせせこましいと言うかさ~」
不満げな美しいノアの肩を叩き、アレンがにっこりと笑う。ちょっとびっくりした、笑うんだ……。
「お前が優勝候補だよ、きっと! おばはんとおじんどもに愛想を振りまけ! いいな!?」
「うわ、あからさま。別にいいんだけどね……」
「あっ、良いこと思いついたわ。シェラ~、こっちに来て~」
それまでパイプ椅子にぼーっと座っていたシェヘラザードがこちらを振り向き、甲冑を鳴らしてがちゃんと立ち上がる。やっぱり、茶髪とダークブルーの美しい瞳が男性っぽくて格好良い……。思わず見惚れていると、こちらへとやって来た。
「ん、何? マリエル……」
「折角だからほら、腕を組んでステージに行きましょうよ。それでね? ノアを中心に……そうね、逆ハーレムっぽくするの。アレン、貴方達みたいな馬鹿はそんなことしたくないでしょ?」
「あ? てめぇ、喧嘩売ってんのか? クソババア! やれるし! 俺だってやれるし!!」
「おいおい、アレン……単純すぎだろ、お前」
「呆れるよ、本当……」
そんな訳で、マリエルと皆で打ち合わせをする。その結果、何故か私は妖艶な踊り子姿のヘンリーに抱っこをされて登場することになった。マリエルは「初々しい軍服姿の少年が、腹筋割れてる踊り子に抱えられてるって、結構笑えるでしょ?」と言っていたけど、大丈夫かな……。
「ヘンリー、ごめんね? 重たいでしょう?」
「余裕余裕、軽い軽い~」
「それでアレンはシェラとね。シェラの腕に手を添えて淑女らしくね? できる? 黙って歩ける? アレンちゃん?」
「おい。馬鹿にしてんのか、てめぇ……余裕だし! お前がチビるくらいの淑女らしさを見せてやんよ!!」
「うわ、ちょっろ~。アレン」
「ノアは私とね? お手をどうぞ、お姫様」
ステージ上の司会者に呼ばれ、登場すると会場に笑いが湧き起こった。思わず赤くなってヘンリーの首にしがみつくと、「可愛い~」と歓声が上がる。だい、大丈夫なのかな……本当に。
「おおっと! これは豪華! 皆さん綺麗! 美しい! 牛肉一キロ分を掻っ攫っていくのはこのグループかーっ!?」
金髪を煌かせたマリエルが、にっこりと微笑んで手を振ると歓声が上がった。それに合わせて横にいたノアも優雅に微笑み、深紅のドレスの裾を持ち上げてお辞儀をする。可愛い……。それを見てアレンも悔しくなってしまったのか、負けじとシェヘラザードの腕を掴んで前に出る。
そして、今までで一番可愛らしい笑顔を浮かべて小さく手を振った。お姫様っぽくて可愛い……また今度して貰おうっと。
「ほら、メイベルちゃん? 俺らも何かしようぜ、折角だからさ?」
「あっ、うん。そうだね、ヘンリー……ええっと、どうしようかな?」
ヘンリーがおもむろに赤いショールを持ち上げ、ふわりと私の頭に被せた。不思議に思って首を傾げ、赤いショールを持ち上げてみると何故か「きゃあああああっ!!」という歓声が上がる。ふとアレンを見てみると、苦虫を潰したような顔をして「卑怯だろ、それ。メイベル」と言っていた。ええっと、視界が遮られるから持ち上げてみただけなんだけどな……。ヘンリーが低く笑い、私をぎゅっと後ろから抱き締める。
「これで牛肉。ゲット出来るかな~、どうかな~?」
「ゲット出来るといいね~、ヘンリー」
「だねぇ、メイベルちゃん。何にしようっかな~、どうしようっかな~」
ご機嫌で揺れていると、何と私が一位を取ってしまった。美しいドレス姿のアレンが「いいか? これで俺に勝った気になるなよ、お前……!!」と言ってきたので笑ってしまう。
「ふふっ、楽しかったね~。女装男装パレード!」
「何故、俺は途中からお前を敵視していたんだ……? 上手く思い出せない、記憶が無い……!!」
「アレン、大丈夫か? 女装の弊害か?」
「ヘンリー、前見て運転しろよ。お前」
短い距離だけど、くたくたに疲れ果てたので車に乗って帰る。ノアはこれからお仕事があるみたいで、一緒には帰れなかった。マリエルとシェヘラザードは嫌がってたけど、疲れたみたいで後部座席で仲良く眠っている。そして、選んで貰えなくてぐすぐすと泣いているダニエルがそんな二人の横に座っていた。
ふと、隣に座っているハリーを見てみる。一日中はしゃいでしまって疲れたのか、さっきから無言だ。
「ハリー?」
「ん? 何? どうしたの? メイベルちゃん」
「ええっと、楽しかったのかなって。今日……」
「……うん。楽しかったよ、メイベルちゃん。どうもありがとう、俺のためにわざわざここまでしてくれて……」
でもきっと、これで終わったら悲しいから。横に置いた鞄の中からポテトチップスとクッキーとチョコを取り出し、わさっとハリーの手に押し付ける。赤いトサカ付きのニワトリの着ぐるみを着たハリーが首を傾げ、白い羽根部分でお菓子を抱えた。
「あの? メイベルちゃん。これは一体……」
「一緒に食べよう? こうやってね? わいわい遊んだ後にみんなでおやつを食べるんだ。美味しいよ、きっと! これが一番!」
「……そっか、そっか。ありがとう。メイベルちゃん……」
その感謝に全ての苦しみが込められているような気がして、胸の奥が狭くなる。でも、過ぎた同情は相手を傷付けるだけだから。にっこりと笑ってポテトチップスの袋を持ち上げ、破く。
「おっ、メイベル。俺にもくれ、俺にも~」
「いいよ~、どうぞ~。これね? ピンクソルト味なんだって!」
「あ? ピンク色に変わったからって何だ? また妙な宣伝をしたポテトチップスを買いやがって」
「アレン、俺にも~。俺にも一枚くれ~」
「へいへい。十枚ぐらい一気に突っ込んでやるから、ちょっと待てって」
「それ、俺が窒息死するやつじゃん……やだ」
ハリーが無言でもそもそとポテトチップスを食べ、赤いトサカを揺らす。何だか途方に暮れた子供みたいだ。気の毒に思って、チョコ三個をそっと膝の上に置いておく。
「メイベルちゃん、俺」
「うん。なぁに? どうしたの? ハリー」
「このポテトチップスが。初めて食べたんじゃないかってぐらい、美味しいよ……ありがとう」
「どういたしまして! あっ、そうだ。アレン。今回沢山迷惑かけちゃったから、プリン買ってきたよ~」
「でかした! メイベル! 仕方が無いから許してやろう!!」
「ちょっろ、お前。ちょっろ……」




