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優しい彼女と変人だらけのシェアハウス  作者: 桐城シロウ
第一章 秋に出会って、冬を越す
13/134

番外編詰め合わせ(書き足した)

 







「ネームプレートってどんな感じのが欲しいんだ? イメージは固まってるか?」

「ええっとね、アレン。こう、ふくふくの栗鼠(リス)ちゃんで! 真っ赤なラズベリーを持っていて服は着てなくて大丈夫! 裸で大丈夫!」

「裸っつーか栗鼠は服着ないけどな。こんな感じか?」



 アレンがすらすらと色鉛筆で栗鼠を描いて、それを見たメイベルが栗色の瞳を輝かせる。ここはメイベルの部屋で、二人は白いスケッチブックを床に広げてそれを眺めていた。



「わぁ~! 可愛い~! 上手~!」

「まぁ、子供相手に絵を描いて説明する時もあるから……意外とな、魔術はイメージ大事だから」

「へ~、よく分からないけど凄いね! アレン! でもこっちに葉っぱと木の実を付け足して、板は無垢の木でこっちの下の方には出来ればケーキも、」

「褒める割には結構要求するじゃねぇか、お前……」

「わ~! ごめんなさい、アレン……!!」



 青白い顔で振り返ったアレンに、メイベルが慌てて謝る。それを見て溜め息を吐き、青いシャツの袖を捲り上げた。



「ま、いいけどな。別に。あと他には? 何を付け足す?」

「えっ、ええっとじゃあ、裏面にアレンのサインが欲しいかも……」

「何で!? お前、いつか俺が魔術書を売り出して有名になった時にそれを転売するつもりじゃねぇだろうな!?」

「あっ、魔術書を書くんだね……頑張って!」



 アレンが嫌そうに顔を顰め、色鉛筆を握り締める。メイベルがそれを見て可愛らしく首を傾げた。部屋には午前の浅い陽射しが射し込み、開け放ったバルコニーの扉からは少しだけ冷たい風が流れ込んでくる。白いカーテンがひらひらと風に舞っていた。これは彼女がわざわざつっぱり棒を通してかけたもので、普段は何もかけていない。



 彼女は風に揺らぐカーテンを見るのが好きで、この日も床に寝転がってそれを見ていた。飽きもせずに微笑んで、ずっと。



「あのな……そうじゃないのなら、どうして俺のサインなんかを欲しがるんだよ?」

「いつかね、この日に作って貰ったんだなって思い出すために! だから日付も書いておいてくれる? アレン。見返した時に嬉しくなるし……あっ、この絵も欲しい! いーい!?」

「えっ? あっ、ああ。別にいいけど……」



 メイベルが両手で絵を押さえると、アレンが戸惑って体を揺らす。どうしてそんなものを欲しがるのかよく分からない、とでも言いたげに。メイベルは気にせずほっと笑ったが、両手はそのまま絵の端を押さえていた。



「良かった! ありがとう、アレン……すごく嬉しい! じゃあ、ここに木の実とケーキを描き足してくれる?」

「……お前のことだからキャラメルナッチュタルトゥ~! とか言いそうだよな。描いてやる、そんなのを」

「えっ!? 今の変顔、悪意があったんだけど……?」

「気にするな、お前の気のせいだろ」



 アレンが笑って描き足してゆく。メイベルがそれを見てむうっと頬を膨らませ、アレンの肩を優しくぱしぱしと叩いた。



「絶対気のせいじゃなかった! 酷い、アレン! あれでしょ!? お洒落な店で珈琲飲んでる人も馬鹿にするタイプの人でしょ!?」

「珈琲飲んでるだけじゃ馬鹿にはせん。店の内装とネームバリューで飲んでるのなら馬鹿にするが。てめぇらは道端で水でも啜ってろってな! あと揺らすなって、気が散るから。折角お前のために描いてやってんのに……」

「あっ、それもそうだね。ごめんなさい……」



 彼女がしょんぼりとした様子で謝ると、アレンは青い瞳を瞠ってそれを見つめた。暫く黙り込んだ後、ぼそりと呟く。



「まぁ、他にも雑貨とか? 何か作って欲しい物があれば何でも言え。何でも作ってやっから」

「えっ? いいの? 嬉しい……!! じゃあ枕カバーとかカーテンとか作れる!? あとチェストとか!」

「思いっきりコキ使う気だな、メイベル……!! まぁ、いいけど。別に」

「ほ、本当に? 迷惑ならいいんだけど……」



 そわそわと落ち着かない様子の彼女を見て、またアレンが大きく溜め息を吐いた。そして口元に苦笑を浮かべ、またさらさらと絵を描き始める。



「ま、いいよ。別に。俺も暇だし? あ、そうだ。昼飯どうする? 一緒に食いに行くか?」

「あっ、うん。食べに行きたい! あっ、そうだ! フレデリックさんが経営するパン屋に、」

「絶っ対にやだ!! あいつに金払いたくない!! つーか顔も見たくねぇよ、あんな変態! 何が悲しくてわざわざお前と二人で行ってあいつの顔を拝まなきゃ駄目なんだよ!? いらっしゃいませとか言われたくねぇよ、あんな変態に!!」

「あんな変態って二回も言ったね、アレン……」

「事実だろ。変態を変態と言って何が悪い?」



 ふんと鼻から息を吐いたアレンを見て、メイベルが困ったように笑う。そしてその絵を覗き込みながら、栗色の瞳を輝かせる。



「わ~、綺麗! 可愛い栗鼠ちゃんだ~。もういいよ、何でも。アレンが食べに行きたいお店で」

「……じゃあ、おやつの時間にでも買いに行くか。甘いパンを。とりあえずは最近出来たところに飯食い行こうな。お前が行きたいって言ってたところ」

「ありがとう。覚えててくれたの? 行こっか、一緒に。楽しみ~!」




 出来上がったのは木製のアーモンドと胡桃が詰まったキャラメルナッツタルトに、真っ赤なラズベリーを抱えた栗鼠のネームプレート。ちゃんとメイベルの要望通り、深い緑色の枝葉も添えられていた。メイベルが飛んで跳ねて喜ぶと、アレンは「大げさだな、おい」と言って笑う。



 その後、彼女は用心深く裏面を引っくり返し、栗色の瞳を瞠った。そこにはアレンの綺麗な文字で「喜んでくれてありがとう、メイベル。親愛をこめて」と書いてあったから。硬直した彼女を見て恥ずかしくなってしまったのか「貸せ!! やっぱり叩き壊すから、それ!!」とアレンが真っ赤な顔で怒鳴り始め、メイベルは悪戯っぽく笑って「絶対にやだー! 飾るもーん、一生ここに!」と言って走り出す。



 暫くはシェアハウスに、そんな賑やかな笑い声と誰かが走ってゆく音が響いていた。













<おやすみなさいの挨拶 ※メイベルの日課>



「メイベルちゃん、ちょっと俺の足を踏んでくれないか?」

「えっ? あっ、うん! おやすみなさい、ハリー。また明日!」

「もう一回! もう一回だけお願いします!」

「えっ? おやすみなさい……えいっ!」

「もう一回! もう一回だけお願いします!!」

「えっ、ええっと、痛くないの? 大丈夫?」

「大丈夫! お願いします!!」

「さっきから何やってんだ、お前らは……俺が踏んでやろう、ハリー。ほい」

「いやだああああああっ!! 男には踏まれたくないよおおおおおっ!! 入ってくるなよ、アレン!? 折角楽しんでたのにさぁ!?」

「知るか、アホ! この変態どもめ!!」






<どうしてこのシェアハウスにやって来たのか ※酒を添えて>




「あ? 家賃が安かったから。ここには元々俺の友達が住んでいて……アレン、お前なら大丈夫だろって言われて住んでみた。結果、全然大丈夫じゃなかった!! クソだ、クソ。どいつもこいつも非常識なやつばっかで」

「三年ぐらい住んでいるだろうが、アレン……お前な」

「ヘンリーは何年ぐらい住んでるの? 一番ここに長く住んでいる人は?」

「ダニエル。一択」

「いや、そりゃそうだろ……アレン。これが建った当初から住んでるよ、そりゃ」

「クソババアとシェラ辺りじゃないか?」

「残念。俺なんだよ……!! 最初は俺とダニエルさんの二人だった」

「クソかよ。フレデリックとダニエルの二人暮らしって……ぞっとするな。あーあ、怖い」

「何でだよ!! 一応俺、家事とか色々出来るんだからな!? 世話焼いてたからな!?」



二人が喧嘩をして、メイベルが止めたあと座り直して再開。



「じゃあ出会った経緯は? 口コミか?」

「いや……俺、奥さんに追い出されて。ホテル暮らしをしてて」

「あー、はいはい。浮気がばれた瞬間、追い出されたやつな」

「そうそう……それで、近くの飲み屋に行ったら何か不潔な若いにーちゃんがいて」

「もしかしなくとも、それがダニエルさんだな……」

「そっ、それで? 一体どうしたの?」

「声かけて奢ってやろうかって話になって。奢るから俺の話を聞いてくれって言って散々愚痴った。そんで仲良しに」

「「「仲良しに……」」」

「何故、揃いも揃ってぞっとした顔になるんだ……? あああああああああっ!! 俺も奥さんのことが本当に好きで好きで刺して欲しかったのに!! 何のために結婚したと思っているんだ、あのクソアマが!!」

「少なくともてめぇの嫁の頭はまともだったんだよ。変態とは結婚出来ないタイプだった」

「でも、世の中には彼氏を滅多刺しにしている女の子が沢山いるのに……?」

「どこの世界の話だよ、それ。猟奇的だな、おい」

「ははは……まぁ、皆が皆、恋愛を拗らせてる訳じゃないから……」

「うっ、うん。だね……」




メイベルがおつまみを取りに行って一旦中断。アレン達も新しいワインボトルを冷蔵庫から出す。




「そんで? 何で住むって話になったんだよ、それで」

「俺は金が無かった。あと店から近いことも判明して……今まで片道二時間だったから」

「遠っ! 何でだよ、近くに住めばいいじゃん……」

「奥さんの実家に住んでから。そこから娘の高校が近くって……それにお義母さんも足が悪かったんだよ」

「そんで浮気してたのか、お前……」

「してた。いい加減に刺して欲しくて……」

「刺して欲しくて……」

「メイベルちゃん、それはフォークな。俺はナイフで刺して欲しいから。よく覚えておいてくれ」

「はい! 分かりました!」

「メイベル、お前。そのメモ帳何だよ……破り捨てた方がいいやつだろ、それ。絶対。ちょっと見せてみろ、お前。ってうわ!? 何だ!? 何でノアやヘンリーの情報とか、」

「それね、皆が言ってたやつ覚える用……」

「さては酔ってるな? メイベル。水を飲め、水」

「捨てるか、これ……ハリーめ。あいつ、こんなこと言ってたのか……? あっ、マリエルのやつもある。へ~」

「楽しんでみるなよ、アレン。お前な……」

「あれ? 俺とダニエルの話は……?」



捨てないで欲しいとぐずぐず泣き出したメイベル(酔っ払い)をアレンがなだめ、好物のメープルアーモンドを握らせてメモ帳を返す。




「そんであれだ。金が無くて傷心中の俺と構って欲しくて仕方が無いダニエルさんと俺の二人暮らしが始まったんだよ……」

「「うわあ~……」」

「だから何だよ、そのうわぁ~って。嫌そうな顔をするなよ、傷付くだろうが……」

「そんでヘンリー。お前は何で来たんだっけ?」

「えっ……忘れたのかよ、お前。ダニエルさんの両親と俺の両親が遠い親戚で」

「「はっ!?」」

「えっ!?」

「ほんのり血が繫がってるんだよな~、はははっ。だからダニエルさんの血にも、」

「落ち着けよ、ヘンリー。自分でスイッチ押すなっての! にしても珍しいな……両方?」

「両方両方。俺の父と母も親戚同士で。遠いけどね~、何せ貴族というのは」



ここで本格的に爆発して終了。



「ちなみにシェラは一体どうしてここに……?」

「ん、飲み友達からすすめられた……言ってみたらいいんじゃない、楽しそうって」

「楽しそう……確かに楽しいですよね! ここ!」

「多分、それ思うのメイベルだけ……良い人だから」

「えっ!?」

「メイベルちゃん、可愛い~。私はね~、お客さんのホームパーティーに行った後、この家の前を通りかかったのよ。そしたらね、アレンがヘンリーと喧嘩してた」

「えっ!? それでどうなったんですか……?」

「アレンが投げたゴミが……空き缶がちょうど私の頭にクリーンヒットして。揉めてる内にダニエルさんとかが出てきて。シェアハウスだって分かって。家賃聞いてみたら安くて。だから住んでみたの。終わり」

「それでよく住もうと思ったな、クソババア。お前も……」

「今度は私が投げ付けてあげましょうか? ハンドクリームを。瓶入り」

「やめろよ、そうやってすぐに人を脅す……大体な!? あの時も言ったけど俺は別にわざとじゃなくて、」



大喧嘩をし出したので、メイベルが止める。




「何この騒ぎ……あ、もう終わってる。流石メイベルちゃん、やるぅ~」

「あっ、ノア。ノアは……? 一体どうしてここに来たの?」

「えっ? どうしてって、仕事が終わったからご飯食べに来たんだけど……」

「そうじゃなくてだな、ここに住んだ経緯だよ! 経緯!」

「はいはい、うるさいうるさい。まったくも~……俺はモデル仲間にすすめられて。ここに住んでて楽しかったからって」

「誰だよ、その気持ち悪い変態お化けは……」

「気持ち悪い変態お化け……でも、私も楽しいんだけどな、アレン……」

「だからお前もその仲間だ。亜種だな、亜種。善人科変態目」

「えっ、えええ……?」

「まぁ、軽く同意。写真漁ればあるんじゃないのかな~。特にフレデリックと仲が良くて。ダニエルとそいつの三人で海外旅行にも行ってたみたいだから」

「うっげ!! こっわ!! きっも!! 気持ち悪っ!!」

「駄目だって、も~……アレンってば」

「悪い悪い……何か色々と衝撃的で」




アルバムを引っ張り出して見てみる。




「あ、ほらほら。あった。ユージーンと三人でミエレ島に行ってる」

「ひええええ~……風光明媚な島国に何かごっつい美形のマフィアと陰気臭いダニエルとフレデリックガいるうぅ~……こっえ!! ぜってー混ざりたくない!!」

「一応、マフィアじゃないんだけどね。こいつ……社長がいきなり連れてきて。楽しく撮影してたよ」

「えっ、えええええ……タトゥーごっついんだが?」

「でも、かっこいい~。素敵~。楽しそう! いいなぁ、私もちょっと行ってみたかったかも……」

「メイベル!? お前、こんなのが好みなのかよ!?」

「へー、意外。今度紹介してあげようか?」

「やめろっ!! どこからどう見ても住んでる世界が違うだろうが、やめろ!! うわっ、三人でロブスター食いに行ってる……こわ」

「海でも泳いでるよ、ほら。ユージーンは色々起きて楽しかったって言ってた。十日間」

「十日も行ったのかよ……俺ならストレスで死ぬな、やばいな、もう……」

「海行きたい、楽しそう……」

「寒いから来年な。行こうな」

「行くんだ……?」

「こいつ、車の免許持ってないから。だから」







「ちなみにハリーは? どうして来たの?」

「その前に何か言うことと、することがあるんじゃないのか?」

「えっ? おかえりなさい。することは……ああ! 足を踏む!」

「正解! えらい! 頭を撫でてあげよう! それで? 何だっけ? 俺がここに住んだ経緯?」

「そうそう……ハリーはどうしてここに来たのかなって思って」

「記憶が無い……何で俺、ここに来たんだっけ……? 誰かに連れ去られたような気がする」

「えっ? ホラーになっちゃったね。何か……」

「う、うーん。あと三回ぐらい爪先を踏んで貰えると思い出せるかも……!!」

「えっ、えーっと、無理に思い出さなくても別に、」

「あと五回ぐらい踏んで貰えると思い出せるかも……!!」

「えっ、えーっと、分かりました。踏みますね……」




五回踏んだ後。



「俺は確か、気がついたらこの家の前に立ってて」

「立ってて……」

「そう。それでダニエルさんの歪んだ文字で“メンバー募集中です”って書いてあって」

「ふんふん、なるほど……」

「それに応募して、俺より不幸そうなのが気に入ったって言われて。ダニエルさんに」

「だっ、ダニエルさんってばもう……」

「仕方が無いだろ、メイベル……俺はあの時朝から悪夢を見て飛び起きて、牛乳を床一面にこぼしてアレンに怒鳴られてマリエルに無視されて、フレデリックも八つ当たりされて辛かったんだ……」

「そっ、そこにいたんですね? ダニエルさん……こんばんは」

「こんばんは……ハリーもおかえり。ご飯出来てるから食べるといいよ……」

「ありがとう、ダニエルさん。俺、メロンアレルギーなんだけど大丈夫かな……」

「大丈夫よ、メロンは入ってないから。温め直してくるね~」

「ありがとう、メイベルちゃん……でも何で、二重三重にぼやけて見えるのかな。君が……」












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