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優しい彼女と変人だらけのシェアハウス  作者: 桐城シロウ
第一章 秋に出会って、冬を越す
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10.モンスターの倒し方と激しい仲間割れ

 




「わっ、わ~……楽しみ。どうしよう? ちゃんとモンスター倒せるかな……」

「さっきからそれしか言ってないな、メイベル……」

「でも、可愛い~。似合ってるわ、その服装。妖精のお姫様みたい~」

「えっ? だい、大丈夫ですかね? 痛くないですかね……」



 ふんわりとグリーンと淡いピンクが重なったチュールスカートに、深いグリーンのベストと白いブラウス。髪型はいつも通りで、下ろしてあるだけだがそれでも。



「もっと他の……それこそ、マリエルさんみたいに魔女の格好にした方が、」

「こいつはいいんだよ、これで。本人の邪悪さとマッチした素晴らしい服装で、いでっ!? 何だよ、クソババア!?」

「黙りなさい、アレン。この杖で目玉を突き刺すわよ。抉り出されたいの? ねぇ?」

「まっ、待って。落ち着いてください……」



 この体験型アトラクションは各々好きな衣装を選んで(別料金だった)、洞窟を通ってモンスターがはびこる渓谷や草原に行って戦うものなんだけど。私は幻術が使える妖精、マリエルは魔女、アレンは魔術師、ヘンリーは剣士、ハリーは馬、ダニエルは回復役の僧侶を選んでそれらしい服装に身を包んでいた。暗い洞窟の中でアレンが訝しげな顔をして、馬の着ぐるみを着たハリーを見つめる。



「おい、変なの混じってんぞ。一人……」

「顔出てるから分かるだろ? 俺だよ、ハリーだよ!」

「そういうことじゃねぇよ、このアホ馬頭!! 何で馬の着ぐるみを着てんだよ、お前は!? 職業は何だ!? それ! その職業に合った攻撃と防御しか使えないって説明されてたよな!?」

「怪我人とかが運べるって! 自前の筋肉で! あと走って逃げれる……」

「馬関係ねぇよな、絶対!! よし! 置いてく! こいつはここに置いて行こうぜ、メイベル! ヘンリー!」



 そこで黒い杖を持って、陰鬱な表情を浮かべているダニエルが首をふるふると横に振った。その隣には身軽なチェーンメイルを着たヘンリーが佇んでいて、しきりに腰に差した剣の位置を調整している。



「駄目だ……いざ俺の足が痛くなった時は、変身して乗せて貰うつもりだから……」

「これ凄いよな! 五分間だけ馬に変身出来るんだって! でも俺はマリエルさんとメイベルちゃんに乗って欲しいかな! でも今日の気分はメイベルちゃんかも! スカートも履いてるし乗って貰った時に太ももの感触が、いでっ!?」

「おー、凄いな。これ。人を殴りやすい……」

「アレン!? 駄目よ、殴っちゃ!」



 先端に大きな青い石が付いた杖を見つめ、アレンが満足そうに頷く。彼は魔術師らしく漆黒のローブに身を包んでいた。そうやって楽しくお喋りをしていると、スタッフさんがやって来て呼びに来る。



「次の方どうぞ~。揃っていますか? 全員。大丈夫ですか~?」

「「大丈夫でーす」」



 深いグリーンのマントを羽織ったスタッフさんが笑顔で「それではお楽しみください。モンスターを二十匹倒したら景品が貰えますよ~。頑張ってくださいね!」と言って、こちらを見送ってくれる。ひとまずはのんびりと暗く湿った洞窟を歩いて、前方の扉を目指すことにした。



「いいな、これ! いかにも冒険って感じで! いいな! ちょっと高かったけど……」

「そうやってケチ臭いから彼女に振られるのよね、アレン……」

「あ? てめぇ、クソババア……またその話を蒸し返すのか? あ?」

「駄目だって、アレン……でも、それが原因で振られちゃったの?」

「メイベル、真っ直ぐな目で聞いてくるなよ……どう反応すればいいんだよ、俺は」



 何となく聞いてみただけなんだけど、やっぱり駄目だったらしい。すると横を歩いていた妖艶な魔女姿のマリエルが笑い、こちらの手をぎゅっと握り締めてくれる。背後のハリーが「えーっ、いいなぁ! いいなぁ!」と声を上げ、ヘンリーに「でも(ひづめ)じゃん、それ。繋げないって絶対」とたしなめられていた。



「アレンはね~? メイベルちゃん。前から忙しいって言ってまともな場所でデートしなかった挙句、ご機嫌取りに買った高いネックレスも突き返されて振られて、」

「てめえええええっ! やめろ、クソババア! それっ! 言うのやめろっ! あといいんだよ、別に! 未開封だったから返品して全額返金して貰ったから!」

「そういうとこだぞ、アレン。あっ、これが扉か~。開けるぞ? あ、メイベル開けてみる?」

「開ける~、楽しそう! でもいいの? 私が開けちゃって……」



 てかてかと光っている金色の取っ手を眺め、振り返ってみると笑顔で頷いてくれた。すかさず白い僧侶姿のダニエルもやって来て、虚ろな瞳でじっとそれを見つめる。その後ろには馬姿のハリーも立っていた。



「どうぞ、メイベル……楽しみだね、モンスター倒すの……」

「ですね、ダニエルさん……!! ええっとアレンー? 開けるよー? いーい? マリエルさーん?」

「はーい、メイベルちゃん。ごめんね~?」

「は~、酷い目に遭った。このババアに魔女の杖なんぞ持たせたら駄目だな。世界が滅びるから……」

「滅びちゃうんだ……? それじゃあ開けまーす」



 ぎいっと前に押して開くと、ぱぁっと眩い光が炸裂した。目の前に広がるのは瑞々しい草原と一面の青空で、遠くの方には草を食んでいる草食性のモンスターがいる。全員で「わぁ~!」と歓声を上げ、一歩踏み出して芝生を踏みしめた。温かい空気を胸いっぱいに吸い込むと、湿った土の匂いと清々しい草の香りが漂ってくる。



「うわ~、金かかってんな~。すげぇ! 流石は一等級国家魔術師監修のアトラクション……!! 術語は何と何を組み合わせてんだろ、てか魔力消費量も凄いだろうし持続させんのには、」

「はいはい、魔術師。落ち着けっての。小難しい魔術の話とか、俺らには全然分かんないからさー?」

「情緒が無いわねぇ、まったく。メイベルちゃんを見習いなさいよ、もう」



 たっと草原を駆け出して、息を吸い込んで頭上の青空を眺める。すると一頭のドラゴンが空を飛んでいった。ばっさばっさとはばたく音がかすかに聞こえてくる。そのまま見ていると白い雲が青空を流れてゆき、どこか遠くの方から「グエッ、グエッ」というモンスターの声が響いてきた。凄い、楽しい……!!



「ほっ、ほらっ? 進みましょう!? 楽しみ……!! わっ」

「大丈夫? メイベルちゃん。ほら手を貸してあげるよ、蹄だけど」

「ありがとう、ハリー……わ~」



 服装に合わせて、白い編み上げブーツを履いているので歩きにくい。でこぼことした草原の丘を下って、どこまでも続くなだらかな草の海を見つめて息を吐いた。どうしよう、どっちに行けばいいんだろう……。



「ねぇ? アレン? 地図とかって……」

「俺が持ってるぞ、メイベル。何でも……ああ、あったあった。あそこの遺跡で杖を振って呪文を唱えるとワープ出来るらしい。ランダムだって、移動先は」

「へ~。見せて? あっ、渓谷と火山と樹木林と島のどれかなんだね……」

「火山行きたい、火山! 馬の姿で走りたいな、俺!」

「やばい、想像した……今。俺は島に行きたいかなぁ~、海が見たい」

「私もヘンリーと同じく島に行きたいわ、海が見てみたーい」

「ランダムだって言ってるだろ? 人の話聞いてたか? お前ら」



 ぶつぶつとしきりに「火山は嫌だ、暑いの嫌だ、怖いの嫌だ……」と呟いて膝を抱えているダニエルをなだめ、かつて神殿があったという遺跡(そういう設定みたい)にてアレンが杖を振る。



「そんじゃあ、皆が行きたい島になりますよーに! “風よ、起きよ。我らはモンスターに挑みし冒険者達”!」



 そんな朗々(ろうろう)とした声が響き、ぱぁっと足元のひび割れた石床が光る。眩い光に目を閉じると、髪やドレスがぶわっと風に舞い上がった。そしてもう一度目を開けると、そこには青い海が広がっていた。燦々と陽の光が頭を照りつけ、ふわりと潮風がやって来てこちらの頬を撫でてゆく。



「わ~! 海だぁっ! 島だぁっ! ありがとう、アレン~!」

「いや、俺の力じゃないからな。これ……」

「幻想蝶の卵のお陰かしらね? あっ、多分あれがモンスターじゃない?」

「やべぇ、逃げよう。こっち見てる……」

「その剣はお飾りなのか? ヘンリー」

「駄目だ駄目だ、怖い……まだ心の準備が出来てないのに、俺……!!」



 後ろには岩で出来た崖があって、目の前には白い砂浜と青い海が広がっていた。そこに魚の鱗を生やしたドラゴンとワニが合わさったみたいなモンスターが佇んでいて、金色の目を見開いてぐるるるると低く唸っている。大きい。物凄く大きい。ゆっくりと近付いてきたモンスターを全員で見上げ、硬直する。



「なぁ……メイベル。二十頭倒したら景品が貰えるんだよな、これって……」

「うっ、うん。そうみたいだね、アレン……二十頭も倒せるのかなぁ……」

「先手必勝よね、こういう時って。えいっ!」

「マリエルさん!? 凄い!!」



 マリエルが可愛らしいかけ声と共に、黒い杖を振った。不気味に輝くグリーンの炎が噴射され、ワニのようなモンスターの目玉に直撃する。モンスターは「グオオッ!?」と苦悶の声を上げ、後退して海面を尻尾でばしゃんと叩いた。相手が弱ったことで元気が出たのか、馬姿のハリーが走って突撃しにゆく。



「あっ!? どうしよう、これ! 攻撃が出来ない! 蹄えええええっ!!」

「どけよ、邪魔だ! てめぇ! ハリー! どっか行ってろ、お前は! 何でそれにしたんだよ、本当!」

「よしっ! 俺が剣で攻撃してみるーっ! せいやっ!」

「俺は、俺は何が使えるんだろう……もしかして逃げ遅れて捻挫した人の足しか治せないんじゃ……それできっと俺も頭からばりばり食われて、」

「だっ、大丈夫ですよ! ダニエルさん! 一定の攻撃を受けたら死亡認定されて、強制的に送還されるみたいで……」



 ふわりと手で幻術の白い霧を生み出しつつ、ダニエルを慰める。前方では剣を持ったヘンリーがモンスターの迫り来る前足から逃れて走って、そこへマリエルとアレンが力を合わせて紫色の炎をモンスターの鼻面にぶつけていた。ああ、私も戦いたいけど、幻術じゃ大して戦えない……。



(うっ、可愛いからって選ぶんじゃなかった。この職業……)



 でも、これは背中に生えている透明な羽で空を飛べるらしい。胸が痛むのでダニエルを白い霧とカラフルなお花で包み込んでから、地面を蹴ってふわりと飛ぶ。



「わ~! すごいっ! 飛べた~! でも食べられちゃいそう! どうしようっ!?」

「格好の餌じゃねーか、お前!! 仕方ねぇな、もうっ!」

「俺、あの前足斬りに行くからよろしくー!」



 ぎらりと金色の目を見開いたモンスターが大きく口を開け、がっと迫ってきた。息を飲み込んでいると、ぶわわっと紫色の炎が飛んできてモンスターが吹っ飛ばされる。横を振り返ってみると、アレンが呆れた表情で杖をかざしていた。金色の光がこちらを包み込み、ぐんっと引き寄せられる。何が起きたのかよく分からなくて硬直していると、アレンがこちらの肩を支えてくれる。



「まったく、メイベル。倒せたからいいものの、無茶すんなよ……」

「ごめんなさい、私も戦いたくってつい……」

「そこーっ! イチャつくなあああああっ!! ワニの目玉を投げ付けてやろうか、お前ら!!」

「うるせぇ、ハリー。お前はそれを早く脱げ。見る度に腹筋が痛い! 笑える!」

「イチャイチャなんかしてないから大丈夫だよ、ハリー……」



 アレンから離れて、倒れたモンスターを見つめる。全員で囲んで見つめているとぱあっと光って、討伐完了の文字が出てきた。やった! 倒せたみたい。



「よしっ! このままの調子で二十頭倒すぞー! 景品っ! 景品欲しい、俺!」

「がめついな、アレン……そうだ、この剣に攻撃力アップの魔術かけて欲しい」

「あったっけ、そんなの……ああ、あるか。ほい。そんでメイベル。妖精はその腰に差してる剣使って戦うっぽいぞ?」

「えっ!? あっ、本当だ! 何か差してあった!」

「気が付いてなかったのか、今まで……まぁいい。進むぞ。進んで景品ゲットだぜ!」



 珍しくアレンもはしゃいでいるらしく、そのまま崖に向かってはしごを掴んで登ってゆく。せっせと皆で登って頂上に辿り着くと、いきなり大きく口を開けたドラゴンが襲いかかってきた。ヘンリーが飛び出て剣で鼻面を斬り落とし、マリエルとアレンが杖をかざして紫色の炎を噴射する。ダニエルは怖いのか、馬姿のハリーの後ろに隠れてふるふると震えていた。



 私も張り切ってふわりと空を飛び、剣を振ってドラゴンの翼を斬りつける。怒って咆哮を上げて迫ってくるドラゴンに慌てていると、その尻尾をヘンリーが切断してくれた。ごろりと尻尾が転がり落ち、笑顔のマリエルが倒れたドラゴンの頭にグリーンの炎を浴びせる。また光って、討伐完了の文字が出た。



「たのっ、楽しい~。楽しい、嬉しい、皆ありがとう……!!」

「あ? 何が? 行くぞー。終わったから、ダニエル。役に立たねぇな、本当。ふるふる震えてるだけで」

「お前が怪我をすればいい、アレン……俺が治してあげるから、変な方向に」

「何だよ? 変な方向にって……大体な、お前はな」

「はいはい、行くぞー? アレン。切り無いからな、言い争ってると!」



 そのまま岩と草原が広がっている場所に出て、恐竜のような小型のモンスターに囲まれて苦戦してしまった。何せ数が多い上に、飛び跳ねるので攻撃しにくい。赤と黄色の小型モンスターに襲われて、逃げていると馬姿のハリーがそれを蹴り飛ばして助けてくれた。でも普通のキックに見えるな、あれ……。



「くそっ! 数が多いな!? 今何頭目だ!? あと時間は!?」

「あと十分で終了かなぁ~。二十頭までもうちょいって感じなんだけど」

「俺が治そうか、その傷……ヘンリー」

「あ~、うん。じゃあお願いしようかな!」

「うーん、切りが無いわね。本当」



 マリエルの炎も今いち効かないらしく、すぐさま起き上がって襲いかかってくる。「ギャッ、ギャッ!」と叫んで襲いかかってきたモンスターの鉤爪を剣で防いでいると、アレンが背中に回りこんで助けてくれた。杖を振って、紫色の炎でモンスターをがっと吹っ飛ばす。



「おいっ! ハリー! お前っ、馬に変身しろ! 馬に! 今すぐ!」

「よし、分かった! 変身する! ただしメイベルちゃんとマリエルさん限定な!? 分かったか!?」

「いいからさっさと変身しろよ、鬱陶しい! 早く!」

「駄目だって、アレン! ハリーを燃やしたら……」



 怒ったアレンが真っ赤な炎を噴射して、ハリーが慌ててぴょんと飛び上がる。そして美しいダークブラウンの馬に変身すると、草を蹴散らしてやって来た。



「ほらっ! メイベル! 乗るぞっ!」

「えっ!? 乗ってどうする……」

「あいつら置いて逃げる。切りが無いだろ? それに一度も死ななかった人間にはテーマパーク内のカフェで使えるクーポン券が貰えるんだって」

「えっ、えええええええーっ!?」

「汚ねぇぞ、アレン!! 自分だけメイベルと逃げる気かよ!?」



 アレンが叫んでいるヘンリーを無視して、手綱を掴んで(ちゃんと鞍がついてた)腹を軽く叩く。馬姿のハリーは人間であったことを忘れてしまったのか、いなないて草原を走り出した。



「怒ったわよ、もう……アレン。魔力もそろそろ尽きる頃だけど、全部使っちゃう。こいつら全員燃やしてやる……」

「わぁ、マリエルさんが怒ってらっしゃる……でも、魔力を全部使うと死ぬのでお気をつけて……」



 どんどん青空と白い雲が流れていって、歓声を上げる。背後のアレンが低く笑って、手綱を握り締めた。



「いいなぁ、愉快! 愉快! あともうちょっとで終わりみたいだし、このまま走って逃げようぜ! とは言っても五分間だけみたいだが……」

「でも、マリエルさんがマリエルさんが……わぁっ!?」

「っとと、あのババアが使ったのか? 凄いな、魔力量どうなってんだよ……あいつ」



 走っているとぶわりとグリーンの炎が渦巻いて、前方の草を焼き払う。馬姿のハリーが驚いていななき、前足を上げた。乗馬でもしていたのか、アレンが「おっと!」と言いながらも慣れた様子でなだめる。



「あーっと、もう時間だな……てかあのモンスター焼き払ったのか、全部? えぐいな……」

「私達が逃げたから怒ってるのかな……どうしよう、謝らなきゃ。申し訳ない……」

「大丈夫。怒られんのは俺だけだから。多分、後で殴られる。拳で」

「そっ、そうかな、アレン……そうなっちゃうのかな……」

「なるだろ、絶対。まぁ楽しかったな、メイベル。また来ような、このアトラクション。皆で」



 思わず振り返って見てみると、赤い顔で「何だよ? こっち見んなよ。文句でもあるのか? あ?」と言ってきたので笑ってしまった。やっぱり素直じゃなくて、アレンは照れ屋さんだなと思う。



「ううん、無いよ。何も! 楽しかったね、アレン。また来ようね~」

「おう。土産でも買って帰るか、ノアとシェヘラザードに。と言うかハリー、これ。元に戻れんのか……? さっきからぶるんぶるんしか言わないぞ、これ」

「本当だね、大丈夫かな……戻れるのかな、人間の姿に……」
















「それで? どう? 楽しかった?」

「うん! 楽しかったよ、ノア! ノアもまた今度一緒に遊びに行こうね~」

「ん、あたしも次は行く……メイベル」

「勿論よ、シェラ! シェラも一緒に行こうね~、また今度!」



 今日は本当にずっとずっと楽しくて、頬と耳がぽかぽかと熱い。買ってきたお城のチョコやクッキーをテーブルに広げて、ノアとシェヘラザードと食べているとソファーに寝転んだハリーが低く呻く。もう部屋に上がって寝るつもりなのか、白とブルーのシャツパジャマを着ていた。



「足いって……馬になって走るもんじゃないな、本当……結局アレンを乗せちゃったし」

「お疲れ様、ハリー。戻ってくれて良かった。ほっとした、私……」

「あ~……内ももとケツが痛い~……こんなんで仕事するの? 明日? 本当に?」

「おっ、お疲れ様……ハリーの好きな晩ご飯にしようね、明日」

「ありがとう、メイベルちゃん……はーあ、疲れた。でも楽しかったな……」



 湯気が立っているチョコレートラテを飲み、ノアが優しく青と黒が滲んだ瞳を細める。今日は黒いタートルネックとデニムを着ていた。そんなシンプルさが、人形のように整った顔立ちと白い肌によく映える。



「まぁ、メイベルちゃんが楽しかったみたいで良かったよ……俺は仕事があったから行けなかったけど。シェラヘラザードは行けば良かったのに」

「ん……インドア派。お休みの日はゆっくりごろごろしてたい……」

「分かりますよ、それ。今度のお休みは私もゆっくり温泉に浸かって、ごろごろしてようかな……」



 シナモンが香るクッキーをさくさく食べていると、リビングのドアが開いて灰色のトレーナー姿のアレンが現れる。その黒髪は濡れていて、白いバスタオルでわしゃわしゃと拭いていた。



「おー、上がったぞ。女子入ってこい。掃除はヘンリーがしてくれるってよ」

「言ってないけどな、そんなこと……まぁ、するけど。別に」

「ならいいだろ、なら」

「ありがとう、ヘンリー……よろしくお願いしまーす」



 ソファーから立ち上がってドアへ向かうと、よろよろとした足取りでハリーもついてくる。彼は内ももが痛いのか、生まれたての子ヤギのように足を震わせていた。



「何だよ、お前。そのキモいポーズは……あと女子についていくな! 一緒に入る気だろ、お前」

「メイベルちゃんに頭洗って貰いたい、俺……」

「今日一日ですっかり懐きやがって……お前の部屋にシャワーついてんだろうが。行くぞ、来い。俺が洗剤とブラシでごしごし洗ってやっから」

「うえっ……つらい。女子と一緒に入りたい」

「やめろよ、ハリー……そういうのは心に秘めておくもんだ。行くぞ、ほら」



 ノアとシェヘラザードと一緒にそれを見守っていると、ハリーの片腕を掴んで引き摺っていたヘンリーが振り返って笑う。



「気にしないで入ってきて。こいつは俺達が責任持って洗っとくから。ねっ?」

「そっ……そっか! じゃあ行こうか、ノア。シェラ」

「だね、行こうか……その」

「ん、行こう……ハリーが来ちゃうかもだから」



 物言いたげなノアの両腕をシェヘラザードと一緒に掴んで、狭い階段を笑って上がる。ノアが困ったように笑って、その瞳を伏せていた。



「そんじゃあ、うん。入りに行こうか、メイベルちゃん。シェヘラザード……またアトラクションの話を聞かせてよ。他にも回ったんだよね?」

「うんっ! 勿論! ジェットコースターにも乗ったし、ホラーハウスにも行ったの! そこでダニエルさんがアレンのこと脅かしててね、アレンがすっごく怒ってた。あと貴族の屋敷をモチーフにしてたから、ヘンリーがずっとふるふる震えてて……」

「ん、やっぱ行けば良かったかも……楽しそうだった」

「同意! 次は俺も行きたいなぁ~」







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