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優しい彼女と変人だらけのシェアハウス  作者: 桐城シロウ
第四章 夏の終わりにあなたと
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26.ただの酔っ払いの集まりと新たな苦労

 



「それで、アレンにプロポーズして貰って結婚することになったんです~! お騒がせしました、皆さん!」


 夜、リビングでお酒を片手に報告する。アレンに「お酒が飲みたいな~」と言ってみたところ、まんざらでもなさそうな様子で「しょうがねぇな」と言いながら作ってくれた。作ってくれたのはカシスリキュールを、炭酸とオレンジジュースで割ったものですごく美味しい。冷凍のラズベリーにオレンジのスライスまで入れてくれた。それを飲みながら、にこにこと笑う私を見て、フレデリックさんが呆れたような顔をする。


「はあ、ようやく付き合ったかと思えばプロポーズ……? 展開が早すぎて頭が追いついてないんだけど、おじさん」

「だって、メイベルが俺と結婚したいって言ってたから」

「へっ!? 言ったっけ!?」


 いきなりプロポーズして貰った嬉しさで全部吹っ飛んでたけど、確かにちょっと早すぎるかもしれない。同じ家に住んで遊びに行ってたんだし、付き合っているようなもんだってアレンに言われて、それもそっか! って納得してたんだけど……。慌ててアレンの方を見てみれば、不思議そうな顔で「ん?」と言う。少し離れたところで、ハリーとノアが「説明! 説明!」と囃し立てながら、手を叩いていた。アレンは酔っているのか、恥ずかしいのか、顔が真っ赤にさせながら、私と同じカクテルを口に含み、きちんと飲み干してから話し始める。


「言った言った。ほら、えーっとピクニックの時に……」

「ええっ!? きっ、聞いてたの!? あれ!」

「ごめん、つい」

「えええええっ!? えっ!? ほんとう、本当に!? 全部!? どこから起きてたの!?」

「曖昧だけど、あ~。メイベルが俺にキスした辺りから?」

「やだ、恥ずかしい……!!」


 あれ、やっぱり起きてたんだ……!! どうしよう? 全部聞かれていただなんて……。私が両手で顔を覆っていると、パジャマ姿のノアとフレデリックさんが同時に身を乗り出した。


「あれって何? メイベルちゃん。気になるんだけど、俺」

「ぐっずぐずしてるから、来年もぐずぐずしてるかと思ってたのに! あれって何だ? アレン! 俺も知りたい!」

「……秘密」


 アレンがちょっと悩みつつも、天井を見上げて呟いた。さっき、抱き締めてキスして貰ったけど、また恋しくなって寄りかかる。周囲の目を気にしつつも、優しく肩を抱き寄せてくれた。あちこちから「はあぁ~……」と大きな溜め息が聞こえてくる。でも、ちっとも気にならない。にんまり笑いながらも、アレンに寄りかかってお酒を飲む。美味しかった。溶けかけていて、甘酸っぱいラズベリーをしゃりしゃりと噛み砕けば、舌と歯茎が芯まで冷えていった。


「まあ、良かったね? メイベルちゃん。超絶嬉しそう」

「ふふふ。ありがとう、ノア! そんな顔してる?」

「してるしてる」

「恨めしい……!!」


 ヘンリーの隣に座ったハリーがグラスを握り締め、ふと呟いた。も~、あれだけきちんと言ったのに、まだ理解出来てないみたい。ちらりとハリーを見てみると何故か、それまでぐったりしていたヘンリーが怯え、「おい、やめろって! せっかく付き合えたのに……」と言ってなだめる。ヘンリー、流石! 優しい。


「まあ、そんな訳で一応、結婚式には招待してやるよ。お前ら全員」

「アレン、嬉しそうだな~……」


 フレデリックさんがビールジョッキ片手にからかっても、アレンはどこ吹く風でお酒を飲んでいた。ふふふ、でも、照れてるみたい。徐々に酔いが回ってきて、頭がくらくらする。本当はもっともっと甘えたいんだけど、これぐらいで我慢しなくちゃ……。もう少しだけ飲もうと思って、グラスを持ち上げた瞬間、アレンに取り上げられる。


「メイベル、もうやめとけ。おしまい」

「うわっ、声があま……」

「アレンがメイベルの彼氏面してる」

「うるせえ! 彼氏面じゃなくて彼氏なんだよ! お前らもう、こっち見んな! 全員!」


 ひそひそし出したノアとシェラを一喝しながら、私のグラスをテーブルの上へと置く。残念。でも、眠たくなってきちゃったし、ちょうどいいかもしれない……。両目をゆっくり閉じれば、頭を優しく撫でてくれた。なんだか不思議。今までしてきて貰ったことばかりなのに、温度が違う。声も表情も甘くて、くすぐったい気持ちになってしまう。


「アレン、ありがとう……」

「いや。でも、飲ませない方が良かったな。大丈夫か? 水、飲めるか?」

「うん……」


 アレンが口元まで運んでくれた水を飲めば、さっきまでのめまいが消えていくような気がした。遠くの方でみんながわいわいと、何かを言い合ってる。ああ、私も混ざりたいなぁ……。でも、ようやくアレンの彼女らしく、こうやって寄り添うことが出来たんだし、もう少しこのままでいたい。でも、そんな甘酸っぱい気分はハリーの言葉で吹っ飛んだ。


「そうだ! 好きなところ教えろよ、アレン! メイベルちゃんの好きなところ! どこが好きなんだよ!? ほらほらほらほらっ」

「いつにも増してうざいな、お前」

「あっ、それ俺も聞きたーい。なあなあ、アレン? お前、メイベルちゃんのどこを好きになったんだよ? 教えろよ~」

「アレン、貧乳好きだって言ってた。そこじゃない?」

「いや、それは流石に違うでしょ。そんな理由だったら、別にメイベルちゃんじゃなくてもいいじゃん」

「私も聞きたいっ!」

「うわっ!? メイベル!?」


 勢い良く飛び起きると、アレンが驚いて、ちょっとだけ水をこぼしていた。慌ててハンカチで拭いてから、息を吐く。わくわくしながら待っていると、困ったような顔で眉間にしわを寄せた。ハリーは嫌がらせがしたいのか、カチンカチンカチン! とひたすらフォークでグラスを叩きながら、「はい! すっきなとこ! はいっ! すっきなとこ!」と叫んでいた。振り返ってみると、ヘンリーが迷惑そうな顔をして、両耳を塞いでいる。


「あ~……!! うるっせぇなぁ、もう! 俺の惚気話、聞いてて楽しいか!?」

「楽しいよ!! それともあれなんだ!? シェラさんの言う通り、メイベルちゃんのぺったんこおっぱいが目当てで付き合っただけで、それほど好きじゃないんだ!? だから俺達に言えないんだ!? 好きなら言えるはずだよねええええっ!?」

「よし、つまみ出すか。こいつ。話はそのあとでだ」

「ごめんなさい! 静かにしてるからアレン、聞かせてくれよ。惚気話。ほらほら、言ってみろよ!? こと細かくメイベルちゃんの好きなところをさぁ!」

「必死だな、お前……」

「きも」


 もう一度、私の顔を見つめる。期待に満ちた眼差しを向けてみると、アレンが大きく「はぁ~……」と溜め息を吐き、照れ臭そうに頭を掻き出した。アレン、どんなことを言ってくれるんだろう? 楽しみ~。酔いが回ってないと言えないのか、おもむろにお酒を一気飲みし出す。みんなが「おおっ」と言い、フレデリックさんが手を叩いた。がんっと、テーブルにグラスを叩きつけたあと、アレンが口元を拭う。


「分かった、分かった! よし、それじゃあ言ってやるよ! まずは吐き気がするぐらい、善人なところ」

「うわ、なってない。照れ隠しなのかもしれないけど、それ最低だよ? もうちょっとましなこと言えばいいのに。ださ」

「メイベル傷付くと思うから、マイナス百点」

「俺的には百点満点。そのまま拗れて別れてしまえっ……!!」

「……」


 ノアとシェラ、ハリーからそう言われて黙り込む。でも、いいの。知ってるから! にこにこ笑いながら見上げていると、気まずそうに「ごめん」と言ったあと、また頭を掻き出す。フレデリックさんとヘンリーは面白いものを見るような目で、アレンを見つめ、にやにや笑っていた。


「あ~……じゃあ、仕切り直しで。笑顔が可愛いところ。あれはメイベルがここに来てすぐの頃で、その日は朝からよく晴れていたんだ」

「ちょっと待って、ちょっと待って? アレン、今から回想入っちゃう感じなんだ?」

「うるせぇよ。お前がこと細かく語れって言ったんだろ?」

「一時間以内に終わる? それ」

「当たり前だろうが。そう長くはならねぇよ」

「でも、長くはなりそうだな……」


 ヘンリーがぞっとしたように呟き、水を口に含んだ。ヘンリーはいつも上手にお酒を飲んでいて、絶対に泥酔したりしない。今も酔いが回ってきたのか、ノアと一緒にナッツをつまんで中和させながら、アレンの言葉を待っている。アレンが息を吐き出し、思い詰めた声で話し始めた。


「俺はその日、まったくついてなかった。悪夢は見るわ、クソの保護者どもからクレームは入るわ、いつもの店で昼飯を食おうと思ったら、臨時休業で散々だった」

「なるほど。その心の傷を癒してくれたのがメイベルちゃんだと……?」


 ハリーも酔っているのか、ちょっと変だ。アレンが感極まった様子で涙ぐみ、「ああ」と頷く。そ、そうなんだ……? 覚えてない。去年の秋、何があったっけ?


「イライラして帰ってる最中、メイベルと偶然ばったり会ったんだよ。で、それだけで嬉しそうな顔するし、車がきたから引き寄せてみれば、可愛く照れ始めるし……」

「あ、アレン? もしかしてかなり酔ってる? 私、恥ずかしいんだけど……!?」

「まあまあ、まあまあ……。今いいところなんだし、もうちょい聞こうぜ? メイベルちゃん」

「そうそう、フレデリックさんの言う通りだって。メイベルちゃんだって、この先が聞きたいんじゃないの?」


 ノアに聞かれ、こくりと頷く。確かに聞いてみたいかも! お水を渡そうかと思ったけど、やめた。アレンが暗がりの中、顔を真っ赤にさせてうつむいている。完全に酔っちゃってるなぁ……。


「俺はその時、疲れてたから一瞬だけ、こいつ俺のことが好きなんじゃね? と思った」

「うわ、ちょっろ。ストーカーの思考回路だよね? それって」

「うるせえな。それぐらい、可愛い笑顔だったんだよ……。でも、その直後に合流したクソ社畜にも嬉しそうな顔して、似たようなこと言って話しかけてた。そんで、ダニエルにも膝枕したりとか……。まぁ、分かっちゃいたが、こういうやつなんだなと理解した」

「ん? でも、待って? アレン、もしかして……」


 かなり前から私のことが好きだったの!? 起きて欲しくて「ねえ、アレン?」と言いながら、肩を揺さぶってみると、うつむいていた顔を上げた。酔っているのか、ふんにゃりと可愛い笑顔を向けてくれる。きゅんとして、何も言えなくなってしまった。頬がやたらと熱い。


「でも、弟に似てたから……。庇護欲の一種だと思ってた。いや、自分にそう言い聞かせてた。でも、メイベルは可愛くてなぁ……」

「だんだんおじいちゃんになってきたな? お前」

「アレンはかなり前から、メイベルちゃんのことが好きだったんですよ。俺がどう言っても、頑なに認めようとしませんでしたけど……」

「「知ってる」」

「アレン、分かりやすかった。メイベルにだけずっと親切にしてた」

「親切というか、異常な甘やかしだよね?」

「ん」


 シェラは一人だけ、端の方に座ってぐびぐびとワインを飲んでいる。いつものように、ボトルに口をつけて飲んでいた。すごいなぁ。私、ちょっと飲んだだけでふわふわしちゃうのに。ぼんやりしていると、アレンがおもむろにごしごしと、両手で目を擦り始める。


「かゆい? 大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫……。でも、良かった。成功して。あんな、つたないプロポーズでも喜んでくれたしなぁ」


 酔ったアレンがにこにこと笑いながら、私の頭を撫で始める。ふふふ、この隙に色々としてもいいかもしれない。いつもポケットに入っている小さなカメラを取り出し、それを隣に座っているフレデリックさんに渡した。いきなり手渡され、不思議そうに、カメラと私の顔を交互に見つめている。


「フレデリックさん? 撮ってください、写真! アレンとぺったりくっついてる写真を撮るんです! 今日の記念に残しますっ!」

「いいね、それ。頭抱えるやつだ、明日! ポーズ取って、ポーズ」

「は~い!」

「メイベルちゃんもかなり酔ってるね……」

「俺もあとで、アレンといちゃいちゃ写真を撮ってみたい」

「やめろよ、ハリー。まだ懲りていないのか? 今度は庭先に埋められるぞ?」

「ひっ! やめる、命が惜しいっ!」

「懸命な判断だ。そんな良い子にはカシューナッツをあげよう」

「わーい、やったー!」


 ふにゃふにゃと酔っているアレンの腕を持ち上げ、私の肩へと回す。でも、次の瞬間、アレンが私を後ろから抱き締めてきた。フレデリックさんが喜び、「いいねえ!」と言ってくれる。それと同時に、シェラがすかさず立ち上がって、リビングの電気を点けてくれた。


「はーい、もうちょい近寄って。もうちょい~!」

「ええっ!? でも、これ以上アレンに密着出来ないんですけど……?」

「密着したいのか? ほら」

「えっ」


 アレンが私を膝の上に抱えて、後ろからぎゅっと抱き締めてくれる。ち、近い! コロンとお酒が混ざったような香りが漂ってきた。耳元でアレンが「どうだ? これでいいか?」って聞いてきたから、頭が真っ白になってしまう。


「メイベルちゃん、顔が真っ赤だよ……」

「の、ノア、どうしたらいいと思う!? アレン、すごく酔っちゃってて!」

「キース! キース! キスしろ、キース! キース!! はいはい!」


 同じく酔ったハリーが手を叩き、囃し立てる。そんなハリーの肩に手を置き、ヘンリーがなだめにかかった。フレデリックさんは嬉しそうに笑いながら、何回もシャッターを切っている。


(だっ、だめだ! もう限界!)


 私から言ったことだけど、もう限界! アレンの腕を振り解いて、膝からおりる。私が逃げて悲しかったのか、両腕を広げたまま「あっ」と言っていた。


「ね、ねえ、アレン? もうそろそろ寝た方がいいんじゃない!?」

「あっ、じゃあ、俺、連れて行くよ。上に。メイベルちゃん、任せて」

「俺も手伝う! 俺も手伝う!」

「まぁ、そろそろお開きにした方がいいか~……」


 アレンがじっと、青い瞳で私のことを見つめてる。ああ、どうすればいいんだろう? こういう時。私も酔っていて頭が回らない。おもむろに、アレンが腕を伸ばしきた。他のみんなは片付けに取りかかっていて、気が付いていない。水に濡れた指先が頬に触れ、アレンの顔が近付いてくる。青い瞳しか見えなくなって、息を止めた瞬間、アレンが呟いた。


「ごめん。愛してるよ、メイベル。おやすみ」


 触れるだけのキスをしたあと、何事も無かったようにお水を飲み干して、片付けに取りかかる。こっ、こういうことする人だったっけ!? アレンって!! 拳でクッションをぼすぼすと叩き、顔を埋め、「うーっ! うーっ!」と唸っていれば、ヘンリーが慌てて駆け寄ってきてくれた。


「だ、大丈夫!? メイベルちゃん。酔ってる!?」

「どうしよう? ヘンリー……私、心臓がもたないかもしれない」

「そっかぁ~」

「ごめんね? いきなりこんなこと言っちゃって……。困らせてるよね?」


 クッションを抱えて座り直した私を見つめ、ヘンリーが慈愛に満ちた微笑みを浮かべてから、ゆっくりと首を左右に振る。


「いや、大丈夫だよ? メイベルちゃんは忘れてるのかもしれないけど、実は今日、その台詞を聞くのは十回目ぐらいなんだ……」

「ええええっ!? うそー! そうだったの? やだ、私ったらも~。ふふふふ」

「さぁ、もう一杯やってから寝るか……。疲れたなぁ」








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