月うさぎの画期的な大発明
20XX年、月にひっそりと住む人類は、地球人の未来に革命を起こすかもしれない「ある装置」を完成させた。
「ついに、日の目を、否、月の目を見る時が来ましたか……」
装置のプロジェクトチーム副官が、黒く長い耳をぱたぱたさせて、白衣を着た老人へと言った。
「これを起動させれば、地球人の大半が犯した愚行を帳消しにできるじゃろう」
老人は、両頬に垂れ下がったひげをなでてうなずいた。
「まったく、お隣の惑星の住人ときたら、非常識ですよね。親に教わってこなかったのか、教科書から消されたのか、作法を知らない輩が増えました」
黒い月人は、おおげさなため息をついた。老いた博士は、まだまだ青い副官へ陽気に笑う。
「まあ、そうカリカリなさんな。昔の知識は埋もれるがさだめじゃよ。十五夜だけでも、まだ見てくれる人がいるのじゃ。感謝せねばならん」
「しかし……あやつらのせいで、我々は1,000年かけてあれを作らなければならなくなったのですよ? 忌々しい、『片見月』などして、不幸せになっている。自業自得です。なぜ、そやつらを免じてやるような、お人好しな真似を」
「憎んではならんのじゃ。月人は、地球人を優しく見守るお役目を宇宙の創造主から命じられておる。これは、地球の『希望』であるとともに、わしらの『希望』でもあるのじゃ。代々受け継がれてきたバトンが、ようやくゴールに至る。めでたきことではないか」
副官は、2本の耳を下げた。祖父、母から託された一大プロジェクトを自分の代で結びとできたことを、喜ばねばならなかったのだ。200年ちょっとしか生きていない身分に、恥を知った。
「さあ、起動の時刻じゃ。地球から『片見月』を無くそう」
装置の前線にいたプロジェクトメンバーが、スイッチを押した。
地球人よ、十五夜を愛でたら、次の十三夜を忘れてはなりませぬ。自らすすんで、不吉の境界を越えてはなりませぬ。今宵光る月は、月にして「月」にあらず。我々、月人が汗水流して築きあげた「GEPPYOI」なり。
10年前に、地球を視察した月人のひとりが、母星を眺めながら食べた菓子の名前を採用した。4,000年の歴史あるという国の娘がくれた、円くてほくほくした甘味であったという。
あとがき(めいたもの)
改めまして、八十島そらです。作中に出ます「片見月」は、十五夜だけ見た場合だけでなく、十三夜だけ見た場合もいいますので、ご注意くださいませ。
ゲッピョイ、美味しいですよね。あえて、ゲッピョイと申しました。中華街で販売しているゲッピョイも、スーパーのお菓子売り場にポンと置いてあるゲッピョイも、好きです。蓮の実が入っていると、なお嬉しいです。