〇第七話 潮騒の夜に浸みる影・前編
「盗難、ですか?」
「うむ。」
幻想氷原から帰ってきた翌日。外務省特務一課長官室。
呼び出しを受けたルシエは、セルゲイから報告を受けていた。
「もっとも今回君に頼みたいのは犯人グループの確保ではない。」
「はあ…、まあ、でないとコイツがいる理由がないですけど。」
「オイオイ、コイツ呼ばわりたァ酷ェンじゃねえか?ルシエさんよォ。」
そこにいたのは、黒いぼさぼさ頭に嫌らしい光を放つ赤色の瞳をもつ、一人の男の姿があった。
-1-
今から四日前。ウィンデリア首都の政庁エリアにある記録保管棟で盗難が起きた。
犯人は三名。夜闇に乗じた犯行で、まるで警備の抜け穴を知っているかのような、鮮やかな侵入手口であったという。
だが、犯人のうち一名が逃走中にウィンデリア方の警察に捕まり、取り調べを行っていた―
セルゲイから聞かされたことのあらましは、おおむね上記の通りである。
「―それで、その捕まえた犯人が、また口が堅くてな。尋問してもなかなか口を割らん。そこで、我々としてもあまり使いたい手ではなかったのだが、彼に協力を仰いだのだ。」
「へっへっへ。何せこの国で人の頭ン中覗けるのは、オレくらいなもンだからな。魔法は有効に使わねえとなァ?」
へらへらといやらしい笑い方でのたまう男。
彼の名はナッシュ・アルデバラン。特務一課のメンバーで、国で一番腕の立つ紫魔術師である。
「社会不適合者のアンタでも、たまには世の中の役に立つのね。」
「オイオイオイ、酷ェ言い草じゃねえかァ。オレだって任務の時くらいは真面目にやってるンだぜ?」
「はいはい…それで、結果はどうだったんですか?」
うむ、と頷くセルゲイ。
「彼の言う事には、その犯人グループは南方の町からやってきたそうだ。」
「南方の町…。」
「南方にもいくつも町があるが、彼が得た情報の限りでは、ジャスピリの町である可能性が高い。」
「また遠いところから来たものですね…。」
ナッシュは生あくびをしつつ話に割って入る。
「沼っぽい魚が港についているのが視えたから、間違いはないと思うぜ?この国で沼の魚を扱ってる港がある町なンざ、ジャスピリくらいしかねェからなァ。」
「スワンプリムに一番近い港町だからな。他にもあると言えばあるが、そこが一番可能性が高いということだ。」
「それと今回の任務に、何の関係が?」
「うむ、実はだな―」
セルゲイが語るには、こうである。
まず、今回の盗難被害にあったものは警官や首都防衛のための軍人の配置や防衛訓練、防衛装備など、全て首都防衛に関する機密情報であった。
防衛に関する機密情報が盗まれたという事は国にとって一大事である。
ただ、これが盗まれるという事は他国からの攻撃を受けるかテロが起こるということであり、体制や装備を変更しつつ、国内外の警戒を強めればいくらか被害は免れる。
攻撃を受ける可能性が高いことはわかるにせよ、可能であれば先手が取れればそれに越したことはない。
そこにジャスピリの町から来たという情報を得たことで、とある可能性が浮かんだ。
「ルシエ君は"夜浸みる影"という組織を知っているかね?」
「…いえ、すいません。知りません。」
「ふむ。知らぬのならば仕方ない。"夜浸みる影"とは最近現れ始めた裏組織のひとつだ。」
「裏組織…。」
ルシエとセルゲイのやり取りに、ナッシュが口を挟む。
「最近名前を聞くようになったなァ。確か、国の体制を転換させるのが目的って言ってたっけかァ?」
「よく知ってるわね。」
「へっへ、オレはまだ付き合いがあるからなァ。オレとしちゃ、アンタが知らねえってのが驚きだけどなァ?」
「悪かったわね、私だって知らないことくらいあるわよ。」
ふいっと顔をそむけるルシエに、ナッシュはへらへらと笑みを向けている。
そんなやり取りを眺めつつ、セルゲイが続ける。
「彼が言った通り、"夜浸みる影"は明確に国家に対する攻撃意識を持っている裏組織だ。そして、本拠地はウィンデリア南部にあるのではないか、と言われている。」
「つまり、その裏組織の末端か何かが、ジャスピリにあると?」
セルゲイは頷く。
「その可能性がある。末端でもなんでも、その裏組織に関する情報を得られれば、そこから追って捜査、対策ができるからな。今回君達には、ジャスピリに赴き、"夜浸みる影"について何等かの情報を掴んできてもらいたい。」
「わかりました。念のため確認ですが、ナッシュも同伴ですか?」
「うむ。それに彼の情報捜査能力は随一だからな。あまり喜ばしくはないが。」
半ば吐き捨てるように告げられたセルゲイの台詞にも、ナッシュはへらへらと笑って返す。
「二人とも酷ェ言い草だなァ。まあ、そういうこった。よろしく頼むぜ、ルシエさんよォ。」
「まあ、いいですけど。今更コイツに遅れはとりませんし。」
「頼もしい限りだ。期日は設けないが、早めに処理してくれると助かる。いつ情報を握った相手が来るとも限らんのでな。」
「わかりました。」
「さって、それじゃあ国の為に頑張りますかねェ。へっへっへ。」
「その白々しさ、逆に感心するわ…。」
-2-
―任務受領から三日後。ルシエ達はウィンデリア両南東部の港町、ジャスピリに近い高台やってきていた。
眼下にはジャスピリの町が広がり、その奥には穏やかな海が陽光を受けてきらびやかに輝いている。
"沼の国"スワンプリム、"崖の国"クリスフルルに一番近く、"森の国"フォレリアからもほど近いこの町はウィンデリア南東部の交易拠点のひとつであり、南東海洋貿易の要衝である。
町の雰囲気はおおらかで広々としており、白を基調とした壁に色とりどりの屋根が乗った家々が立ち並び、視覚的にも賑やかな町である。
そんな町に、彼らは旅行に来た一般人のような風体で来ていた。
ルシエは落ち着いたフェミニンスタイルで、腰に刀も銃も下げていない。
ナッシュはさわやかな感じの装いに着替え、ぼさぼさの髪はさわやかな無造作スタイルになっている。
「よく似合ってるじゃない。馬子にも衣裳ってやつかしら?」
「うっせェ、わざわざ買って着せやがって。テメェだって、三十過ぎにしちゃ頑張りすぎじゃねェのか?」
「あら、レプラコーンは五十からが本番よ。人間の倍生きるんだから、若い時間も長いの。」
ナッシュはばりばり頭を掻き
「それで、どうすンだ?こンな面倒くせェ恰好して、普通に聞き込みや調査をするわけじゃねェンだろ?」
「ええ。過激派が潜伏する町なら、普通に調査してたら出てくる情報も出てこない可能性があるわ。だから、ひとまずは旅行者を装って町の人の声を拾ったり、町の様子を探るところから始めましょう。」
「地味だなァ、まあいいけどよ。オレとアンタの関係はどうすンだ?友人か?恋人か?」
ニヤニヤしながら問うナッシュに、ルシエはなんでもないように返す。
「ひとまず友人で。場合によっちゃ恋人のフリでもいいわ。できるでしょう?」
「へっへっへ、まァワケねえな。フリたァ言え、アンタと恋人を演じる機会があるとはなァ。」
「そうね、人生はわからないもんね。さ、行きましょう。」
「おゥよ。」
こうして、二人は陰謀と危険が潜む…かもしれない町へ向かって歩き出した。
「泥鮎のアクアパッツァと、海ウナギの酒蒸し、お待たせしましたーっ!!」
「ありがとうございまーす。」
テーブルの上にトマトとアサリ、オリーブの実が散らされ、レモンが添えられたアクアパッツァ、
そしてウナギに似た細長い形状の魚が開かれ酒蒸しにされた料理が並べられた。
「金は出るたァ言え、こンなのオレのガラじゃねェなァ。」
「まあいいじゃないの、たまには。意外とおいしいものよ?」
ルシエはアクアパッツァをナイフとフォークで器用に捌きつつ口に運んでいる。
反対側の席ではナッシュがぐちぐち言いながら海ウナギの酒蒸しをつついている。
「食いモンに関しちゃオレと大差ないと思ってたが、変わりすぎじゃねェかい、ルシエさんよ?」
「…ケインが『故郷の料理ですー♪』とか言って、よくスワンプリムの魚料理を出してくるから、舌が慣れちゃって…。」
ルシエは恥ずかしそうに目をそらす。
「少し前に飼ったっつーハーピーのガキか。すっかり胃袋を掴まれちまってよォ、聞いた話じゃ家もすっかり綺麗になったらしいじゃねェか。」
「誰から聞いたのよそれ。」
「さァ、誰だっけなァ。」
へらへら笑いながら酒蒸しをつつくナッシュ。
他愛のない話をしながらも、二人の耳は周囲から聞こえてくる噂話に向いている。
…最近はクリスフルルからの魚も増えてきたな。それって、やっぱりこの間新しい航路が見つかったのが大きいのかな?
…〇〇のところ、今度改築するらしいぜ。なんでも今度は三階建てにするんだとか。へえ、あのもの好きもよくやるよなあ。
…〇〇のとこが、今度スワンプリムと直接船のやり取りを始めるんだとよ。あれ、そこって首都に魚を卸してたところじゃなかった?
…最近特に賑やかになってきたよなあ。そうだなあ、まあ賑やかなのはいいことじゃないか?
…町長の息子が、結婚間近らしいぞ。そういや、もう半年近く経つしなあ。
「…しかしまァ、ざっと聞く感じじゃ特におかしい噂は聞かねェなァ。」
「そうね、潜伏が巧い裏組織なのかしら。そうだとしたら中々厄介だわ。」
「裏組織なンて、大体そンなモンだろ。」
テーブルの料理があらかた片付いた頃。ナッシュは白ワインを流し込み言った。
「その厄介な裏組織にいたアンタが、いつの間にか政府の犬になっててオレンところを潰しに来た時にゃア、度肝を抜かれたモンだけどなァ。」
「昔の話をされても困るんだけど。あと、あれは当時の符牒をそのまま使ってたアンタ達が悪い。」
「へっへっへ、それァ違えねェ。」
ルシエも食事を終えている。グラスに注がれていたスパークリング飲料も、いつの間にか空だ。
「ま、益体もない噂とはいえ、何も拾えなかったわけじゃないわ。行きましょう。」
「おゥよ。で、次はどこ行く?日が落ちるまでにゃ、まだ時間があるが。」
「港に行きましょう。何か変わったところがあるかもしれないし。」
ナッシュは頷き、二人は酒場を後にした。
夕暮れの兆しが見え始めた頃。二人は港へやってきた。
海洋貿易の要衝であるこの港は、辺境の都市とは思えないほど大きく整備されており、大小様々な船舶が所せましと停泊している。
港には他国からやってくる船の入国手続きを行う通関事務所や魚市場、卸市場などに加え、運ばれてきた魚を内陸に運ぶための運送業の事務所などがあり、夕暮れが近いというのに多数の人で賑わっている。
「船が沢山…流石は港町って感じね。」
「それはいいんだけどよォ、ルシエさん。」
「何よ。」
「オレの記憶違いでなけりゃア、今日の宿を確保してない気がするンだが?」
「…あっ。」
すっかり忘れていた、という顔をしたルシエ。それを見て、ナッシュが爆笑した。
「あっひゃっひゃっひゃっ!アンタのそンな顔が見れるなンてなァ!」
「し、仕方ないじゃない。海と町がすごく綺麗で…その…。私、海とか港町とか、ほとんど来たことないし…。」
「いやァ面白ェ!アンタでも浮かれるってことがあるんだなァ!いやいや、その方が人間らしいぜ!」
ナッシュは手をパンパン叩いて笑い転げた。その様子を見てルシエは赤面しつつうーっとなっている。
「ま、まだ宿は見つかるから大丈夫でしょ。…こら!そんな笑うな!」
「ひーっ!ひーっ!そりゃ無理な相談ってモンだぜルシエさんよォ!マジで今年イチ面白ェ!」
「なんだい、宿を探してるのかい?」
そう声をかけてきたのは、魚屋の主人だ。ちょうど二人が歓談していたのが店先だったので、声をかけてきたのだろう。
「…あっ、はい。ごめんなさい、お仕事の邪魔だったかしら。」
「はっはっは、そこは気にするな。そうだな、宿ならそこの通りを上ったところにあるのがいいぞ。ジャスピリの海を一望できるからな。」
「それは素敵!ありがとうございます、ご主人。」
(へっへっへ、こンな面白ェモンが見れるなら任務を受けた甲斐があるってモンだなァ。…にしても。)
ナッシュは笑いを堪えルシエの様子を見つつ、店の中を伺っていた。
海の魚、沼の魚が様々豊富に並べられており、干物や塩辛のような漬物も並んでいる。
ナッシュは何の気のない素振りで店の中に入り、それらを見て回り始める。
「なんか気になるものでもあるかい?」
「おゥ、そうだなァ…。ダンナ、イチ個人の店にしちゃア扱ってる物の種類が豊富に見えるが、この町の魚屋ってのァ、どこもそうなのかい?」
「ふむ…ウチだけが特別多いという事はないと思うがね。何、ここ最近はこれだけあってもほとんどは腐る前に捌けてるから心配はいらんさ。」
「随分と景気がいいんだなァ?」
「そうだなあ、少し前まではこんな量扱ってたら少しは腐ってただろうが、最近は町の人口も増えてきたらしくてな、これくらいないと切らしてしまうこともあるくらいだ。」
「へえ…それって、どれくらい前からなんですか?」
「半年くらい前から少しずつ増えてきた感じかな。町に入植する人が増えたと町長が言っていたな。」
「へェ…。」
あくまで何の気のないようにしつつ、二人は魚屋の主人の話を注意深く聞いていた。
入植者が増えたことによる人口の増加は決して珍しい事ではないが。
「まァ、オレらにとっちゃどうでもいいことだわな。すまねェなダンナ、邪魔しちまった詫びにコイツをくれや。」
ナッシュがそう言って指さしたのはアジの干物だった。
「あいよ。中々目の付け所が渋いな兄さん。」
「へっへっへ、酒の肴に干物はもってこいだからなァ。」
会計を済ませ、店を出る二人に、主人は再度声をかけた。
「まいどあり。ああそうだ、旅の人なら知らないだろうから教えておこう。あまり夜に崖下の砂浜には近づかんほうがいいぞ。」
主人はそう言って、遠く左の海の方を指さした。
崖の上に邸宅が建っており、その崖下は見えづらいが砂浜が広がっているのが見える。
「それは、どうしてですか?」
「最近あの辺で変な噂が立っててな。夜に近づいたら気を失って、気づいたら自分の部屋で寝てるっていう奇妙な事が起きてるんだ。毎日じゃないんだけどな。」
「そいつァ穏やかじゃねェなァ。」
「ああ。特に傷を負ってるとかもないんだが、気味悪がって住民が近づくことはほとんどないんだ。旅の途中にそんなことがあっても嫌だろう?」
「そうですね、助言ありがとうございました。」
まいどあり、との主人の声に見送られ、二人は店を後にした。
やがて魚屋が見えなくなり、教えられた宿への坂に差し掛かったころ、ナッシュが声をかけた。表情はニヤついている。
「で、どうすンだ?」
「決まってんでしょ。」
その表情に、ルシエは真剣かつ不敵な笑みで返す。
「初めて掴んだ異変の匂いよ。―行くわよ、崖下の砂浜へ。」
「へっへっへ、そうこなくっちゃなァ。」
徐々に日が海に沈みゆく中。二人は崖下へ向かって駆けだした。
崖下へは砂浜の道が繋がっており、たどり着くことに苦労することはなかった。
ただ十分ほどかかったため、着くころには日が半分以上沈み、あたりはかなり薄暗くなってしまった。
「人の気配は感じないわね。」
「そりゃあ地元のヤツは近づかねえって言ってたしなァ。」
二人は砂浜を進んでいく。すると途中で海水が崖に浸食してできた洞窟が見つかった。
洞窟はそこそこ大きいようで、浸食した海水は小さな水路となっている。
「海蝕洞か…。この奥に何かあるのかしら。」
「何かあるかはわかンねェが、何かしてたのは確かだろ。見られちゃ困るモンがよォ。」
「そうね…。…特に何か感じることもないし、一回奥を見ておこうかしら。」
海蝕洞の中へ進んでいく二人。暗視のないナッシュは事前に【暗視】の魔法を使っている。
百数十m進んだ頃だろうか、突如視界が開けた。結構な大きさの洞窟の一部屋に出たようだ。
「パッと見た感じじゃ、特に何か残ってなさそうね。」
「だが、例の裏組織がここにあるってンなら、密かに集まるにゃア好都合な場所だなァ。」
ルシエは頷く。洞窟は、広さにして人を30人程度は収容できるくらいある。
仮に裏組織があるなら、密会に使用するには十分だ。
「…あ。」
広間の探索をしていたルシエは、ふと何かに気づく。
「どうしたァ?」
「…ここの壁、外れるわ。…うん、特にトラップとかはなさそうね。…っしょっと。」
がこん、という音と共に、洞窟の壁の一角が横に外れた。
外れた奥には空間が続いている。
「隠し通路たァ、古典的なモンがありやがるなァ。奥はどうなってンだ?」
「…かなり急だけど、階段があるわね。上に続いてる…。」
通路の先をのぞき込むルシエ。人一人ようやく通れるくらいの広さのそこは、すぐに岩をそのまま削ったような急な階段になっている。
ルシエは先を確かめると、そのまま慎重に外した壁を元に戻し、広間に戻る。
「なんだァ?進まねえのか?」
「これ以上は危ないかもしれないわ。引き返せるうちに引き返す事も時には必要よ。」
つまんねェ、とでも言いたそうなナッシュを窘めるように言うルシエ。
そしてそのまま洞窟の天井を見つめる。
「…まァ、上に続いてるってこたァ、そういうこったろうなァ。さてさて、怪しいのはどこのどいつだか。」
「それはまだわからないけど…。ひとまず町に戻って、宿を確保しましょう。」
「もうすっかり夜だもんなァ。宿は空いてるかねェ。」
やれやれ、という表情で出口へと向かうナッシュ。
二人は捜査を切り上げ、休むことにした。日はすっかり落ち、夜の帳が下りた町を魔機の光が照らしていた。
宿は問題なく確保できた。急ゆえに相部屋になってしまったが、特に問題は起きなかった。
ルシエはどこかにいっているらしく、部屋にはナッシュが一人残され、誰かと電話をしている。
「…今日の報告は以上だ。」
『うむ、ご苦労。しかし意外だな、まさか君から報告が来るとは思わなかったぞ。』
電話の相手はセルゲイだ。
「仕方ねェだろ。アイツは『海が見えるお風呂なんて素敵じゃない!』とかいって、とっとと風呂に行っちまったンだからよォ。アイツ、半分遊びに来てねェか?」
『はっはっは!ルシエ君は雪に閉ざされた国の出だからな、海が珍しかったんだろう。港町の任務を任せたこともほとんどないしな。大目に見てやれ。』
「まァ、面白ェモンが見れたからオレはいいけどよォ。昔見た、氷の人形が歩いてるような冷てェイメージからは想像もできねェな。アレがアイツの本性なンか?」
『ルシエ君は本来優しい子だとも。それにとても義理堅く真面目だ。私の急な申し出にも応えてくれたほどにはな。』
「そうかよ。その申し出ってのァ、ハーピーのガキを押し付けたことかァ?それとも、一課を作った時のことかァ?」
『無論、どちらともだとも。彼女には申し訳なく思っている。』
「へっ、どうだかなァ。」
ナッシュはセルゲイの言葉を鼻で笑った。その表情には悪態と自嘲が含まれているように見えた。
『では、引き続き頼む。ルシエ君にもよろしくな。何もないとは思うが、ルシエ君に乱暴はするんじゃないぞ。』
「ハッ、アイツ相手じゃ勃つモンも勃ちゃしねェよ。それに、オレが今のアイツに手ェ出さねえことくらい、長官も知ってンだろォが。」
『…そうだな、そうだったな。全く、その点だけ見れば、君は素晴らしい男なのだがねえ。』
「ほっとけ。じゃあなァ。」
電話を切り、ベッドの上に無造作に放り投げる。そして己の体もベッドに投げ出した。
(面白くはあるが…正直知りたかなかったなァ。"闇を辷る黒"の№3が、あンな人間味溢れるヤツだったなンてよ。)
「ふう…。」
一方その頃。ルシエは海が見える浴場の露天風呂に来ていた。
この時期宿を借りる者は珍しいようで、目下ルシエの貸し切り状態である。
温泉ではなく沸かした湯であり、入浴剤が使われているのが残念な点であるが、穏やかな海の眺めは旅の疲れを癒すにはもってこいだった。
「いい眺めね…。仕事でなければ、もっとよかったのに。」
湯舟から身を乗り出し、手すりに身を乗り出し、海を眺める。
肩に乗った汗が、背筋、脇腹を伝って滴り落ちる。
そよ風が優しく群青の髪を、耳を吹き抜けていく。
(今日は、色々思い出しちゃったわ。ナッシュの奴、昔のことを言わなくてもいいのに…。)
身を預けたまま、ぼーっと外を眺める。
海風が引き締まった傷跡が残る体と、身長に比してやや大振りの双丘の下を抜けていく。
海の向こう、暗闇の水平線に目を向ける。
この海の向こうにはケインの故郷であるスワンプリムが、そして更にその奥にはクリスフルルがある。
もしかしたら、海のずっと向こうには別の世界、別の国があるのかもしれない。
(ケイン、元気かしら。)
同居人の少年の事を想う。望まない体質を授かったがために、国へ帰れなくなってしまった少年。
年の割にしっかりしていて、少し生意気で、気丈で、底抜けの優しさをもつ少年。
(あいつだって本当は、帰りたいはずよね…。)
つい先日は、ウィンデリアの人間に恩を返すためと、自ら危険なホットスポットへの同行を申し出てくれた。
自分よりも他を優先し、自らの願いよりも他の願いを叶えることを優先してしまう、天使のような少年。
(私は自ら犯した罪のために、故郷に骨をうずめる事は叶わなくなった。後悔はあるけど、恨むつもりはない。)
(…でも、あいつは違う。あいつは完全に他人のせいで、自分の故郷に帰れなくなった。)
海風に吹かれ、眼を閉じる。
(…可哀想、よね。今回の一件が終わったら、あいつに里帰りをさせてやってもいいかな…。)
目を開き、湯舟から上がる。更衣室へと向かう細く締まった足から伸びる影が、夜の港町の影に融けていた。
-3-
翌朝。二人は食事をとるため、宿の食堂に来ていた。
そこそこの広さのある食堂だが客の入りは広さに比して少ないようで、どことなく閑散とした雰囲気を漂わせている。
「お待たせしました。ナマズの蒲焼定食と渦カツオの塩焼き定食です。ごゆっくりどうぞ。」
二人が着いたテーブルに料理が運ばれる。
ナマズは綺麗に開かれ、火が入れられたタレが食欲をそそる香りとテカりを生み出している。
カツオもまた香ばしく焼き上げられており、おろされた大根と半分になったすだちが添えられている。
「おゥ、姉ちゃン。ちょいと悪ィンだが。」
「はい、いかがなさいましたか?」
料理を運び終え、厨房に戻ろうとする給仕の女性をナッシュが引き留めた。
「食堂がなンか寂しいように見えるが、これはいつもの事なンかい?」
「はあ…、確かにお客様は少ないですが、そう変わらないと言えば変わらないかと…。」
給仕の女性は周りを見渡し言った。
「ここ最近では船乗りのお客様が多く見えられるんです。ですから早朝にはよくお見えになるんですが、今は九時くらいですから、そういった方は皆捌けておられるのではないかと。」
「なるほどなァ。船乗り以外にゃ、オレ達みたいな旅行者とか冒険者しかいねェのかい?」
「旅行の方や冒険者の方以外だと、首都などの内陸の方から魚を買い付けにくる運送業者の方も見られます。でも、最近は少し減ってきていますね。」
「へェ、そりゃまたどうしてだァ?首都で魚を食うヤツが減ったとかかねェ?」
「運送業の方のお話ですと、この町で食べられる魚の量がここ半年くらい前から増え始めてきて、その分内陸に回る量が減った、という話でしたが…。」
「はァン、なるほどなァ。」
へらへら話を聞くナッシュと、蒲焼をつついていたルシエは今の話を注意深く聞いていた。
そういえば昨日もそういった話、噂を拾っていた気がする。
…最近特に賑やかになってきたよなあ。そうだなあ、まあ賑やかなのはいいことじゃないか?
…最近は町の人口も増えてきたらしくてな、これくらいないと切らしてしまうこともあるくらいだ。
「急に話につきあわせちまって悪かったなァ。ありがとよォ。」
「いえ、それでは失礼いたします。」
一礼し去っていく給仕を後目に、ナッシュは声を落としルシエに話しかける。
「―どう思うよ?」
「妙と言えば、妙ね。」
ルシエも同じく声を落とし応える。その表情は真剣だ。
「ただの内需の拡大ならそう気にすることはないけど、流通に影響が出るくらい急激な内需の拡大が起きてるなら話は変わってくるわ。」
「そンだけ急激に人が入ってくるようになった、ってこったからなァ。でけェ会社が建ったとか、大型の魔機船舶ができて出入りが激しくなった、ってこたァなさそうだしなァ。」
「ええ、町の雰囲気に特別環境が変わったといったみたいな、急激な変化は感じない。町の雰囲気そのままに、人だけ急激に増えてる。」
ナッシュはカツオの塩焼きに手を伸ばしつつ、声の調子そのままに続ける。
「増えたンが例の裏組織の分だとしても、そいつらがどんなツラしたヤツかはわかんねェな。」
「そうね…それに、末端だけ捕まえても大した情報は得られそうにない。できる事ならここの頭目から話を聞きたいところね。」
「おー怖えェ怖えェ。下っ端無視していきなりアタマ狙ってくンのは相変わらずだなァ。だが、いるかねェ?」
「裏組織を潰す時の常套手段でしょう。…あの洞窟に、あんな意味深な階段があるんだもの。まず間違いなく頭目がいるわ。この町の町長の関係者の誰かにね。」
いつもと変わらない調子で、声を落としてルシエが答える。
前日行った崖の上にある邸宅はジャスピリの町長の邸宅であることは判明している。
「どうする?町長ントコにかち込むかァ?」
「せめてもう少し情報が欲しいわ。決定的な証拠を町長が握っているとして、今行っても逃げられるだけよ。」
「じゃア、今日もまた噂を集めつつ町の様子を探るってところかねェ。」
「そうなるわね。さ、終わったら行きましょう。まだ町の半分は見切れていないのだし。」
「おゥよ。」
食事を終えた二人は、再び町の中へと繰り出していくのだった。
前日で回ったのは町の東側の区画だったので、西側へ向かうために大通りを歩く二人。
と、そこに一組の男女が話し合っている光景が目に入った。
言い争っているというよりは、男が一方的に話しかけているように見える。
「ねえ、明日いいだろ?ミシュリを紹介したいんだよ。」
「その、ごめんなさい。明日は無理なんです。明後日とかならいいんですけど…。」
「明後日だと首都に着く頃には親が出てていないんだ。明日がダメなら、今日はダメかなあ?」
「ごめんなさい、明日はどうしても外せない用事があって、明日この町を離れるわけにはいかないんです。」
その後もいくつかやり取りがあったが、最終的にミシュリと呼ばれた女性は頭を下げ足早にその場を去ってしまった。
残された男性はがっくりと項垂れている。
「よォう、兄ちゃン。元気ねえじゃねェか?」
「…あ?誰だいあんた。」
そんな男性にナッシュが気さくに声をかける。
男性は傍らにいるルシエも見て、心底嫌そうに答えた。
「いやなァ、聞くつもりはこれっぽっちもなかったんだがよォ、兄ちゃンてば派手にフラれてたじゃねェか。男としちゃア放っとけねえからよォ。」
「…男なら放っといてくれよ。そんな可愛い彼女を連れたおたくに、今の俺の気持ちなんてわかるもんかよ。」
「はっはっは!コイツはただのダチさァ。兄ちゃンが思ってるようなモンじゃねェよ。」
ナッシュは男性の憂いを晴らすかのように豪快に笑う。
「ってェか、兄ちゃンとカノジョはうまくいってなかったンか?横から見てた限りじゃア、仲が悪そうには見えなかったけどなァ。」
「俺とミシュリは仲は悪くないさ。俺もできるだけ優しくしてきたし、彼女もそれに応えてくれてたんだ。会って今まで、喧嘩したこともあったけど、ああもハッキリ断られたことなんてなかった。」
「悲しいねェ。そンな仲睦まじいカップルに、何があったンだい?」
「…付き合って半年くらいになるから、首都にいる両親に彼女を紹介しようと思ったんだ。俺、首都からここに働きに来ててさ。でも、その日は外せないって、後日ならいいって言われて…。」
「俺の両親、二人とも忙しくてさ、都合がつく日がなかなかないんだ。今回のだって、外したら次は再来月とかになっちまう。」
「そいつァ確かにあンまりノンビリできねえなァ。そういうこたァ今までもあったンかい?」
ナッシュの問いに男性はぽつぽつと答えていく。
「…何回かはあった。月に二回くらい、どうしても外せない用事があるからって。でも、それが親への紹介よりも優先されるなんて、思ってもみなかった…。」
「すれ違いだなァ。そのカノジョが何をしてるのかは、知ってるのかィ?」
男性は首を振って否定する。
「知らない。何をやってるのか聞こうとしても、やんわり断られるんだ。まあ、秘密なんて誰でもあるし、俺は気にしてなかったけど。」
「そうかィ。」
男性はため息をつき、天を仰ぐ。
「あーあ。ミシュリにとって俺はその程度の男だったってことかなあ。アズウェルさんとフリクェルさんが羨ましいよ。」
「そのアズウェルさんとフリクェルさんっていうのは、誰なんですか?」
ルシエがおずおずと聞いてくるので、男性は意外そうな顔をして答える。
「え、あんた達知らないのかい?町長の息子さんのアズウェルさんと、その彼女のフリクェルさんだよ。すごい仲が良くて、近々結婚するんじゃないかって町中の噂さ。」
(そういやァ…。)
(そんな噂があったわね…。)
「フリクェルさんも来て半年くらいの子でさ、すごい美人で声が綺麗で、天使みたいなんだ。思わず見とれそうになったくらいさ。」
あ、俺にはミシュリがいるけどね!と誰に対して言い訳しているのかわからない身振りをする男性。
「へェ、そりゃ一度お目にかかっておきてェなァ。どうすりゃ会えるかねェ?」
「うーん…昼過ぎくらいに町長の家に行く途中にある噴水でよく歌ってるから、行けば会えるんじゃないかなあ?」
ナッシュはそれを聞くと男性に笑いかけた。
「そうかィ、ありがとなァ話してくれて。兄ちゃンならまた次の機会があるぜェ。」
「こっちこそ、なんか話したら少し気が軽くなったよ、ありがとう。また都合合わせて、今度こそ親に紹介してみせる。」
男性と別れ、再び大通りを歩いていく二人。男性が視界からいなくなった後、ルシエが問う。
「で、どうすんの?会いに行くの?」
「会うさ、決まってンだろォ。半年前に現れた美女なンて、ベタな悪役だろォが。」
「まあ、そうね。でもまだ昼過ぎまでは時間があるわ。…もう少し、噂を集めておくことにしましょう。」
「あいよォ。」
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―その後の噂収集で得られた成果は、半年ほど前より人の流入が増え始め、ここ一か月で更に増えてきた事がわかった事、昨日の魚屋の主人が言っていた噂がどうやら現実らしいことくらいである。
…夜釣りをしようと思って崖に行ったんですけど、気づいたら家で寝てたんですよね。なんか怖くて、あれ以来夜釣りに行けなくなりましたよ。
「ありゃア間違いなく【昏倒】だろうなァ。」
実際に話を聞いた上でのナッシュの言である。
【催眠】の上位にあたる、対象に眠気を感じさせる間もなく昏倒させる紫魔法であり、並みの紫魔術師が使える魔法ではない。
「人払いってところかしらね。あの洞窟で何かが行われてるのは確実と。」
「へっへっへ、だろうなァ。いよいよ穏やかじゃなくなってきたじゃねェか。」
へらへら笑っているナッシュと共に、ルシエは東側にある公園に来ていた。
大きな噴水が勢いよく水を噴き上げ、小さな虹を作っている。
周囲には花壇が設えられており、色とりどりの花々が咲いている。
今の時期ならば紫陽花や百合、朝顔などが見ごろだろうか。
「人払いしてまで何をやってるのか気になるところではあるけど…あれかしら。」
ルシエが指さした先にいたもの。それは金髪のロングヘアを風に靡かせ、透き通るような美声で歌う、純白の羽根を持つ―ハーピィの美女だった。
彼女の周りには老若男女とわず集まっており、人だかりができている。
「でもほんと、ハーピィの声はいつ聞いても素敵ね。時々羨ましく感じるわ。」
「あーまァ、そうだろうなァ。しかもありゃア"歌姫"クラスの声の持ち主だ。出るところに出りゃア世紀の歌姫だろォが…この場合は気ィ付けなきゃいけないぜ、ルシエさんよォ。」
「どういうことよ?」
ナッシュはハーピィの女性の方を恨めしそうな目で見つめる。
「"歌姫"クラスのハーピィってのァ、声だけで人を安心させリラックスさせちまう。―オレ達紫魔術師、そして扇動者にとって最高のカモが、声だけで作れちまうのさ。」
「…洗脳しやすくなる、ってことね。」
「あァ。基礎暗示がいらねェンだかンな。オレにとっちゃとンだチート野郎だね。」
言われてルシエは改めてハーピィの方を見る。
その声はとても美しく、透き通るようで、聴く者の心に抵抗なく響く。
その声が悪意のない純真無垢なものであればよいが…これが悪意に満ちたものの声であるならば。
「―恐ろしいわね。…ん?」
自分の想像に人知れず戦慄していたところ、ハーピィの懐で電話が鳴った。
その電話を取り出した時、電話に下がっていたいくつかのストラップが目に入った。
(―あれは…!)
そこに下がっていたのは山羊、そして孔雀、小さなドラゴンの人形だった。
それらは可愛くデフォルメされており、女性が下げるストラップとして何ら違和感はないものだったが、二人にとっては違う意味に見えた。
「気づいたかィ、ルシエさんよォ。」
「ええ。思い過ごしであってほしいものね。」
「―あれが"魔神"アドラメレクであるなんて。」
山羊の頭と体、牛の足、龍の羽、そして孔雀の尾をもつ"魔神"アドラメレク。
―それは、アインガリアに神として伝わる存在だった。
『そうか。アインガリアが関与している可能性があるか。』
ところかわって、先日より借りている宿の自室。二人はセルゲイに今までの報告をしていた。
「確証が取れたわけではありませんが、関与している可能性は否定できません。」
『そうだな。…だが、疑わしきで捕らえるわけにもいかん。引き続き調査を進めてくれ。決定的な証拠が掴めれば動けるだろう。』
「わかりました。それで…そちらの状況は?」
『そうだな。今のところ目立った報告はない。』
電話越しにセルゲイはふーっと息を吐く。
『が、防衛機密が漏れている以上、何もないとは考えない方がいいだろう。可能な限り早めに戻ってきてくれるなら、それに越したことはない。』
「了解しています。ただ、ここもアインガリアが関与している可能性がある以上、野放しにはできません。」
『君の言う通りだ。いざという時南北挟撃は避けたい。まずは、そこで出来る限りのことをすることを優先してくれたまえ。』
「かしこまりました。」
報告が終わり、電話を切る。
「長官はどうしたってェ?」
「今のところは何もないそうよ。なるべく時間はかけなくないところだけど、アインガリアが関与してる可能性がある以上、出来れば一網打尽にしたいのよね…。」
「それならピッタリの状況があるじゃねェか。」
「…明日の夜を待つ、っていうの?」
ナッシュはニヤリと笑う。
「あァ、そうだ。午前中に聞いた兄ちゃンの話じゃア、半年前に来たカノジョの外せない用事ってェのが、明日にあンだろ?もしあの姉ちゃンが例の裏組織の構成員なら、そいつらが同じ日に集まる可能性ってのはあるンじゃネェか?」
「確かに考えられるわ。でもどうせならもう少し裏が欲しいわね。…ねえ、ナッシュ。」
「ア?なンだよ。」
「町でもう少し新規流入者と、例の裏組織の繋がりを探ってきて。バレない範囲なら、魔法も許す。」
「へっへェ!アンタにしちゃア随分と気前がいいじゃねェか。で、アンタはどうすンだよ?」
「わかってんでしょ。」
ルシエは立ち上がり真剣な表情で答える。
「―町長の邸宅に潜入ってくるわ。あのハーピィの女がアインガリアに関与してるって証拠が欲しいからね。」
「へっへっへっ!やっぱアンタはそうじゃなきゃなァ。久しぶりに見せてもらうとするかねェ、"闇を辷る黒"の№3の実力をよォ。」
「こっちこそ期待してるわよ?"紫紺の渦"の元リーダーさん?」
まだ日が高いジャスピリの町。二人から伸びる影は融けることなく、くっきりと部屋に映っていた。
>>続く
第八話は4月30日更新予定です。