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銀狼と闇の魔女 〜千年の戦いと世界の終わり〜  作者: みどりあゆむ
三章 始まりの国
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三十六話 ウルガー対フレデリック


「ゴーレムとなったフレデリックさんは、このまま敵対する人間を皆殺しにして、王城を目指して進むでしょうね〜」


「ゴーレム……って言ったら、婆ちゃんの持ってる本で見た事があるな」


 地下にて禍々しく大きな負の魔力を感じ取り、全神経が、本能が、強い警戒心を訴えていた。

 ウルガーの側にいた桃色髪の魔女カトレアは、その負の魔力の正体を『ゴーレム』だと語った。


 それは、千年前の大きな戦争で使われていた巨大な魔導兵器だと記録には残されている。 

 ゴーレムは、岩石すらも紙細工の様に容易く破壊する圧倒的な力。全身は鉄の様に硬い、黒い土の鎧で覆われており、再生能力までも持ち合わせている。


 ただ、そんなものが本当に存在していたかどうかも疑わしいとされていた筈であったが……


「そんなもんが実在してた……っつーか、何でそんなもんを魔導会が持ってんだ……」


 そう言い掛けた所で、ウルガーの脳裏に思い出されるのは以前出会った黒い鎧の怪物だった。

 今にして思えば、大きさは違うが、特徴にはゴーレムと一致している部分も思い出される。あんな歪んだ生物兵器を作り出し、何を考えているのかと思っていたが。


「まさかアイツ等は、ゴーレムの試作品だったって事かよ」


「――それよりもウルガー君。このままでは、現在、王の部屋まで行ってるビッキーちゃんも危ないですよ〜。フレデリックさんは優しいケイミィちゃんと違って、他人の命を奪う事になんら躊躇がありませんから」


 カトレアの警告を聞き、「あぁ」と納得する。


 幼馴染を元に生み出されたであろうケイミィに対しては色々と複雑な感情を抱いている……が、彼女からは悪意や黒い感情を感じられなかった。

 それに、ビッキーならば戦闘では勝てずとも死なずに立ち回れるだろう……と、信じている。


 ケイミィよりも危険なのは、フレデリックの方だ。


 ただでさえ強敵だった男が更なる力を付けて、躊躇の無い殺意を全力で向けて来る。そんな事態になれば、ビッキーでも命が危ういだろう。

 ニアも命までは奪われずとも、フレデリックに抵抗した結果、酷い重傷を負わされる可能性がある。


 ニアやビッキーの事は気掛かりだが、一番放置してはならない存在は決まっている。


「フレデリックの野郎が王城まで到達する前に、ぶっ倒して止めねえと!」


「それが良いと思います〜。しかも、ゴーレムになった事で負の魔力を大量に浴び、今フレデリックさんの残虐性は更に高まっていると思います。何をしでかすか分かりません」


「じゃあ尚更早く地上まで上がらねえと! だが道を探してる暇はねぇ、近道を作る!」


「近道を作る? って、どうやって〜……」


 カトレアがそう問い掛けようとした直後、ウルガーは獣人化状態の右腕の太く鋭利な爪で間近の石造りの壁を引き裂いた。

 そこへ続け様に、獣人化した右脚をぶつけて石の壁を大きな音を立てながらバラバラに粉砕し、その下からは土が露出してくる。


「あら〜、無理矢理ですね〜……」


「こうでもしねぇと間に合わねぇだろ! カトレア、俺が居ない間に仲間に余計な事はするなよ!」


「心配せずとも、今日はもう何もしませんよ〜」


 そのままウルガーは獣人化させた右腕を振るい地面を削り、人間状態の左手も使いながら掘り進み、負の魔力の漂う地上を目指し上がって行った。

 左手の指先が削れ、爪も割れて、血が出て、痛い。痛いがそれを必死に堪え、凄まじい速度で地面を掘って行き、振り上げた銀狼の右腕が地表を内側から破壊し、地上へと抜け出た。


 地上へと飛び出た瞬間、一帯からは血の、内臓のニオイが……大量の死のニオイが嗅覚に襲い掛かる。

 背後に居る人達は気配からして生きている。が、多くの人間が殺されているのを察した。


 歯を食いしばり、眼前から降り注がれる岩の砲弾を銀狼の右腕で迎撃し、撃ち落として行く。

 砲弾の放たれた方向へ目を向ければ、そこには黒い鎧で全身を覆われた巨兵――あれが、ゴーレムだ。

 更にゴーレムからは、フレデリックのニオイもした。


「まさか地中から現れるとはな、ウルガー」


 その巨兵から発せられた一言。

 どうやらフレデリックの意志は残っているらしい……が、周囲の惨状を見る限り、あの男は更に残虐性が高まっている。

 やはりこのまま、奴を放置してはいけない。ここで始末するべきだ。


「フレデリック。お前は今日ここで、完全にぶっ潰してやる」


 しかし、フレデリックと戦っていた筈のテッドの姿が見えない。まさか、と最悪の想像が脳裏を過ぎるが――


「――ああ。テッドはまだ生きているだろうから気にしなくていい。全くあそこまで痛めつけてまだ生きているとはとんだ化け物だよ」


「化け物って、テメェこそ見た目もやってる事も化け物そのものじゃねぇか。何だよこの惨状は、何で味方の兵まで殺してるんだ」


「ゴーレムの形態は、この国では見られたく無かった。それに、奴等は王の意志に疑問を感じていた……不穏分子は排除せねばな」


「見られたくねぇなら元の姿に戻りゃいいじゃねぇか」


「テッドから首を落とされたせいで人間体の再生に時間が掛かるんだ。恨むならテッドを恨め」


「……首を落とされたって……お前本当どの口で他人を化け物とか言ってんだよ」


 これ以上、言葉を交わす必要は無い。

 すぐ近くには王城が見える、中にニアやビッキーが居る今、あそこまで行かせてはならない。


 体力はまだ残っている、獣人化の力はまだ持つ。拳を握り締め、銀狼の足で地を強く踏み締めて――地表を削りながら、一気に走り出した。


「オオォォォーーッ!!」


 咆哮を上げながら、ゴーレムへと一直線に接近していく。

 相手からの反撃を警戒しながら距離を詰めて、巨兵の右脚へと拳を叩き込んだ。

 巨兵の脚は音を立てながら砕け、半分程の深さまで抉り取る。


 その直後。


「ぎゃあああーーっ!!」


 轟音と共に、背後から人々の断末魔が聞こえた。

 振り向けば、ゴーレムの左手から放たれた岩の砲弾が残った兵を狙い虐殺を再開していた。


「テッメェ、コラァ! 相手は俺だろうが!!」


 ウルガーと戦う事をせずに、逃げようとする者や戦意を喪失した者、怪我人を淡々と殺して行く様子に、頭に血が登る。

 そして地面を蹴り、銀狼の脚による跳躍力で一気に上空まで跳ね上がる。

 虐殺を止めるべく、砲弾を放つ巨兵の左手を狙って――


「貴様の様な奴は本当に扱いやすい」


 冷徹な声で呟くフレデリックの声が聞こえ、中空にてウルガーの背中に重たい衝撃がぶつけられる。


「ガ――ッ!」


 それは巨兵の巨大な右拳だった。全身をバラバラにされるかの様な苦痛が襲い掛かり、口から血を吐きながら吹き飛ばされる。

 身体が地面に衝突し、呼吸困難に陥る。痛みと苦しさが襲い掛かり、必死に呼吸を整える。たったの一撃で、全身が悲鳴を上げている。


 巨兵はフレデリックの声を発しながらこちらを見下ろして。


「貴様の様な甘い思考の人間は、虐殺を見て見ぬふり出来ないし、冷静さを保てない。こうして直ぐに隙だらけになってくれるから、扱いやすい」


「ハァ、ハァッ……ハァッ……!」


 何とか呼吸を整え立ち上がる。

 獣人化している間は、人間体の部分も頑丈になり再生力は上がっているが、あくまでも気休めにしかならない。

 激しい痛みに襲われる全身を、何とか奮い立たせる。


 迂闊に突撃出来なくなってしまった。

 接近すれば、あの男はまた虐殺を始めるだろう。目的の為ならば他人を見捨てられる、そんな覚悟は、ウルガーには無かった。

 フレデリックの言う通り、甘い思考しか出来ない人間だ。他人の命を切り捨てられる覚悟があればもっと楽に戦えるだろう。けど――


 今になって思う。こういう考え方になったのも、島の皆が、祖母や、幼馴染や、友人が優しい人達だったからだろうと。

 せっかく皆から授かったものを捨てるなど、したくは無かった。


「……今更この甘ちゃんな思考回路を捨てる気はねぇ。その上で、勝つ」


「ハッ。馬鹿めが、やってみるが良い……」


 フレデリックは巨兵の指先を再び怪我を負い動けない兵達へと向けて、冷徹に宣告する。


「貴様が動くたびに殺す。フハハハハ、それでも戦え――」


「ッらぁアーーッ!」


 と、フレデリックが喋る途中で、ウルガーは地面を蹴り、再び高く跳躍する。


「人が話している最中にぃ!!」


 対する巨兵は指先から五発の砲弾を放ち迎撃――否、狙いは背後の怪我人達だ。


「やらせるかよォ!!」


 同時に放たれた砲弾のうち一発へと足を着け、蹴り飛ばし他の一発へとぶつけ相殺させる。

 その岩の砲弾を蹴り飛ばした時に生じた跳躍力で三つ目の砲弾へと到達し、それもまた蹴り飛ばし四つ目へとぶつけ同様に破壊。


 それと同時に残る五つ目へと足を伸ばし着地、蹴り落としながら高く跳躍し巨兵の左手へと到達。

 銀狼の右脚からかかとを振り下ろし左手首を半分抉り、更にもう一撃、右拳を叩き付け手首を完全に 破壊した。


「一瞬で全て破壊するとは、大した速さだ。が、まだ戦い方はあるのだよ!!」


 その時、巨兵の腹部の鎧が口の様に大きく開き、そこから放たれようとする負の魔力のニオイと大量の禍々しい気配を感知した。


「出させるかよ!!」


 巨兵の左手から足を離して跳躍し、負の魔力が放出されようとしていた腹部へと銀狼の右脚を叩きつける。

 放出しかけていた黒い触手はその一撃で散り散りになり、掻き消える。


 更に露出したそこへ拳による連撃を幾度も叩き込み、内側を破壊していく。


「グゥぅ、鬱陶しい蝿がああぁーー!!」


 フレデリックの怒りの滲む声が聞こえ、巨兵の態勢が変わった事に気が付いた。

 次の瞬間、ゴーレムの両足のかかとから黒い煙が噴出。凄まじい速度を出しながら、滑走を始めた。


「このまま怪我人共を轢き殺す。止めてみるがいい、ハハハッ!!」


「この野郎!!」


 ウルガーは巨兵の腹部から飛び降り地面へと脚を着けて、両手で巨大な右脚を受け止める。――が、獣人化形態の力でも、抑え切れない。

 歯を食いしばり耐えようとする、が……強く踏み締めた地面が削れながら、少しずつ、少しずつ、後退していく。背後の怪我人達との距離が、どんどんと縮まって行く。

 巨体から繰り出される圧倒的な力を前に、このまま全身が押し潰されてしまいそうだ。


「ハハハハハハッ、このまま全員潰れろ、潰れて死ね!!」


 フレデリックがそう言って、頭上から再び負の魔力が肥大化していくのを感じ取った。また、腹部から禍々しいものが放出されようとしている。


「グゥ――!」


「フハハハッ! さあ、どちらを止める、どちらかのみを止めても無駄だがなぁ!!」


 このままでは不味い。虐殺がまた始まる。また多くの死人が出る。


「――んな事させっか、よォォッ!!」


 負けじと咆哮を上げる――が、巨兵の圧倒的な力を前に、人間体の左腕が、押し潰され、骨が肘から飛び出し露出する。

 激しい痛みに負けじと堪えながら巨体を抑え続け、再び叫んだ。


「ガァァァーーッ!!」


 銀狼の右腕の筋肉が更に膨張――巨大化し、ゴーレムの巨体をゆっくりと、持ち上げた。


「何ぃ!?」


 今にも身体を潰されそうだ。それでも歯を食いしばり、全身に出来る限りの力を込めて、持ち上げたゴーレムを思い切り投げ飛ばす。

 投げ飛ばされた巨体は建造物や植木を破壊しながら地に叩き付けられた。


 立ち上がる前に接近する。土煙が舞う中、一気に巨兵との距離を詰めながら嗅覚を研ぎ澄ませる。

 一番負の魔力が濃い部分――そこが核だ。


「心臓の位置だ!!」


 最早使えない状態にまでボロボロになった左腕の痛みを堪えながら、走り出す。立ち上がろうとする巨兵の膝へ踵を落としてから、もう一撃蹴りをぶつけて叩き折る。

 そこから跳躍し、負の魔力が膨れ上がっていた腹部へと着地しながら両足を叩き込み破壊した。

 そしてそのまま、心臓の位置を狙い拳を振り降ろす。


「ッラアァァ!!」


 右拳を叩き込み鎧を粉砕し、そこから剥き出しになった内側を鋭利な爪で切り裂いて行き、核らしき紫色の魔晶石が露出する。


「時間は与えねえ」


 一刻も早く破壊すべきだと、右拳を核へと振り下ろし、破壊音が響き渡る。

 魔晶石だった細かい破片が散り散りに宙を舞い、そこから感じていた負の魔力の気配は薄れて――消滅していく。


「……さっさと王城まで行かねえと」


 ニアとビッキーが心配だ。戦いが終わったのであれば一刻も早く向かわなければならないと、一瞬意識が巨兵から逸れた、直後だった。


「――ッ!?」


 足元から何かが来る気配を感知し、咄嗟に身体が反応し、跳躍する。

 すると、さっきまでウルガーの居た位置、その鎧の表面から岩の棘が突き出していた。

 そこから移動した場所からも棘が次々と出現し、ウルガーは巨兵の身体から地面の上まで後退し――


「ウォッ!」


 着地した地面の表面から巨大な岩の拳が出現し、ウルガーの身体を叩き付ける。中空まで殴り飛ばされて、殺気を感じ目を向けた先には。

 再生した巨兵の左腕の指先がこちらへと狙いを定め、発射された。


「ガァ――ッ!」


 迎撃が間に合わず、轟音と共に射出された岩の砲弾がウルガーの左脚と右肩を粉砕し、そのまま地の上まで叩き付けられる。


「ハァ、ハァッ、核は、破壊した、筈だろ――!」


 右肩と左脚の再生に意識を集中させながら、ゴーレムへと視線を向ける。すれば巨兵はゆっくりと立ち上がっており、フレデリックが声を出した。


「誰が、核は一つしか無いと言った?」


 その一言で察した。弱点は、他にまだあるのだと。


「だがしかし、胸の核を破壊されれば負の魔力の出力は激減するが、新たな戦闘方法が芽生えるのか。フム、面白いな」


「何も、面白くねぇよ……!」


 胸の核を破壊した影響だろう、フレデリックの語る様にゴーレムから感じていた負の魔力の気配は激減していた。

 しかし、まだ相手は動ける。その上、戦闘方法が変わりまたやりづらくなってしまった。接近すれば何をしてくるか分からない。


「それでも、やるなら、近づくしかないか……!」


 ――立ち上がろうとする、が、左脚がまだ再生しきっておらず、膝が崩れ落ちてしまう。


「クソっ……!」


 再生速度が落ちて来ている、酷く消耗したからだろう。

 しかし敵は待つ事などしてくれない。巨兵は足音を立てながら、ウルガーへと近づいて来る。


「もう少しこのゴーレムの身体を実験したい。頑丈なお前に、実験台になって貰おうか」


 フレデリックの意識は既に怪我人達から外れ、ウルガーのみに集中していた。

 更に負の魔力で正常な認識が乱れて来た影響だろう、相手の目的もズレ始めている。それらはウルガーにとって有利な事だ。


 しかし、体力の限界が近付いて来た現状、このままでは不味い。回復しきらず千切れかけのこの右肩では、一撃殴ればマトモに使えなくなるだろう。

 再生するまで時間を稼ぐにも、左脚も再生しきっておらず使い物にならない。


「さて、先ずはゴーレムの身体をどこまで変形させられるか見てみようか」


 巨兵の右腕が、その形状が音を立てながら変化し、大剣へと姿を変える。

 そして巨兵はそれを、ウルガーに向けて振り降ろすつもりだ。


 どうすればいい、どう動けばいい、どう戦えば――

 悠長に考えている時間など、無い。振り降ろされた大剣が空を斬りながら頭上から迫って来る。例え片脚が動かずとも、やるしか……


「――ウッ!?」


 その時、ウルガーは左横腹から異変を感じ取った。横腹からボロボロになった左脚へと、何かが蠢き這い上がって来ている。


 そして、左脚の大きな傷口から『ソレ』は出て来る。


「なっ、コイツは!?」


 それは生物の様に蠢く液体状で、水色の小さな物体――スライムの、肉片だ。


 以前クリストにて遭遇した危険生物。何故その肉片が体内から出て来たのか、理解不能の事態に混乱しかけた直後。声が内側から聞こえた。


『君の中に一部だけ残したままにしておいた。いつか役に立つと、嬉しいな』


 それは、アーレの声だ。破片に残されていたのだろう、彼の言葉だった。

 スライムの肉片がボロボロになった左脚の大きな傷口から伸びて硬質化、そこに新たな脚の姿を形成していく。


 その水色の脚は、ちゃんと自分の思い通りに動かせる。


「――感謝するぜ、アーレ」


 小さく感謝を伝えた後、新しく形成された脚を奮い立たせ、地面に両の足を着け即座に反撃態勢へと移った。


 その様子を見ていたフレデリックは、大剣を振り降ろしながら叫ぶ。


「何故、貴様の脚からスライムが生えて来る! 貴様、何をしたぁ!?」


「助けられただけだよ」


 地へと叩き付けられる大剣を避けて、地表は割れ破片と砂煙が激しく宙を舞い散る。

 砂煙を掻き分けながら突撃、一直線に進んで行き、右肩のみに回復を集中させた事で再生速度が飛躍的に上昇。

 道中、足元から襲い掛かる岩の拳の連撃を避けて行きながら、相手の負の魔力の気配が濃い部分――核を探る。


「頭か」


 頭部を目指し地を蹴って跳躍、巨兵の膝へと着地した。

 直後、ゴーレムの表面から次々と突き出てくる岩の棘を回避しながら、上へ上へと駆け上がって行く。

 右肩は完全に再生し、鎧から出現する岩の棘を破壊しながら肩まで到達。頭部を狙い殴り付けて、表面部分を粉々に砕いた。


 破壊された兜の下から眼球が現れ、ウルガーへと目を向ける。もう一撃、右腕を振り上げて――


「チィ――ッ!?」


 拳を振り降ろそうとした瞬間、眼球から黒い熱線が射出され、ウルガーの右横腹を焼きながら貫通する。

 痛みに動きが鈍り、足元から出現した棘の回避に一瞬遅れ、右脚を削られながら態勢を崩し、頭部から地面の上まで落下する。


 地と激突する前に身体を回転させながら頑丈な右腕で受け身を取り、大きな傷は負わずに済んだが――


「クソっ、仕切り直しかよ……!」


「ゴーレムの身体はこんなものまで撃てたのか……新たな発見だ。素晴らしい、フハハハッ!」


「何が楽しいんだ、この野郎」


 穴の空いた横腹は傷口が焼かれた事で出血は抑えられているが、襲い来る激痛は収まらない。それを歯を食いしばり堪えて身体を起こし、地に足を着けて立ち上がった。


 身体の至る所が悲鳴を上げているが、耐える。まだ、止まるわけにはいかない。この男を放置するのは危険だ。


「まだ、持ってくれよ……俺の体!」




 ――――その頃、王都内に存在する軍事施設の一つ。そこには軍の多くの上官達が集い、戦闘が終わるのを待ちながら――


「っあ〜、何かでけえ音すんなあ。まだ終わんねえのかよ。ヒック」


 酒を飲み、怠惰の限りを尽くしていた。


 王城の護衛や戦場に出ているのは実力の高さで集められている者達であり、その兵達に命令を下した上官――軍の上層部に位置する者達はほとんどが安全圏へと避難し、何もせず、ただ戦闘が終わる時を酒を喰らいながら待っている。


「どっちの勢力が何人死ぬかの賭けで反乱軍全滅選んじまったからよ、ちゃんと全員ぶっ殺して来てくれよ〜」


 上官の一人がそう無責任に口から溢しながら、酒瓶に口を付けようとしたその時だった。


「まさかチャックの言う通り……本当に、ここに集まり隠れていたとはな」


 その若い青年の声は、部屋の入口から聞こえた。

 声のした方角へと一斉に上官達の視線が集中し、そこに立つ三人の人物――赤い髪の若い騎士、研究員の男、エルフの少年の存在へ意識が向かう。


「だから言っただろう、ジークヴァルト。こいつらは根っ子から腐っているのさ」


「そうだな……。ここに居る者達の身柄も、抑えておくとしよう」


「あの、ジークヴァルトさん……いくらチャックさんに手当してもらったとは言え、まだ戦える身体じゃ……」


「心配には及ばん。この様な堕落した男達に、遅れは取らない」


 赤い髪の騎士ジークヴァルトは、エルフの少年カイヘそう告げた後、酒臭い男達全員へ鋭い視線を突き付けていって、腰の鞘から剣を抜いた。


 男の一人が片手に持っていた酒瓶を床に叩き付け割りながら、怒声を上げる。


「下っ端風情が、上官に剣を向けるのかぁ!?」


「貴様達の様な無責任な人間を、上官だとは思いたくないな」


 テッドの安否……あとは、ついでにニアやウルガー達もか。無事かどうか気になるが、そんな事をただ考えているだけではどうにもならない。

 自分に出来る事をやるべきだと、ジークヴァルトは二十数人の上官を相手に、刃を向けた。


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