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銀狼と闇の魔女 〜千年の戦いと世界の終わり〜  作者: みどりあゆむ
三章 始まりの国
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三十四話 古代の魔導兵器


 ――――過去の記憶の旅を終えて、ウルガーは新たに決意する。


 魔導会に利用されている双子の妹、クルルをこれ以上、悪事に加担させてはいけない。


 守ってくれた父に報いる為に、子の幸せを願った母の為に、両親が安心出来る様に。

 彼女を魔導会から救い、平穏な人生を送らせると――そう、誓った。

 もうクルルの事は、ウルガーにとっても他人事では無い。


「クルルは、絶対に助ける」


 必ず助けると、心から、強く言い切った。

 その言葉を聞いていたカトレアは、微かに安心した様な笑みを浮かべ、「ありがとうございます」と一言だけ応える。


 思えばカトレアも、クルルとは知り合いらしい雰囲気を発言の節々から匂わせていた。それ以外にも、やたら色々と知っている風である。

 魔導会の正体を明かしたのも、彼女だ。よくよく考えてみれば何故、敵対者に重要な事実を明かそうなどと考えたのか。

 彼女の立ち位置や目的が、分からない。

 

「なぁ、カトレア。お前は、何者なんだ?」


 それらの疑問を短い言葉に変えて、問い掛ける。

 カトレアは薄っすらと笑みを浮かべながら、答えた。


「何者か、だなんて……別に何でも無いですよ。ただ、たまたま『刻の魔女』の刻印を授かり生まれただけの女です」


「いや、何でも無いなんて信じられるか。アンタ色々知っているだろ」


「あら〜。知っているとは言っても一部ですし、そんな大した理由じゃないですよ〜?」


「じゃあ言ってみてくれよ」


「いいですよ〜。私は物心ついた頃から、頻繁に変な夢を見ていたんです」


「……夢?」


「はい〜。場面は断片的ではありますが、見るたびに時系列は少しずつ進んで行く夢で……更に私の姿は大人だった。そしてある日、それは未来の光景を映し出している『予知夢』だと気付いたのです」


「まさか、それで色々な情報を知っているのか」


「その通りです。それに気付いた時から私は、夢の内容を文字にして書き残す事にしました。未来の私は……と言っても年齢的には今くらいですが。過去の自分に色々と残すために、情報を集めてくれていたみたいですね〜」


「そんな事も出来るのかよ……何でもアリだな」


「何でも出来るという訳でも無いですよ、予知夢は自分でコントロール出来ませんし〜」


「そうかよ。アンタはそれで、結局どういう立場なんだ。所属は魔導会だが、話してる限り敵って訳でも無さそうだし」


「私は、破滅の未来を止める為に動いているだけ……これが、私の生まれ持った宿命だと思っています。その為ならば、多くの命と天秤に掛け、一部の命の犠牲も厭わない覚悟で計画を立てていました」


「……」


「ですが、その計画は、光の魔女様……クルルちゃんの記憶が戻らなかった場合前提でもありまして。血の繋がった兄妹であるウルガー君ならば、あの子を元に戻せるかもしれません」


「――だから俺に、元に戻すのを協力して欲しいってか? 言われなくても助けるつもりだったけど」


「はい。元の私の計画では……ウルガー君もニアちゃんも魔導会で捕えてから、クルルちゃん、ウルガー君、ニアちゃんの三人をあらゆる手段で洗脳や精神操作を施し言う事を聞かせて、『奴等』を迎え撃つ為の最終兵器にするつもりだったんですが」


「サラッととんでもねぇ事言いやがったなオイ」


「ですが、クルルちゃんが元に戻り、自らの意志で協力し戦ってくれるのであれば……そんな手段を取る必要もありません。なので、ウルガー君には今のままで居て貰いましょう」


「……もし失敗したら、お前の計画を続行するのか?」


「残念ですが、そうなりますね。多数の命を助ける為に、少数を犠牲にします」


「元々失敗するつもりなんざねぇが、そう言われたら余計……絶対に、助けなきゃいけないな」


「お願いしますよ、ウルガー君。では、外に話が漏れないこの空間に居る間に、もう一つ教えてあげましょう……現在の、魔導会の拠点のある場所について」


「……! それは、絶対に知らなくちゃいけない情報だ。どこだ、何処に、ある!?」


「そう焦らずとも、まだお引越ししたばかりなので暫くは離れませんよ〜。現在、本拠点のある位置、クルルちゃんの居る場所は――――北の大国、ノーゼンです」


「ノーゼン……四大国の中に、あいつ等が居やがるのか」


「正確には、ノーゼン管理下の無人島ですね〜。国の関係者以外は立ち入り出来ない場所に指定されているため、他から気付かれる事は無いんですよ〜」


「クソ、大国の王である立場を利用して、好き勝手やりやがって……」


 魔導会に関わっているのはあくまでも、四大国の王と一部の関係者。それ以外の人々は、まさか自分の国の王様が犯罪組織を無人島で匿っているなど想像も出来ないだろう。

 そして、いずれは人類の八割を虐殺しようとしているらしい。これ以上、奴等の好きにさせては駄目だ。このまま放置してはいけない。


「クルルを助けて、魔導会を倒して、ケイトや皆の魂を取り返して……四人の王の計画も、ブッ潰してやる」


 母と父の為に、クルルの為に、祖母の為に、ケイトやアラン、無念に殺された人々の為に、島の皆や、海の外で出会った人々の為に……世界を巻き込む虐殺と奴等の悪意を、食い止めなければならない。


「……」


 そのウルガーの様子を見ていたカトレアは、耳元で一つの疑問を投げ掛ける。


「ところで〜、ベルモンドさんへの復讐はもう良いんですか〜?」


「あ? あぁ……確かにアイツもまた会ったらぶっ飛ばしてやるが。今はそれより優先する事があんだろ」


 大切な人達を殺し、故郷の人々を傷付けたベルモンドは勿論許さないし、恨みもある。だが今は、それ以上に、そもそもの元凶である四大国の王へと特に強い怒りが向いていた。

 奴等が妙な事を企まなければ、島の皆が被害に遭う事は無かったのだ。

 巨悪に仕える下っ端だけに怒りを向けている余裕など、もう無い。


「うふふ、そうですか〜。――ベルモンドさんがますます怒りそうですね〜」


「知るか。勝手に怒らせとけよ」


「あらあら。まあ、そちらの方が私には都合が良いんですが」


「……お前ちょいちょい気になる発言するよな。もうこの際全部吐け」


「世界の未来に影響が出てはいけないので、これ以上はお話出来ません。一部お話したのは、君ならばクルルちゃんを助けられるかもしれないと思ったから、必要な情報だけ明かしたに過ぎませんよ〜」


「ベルモンドの野郎が怒るのが世界に関わる事なのかよ」


「……まあ、未来の犠牲が多いか少ないかの違いですがね……」


「は?」


「さて、お話はこの辺で終わりにしましょう〜。そろそろ現実世界へ戻りたい頃じゃないですか〜?」


「あからさまに話をはぐらかされたが、そうだな。さっさとこの国のゴタゴタに始末つけねぇと、こんな場所で止まってる場合じゃねぇ」


 今は早く現実世界へ戻り、現在王都で起きている戦いを終わらせる事が優先事項だ。

 ニアを助ける為に、今も戦っているテッド、ジークヴァルト、カイ、ビッキー達の為に、王のせいで不幸に陥れられた人々の為にも。

 そして、魔導会に所属する、幼馴染を元に作られた人工生命体ケイミィの姿が、脳裏を過ぎった。


「……戻してくれ、カトレア」


「はいはい〜」


 カトレアが両の掌を音を立てながら合わせた直後、無数の扉が立ち並ぶ真っ白な世界は霧の様にな一気に掻き消されて行き――


 瞬きをした瞬間、目の前の景色は、石造りの壁に囲まれた、現実世界の一室へと戻って来ていた。


 すぐ目の前にはカトレアの姿があり、先刻の精神世界へ来る直前と同じ状態になっていた。

 そして眼前の女と目が合い、その直後。


「あ〜れ〜、やられました〜〜。ばたり」


 棒読みな声と台詞で、カトレアは身体を回転させながら床の上にわざとらしく倒れ込んだ。


「舐めてんのかお前」


「いえいえ〜、真面目ですよ〜、もう君と戦う理由も無いですし、だからといってまだ魔導会の立場からは離れられません、となればこれしか無いじゃないですか〜」


「それにしたって、もっと他にやり方が……」


 呆れ声で見下ろしながらそう言いかけた、その時だった。


「――ゥッ!?」


 現在居る地下通路の一室、その上――地上から、ウルガーはとてつもなく大きく、気持ちの悪い、嫌な気配を感じ取る。

 この感覚は、負の魔力だ。が、今まで感じて来たものとは全然違う。これまでに遭遇してきた負の魔力が可愛いくらい小さいものだと、そう思うくらいに、膨大で禍々しい負の魔力だった。

 全身に鳥肌が立ち、本能が危険を察知する。


「どうしました、ウルガー君?」


「……地上から、気持ち悪いくらいデカい、負の魔力の気配がしやがる……ッ、何だよ、これ!」


 返答を聞いたカトレアは、何かを察した様に視線を上へ向けながら、その原因の名を口にした。


「誰かがフレデリックさんを、限界まで追い詰めましたか」






 ――――時は少し遡り、場面は地上。

 ウルガー、ビッキーと別れてから数分、テッドは一人でフレデリックと相対し、他者を寄せ付けない程の激しい剣戟を交わしていた。

 脚を、腕を、目を、首を、心臓を狙い飛んで来る音速の斬撃を、それぞれ刃で受け止め、迫る攻撃の尽くを無効化し切り払って行く。


 今テッドの五感と身体能力は、『負の魔力』を取り入れられた事が肉体に影響を及ぼし、飛躍的に能力が向上していた。


 本来、ヒトの身体には、限界を超えた力を発揮し自身がその負荷に耐えきれず肉体を破壊してしまう事が無いよう、枷がはめられている。

 だが、現在テッドの肉体は『負の魔力』を取り入れた事が防衛本能を呼び起こし、力の枷が外れた状態となっていた。


 今ならばフレデリックとも互角か、それ以上に渡り合える。

 枷の外れた状態で長時間戦う事によるリスク、後の反動などは怖いが、


「そうも言っていられない状況なのでね」


 そして、警戒すべきは枷が外れた事によるリスクだけでは無い。


 身体に取り入れられた負の魔力は今も尚、テッドの魂を、心を蝕もうとしているのが分かる。

 こうして、敵と剣を打ち合っているだけで、フレデリックに対する憎悪や殺意がどんどんと膨れ上がって行くのだ。

 そんな黒い感情に心を支配されぬよう抑え、意識を強く保ちながら戦わなくてはならない。


「フッ。枷が外れた身体を早くも使いこなし、負の魔力による精神汚染も無理矢理抑えるか。だが、それもいつまで続くかな?」


「えぇ……私にも自分がどこまで持つのか分からないので。そろそろ終わらせましょう」


 捕らわれているニアを助けなければならないし、戦いによる犠牲者も極力減らしたい。立ち止まり時間を掛けるのは得策では無い。

 次で、勝負を決める。


 深く息を吐き、精神を集中させ、騎士剣を構える。

 互いに睨み合い刹那の静寂が一帯に流れて、次の瞬間――


 最初に音速の一閃を放ったのはフレデリックだ。

 首を狙い一直線に迫る凄まじい速度の斬撃を、騎士剣の刀身で受け止める。

 火花を散らしながら鋼の打ち合う音が響き、衝撃が手から全身へと伝わる。

 その衝撃に耐えながら、握り締めた騎士剣を勢い良く振り上げ、フレデリックの剣を打ち払い弾き飛ばした。


 相手の騎士剣はそのまま地面の上へと突き刺さり、もう一撃を加えようと構えた――


「貴様の動きは、真面目過ぎるのだよ!!」


「――ぐぅッ!?」


 が、その前にフレデリックは剣を失った手を真っ直ぐ伸ばし、テッドの首を掴み、握り潰す程の勢いで締め付ける。


「テッド、確かに今の貴様は強い。だが、丸腰になった相手を斬るのに、貴様は刹那の遅れが生じた。だからこうして、良いように隙をつかれるのだ」


 騎士団では、丸腰の相手を一方的に殺す事は恥だとして教えられてきた。勿論、今回の相手は危険人物な為、丸腰だろうと躊躇するつもりは無かったが。

 しかし、それでもその教えは深く身に染みついていたようで、一瞬の猶予を相手に与えてしまったのだ。


「ぅぅぅ――ッ!」


 爪が食い込み出血し、呼吸が出来なくなる。身体は密着しており、剣は届かない。


「私に従うと言え、テッド! 従わぬというのならば、このまま無様に窒息して死ね!」


 声と力の入った掌から、本気の殺意が伝わって来る。意識が朦朧としてくる。それでも、まだ、このまま、――死ぬ気は無い。


「――ぁぁあっ!!」


 声を上げながら無理矢理頭を揺り動かし、フレデリックの額へとぶつける。


「がぁっ!?」


 重たい衝撃に相手はのけぞり、苦鳴を上げる。

 自身の頭部にも反動が来て、ふらつく足で地を強く踏み締める。朦朧とする意識を保たせながら、止まっていた呼吸を再開させ、瞬時に態勢を整える。

 この間まで一秒、フレデリックが再び戦闘態勢に入る前に、こちらから仕掛ける。


「ハァァーーッ!」


 地を蹴り、相手の反応を許す前に、風を切りながら一気に懐まで飛び込んで行った。

 剣を握り締め、切っ先を真っ直ぐ突き出して心臓を狙い刺突を繰り出す。

 それはフレデリックの胸部から背中を貫通し、致命的な一撃を与える。


「ゴハ、ァッ!」


 フレデリックは表情を歪ませながら、口から血を吐き出した。

 間違い無く、騎士剣は心臓へ突き刺さった。が、直感的に安心は出来ないと感じて、剣を構え直し、反撃を許す前に更なる一閃を放つ。


「終わりだ、フレデリック」


 声と共に振られた刃はフレデリックの首へと食い込み、そのまま全力で腕を振り上げ、切断する。

 断末魔を上げる暇も無く胴体と離れた頭部は宙を舞い、地面へ落ち転がって行った。


 ――――なんとも呆気ない、終わり方だった。


「……心臓を刺してから首まで落とすのは、必要以上の追い討ちだったかもしれないが……油断は禁物だった。永遠に眠れ、フレデリック」


 刀身に付いた血液を払い落とし、鞘へと納める。そうして背後へと振り返り、次の戦場へ移るべくテッドは歩き出す。


 副団長マグナスが居るので必要以上の犠牲者は出ない様にしているかもしれないが、それはあくまでも情けを掛ける余裕がある場合だ。

 戦況が悪化すれば、同じ騎士団であろうと躊躇なく殺す選択肢を選ばざるを得ない。

 なるべく、同じ騎士団同士での殺し合いはして欲しくない。


 そしてニアも絶対に助けなければならず、ジークヴァルトや、国とは関係無いのに来ているウルガーにビッキーも心配だ。


 何処から優先して向かうか思案して――その直後。


「甘いな。テッド」


「――っ!?」


 背後から聞こえたその声は、間違い無く、フレデリックのものだった。

 剣を抜きながら振り返ると、そこには信じられない光景が映っていた。


「驚いたか? もう私は、人間では無いのだよ」


 首だけになったフレデリックが、宙を浮遊しながら冷徹な笑みを向けていた。


「化け物、か……!」


 見てみれば、フレデリックの額には先刻までは見当たらなかった黒い魔晶石が剥き出しになっており、そこから一帯を覆い尽くす程の無数の黒い触手が一勢に噴出する。


「ぐぅっ!?」


 こちらにまで迫る触手を回避し、切り払い、防いだ。

 その一方で、残る大量の触手は周囲の石や土、植物を抉り取り、中心部のフレデリックの元へと集めて行く。

 集められた数々の土と植物の破片は繋がり、合わさり、負の魔力を混ぜ込まれ変貌し、一つの形を成していく。


 最後に無数の黒い触手が『フレデリックだったもの』の周囲を取り巻き、姿を変えて行く。それは黒い土の鎧の怪物――以前見たものとは形も大きさも、全然違う。


「なん、だ……これは?」


 その黒い巨体は推定十メートルはあるだろう。

 今までに見たことの無い相手に怯みそうになるが、退くわけにはいかないと気を強く持ち、騎士剣を構える。


 そして眼前の敵――まだ意志の残るフレデリックは、テッドの問いに応える様に、その名を告げる。


「これが、我々の研究成果の一つ。千年前に猛威を振るった古代魔導兵器……ゴーレムだ」


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