二十七話 恐怖の王
イースタン王城周辺には軍事施設や重要拠点、多くの上流階級、貴族の家々が集まっている。反乱軍と王国騎士団の戦闘が繰り広げられているのは主にその一帯だ。
今回、フレデリックが王都に召集させていた部隊の半数は、騎士団副団長マグナスの指揮下に在る反乱軍の構成員だった。
反乱軍は当初、王城の門前に集い国王側に対して『対話』を持ち掛けようとしていた。
その内容は、『犯罪組織「魔導会」への関与を止める事』だ。
しかし、王国側はその話には一切応じようともせず、国王からは『反乱軍殲滅』との命令が下され――今の交戦状態に至る。
「それが、俺の知ってる、情報だ……」
「そうか、ありがとよ」
それは現在、ウルガーの足元でボロボロの状態で倒れている男から聞かされた話だ。
どうやら彼等は反乱軍の殲滅だけでなく、ウルガー、ビッキー、ジークヴァルト等も発見次第殺害と命じられていたらしい。
つい先刻、王城へと向かう道中で襲い掛かって来た所を返り討ちにし、ビッキーが軽く脅した所、怯えながら前述の情報を開示してくれた。
「チクショウ、言っちまった、国王様に、――フレデリックさんに、殺される……」
泣き出しそうな顔と怯えた声で語る男に、困った様な顔で溜息をつきながらウルガーは答えた。
「安心しろ。そうならねぇように、王のこれまでのふざけた悪行は今日で終わらせて、フレデリックも完膚なきまでにブッ潰してやる」
その返しを聞いた男は最初に驚いた様に目を見開き、小さく「馬鹿か」と弱々しく悪態をついてから、路上に背を着けたままウルガーへと視線を向け、
「んな簡単に行きゃ、苦労しないんだよ。――――こっから真っ直ぐ行って、西側に、国内一デカイ軍事施設がある。そこに、王城へ繋がる隠し通路が何処かにあると、聞いてる。詳しい場所までは知らない」
「――!?」
「だが、フレデリックが無防備に隠し通路を放置しているとは思わん。何か罠が仕掛けられている可能性が高い」
敵兵の男は最早開き直ったかの様に、他の情報までも自発的に喋り始めた。
もしかしたら、その情報自体が罠なのでは無いかと内心疑っていると、男は溜息を混じえながら「今更騙すかよ」と溢し言葉を続ける。
「まあ、疑って掛かるのは悪い事じゃない。この国は表向きには民衆には気づかれない様に平穏を装っちゃ居るが……実際には真っ黒だ」
「だろうな。俺は、魔女を生贄にして殺す風習もあると聞いた」
「そりゃ一部の国王から信頼されている人間しか知らない情報だぞ、んな事まで掴んでやがったのかよ」
「たまたまだけどな」
敵兵の男は暫し黙り込んでから、意を決した様に、ポツリ、ポツリと再び話し始めた。
「昔、騎士団の団長にガラフさんって人が居たんだ。騎士としても人間としても立派な男だったが、難病に掛かり引退した。――が、その病も、ガラフさんの強い正義感を恐れた国王が暗殺しようとして仕組んだものだって、話もある」
「……それが誰かは知らねえが、胸糞悪い話だな」
「あぁ。胸糞悪い、な……だが、俺は、もうそんな感情すら湧かなくなってしまった」
男は自嘲する様にそう言い、気が付けばこちらへ対する敵意や殺意も完全に消失していた。
一方、黙って横から話を聞いていたビッキーが一歩前に踏み出し、男と視線を合わせながら一つの問いを投げかける。
「おっちゃん、やけに色んな情報知ってるね。ただの一般兵じゃ無さそうだけど……何か、特別な仕事でもしてたの?」
その問いかけに、男は再び黙り込んだ。そして一瞬、悲しみの様な、後悔の様な、罪悪感の様な表情を見せた後、平静を装いながら答える。
「俺は……危険分子を始末する仕事を、任されていたんだ。国の暗部や秘密を暴く可能性のある者を、国を変えてしまう可能性のある者を、王以上の信頼を持たれる恐れのある、正義感のある人間を……」
「は?」
「力の無い一般人も、拷問し、殺した。……子供の居た家に、火を付けた事もあった……今でもあの日の夜を、夢に見る……」
「なっ……!」
淡々と自らの罪をその口から明かしていく男を見て、先刻まで抱いていた王に逆らえない事に対する同情が、怒りに上書きされていく。
故郷での経験から、ウルガーは理不尽に人の命を奪われるという事が、大嫌いだった。
先日のクリファイス洞窟での一件は、ジークヴァルトが強い怒りを露わにしていた為に相対的に多少冷静になれてはいたのだが――
今にも殴り掛かりそうな本心を抑えて、男の話の続きに耳を傾ける。
「最近国を騒がせていた、上流階級の人間の連続的な変死も、俺が関わっていたんだ。その多くも、国民から好かれ、信頼される、人間達だった。それが、国王には怖かったんだろうな……」
そう語った男の顔は、どこか肩の荷が下りた様な、安堵の目をしていた。
「お前、一人で勝手に懺悔して勝手にスッキリしてんじゃねえよ……!」
「――これで全部話した。もう疲れたんだ。拷問されながら殺されるくらいなら、ここでお前さん等に殺された方が良い」
「は!?」
「お前さんみたいな甘ちゃんには、今の話は腹立たしかったろ。そのまま俺を殺していい。生きていたって、また手を汚すだけだ」
「ふざけんな! お前の勝手な自殺に俺の手を使うんじゃねぇ!」
「じゃあ、俺はまた殺すかもしれないな……罪の無い人間を」
「おまっ、反省してんのかしてないのかどっちだ、コラ!!」
「ハイハイ、二人ともやめやめ。落ち着きなさい」
またも別の理由で怒りが湧き上がり声が荒らげ始めたその時、ビッキーが手でウルガーを制止しながら顔を前に出す。
そして、地に背を着けたままの男に、右手に持つ手鏡――の形をした、一つの魔導具を見せた。
そのまま、男を見下ろしながらビッキーは話を続け、
「今の話は全部この魔導具に録音したから。死ぬなら、せめて王の悪事を証言する事に全面協力して罪を償ってからにしなさい」
「……まさかその為に、わざわざ俺に仕事の話を聞いたのかい」
「うん。怪しいくらい色々知ってたから、絶対に国王の近い位置に居る人間だなぁ、と思ってね。まだ死ぬ事は許さないよ」
「――――」
男は観念した様に黙り込み、何も言わなくなってしまった。
自らの罪の重さを自覚した事でウルガーを挑発し殺されようとしたのだろうが……そんなものは、贖罪でも何でも無い。
「罪悪感で苦しいから死にたいなんて、ただの逃げだ」
最早、男には立つ気力すら感じられなかった。もう、こちらを攻撃してくる事も無いだろう。
「先へ行こう」と、ビッキーから指示され、それに大人しく従いウルガーは男へと背を向けた。
そしてそのまま立ち去ろうと歩き出した、その直後。
背後から、どこか弱々しくなった声で、男が呟いていた。
「俺も昔は、お前さんみたいに、甘っちょろい正義感を持って、生きていたのにな……」
――その独り言はウルガーの耳にも届いている。
怒りなのか、微かな同情なのか、複雑な感情が胸中を渦巻いた。
「甘っちょろいってのは、本当その通りだよ……」
そう小さく呟きながら、ウルガーはその場を後にして、王城の見える方角へと向かい駆けて行く。
段々と、刃を打ち合う金属音、怒号、断末魔、血のニオイが近付いて来て――住宅地を抜けた先に、上流階級の家々が立ち並ぶ一帯が見えて来る。
遠目からでも分かる程に、多数の兵士同士による激しい殺し合いが行われていた。
「見えて来たな、派手にやり合ってやがる」
あんな戦場のド真ん中に突撃するのは得策では無い。部外者がいきなり乱入しても余計に混乱を広げるだけだろう。
どうするべきが思考を巡らせていると、横からビッキーが肩を指で叩いて来て。
「戦場になってない建物の裏側を進んで行こう、ウルガー」
「あぁ。そうする」
彼女の提案通り、戦場から離れた人気の無い裏道を選んで進む事にした。なるべく気配を殺しながら、日陰で薄暗い狭い道を通り抜けて行く。
建物を挟んだ向こう側からは戦闘の音が止む事無く響き渡り続け、ビッキーの誘導に従いながら駆け足で目的地を目指し――
「あそこの大きな建物から、ニアちゃんの魔力の残り香を感じる」
「多分、さっきの敵兵が話してた軍事施設だよな。ニアもテッドさんも、無事だと良いが」
建物の陰から覗く二人の視線の先には、外壁全体が金属で出来た、村一つ分くらいの広大な建造物が佇んでいた。
周辺には先刻まで交戦していたらしい兵士の屍が幾つか転がっている。現在は既に人の気配はしないが、つい先程までここも戦場だったのだろう。
誰かに見られる前に急いで軍事施設の内部へと侵入しようと、二人は周囲に気を配りながら駆け出し、施設の庭園へと足を踏み入れ――
「――ッ! ビッキー、上から来る、避けろ!」
「え!?」
その時、ウルガーの肌が鋭い殺気を感じ取り、咄嗟に近くに居たビッキーを手の平でその場から押し退け、自分も地を蹴りながらその場を離れる。
それと同時、ついさっきまでウルガーの立っていた地点に、上から一閃の刃が降り注がれた。
一瞬でも回避に間に合わなければ、その刃の手に掛かり手遅れだった。
「ッぶねぇ……!」
突然の奇襲を仕掛けた人物へ視線を突き付ける。
その男は、隻腕、金髪の元騎士団長――現在は魔導会の幹部、フレデリック。
彼は騎士剣を構えながら、ウルガーへと顔を向け口を開く。
「感付かれぬ様、他の兵の死体の血液が染み付いた服を着て、ニオイを誤魔化したのだがな。気付かれたか」
「通りでニオイが分かりにくかった訳だ。死ぬとこだったぞテメェ」
「安心しろ、貴様は殺さん。勝手に命を奪うとベルモンドが煩いからな。ただし、そこの魔女は殺す」
そう言いながら、フレデリックはビッキーへと騎士剣の切っ先を向け殺気を放つ。
「怖い事言うなぁ、お兄さん。私、なんか恨まれる事したっけ?」
「恨みなど無い。ただ死ねば良い」
冷酷な音色で吐き捨てて、フレデリックはビッキーへと敵意を定めた。
危険を感じ取ったウルガーは反射的に足を踏み出し、拳を握り締めながら飛びかかっていた。
「やらせるかよッ!」
その直後、フレデリックは唇を緩め冷酷に笑い、
「貴様ならそう来ると思ったよ」
そう呟きながら瞬時に矛先をウルガーへと変えて、騎士剣を振りかぶり斬りつけて来た。
「どわッ!?」
咄嗟に立ち止まり回避行動へと移るも、敵からの切っ先は肩を薄く斬り、出血する。
元から狙いはウルガーだった。ビッキーへ向けていた殺気はこちらの思考を惑わす為、という事か。
フレデリックが二撃目の態勢に入ろうとした時、彼の背後から身体を捻りながら飛びかかる少女の姿が迫る。
ビッキーが、片脚を振り上げ男の後頭部を狙い叩き込もうとしていた。
「せいやぁーーっ!」
「ふん」
フレデリックは正面を向いたまま腰を屈め、背後から放たれた一撃の蹴りを回避。
と同時に、身体を高速で回転させながら、背後に居たビッキーと、正面から殴りかかろうとしていたウルガー、両者に刃を振るった。
「怖っ!!」
「チィッ!」
ビッキーは全身に纏わせた魔法の防護により攻撃を無傷で受け止め、ウルガーは感覚を頼りに後退しながら避ける。
直後フレデリックは、ビッキーが放った不可視の斬撃を、地面を蹴りその場から跳躍する事で回避し、そのまま中空からウルガーへと向け風を切りながら剣を振り降ろした。
「クソッ、速ぇ!」
着地と同時に、フレデリックからの斬撃が凄まじい速度で幾つも放たれ、ウルガーの頬、腕、脚と次々と薄く斬り付けて行く。
更にもう一撃、銀閃が放たれようと――
「やらせないよ、こんにゃろーー!」
と、そう叫びながらビッキーが、ウルガーとフレデリックとの間に入って割り込み、敵からの剣撃を魔力を纏わせた手の平で受け止めた。
ビッキーからの反撃を警戒したフレデリックは直ぐ様後退し、その直後。
「私の狙いはこっち!」
不可視の斬撃はすぐ下の地面を斬りつけ、フレデリックへと向けて勢い良く土と砂利が飛ばされる。
「くっ!?」
飛ばされた砂利から目を守ろうと腕で防ぎ、ほんの一瞬の隙が生まれた。
この機を逃すまいと、ウルガーは地面を削る程の勢いで全力疾走し、瞬く間にフレデリックの懐まで距離を詰め、反撃へと移る。
「ッラァアア!!」
両拳を握り締め、咆哮と共に左右交互からの連撃を繰り出した。
頬、腕、腹部へとそれぞれ一撃ずつ叩き込み、更にもう一撃、拳を打ち出そうとした、その瞬間。
「――ッ!」
眼前の敵から強い殺気を感じ取り、打とうとした右拳を咄嗟に引っ込め、地を蹴りつつ後退。
直後、ウルガーの直ぐ目と鼻の先を音速の一閃が通過し、斬られた前髪が宙を舞う。
「片目を潰そうと思ったが、失敗したか」
「クソッ、ちょっとでも気ぃ抜いたらやべぇなコイツ……!」
先刻の連撃は確かに手応えはあった筈だが、相手にはまだ疲労の色は見えない。一方で、こちらは常に神経を尖らせねばならず、既に疲れが出始めている。
このままでは決定打も無くジリ貧だ、こんな所で時間の余計な浪費は避けたい。
「ビッキー、先に行け! フレデリックの相手は俺がやる!」
「えぇ、二人掛かりでも苦労してんのに一人は流石に無理があるでしょ!?」
「このままならな。だから、『獣人化』の力を使う!」
その言葉を聞き、フレデリックは興味深げに「ほう」と反応を示し、
「貴様の『獣人化』の力……私もそれには興味がある。見せてみろ!」
邪悪に笑いながら、フレデリックが騎士剣を構え斬り掛かって来る。
勝つ手段はおそらく、これしか無い。ビッキーを先に施設へ行かせて自分が戦うのが最善策。
自らの魂の奥底に眠る存在へと呼び掛け、『獣人化』の力を解き放とうと――
「ウルガー君、その力はまだ温存してください!!」
「ッ!!」
解き放たれる寸前で、聞こえた一つの声に『獣人化』の力を反射的に抑え込んだ。
それと同時、眼前から刃同士の強烈な衝突音が一帯に響き、火花が散る。
フレデリックとウルガーの間に割り込み、新たに現れた人物――それは、隻腕の青年騎士。
「テッドさん!?」
「ここは私に任せてください!」
対するフレデリックは、騎士剣を構え直しながらテッドへと視線を突き付け、
「テッドか……。どうやらイオナの幻覚魔法からは抜け出せた様だな」
「幻覚魔法は、人間の五感に強制的な誤作動を起こさせる仕組みなのだろう。ならば、五感以外で気配を感じ取ればいいだけだ」
「フッ、簡単に言う。やはり、貴様は手駒に欲しいな」
冷酷な笑みを浮かながら、フレデリックはこちらの出方を窺っている様子だ。
その間に、テッドは視線を正面に向けたまま、彼の背後に居るウルガーとビッキーへ声を掛ける。
「ニア様は探しましたが、施設内には既に居ませんでした。何処か別の場所に連れて行かれている可能性があります」
「なんだって!?」
「そんな、ニアちゃん……無事だと良いけど」
「無事だとは思います。命を奪わずに連れ去る事が奴等の目的に見えたので」
ニアの命は無事らしい事には、いったん安堵する。が、安心は出来ない。一刻も早く救出へと向かうべきだろう。
「分かった、テッドさん。俺の嗅覚で、ニアのニオイを探ってみる」
「私も。魔力のニオイで追い掛けてみるよ」
「ありがとうございます。ニア様を、頼みました」
テッドからの頼みを聞き入れて、ウルガーとビッキーの二人はニアの連れ去られた場所を特定するべく走り出す。
ウルガーの背後からは、テッドとフレデリックの激しい交戦を物語る二つの刃の打ち合う音が凄まじい速度で幾度にも渡り、鳴り響いていた。
――――その頃、カトレアに連れられ王城へと到着したニアは、今度は最上階へと続く長い階段を登っていた。
「はあ、はあ……っ」
あまり体力に自信がある方では無く、長い廊下を歩かされた上に、休む間もなく高い高い最上階への階段を登るのは非常に疲れる。
それでも、なるべく顔には出さない。
もしかして、体力を無くさせるのがカトレアの作戦なのでは無いかと一瞬疑ってもみたが……
「ニアちゃん、本当に大丈夫ですか〜? 疲れたらおんぶしてあげるって何回も言ってますのに〜」
この言動からして、それは無いだろう。そもそもカトレア相手に体力があった所でニア一人では太刀打ちも出来ないし。
「ねぇ、最上階は、いつ着くの……?」
「話すのも苦しげじゃないですか〜……。最上階はもうすぐですよ。頑張れ、頑張れ〜」
「頑張るわ……じゃないわよ! 一応敵である人に応援されるなんて変でしょ!?」
「それもそうですね〜〜」
カトレアは相変わらず、何を考えているのかよく分からない穏やかな笑みを浮かべていた。
そんな会話を交わしていると、階段の終着点が見えて来て……最後の一段を、踏みしめる。
「やっと、やっと、階段終わったー!」
「ニアちゃん偉いです〜、いい子いい子〜」
「ちょっと反応に困るわ」
カトレアから頭を撫でられ、反応に困り流しつつ視線を前へと向ける。
すると、廊下の突き当たりに、屈強な四人の騎士と大きな扉が見えて、
「何あの扉……」
「王様の居る部屋ですよ〜」
「王様!?」
まさか王様本人の居る部屋へ連れて行かれるとは、予想外だった。
そのまま「こっちです〜」とカトレアに手を引っ張られ、言われるがままに廊下を真っ直ぐ歩いて行く。
今まで生きてきて、王様という存在を直にこの目で見た事は無い。
それでも脳裏に浮かぶのは、威厳があり、怖い顔をしていそうな王様の姿だった。緊張感に、鼓動が激しくなるのが分かる。
部屋の前へと到着し、カトレアが四人の騎士へと入室の許可を取る。その後、騎士達の手によりゆっくりと、重い扉が開かれて――
「失礼しますよ〜」
先にカトレアが部屋の中を覗き込み、続けてニアも後ろから中を覗いてみる。
そこで視界に入ったのは、六人の強者の風格を漂わせる騎士。肝心の王様の姿が、見当たらない。
「あれ?」
と思い、目を凝らしながらもう一度部屋全体を見回してみる――すると、見つけた。
見るからに豪華な装飾と、王の風格を漂わせる衣装を身に纏った人物。――だが、その姿は、想像していたものとは物凄く違っていた。
「……へ?」
おそらく見た目からして彼が王様で間違い無い。だがしかし、その姿を見て、ニアは激しく困惑していた。
その困惑の理由は――
「ひっ、ひっ、ひぃ……、早く、殺せ、殺せ、私に逆らう者達を、早く全員殺せぇっ!!」
全身を震わせ、恐怖に顔を歪め、テーブルの下にしゃがんで身を隠しながら必死に叫ぶ王様らしき老人の姿が、そこにあったからだ。