二十一話 女達の思惑
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
赤い髪を揺らし呼吸を荒らげながら、ニアは薄暗い廊下を駆けて行く。
全身には認識阻害の効果を有する『黒い霧』を纏わせて、出来得る限りの全力で出口を目指して走る。
窓もなく薄暗い殺風景な廊下を走るその道中、ずっと同じ様な景色が続いていた中にとある変化を発見した。
階段だ、上へと続く登り階段が目に入る。
「あそこを登れば、出られるかも!」
そんな希望を抱きながら階段へ向かい足を進めようとしたその瞬間、片足に緑の蔓が巻き付き動きを強制的に停止させられた。
「うひゃっ!?」
「――ニアさん、捕まえました」
その蔓を放ったのは背後から現れた黒髪の少女、ケイミィだ。
戦闘していた時とは違い棘の無い蔓で、怪我の無いように巻き付けられ捕まってしまう。
つい先刻、空腹を訴えてケイミィが食料を取りに行こうとした隙を窺い逃亡を試みたのだがこうして失敗に終わってしまった。
「う〜、あと少しだと思ったのにぃ」
「いけませんよ、ニアさん。さぁ、お部屋に戻りますよ」
「ひーん」
蔓から解放されケイミィに手を引っ張られながら先刻まで監禁されていた部屋へと戻されて行く。
端からみればとても敵対している様には見えない空気だが、一応立場的には敵同士である。
ニアの本心としては手を振り払い逃走して仲間達と合流したい所だが、ケイミィに捕まっている状態で逃げられるとは到底思えない。
勇気と無謀は違う、ケイミィに真正面から戦闘を挑んだ所で、却って相手を本気にさせ余計に窮地へと陥ってしまうだけだ。
「もうケイミィさんをどうにかして味方に付けるしか無いかしら……」
再び戻された殺風景な個室の中でそんな事を考えてみるが、彼女は魔導会のトップである光の魔女に心から忠誠を誓っている様だった。
味方に付ける方が何倍も難しい気がする、良い案だと思ったのだが仕方なく却下だ。
朝食に貰ったパンを頬張りながら思考を巡らせていた最中、ジッとこちらへ目を向けたまま同じ体勢で佇んでいるケイミィへと視線を移して、
「そうだ。ケイミィさんも一緒にパン食べる? もう一個あるわよ」
「私の体は……一日に一度栄養を摂取すれば大丈夫ですので」
「ふーん、でも今朝はまだ何も食べて無い様に見えたけれど」
「……食事で目を離した隙に逃げられてはいけませんし」
「流石に私もそこまで素早い動きは出来ないわ……。朝食は大事よ、一日の元気の源なんだから」
「――それもそうですね。お言葉に甘えていただきます」
ケイミィはニアから手渡されたパンを一つ受け取り、口に入れ食べ始める。
このまま監視のみに集中させ食事する暇を与えないという手段も一瞬だけ頭を過ぎったが、流石にそれは人としてやってはいけない方法だと思ったので普段通りのノリで朝食を分け与えた。
そもそもニアとしてはケイミィの人柄は嫌いじゃない、むしろ立場が敵対していなければ友達にもなれると思っている。
しかしそうはいかないのが現実だ。いずれはまた本格的に戦わなくてはならないだろう。
と、ケイミィと共にパンを頬張りながら考えていたその時。個室の扉の向こう、廊下側から一つの足音が近付いて来るのが分かった。
やがて足音が扉の前で止まり、開かれる。そこから顔を覗かせた人物は――派手な衣装を身に纏い濃い化粧をした赤い髪の三十路に見える女性。
「へー、アンタがアンネリーの娘? うわ、ブッサイクな顔ねぇ」
その女性は扉を開けニアを見るなりいきなり罵倒してきたが、少女にとって重要なのはそこでは無かった。
「アンネリー、って、私のお母さんね。もしかして貴女も私の家族って事?」
「……うわ、ブッサイクな顔ねぇ」
「年齢的に、たぶん私のお姉ちゃんかしら? 合ってる?」
「コラァ! さっきからブッサイクな顔って言ってんだから、そこに反応しなさいよぉッ!!」
「え!?」
どうやら目の前の女性にとっては罵倒の方が重要な話だったらしい。
いきなり怒鳴られ言葉に詰まっていると、その女性は眉間に皺を寄せながらニアの目の前まで乱暴に近づいて唾の掛かる勢いでまくしたてる。
「本当にあの女と親子だとよく分かるわ。私が子供の頃何度もアンネリーをブスと罵ったのに、あの女はただ微笑ましいものを見るような目を返して来るだけだった。あー、思い出しただけでムカつくわぁ」
「お、落ち着いて……何でそんなに怒ってるの?」
「そういう態度がムカつくのよ! そんなに余裕ぶられたら、まるで私が気の短いすぐに怒る女みたいじゃないの!!」
「えぇ……」
何ともめちゃくちゃな主張に困惑しか湧かないが、それと同時に一つの疑問が浮かび上がる。
何故、こんな場所にニアの姉らしき人物が居るのか。しかもニアが居ることを知っていたかの様な言い方でこの部屋に入って来た。
まさか、散歩していて迷い込んだなんて事は無いはずだ。
嫌な想像が脳裏を過ぎり、それを確認するべく眼前の女性へと一つの質問を投げかける。
「お姉ちゃん、もしかして、まさか、魔導会に協力してるとかじゃないわよね……?」
「誰がお姉ちゃんよブス。そうよ、魔導会に協力していたら何か悪い?」
「してるの!?」
悪気の一切感じられない声で、さも当然であるかの如くあっさりと嫌な予感を肯定される。
身内がまさか魔導会と繋がりがあるなど、あまりの衝撃に開いた口が塞がらない。だがしかし、まだ望んで協力していると確定したわけではない。
何か仕方ない理由があるのかもしれないと、塞がらない口をそのまま動かして。
「もしかして、魔導会から脅されているの? そう、お爺ちゃんを人質に取られているとか!」
「はあ? あんなジジイ死んだって別に構わないわよ。脅されてなんかもいないわ」
「じゃ、じゃあ、何で……」
「愛よ」
「――へ?」
何故協力しているのか問い質そうとする中で、何とも場に似つかわしくない単語が聞こえた。
いきなり何を言い出したのかと硬直していると、眼前の姉は頬を紅く染めながら恍惚とした表情に変化し語り始める。
「私はね、フレデリック様と愛し合っているのよ」
「フレデリックと……、え? 恋人同士って事?」
「そうよ、愛する殿方に味方をするのは当たり前でしょう。それより、アンタみたいな小汚い豚がフレデリック様を呼び捨てにするんじゃないわよ」
まさかの恋人同士という予想だにしなかった真実を明かされ、再び開いた口が塞がらなくなる。
それと豚は別に小汚くないし可愛い動物だと思う。いや、そうではなく。
大事な人を助けたい、力になりたいと思う気持ちは理解出来る。他人の恋路にどうこう言うつもりは無い、のだが――
「それでも、いくら好きな人だからって、悪い事にまで協力するのは良くないと思うわ」
「うるさいわね、他人の恋路にベチャクチャ言ってんじゃ無いわよ!!」
「それは私も自分で思ったけれど……」
恋人への愛情が理由になっているのなら言葉での説得は無理そうだ。
良い返答が思い浮かばず言葉に詰まっていると、姉はこちらを見下ろし自分の前髪を弄りながら「まあいいわ」と本題に入り始める。
「アンタみたいな醜い豚と雑談をする為に来たんじゃ無いのよ。私はフレデリック様から仕事を受けてここまで来たの」
「仕事? ――って、うきゃっ!?」
仕事と、そう言った後、姉は懐から一本の短刀を取り出し目と鼻のさきへと突き付けて来た。
凄まじい手の速さに全く目が追い付かなかった。
下手に動けなくなったニアを見下ろしながら、姉は悪意を滲ませた目で笑みを浮かべる。
「大人しく出来て醜いなりに偉いわね。私、こう見えても騎士団の小隊長を任されているの。逆らわないのが賢明よ」
「お、お姉ちゃん……何が、目的なの?」
「私の事はイオナ様と呼びなさい、汚らわしい」
どうやら彼女の名はイオナというらしい。
騎士団の小隊長を任されているとなれば相応に実力も高い筈だ。
その上、ケイミィと同じく魔導会の一員となればどちらかと一時的にでも手を組むという選択肢も無くなる。絶体絶命の危機になってしまった。
それでも諦めるわけには行かないと、必死に頭を回して考えようとしたその時。
イオナはニアの額へそっと手の平を乗せ、
「私、アンタの心を徹底的にへし折れって命令されてるのよね。命さえあれば好きにして良いって」
「な、何を、する気なの?」
「必要なのはあくまでも刻印を持つ肉体。アンタの心自体はどうでもいいの」
殺されてしまう心配は無さそうだが、何をされるのかは分からない発言。内心警戒し身構えていると、手の平が触れられている額に魔力の高まりと熱を感じた。
「っ!?」
異変を感じたニアの耳元へとイオナの口が近付いて来て、何かを呟いた。
「幻覚魔法って知ってるかしら?」
「え……?」
「正確には人体に影響を与える無属性魔法の一種なんだけれど。私、それが得意なのよ」
無属性魔法に幻覚魔法、どちらも聞いた事だけならあったが、実際に目にした事は無かった。
しかし、もう抵抗する隙も思考を巡らせる時間すらも無く、それは唐突にニアに襲い掛かる。
瞬く間に周囲の景色が一変し、地平線まで殺風景な真夜中の荒野といった雰囲気の場所へと移り変わっていた。
「ここはどこ!? ――うぅ、落ち着きなさい、私! そう、幻覚だって言ってたわ!」
混乱しそうになる頭を何とか落ち着かせようと努める。
イオナの言葉を信じるならこれは単なる幻覚だ。どこか遠くの知らない場所まで飛ばされた訳では無い。
落ち着いて、幻覚からの脱出方法を考える。取り敢えず色々探ってみようと足を一歩踏み出した、その瞬間だった。
「ベチャッ」と音がして、右足が何か柔らかいものを踏み付けた。
反射的に右足を離し、足元へと視線を向けると……
「ひっ」
自分の踏んでいたモノを目にし悲鳴を上げかけて、戦慄する。
それは、人間の腸だった。
地面は血塗れになっており、更によく見ればその臓物は――地に倒れ伏す黒髪の青年、テッドの腹から溢れだしているモノだと気付く。
「テッド!!」
咄嗟にその青年の名を叫び、死体へと駆け寄る。
一目見ただけで死体だと、もう既に手遅れだと分かる程に凄惨な姿だった。
それだけでは無かった。後ろに下がれば足は何かの血溜まりを踏み付ける。背後を振り返ると、そこには――血塗れで息絶えたウルガーとビッキーの姿があった。
「ウル、ガー……、ビッキー……っ!?」
全身から血の気が引き、鼓動が激しくなり、呼吸が乱れて行く。震えが、止まらない。涙が溢れ落ち、吐き気がする、意識がふらつきそうになる。
「うぅ……く、はぁ、はぁ、はぁっ、お、落ち着いて、おち、つかなきゃ……落ち着いて、落ち着いて……!」
自分に必死に言い聞かせる。これは幻覚だ、本物じゃない、イオナが魔法で見せているだけのまやかしだ。
しかし、目に入る凄惨な光景も、耳に届く不快な音も、鼻にこべりつく血の臭いも、嫌な感触も、全てがまるで実際に起きている本物かの様に錯覚してしまう程、精巧に作られていた。
「ニア」
背後から、自分を呼ぶ声が聞こえた。聞き覚えのある声だった、それもそのはずだ。
背後を振り向けばそこに居たのは、身体を拘束され、その側に佇む兵士に刃を向けられている父ノーマンの姿だった。
「お父さ……、駄目、やめて!」
幻覚だと分かっていても、見たくなかった。嫌だった。父が無惨に殺され、命を奪われてしまう瞬間など。
例えまやかしでも助けようと咄嗟に走り出し、闇魔法『影の鞭』を発動し、父に刃を振り降ろそうとする兵士へ攻撃を仕掛ける。――が、
「あ……」
必死になって発動させた魔法は兵士の身体をすり抜けて、その動きを止める事は叶わず、刃は無慈悲に振り降ろされた。
父ノーマンの首が、「ゴトッ」と地面の上に落ちる。
「う、あ、あぁ、あぁぁぁぁッ!」
悲しみなのか、怒りなのか、恐怖なのか、自分でも判別の付かない、感情のグチャグチャになった叫びが口から出ていた。
今更気付いたが、この幻覚の中に居る間は、瞼を閉じる事も目を逸らす事も出来ない。逃れようとしても、強制的にその光景を見せ付けて来る。
自分が酷い目に遭うなら、耐えられた。けど、周りの人が、大事な人が酷い目に遭うのは、耐えられない。
「も、う、やめて……」
これ以上はもう見たくない。だが、その懇願は聞き入れられなかった。
「ニア、逃げて……」
また新たな声がした。忘れるはずも無い、ずっと再会を待ち望んでいた人物……
「お母さん!!」
複数の男に囲まれ、身体中に痣が出来ていた。
その男の中の一人が鬼の様な形相で叫び声を上げる。
「ギャハハ、薄汚ねぇ魔女が、楽しんでから殺してやるよ!!」
「やだ、やだぁ! お母さん!」
ニアは必死に叫び声を上げ走ろうと足を出す、が――身体を動かす事すら、不可能になっていた。
魔法も、いくら発動しても、その光景を掻き消す事は出来ない。
眼前で母が蹴られ、髪を引っ張られ、服を剥ぎ取られそうになっていたその直後。
――光が見えた。
「え……?」
光の中から現れたの黒い髪の少女だった。彼女がその男達に手を触れた瞬間、目の前で起きようとしていた更なる惨劇は、掻き消えた。
血溜まりも、死体の臭いも、テッドも、ウルガーも、ビッキーも、父も、母も、それらの姿は見えなくなり、真っ暗闇の荒野から海の見える草原へと場所が移り変わる。
そして黒い髪の少女は、ニアの元へと歩み寄ってきて、手を握って、一言だけ声を掛けてくる。
「もう大丈夫」
その手は優しく、暖かさを感じる。その少女へと顔を向け、よく見てみれば、彼女の顔は。
「ケイ……ミィさん?」
ケイミィに、似ている気がしたのだ。
再び目の前の光景が消えて無くなり、気が付けば意識は元の世界、建造物の室内へと戻って来ていた。
手に、暖かさをまだ感じる。隣を振り向けば、ケイミィがニアの手を握り締めていた。
「助けて、くれたの?」
「え……」
そう声を掛けると、ケイミィも何やら戸惑った様な表情をしている。
そして更に正面からは、イオナの金切り声が耳を突き刺して来た。
「コラぁ、どういう事よケイミィ!! アンタどっちの味方よ、何で邪魔したの、えぇ!?」
「も、申し訳……ありません。私も、自分で、よく分からなくて……」
「何が分からないよ、ふざけんじゃないわよ!!」
イオナがケイミィへとつかみ掛かろうとしたその時、室内へまた新たな女の声が入り込む。
「あらあら。イオナ様〜、少しよろしいでしょうか〜〜」
穏やかな雰囲気をまとわせる、のんびりとしたこの口調――視線を向けた先に居た人物は、桃色髪の女性。魔導会の一員である魔女、名前は確かカトレアだった。
「カトレアさん、だったわよね? どうしてここに……」
「あら〜、ニアちゃん。警戒しなくても平気ですよ。私が今、用があるのはイオナ様なので〜」
張り詰めた場の空気に似合わないニコニコとした笑みを浮かべながら、カトレアはイオナへと顔を向ける。
「何よ、カトレア。まさかアンタまで邪魔しに来たの?」
「そうですね〜、結果的にはイオナ様の邪魔になっちゃいますね〜」
「そのゆっくりした口調腹立つのよ。さっさと本題に入りなさい」
「分かりました〜」
注意を受けても変わらずのんびりとした口調のまま、カトレアは話の本題へ入る。
「私は、ニアちゃんの心を壊す作戦はよくないと思います〜」
「はあ? なにそれ、可哀想だからとか言ったらぶっ殺すわよ」
「まぁ、怖い、ウフフ。可哀想なのもありますがぁ、もっとちゃ〜んとした理由もありますよぉ」
そう言いながらカトレアはニアへと視線を移して、質問を投げかける。
「ニアちゃん。ケイミィちゃんからの報告によれば、『黒炎』を使えるみたいですよね〜?」
「『黒炎』……あぁ、あの魔法の事よね。まだ不完全みたいだし、思うようには使えないけれども」
「それで充分です。それが理由ですよ〜、イオナ様」
「はあ? 意味わかんないわよカトレア、死にたいの?」
端から聞いているだけでは話がよく分からず、あまりついて行けない。それでも何か大事な話をしている気がして、ニアは耳を傾け続ける。
「相変わらず私には乱暴ですね〜、ウフフ。『黒炎』は闇の刻印を持つ人間でも全員が使えるわけでは無い……それどころか、歴史上でも数人しか居ません。まだ不完全とはいえ、心を殺し折角の素質を失わせてしまうのは勿体無いと思いませんか〜?」
「心を殺せば素質を失うとは限らないでしょう」
「そうかもしれませんが〜、もし失わせてしまったら、光の魔女様がご立腹なさるかもしれませんよ〜?」
「う……」
光の魔女の名前を出され、イオナは先刻までの勢いが微かに削がれる。そして一度舌打ちをしてから、
「分かったわよ、今の所は引き下がってやるわ。ただし、光の魔女から許可を貰えばやるからね」
「はいは〜い」
そのままイオナは不満気にブツブツと呟きながら乱暴に扉を開けて部屋から出て行った。
それを見届け、ニアはホッとした様に深く息を吐き、
「た、助かった……の?」
正確には状況的には助かっては居ないのだが、先刻までの幻覚攻撃からは一先ず助かったと思っても良さそうだ。
場の張り詰めていた空気が解けたところで、沈黙していたケイミィが口を開く。
「カトレアさん、何を企んでいるんですか?」
「はい〜?」
ケイミィから投げかけられた問に、カトレアはよく分からないといった表情を返す。
刹那の間の後、ケイミィは湧いた疑問を言葉にし始める。
「先程の、イオナ様への提案……嘘は無いと思いますが、何か隠し事がある様に感じました」
「ウフフ、相変わらず敏感ですねぇ、ケイミィちゃんは」
カトレアはケイミィから向けられた疑問を否定はせず、笑みを崩さぬまま言葉を続ける。
「『黒炎』の素質が失われるのは、私個人としても困りますからね〜。それと……ウルガー君にも興味があります」
「へ、ウルガー?」
突然現れたウルガーの名に、ニアはついその名前を復唱した。
何故いきなり彼の名前が出てきたのか、分からない。
「そう、ウルガー君です。私は今、ニアちゃんとウルガー君が気になって気になって仕方ないんですよ〜」
「は、はぁ……何で……?」
何を考えているのか分からない笑みを浮かべたまま、ニアへと興味の視線を向けて来る。
ケイミィは暫しの沈黙の後、カトレアへと再び問いかける。
「光の魔女様を、裏切る様な事は考えていないですよね?」
その言葉を聞いたカトレアは、砕けていた笑みに真剣味を帯びさせながら即答した。
「絶対に、裏切る事はありえません。私、光の魔女様も凄く気になってますから〜」