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銀狼と闇の魔女 〜千年の戦いと世界の終わり〜  作者: みどりあゆむ
三章 始まりの国
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二話 マリンサイド


 出発の日の朝、夢から覚めたウルガーは風に当たろうと外へ出る。

 すると、庭先には左腕で一振りの剣を振るう人物が一人――テッドだった。

 彼はこちらに気が付ついて、剣の素振りを止めてから視線を向け


「おはようございます、ウルガー君」


「おはようテッドさん。今日も朝から頑張ってるな」


「ええ、左手はまだ完璧に慣れていないので、時間のある時にこうして鍛錬を積まねばなりませんから」


「……今でも充分に凄いと思うけどな」


 それはお世辞でなく、本心からの言葉だ。

 右手を失ってから左腕で剣を振る練習していた彼はもう既に強者の領域へと入っているのが見ていて分かる。

 テッドの剣の動きには無駄が無く正確で、速い。だがそれでもまだ足りないと、彼は時間の許す限り剣を振り続けていて、レオンにも特訓に付き合って貰っていたと聞いた。


 右手を失ってもなお挫折などせず、ひたすらに努力し強くなろうとするテッドの姿勢に感心していると、背後から欠伸と共に少女の声が聞こえてきた。


「ふあぁ……、あら、二人ともおはよ……」


「ニアか、おはよう」


 起きたばかりらしいニアがまだ眠たそうな目を指て擦りながら、家の中から出て玄関の前に座り込む。彼女の顔を見てから、テッドは焦った様にニアの元へと駆け寄り


「ニア様! なんですかそのボサボサ頭は、寝癖を直してから外へ出てください!」


「そうよ〜、ウルガー……寝癖は直さなきゃ〜……」


「え、俺?」


「ニア様に言ってるんですよ!」


 今朝のニアは普段以上に寝ぼけ気味だった。どうやら、生まれ故郷であるイースタンへ初めて行く事に内心緊張していてなかなか眠れなかったらしいと後に聞いた。


 朝食を取り、出発前の準備を終えた三人は玄関前に集まる。

 そこには馬車でやってきた緑髪の青年カミルも居て、今回は彼は港町マリンサイドまでの同行だ。


「本当ならば俺もついて行ってやりたいのだが……」


 レオンはどこか申し訳無さげにそう呟く。だが、彼にも彼の仕事があって、レオンを必要としている人達が居る。


「レオンのオッサンには仕事があるし、助けを求めてる人や困ってる人達が居るだろ。そっちを頼むよ」


「そうだな……すまん」


 レオンはハンターの仕事で人助けだってやっているのだ。世の中で困っている人間は自分だけでは無い。彼の力はもっと色々な人の為に使われるべきだと思う。


 そこへ続けてレオンの娘ミリーが顔を出し、金貨の入った袋をウルガーの手の平に差し出した。


「ミリーさん、この金は?」


「イースタンへ渡るには港町に行く必要があるよね? その港町に用心棒を雇えるお店があるらしいから……そのお金だよ」


「いや、こんな大金……流石に悪いって!」


「お金より命の方が大事!」


「!?」


 お金を突き返そうとした途端、ミリーは力強い声でそう言い切る。

 そしてウルガーへと更に顔を接近させて


「危ない目に遭うかもしれないんでしょ? なら、備えはちゃんとあった方が良いじゃない! それに……ウルガー君の事は弟みたいに思ってるの、こんなお金くらい安いものよ」


「……ミリーさん……」


「まあ、暫くはお肉や良いもの食べられなくなっちゃうけど節約すれば何とかなるし。気にしないで使いなさいな」


「――分かった。ありがとう」


「うん、気を付けて行ってらっしゃい」


「目的を果たして、無事に生きて帰って来い。ウルガー」


「あぁ、ちゃんと生きて戻る」


 勿論死ぬ気など毛頭無い、そして大陸に来てから世話になった恩人であるレオンとミリーを悲しませるつもりだって無い。

 必ず生きて戻ると、強く誓った。


 続けて、短い間ではあったが世話になったニアとテッドも頭を下げながら二人に礼を伝える。


「レオン殿、ミリーさん、少しの間でしたが、色々とお世話になりました」


「ありがとうございました、ご飯も美味しかったです。お二人も、お元気で!」


「武運を祈る」


「ニアちゃんとテッドさんも、頑張ってね」


 互いに別れの挨拶を交わし、最後にウルガーはもう一度、レオンとミリーに真っ直ぐ視線を合わせ


「じゃあ、行ってくる」




 ――出発から約五時間、カミルの走らせる馬車の向かう先に町が見えて来る。立ち並ぶ建造物の中には、一本の高い灯台がそびえ立って居た。あれが、目的地である港町マリンサイドである。


 町の入口には衛兵が居て、荷物のチェックを受けてから町の中へと通される。


「では、僕が同行出来るのはここまでですので。頑張ってくださいね」


「ああ、ありがとうカミルさん」


 ウルガー、テッド、ニアの三人は馬車から降り、カミルに礼を伝え引き返す馬車を見送る。ニアは見えなくなるまで手を振っていた。


 綺麗に舗装された道に足を付け周囲を見渡す。様々な種族が入り混じり、多くの人々が行き交う活気溢れた町というのが第一印象だった。

 そして高い灯台の更に向こう側に、広大な海が果てしなく広がっている。


「船なんて、故郷から出る時の小さい奴しか乗った事ねぇな……」


「そうなんだ。大きい船に乗るのは楽しいわよ、捕れたての美味しい魚料理も出るし……また食べたいわね」


「ニア様、お腹空いてるんですか?」


「べ、別にそういう訳じゃないわよ、ちょっとだけよお腹空いてるのは!」


「空いてんじゃねぇか……」


「了解しました、ならまずはご飯にしましょう。船の出航時刻までまだ時間がありますし」


 懐から取り出した懐中時計を見ながらテッドはそう呼び掛け、まずは近くにの石段を上がった先にある飯屋へと向かう事にする。

 そこは海産物を扱った店で、内装も清潔に保たれており落ち着いた雰囲気を持っている。窓か らは海が見え、景色を眺めながら静かに食事も出来る場所だ。

 複数ある内の窓際にあるテーブルへと向かい、三人それぞれ椅子に腰を掛ける。


「……こうしてしっかり海を見るのは久しぶりな気がするな」


「綺麗な景色よね。ずっとここで座っていたいわ」  


「駄目ですよ、ニア様。ずっと居座るのはお店の人に迷惑です」


「分かってるわよ……それより、ご飯食べたら用心棒に雇う人も探しに行かなきゃいけないのよね」


「そうですね。イースタンには凶暴な獣が出没する事もありますし、何が起きるかも分かりません。せめて二人くらいは強力な戦力を加えたい所です」


「ミリーさんから貰った金貨は二十枚だけど……テッドさん、用心棒代の相場ってどんなものなんだ?」


「そうですね、安くて一回の仕事で金貨五枚程度ですが……それでは実力的に不足しているでしょうね」


「やっぱりか、強い戦士を雇いたいならやっぱ大金出さないと……ん?」


 話していた最中、真横から何か気配を察知し左側に顔を向けた。すると、視界に映ったのは……大きく膨らんだ衣服の胸部だった。


「うお!?」


 驚き声を上げながら反射的に後ずさりすると、その全体像が見える。黄色い髪の毛を左右両側に結いフリルの付いた衣装に身を包んだ目付きの鋭い少女だった。

 フリルの少女はウルガーを見下ろしながら口を開いて


「お兄さん、女の子の胸見て興奮しすぎでしょ」


「してねぇよ! いきなり目の前にあったらビビるだろ!」


「まあそれは置いといて」


 と、淡々語りながらフリルの少女は顔をウルガーの眼前まで近付けて。


「お兄さん、私を買わない? 金貨二十枚で良いよ」


「……は?」


 突然の少女の発言に訳が分からず怪訝な視線を突き返す。

 そこへニアが大きな声で割って入り


「ちょ、ちょっと、黄色い髪のお姉さん! ウルガーに何をする気よ!」


「え、いやいや、私がされる方でしょ?」


「される!? 何を!? 何をする気なのウルガー!?」


「俺は知らねえ、俺に聞かないでくれ!」


 どんどん訳が分からなくなって来て本格的に混乱し始めたその時、黙って状況を見ていたテッドが口を開いて


「もしかしてお嬢さんは……」


 そう言いかけた時、店の中に悲鳴が響き渡る。


「きゃああああああああっ!!」


「――ッ!?」


 ウルガー、ニア、テッドは一斉に悲鳴のした方向へ目を向けた。

 視線の先、カウンターで店主の女性が小太りの男に刃物を突き付けられていた。

 更にその仲間と思わしきもう一人の細身の男は両手に魔力を溜めており。


「船に乗る金がねぇんだよ。さっさと出しな、出さないとここに居る客は全員相棒の魔法で焼け死ぬぜ」


「へっへっへ……」


 どうやら強盗が店内に入り込んでいたらしい。下手に動いて相手を刺激すれば罪の無い人間が犠牲になる恐れもある。

 ウルガーとテッドは気配を殺しながら機を窺い、ニアも静かに魔力を高め始めた――その横で、少女の笑い声が聞こえた。


「クスクス。いいねえ、おじさん。私も仲間に入れてよ、お金欲しいし」


「なっ!?」


「ちょっと、あなた何を――!」


 フリルの少女の発言にウルガーとニアは驚愕の表情を隠せないでいた。

 そして強盗二人はフリルの少女の姿を見て


「なんだ、お前も俺らに協力するってか?」


「うん、私お金大好きだもーん」


 少女は楽しげに笑いながら強盗へと近付き、細身の男へと身体を引っ付け胸を押し付けながら


「ねえ、いいでしょ? 夜いっぱい遊んであげてもいいよ?」


「へ、へへ、そうだな……相棒、この女仲間に入れようぜ」


「おう、そうだな……良い女だしよ、ひひ」


 強盗二人はフリルの少女を見ながらニヤつき、更にそこへ一つの怒声が飛んだ。


「オイ、お前、どういうつもりだ!?」


「……」


 ウルガーの怒声を聞き流し、反応もせぬままフリルの少女は店主の女性へ声を掛け


「早く金出して来いよ、殺すよ?」


「ひっ、ヒィッ!」


 脅された店主は急いで金庫のある場所へと離れて行き、少女はカウンターに置かれた酒瓶を手に取った。


「ねぇ、おじさんお酒飲む?」


「お、グラスに注いでくれるのか?」


 小太りの男がニヤつきながらそう言った後、フリルの少女は笑顔を浮かべ


「ううん、頭から注いであげる」


「え?」


 直後、フリルの少女は手に持った酒瓶を小太りの男の脳天から勢い良く叩き付けた。


「ごフォッ!?」


 大きな音と共に瓶の破片と中身の酒が飛び散り、小太りの男は頭部から血を垂れ流しながら倒れる。

 その光景を見ていた細身の男は両手に溜めていた魔力をフリルの少女へと向け、両手から炎の塊が放たれた。


「お前、嘘ついてたのかよぉ!!」


「むしろ何で信じてたの?」


 細身の男の怒りの言葉を切り捨てながら冷たい視線を突き返し、放たれた炎を真っ向から受ける。――が、炎の受けたはずの少女には傷一つ付いておらず。


「――は?」


「お返し〜」


 フリルの少女が人差し指を細身の男へ向けた直後、細身の男の全身を激しい炎が包み込んだ。


「ぎゃあああああああああっ!?」


「死なない程度に焼くから後で自首しなー」


 炎で焼かれる男にそれだけ言い残して、フリルの少女はウルガーの近くへと再び近寄って来る。


「……お前、何者だ?」


 ウルガーのその問い掛けに少女は笑い返しながら


「ほら、買いたくなった?」


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