三十二.五話 復讐者の誕生
屈辱だった。
生まれてから失敗したことなど一度もなかった。親が逆らう者達を殺してくれたから。大きくなってからは私も同じ様にして生きてきた。
しかし、今回の上手く行くはずだった計画は失敗に終わり、老人からは一方的に痛めつけられ、みっともなく逃げ回り、情けなく命乞いをし、最後はそれを魔導会のメンバーに見られ情けなくも命を救われた。
屈辱だった。
この世の全ては自分の思い通りに動くべきなのに、今回はそうはならなかった。そうだ、全てはあの二人のせいだった。
ウルガーとニアが、歯車に二匹のゴキブリが紛れ込んでいたせいで、計画は破綻し、崩れ、失敗に終わった。
私は悪くない。私は何も間違えていない。あの二人が邪魔をしたから、いけないのだ。
そして、初めてこの身に芽生えた感情――憎悪。憎い相手を殺したいという感情。心が熱くなった、憎い相手を目の当たりにして、激しい感情が沸き起こった。どう殺せば相手に屈辱を与えれるのか、考えるのが楽しかった。
だから、あの少年も同じ様な気持ちを抱いていたのかと……こんな楽しい感覚を味わえて羨ましいと思って。楽しいものを共有出来る仲間を見つけたとも思っていたのに。
その気持ちすら、あの少年は否定した。
屈辱だ、屈辱だ、屈辱だ。
何故あいつらは思い通りにならない。闇の魔女も、普段は甘ちゃんな癖に、私にとって必要な時には慈悲を見せない。他人には優しくして私には優しくしないなど、偽善者だ。偽善者は嫌いだ。偽善者も憎い。
そして、一番の屈辱が――一番最後に訪れた。
「帰ったらテメェらのボスに伝えとけ、いつか全部ぶっ潰してやるから覚悟しとけってな」
あの少年は私の事には一切触れず、魔導会のボスに宣戦布告をした。私の事は見向きもしていなかった。もう、眼中にも無いという事か。あれだけ私に怒りと憎しみを向けておいて。私はこんなにも君の事を考えて感情が沸き立つというのに。
私を誰だと思っている。私は、世界の支配者となるべき選ばれたエリートなのだ。私を無視するな、私を見ろ、私に、恐怖しろ。
悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい
――――今、こんなにも、君の事が憎たらしい。




