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銀狼と闇の魔女 〜千年の戦いと世界の終わり〜  作者: みどりあゆむ
二章 再会の町
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二十三話 蒼炎の魔女

終盤を書き直しました


 自分の手で娘を殺せと脅されて、妻・アンネリーの生まれた家から逃げ出し、行くあても無く魔導会に逃げ込んでそこで身を潜めながら生きて来た。

 生まれた娘と同じ自分の橙色の相貌を鏡で見るたびに思い出し、罪悪感に駆られ発作的に自傷に走る事も少なくなかった。


 そして逃亡から十数年……妻だったアンネリーと再会する。


「ねぇ、ノーマン。――そろそろ、ニアに会っても良いんじゃないの?」


 魔導会で共に働き始めてから一年経ったある日。

 名を呼ばれ振り向けば、アンネリーからそう提案された。

 娘が元気に健やかに育ってくれている事は聞いていたが、まだ実際に顔を合わせる勇気は無い。それに……


「顔を合わせてしまったら、今の研究を放り投げて一緒に暮らしていきたいと考えてしまうかも知れない。それに、今更俺が父親面するなんて許されない事だよ」


「あの子私に似てるし、ちゃんと話せば気にしないと思うけれど……」


「まだ、駄目だ。せめて今は目の前の研究に集中して……それが終わってから考えよう。俺のことはまだニアには話さないでいてくれ」


「はいはい、分かりました。もう、相変わらず弱気なんだから」


「うぐっ」


「一緒に暮らしたいなら、別にそれでもいいのに」


「……アンネリー……」


 ――その時、研究室の扉をノックする音が聞こえた。

 扉へと視線を移し入室を促せば、そこから顔を見せたのは見覚えの無い人物だ。紫色の髪の毛と眼鏡が特徴的な、一見穏やかな雰囲気を感じる青年。


「……君は?」


 その問い掛けに青年は、丁寧に頭を下げながら挨拶し名を名乗った。


「私は、ベルモンドと申します。今日からこの魔導会に参加する事になりました……以後、見知り置きを」


 ベルモンドと名乗った彼は「そして」と一拍置きながら背後を振り返り、もう一人新しく入るらしい人物へと視線を向け


「彼女も、今日からお世話になります」


 ベルモンドの背中から現れた少女は白い髪の毛を長く伸ばしていて……その右手の甲には、包帯がグルグルに巻き付けられていた。


 ――――それから、全てが崩壊し始める。


 彼が魔導会に入って来てから組織内で力を持つ者たちの不審死が続出し、上層部の人間が入れ変わり、挙げ句には人体実験紛いな研究にまで手を染め出した。

 原因はベルモンドだと、すぐに分かった。

 異常事態を何とかしなければならないと、アンネリーと共に立ち上がり魔導会の上層部へと登り詰めたベルモンドに反乱を起こす。


 反乱勢力は戦いが得意で無い者がほとんどで、アンネリーの持つ魔女の力『蒼炎魔法』が唯一最大の戦力だった。

 『蒼炎魔法』は治癒と戦闘用ニ種類の魔法が扱える。

 アンネリーの性格では今まで基本的に治癒魔法しか使用して来なかったが、その時ばかりはそうもいかず戦闘面でも彼女に頼るしか無かった。


 ――しかし、アンネリーはベルモンド側に付いていた白い髪の毛の少女との交戦に苦戦を強いられていた。


「アンネリー!」


「だめ、来ないでノーマン! あの子は、危ないから!」


「だ、だからって、黙って見てられるかよ!」


 苦しげに膝を付くアンネリーの前に立ち、庇う様にしながら眼前の白い髪の毛の少女へと視線を刺した。

 少女は無表情でこちらを見ており、グルグル巻かれていた右手の包帯は解かれていて――そこには、魔女の刻印が刻まれていた。

 それを見たアンネリーは声を震わせながら少女へと問い掛ける。


「貴女、まさか……、魔女……?」


「――だったら何だ?」


「何で、ベルモンドに協力しているの?」


「協力……? たわけたことを抜かすな、蒼炎の魔女」


 白い髪の毛の少女は、否定する様に一蹴する。そして、冷たい視線をアンネリーに突き付けながら


「私はベルモンドの考えている事など知らぬし、どうでもいい。私の理想の世界を作るための使い捨ての手駒として利用しているだけだ」


「そんな訳には、行かないのよ。同じ魔女同士、仲良くしたかったのだけれども……そうも行きそうに無いわね」


「同じ魔女だと? くだらん。闇と光こそが、世界の全ての始まりなのだ。蒼炎など副産物に過ぎぬ」


「――? どういう、こと?」


「理解する必要など無い」


 直後、白い髪の少女の手に極大な魔力が輝きを放ちながら収束していく。

 アンネリーは危険を察知し、対抗する様に両手に蒼い炎を生成した。


「ノーマン、貴方はここから離れて!」


「――!」


 情けないが、自分に出来ることなど無い。だからせめて邪魔にはならない様にとその場から離れて


「アンネリー、死ぬなよ!」


「死なないわよ!」


 直後、白い髪の少女は右掌をかざし詠唱しながら、矢の形をした魔力の塊を無数放出した。


「飛べ、光の矢」


「やらせない!」


 光の矢が迫り、それをアンネリーは両手の魔力を全方位に放出し、部屋全体を蒼い炎で覆いこんだ。

 蒼い炎は相手の魔法を相殺し、更にアンネリーとノーマンの身体に纏われ『光の矢』による攻撃を防ぎ、白い髪の少女には焼けない熱の痛みを与えた。


「く――っ! 厄介な!」


「敵対しかないのなら、手加減なんかしないんだから!」


 続け様にアンネリーは自身の身体を蒼い炎で包み込む。そして、背中に蒼炎の羽を左右に展開させ――


「はい、そこまでです」


「――ッ!?」


 突如、青年の声がその場へと割り込んだ。

 咄嗟に視線を向ければ、そこに立っていたのはベルモンドと軍服の青年フレデリックだった。

 フレデリックの右手に握られていた剣の刃先は、ノーマンの首元に当てられていた。


「ノーマンを、離しなさい!」


 精一杯のアンネリーの反抗の声に、フレデリックは残酷な笑みを浮かべながら


「貴女が娘と共に暮らしている場所は既に把握しているし、一声指示すれば家に兵を向かわせる準備も出来ている。これ以上反抗するならば、夫だけでなく可愛い娘も殺すが……」


「そんな、そんな事! 私が許さないわよ!」


「ならば選べ。無謀に戦い家族を無惨に死なせるか、大人しく従い家族を生かすか」


「……っ」


 ――――それから、アンネリーはノーマンを見捨てる事が出来ず、まともに戦う事も出来ぬまま、その身柄を拘束されてしまった。

 その光景を、白い髪の魔女は不機嫌に眉間に皺を寄せながら眺めていた。


 そして後日、アンネリーにベルモンドは穏やかに聞こえる口調で語りかける。


「安心してください。約束は守ります。娘を殺しはしませんよ、アンネリーさん」


「本当に?」


「本当ですとも」


「嘘だったら、――あんた達を、殺すわ」


「フッ。怖い怖い。あぁそうだ。それとノーマンさんですが。彼は現魔導会への反逆者で組織に役立てる力も無い……本来なら処刑されて終わりなのですが、殺せばアンネリーさんの怒りを買うので生かすしかありません」


「……そう……」


 不安と安堵が同時に押し寄せる中、ベルモンドは続けて口を開き


「なので、建前上は彼は死んだ事にして、目立つ行動を取らないという約束を交わした上で解放しておきました。心配せずとも彼はずっと生きているでしょう……貴女が、逆らわなければね」


「……は……」


 すぐに気が付いた。ノーマンは人質だ。

 解放してアンネリーの手の届かない所に行かせれば、機会を見てアンネリーが彼を助ける事ももう出来ない。どこに行ったのかも分からない。

 更に自分が外に出たり何かしようとすれば夫と娘に刺客を送られるのだろう。完全に、この場から動けなくされてしまった。


「私は、どう……すれば……」


 今にも叫び出したい、泣き出してしまいたい状況だが、必死に弱音と出そうになる涙を我慢して噛み殺した。

 今はただ、祈るしか出来ない。娘と、夫の無事を――

 いつか、また出会える事を。






 ――――現在の鉱山の街クリストへと舞台は戻る。

 アンネリーの実の娘、闇の魔女の力を持つニアは『闇魔法』で気配を消しながら街の中を歩いていた。その道中


「アンネリー……ニア……」


 父の、ノーマンの、か細いその呼び声がニアの耳にも届いて来た。


「クソ、クソ、クソ! このままニアまで、ニアまであいつらの手に渡っちまったら……いや、もし、死んでたら、もう……どうすりゃいいんだよぉ!」


 自分の髪をグチャグチャに掻き混ぜながら、感情のままに声を上げている。


 感情が、意志が揺らぐ。

 初めてその顔を見た日、父とは結局まともに話す事が出来ず、見ていて胸の痛くなる姿しか見ることができなくて、今度はちゃんと話したいという思いがずっと心の片隅に強く残っていた。

 街がメチャクチャにされてから父の安否も不安だったから、無事で居てくれてたのが嬉しい。


 今はこの場をすぐに離れてウルガーに頼まれた事を優先するべきなのは分かっている。だが、せっかく再会出来た父を――こんな状態で見捨てて行く事も出来無かった。


 迷いに呼応するかのニアの全身を覆っていた『黒い霧』は自動的に解除され、先刻まで遮断されていた気配をノーマンは感じ取り、視線を向ける。


「――! ……ニア、か?」


「あ……」


 父に気付かれ、咄嗟に返す言葉が浮かばなかった。そして自分を覆っていた『黒い霧』が解除されている事に今更ながら気が付く。

 もうちゃんと話せる機会は今しか無いかもしれない。だから、今度こそしっかり向き合おうと決心しながら


「――お父さん、生きてて、良かった」


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