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銀狼と闇の魔女 〜千年の戦いと世界の終わり〜  作者: みどりあゆむ
二章 再会の町
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二十一話 テキヲコロセ


 左手の手袋を外し視線だけをこちらを向けて佇んでいるベルモンドの動きを注視しながら、銀色の毛が生え渡る両足に力を込める。


「オオォォォッ!!」


 咆哮と共に、地面を抉りなから蹴り一気に敵との距離を詰めた。音速の域に達する勢いの脚を振り上げ、ベルモンドの顔面へと一撃の蹴りをぶつけようと――した、その瞬間。

 全身に激しい痺れと焼ける様な熱が走る。


「ガあァッ!?」


 身体の内側まで掛けて破壊してくる様な苦痛に『獣人化』させた脚も動きを止められてしまった。

 何が起きたのか、思考する暇も無く第二波が襲い掛かる。


「離れなさい」


 青年の一言と共に今度は何かに殴られた様な衝撃が無防備な顔面にぶつかり、一気に後方へと弾き飛ばされて地面に体を打ち付けながら転がっていく。


「ガハッ! ハアッ、はぁ……、ぐぅゥッ!」


 口の中の血を吐き出し、乱れた呼吸を迅速に整えながら、地面に足を付け無理矢理立ち上がる。

 ベルモンドは余裕の表情を崩さぬまま腕を組んで、こちらを見ていた。


 ――先刻受けた攻撃は、恐らく雷属性の魔法だ。

 島で一緒に住んでいた祖母が得意としていた属性の魔法なので何となく分かる。

 問題は祖母とは雷魔法の使い方が全く違う為、動きが予測出来ない事と、どのタイミングで魔法を放ったのかが分からなかった事。


 基本的に、魔法を使用するには何かしらの動作が必要だ。

 しかし先刻のベルモンドには魔法を使用する為の動作らしきものが見えなかった。恐らく、義手に使われている左腕の元の持ち主である人間がそういう戦い方を得意としていたのだろうが……


「考え事をしてる暇はありませんよ」


「チィッ!」


 思考を巡らせている最中、目の前から数発の大きな風の衝撃波が放たれる。聴覚と肌で風の動きを察知しながら、銀狼の脚による超人的な速さで回避していく。


 衝撃波を躱し地面に足をつけたと同時、そこへベルモンドが全速力で駆け込み接近――ウルガーの顔面を狙い真っ直ぐに、雷を纏わせた左腕の義手を打ち込んで来た。

 視覚と聴覚に全神経を集中する。

 ベルモンドの攻撃の軌道を読んで即座に躱し、反撃態勢に移りつつ右脚に力を込め地面を蹴りけたその直後――再び全身に痺れと熱と痛みが走った。


「ガァッ!?」


 手足の先まで流れ襲い掛かる苦痛に身体の動きが止まり、地面に膝を付きそうになる。が、歯を食いしばり何とか踏み止まりながら地面を蹴りつけ後方に下がった。


 混乱しかける頭を振るい、思考する。

 ベルモンドの義手による攻撃は確かに回避したはずだ。だが、躱してすぐにまた全身を電撃が走った。相手から魔法を飛ばされた気配は無かった……何も無い場所から突然雷が発生したかの様な感覚。


「どういう、事だよ……ッ!」


 舌打ちし、眼前の敵へと鋭く視線を突きつければ、ベルモンドがまたも風の衝撃波を放ちながら駆け足で接近してくる。


 今あの男と近づくのは危険だと本能的に察して、咄嗟に地面を蹴り後方へと跳躍した。その直後に


「い――ッ!」


 跳躍した足の爪先に電撃が走り、歯を食いしばって痛みを堪えながら敵との距離を取りつつ着地する。


 最初の2回の全身に受けた雷魔法と違い、先程の一撃はベルモンドに近い方向に向いていた爪先のみだった。恐らくあの雷魔法は距離が関係している。

 ベルモンドの言葉を脳裏で反芻する――『近距離魔法の天才』と、あの左腕の本当の持ち主が呼ばれていたと語っていた。


 本来、魔法は術者の身体を通してから外へと放出される。それを近距離限定とは言え、本来のあるべき手順をふまず外側からいきなり魔法を発生させる事が出来たとすれば――


「そんな事が出来りゃ確かに、天才だ」


「ほう。自分の身に何が起きたか、気付くのが思っていたより速いですね。やはり、君は優れた戦士になれる素質がある……出来れば魔導会に引き入れたいのですが」


「あ? ざっけんな、誰がそっち側に行くかよ」


「残念です。君には相応の地位をあげても良いと思っていたのに……それに、君の願いを叶える事だって」


「願い? 何いってんだテメェ」


「例えば……亡くなってしまった君の愛する人間ともう一度合わせてあげましょうと、提案されればどうですか?」


「――――」


 真っ先に思考に浮かんだのは、島で長年一緒に生きてきた幼馴染のケイトだった。そして、ケイトと共に殺された友人のアラン、親しかった人達……

 島での思い出が脳裏を過ぎり、次に頭の中を支配したのは燃え上がる様な激しい怒り。

 愛する人間の命を奪った張本人が何を言い出したのかと、血の滲む勢いで拳を握り締めながら叫んだ。


「島の人達を、アランを、ケイトを殺しておいて、ふざけた事言ってんじゃねえよッ!!」


「何か勘違いしていませんか? 命を直接奪ったのは私では無く部下で、その者達はもう既に君が殺したでしょう」


「部下に指示したのはお前だろ……!」


「フッ。何故そんなに怒るのですか君は。殺された皆の魂は、我々の役に立っています。無駄死にでは無い、尊い死だったというのに」


「尊い死、だと……オイ。いい加減にしろクソ野郎がァッ!!」


 あの時、ベルモンド率いる魔導会の手によって理不尽にも命を奪われた人々。皆の心には、恐怖や苦しみしか無かった様に見えた。もっと生きたかったはずだ、こいつが島に来なければ、皆は……アランは、ケイトは、まだ生きていたはずなのに。


 強い怒りが感情を支配していき、脳内に声が響いた。


『戦え』


 聞き覚えの無い低く獰猛なその声は、ウルガーの理性を奪い取って行く。


『戦え。我の血に、本能に従い、目の前の敵を八つ裂きにして、殺すのだ』


 魂の奥底から、強い闘争本能湧き上がって来る。ウルガーの理性が、何か別の強い意思に上書きされ始めて……

 待て、待て、待て、何か、今は、やるべき事が、あったはずだ、ベルモンドを、コロすコトでは、無い、他に、やるべき、コト……――――メノマエノ、テキヲ、コロセ。コロセ、コロセ、コロセ。


 ――思考が、感情が、闘争本能だけの獣となり、咆哮する。そして右腕の『獣人化』を解放しベルモンドへと爪を向け襲い掛かっていた。


「オオオオオオォォォォッ!!」


 明らかに様子の変わったウルガーを見て、ベルモンドは何か考え込む様にした後――唇を緩め


「君はやはり興味深い。是非連れて帰りたいですね」






 ――――――その頃、山の麓まで降りていたニアのみみにも、獣の様な咆哮が聞こえていた。


「今の、声……ウルガー? でも少し、違った様な……」


 咆哮の聞こえた山頂へと視線を向ける。何かあったのではと心配だ、けど、足を止めるわけにはいかない。


「私は、私の任された事をやらなきゃ!」


 少女は不安を振り払い、街の中へと駆けて行った。


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