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銀狼と闇の魔女 〜千年の戦いと世界の終わり〜  作者: みどりあゆむ
二章 再会の町
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十九話 覆された筋書き


 鉱山が盗賊団に占拠され、更に街へも略奪を目的として侵攻。怪我を負ってまともに戦えない状態にある衛兵を皆殺しにし住民が数人殺された所でベルモンドが賊を退治する。

 ――それが今日起こる事件の筋書きだと聞かされた。


 盗賊団はベルモンドに雇われた者達。事件は、あらかじめ仕組まれた自作自演でしかない。


 死人が出る予定だと聞かされ、すぐにでも飛び出そうとしたが


『いや、夜はたぶんベルモンドも盗賊団と一緒に居るから。早朝のベルモンドが鉱山から降りた頃が狙うなら一番良いに決まってんでしょ。頭バカなの?』


 そう言われいちいち一言多いリシェルに怒りを覚えたがそれは黙って呑み込み、彼女の意見を聞き入れた。

 確かに無策でベルモンドの居る所へ突撃するのは無鉄砲で無謀が過ぎる。回り道でも、確実に相手の計画を潰せるやり方を選ぶべきだろう。

 それに、先日のリシェルとの交戦で体力も使い過ぎた。早朝になるまでは大人しく体を休ませた方が良いと判断し、焦る気持ちを抑えながら少しの時間でも休息を取ることに専念した。


 そして、早朝の鉱山。

 ニアと共に離れた位置の岩陰で隠れながら、盗賊団の様子を窺っていた。亜人の聴覚ならば、この距離でも向こうの会話は聞き取れる。

 息を潜めながら、耳を澄ませ意識を聴覚に集中させる。


「何時間も待機って性に合わねぇんだよ。早く暴れて殺してぇ!」

「駐屯所で休んでる衛兵を全員ぶっ殺して、住民を何人か殺すだけで高価な報酬をガッポリ貰えるんだ。もう少しくらい辛抱しろ」

「なあ、一人ぐらい若い女拐ってもバレないかな?」

「ガハハ、やめとけやめとけ! まあ、ドサクサに紛れて一発やるくらいなら」


 男達の目から感じる悪意から感じ取れていたが、やはり他人の命や尊厳を奪う事を何とも思っていない奴等の集まりだ。

 ベルモンドに脅され嫌々悪事をやらされている訳ではない、元から悪人ならば躊躇せずに戦える。


「ねぇ、ウルガー。あの人達なんて喋ってるの?」


 ニアが小声で耳元にそう語り掛けてきて、同じく盗賊団に聞こえないよう最小限の声量で答えた。


「衛兵を全員殺して住民も殺すとよ。それも楽しげに話しやがって……リシェルの言っていた通りだ」


「他には?」


「……他は聞かない方が良い」


「?」


 流石にニアには聞かせられない内容の会話も含まれていたので、そこは伝えないでおいた。

 相手がどんな人間なのか分かった所で、早速あらかじめ計画していた行動を開始する。


 盗賊団の中で周りからボスと呼ばれている眼帯の男へと目を向けた。

 眼帯の男はこちら側に背を向けながら座っており、すぐ横には彼専用の武器であろう剣と通信機らしき魔道具が置かれていた。

 ベルモンドとの連絡手段を断つ為、まずはあの通信機を奪うべきだろう。


「作戦通り頼んだぞ、ニア」


「私に任せなさいな。ほらウルガーもっと近くに来て、魔法の範囲に入らないから」


「あぁ。大丈夫だとは思うが、危険を感じたら逃げる心構えもしておけ」


「もう、心配しすぎよ。――『黒い霧』」


 詠唱後、ニアとウルガーの周囲を認識阻害の効果を持つ魔力の霧が覆い、二人から発せられる全ての気配を遮断した。

 盗賊団の者達は、力はあるが気配の感知に優れている程優秀な戦士にも見えなかった。気配を消すニアの魔法は充分に通用するだろう。


 息を潜めながら忍び足で近づいて行き、眼帯の男の背後へと少しずつ接近していく。盗賊団は全員話すことに集中しており誰にもまだ気付かれていない。

 眼帯の男のすぐ真後ろで足を止める。誰の視線も向いていない事を確かめながら、地面に置かれた通信機を音を消しながら素早く手に取った。


 嗅覚を研ぎ澄ませ、通信機と同じニオイのものが他に無い事を確認。奪った通信機を手に持ったまま集団から少し距離を取り合図を出す。

 合図と共に、ニアは『黒い霧』を解除した。


「テメェらの通信機は奪い取った。大人しく投降しろ」


 突如現れたウルガーの姿と声に、盗賊団達は一斉に視線と殺気を向けて来る。


「――ッ! 何だあのガキ、いつから居やがった!?」

「オイ、通信機の魔道具奪われてんぞ!」


 男達の目の前で、間髪入れず通信機を地面に落とし全力で踏み潰し粉々に破壊する。益々向けられる殺気が強くなるが、一番厄介な敵であるベルモンドへの連絡手段は断つ事に成功した。


 盗賊団は数は多いが一人一人の実力は大した事は無い。戦闘経験の無い人間や怪我人を狙って略奪を行っていた集団だろう。充分に戦える相手だ。

 ニアの目の前に立ち男達の視線を一身に受けながら、負けじと闘志を放ちつつ警告する。


「大人しく衛兵に自首するなら何もしないで居てやる。戦うってんなら容赦しねぇ」


「ウッセェ、ガキが! 聞かれたり見られたら殺していいって言われてんだ、ぶっ殺せ!」


 眼帯の男が指示を出し、盗賊団の男達は一斉に武器を手に取って立ち上がる。

 全く聞く耳を持たない相手にこれ以上の会話は無意味だと、こちらも戦闘態勢に入り


「じゃあ、一切加減しねぇよ」


 視覚と聴覚を研ぎ澄まし、真っ先に飛び掛かって来た眼帯の男が構える剣の軌道を先読みして、首を狙った一撃を腰を低く屈めながら回避する。

 回避行動と同時に地面を強く蹴りながら一気に懐まで距離を詰め、眼帯の男の顎下を狙い拳を振り上げた。

 強烈な一撃に顎の割れる音がして、脳天まで震わせる衝撃を受け眼帯の男は地面に倒れ気を失った。


「ボスに何しやがんだクソガキァア!!」


 続けて十人近くの男達が囲む様に迫り、武器を振り上げた瞬間、男達の持っていた剣が次々と何か弾き飛ばされる。


「――っ!?」


「やらせないわよ!」


 ニアの発動した闇魔法『影の鞭』によって男達は剣を払い落とされ、動揺している間に次々とウルガーの拳の一撃で相手の意識を奪っていく。


「チクショウ、何だこいつらーー!」

「覚えてろ、そこの女! その服全部剥ぎ取ってから、ぶボッ!!」


 瞬く間に一人また一人と地面に倒れ、男達の上げる怒りの叫びは空しく掻き消えて行き、数分後には二十人もの男達が気を失い倒れ伏していた。


「これで、こいつらは片付いたか」


「上手く行ったわね、このままベルモンドもこの街から追い出しちゃいましょう!」


「あぁ、そうだな……」


 戦闘直後に数分でも一息つこうと座ろうとした直後、背後から嫌な気配を感じ取り咄嗟に視線がそちらを向いた。

 

「ニア、誰か居るぞっ!」


「えっ」


 そこに立っていたのは、眼鏡を掛けた紫色の髪の青年ベルモンド――男は笑みを崩さぬまま、こちらへ目を向け拍手しながら現れた。


「これはこれは、困りましたねぇ。私が戻ってくる前に彼等を始末してしまいましたか」


「うそ……」


「テメェ、ベルモンド……何で居やがる……!?」


 想定外の展開に、場の空気が張り詰めて行く。

 リシェルの話では、今の時間は街に居るはずだ。まさかリシェルは嘘を教えていて、ベルモンドと敵対を始めたのも演技で全て罠だったのでは無いか。


「もしかして、リシェルは私達に嘘の情報を教えていたの……?」


 そう疑い掛けた瞬間、その考えを否定する様にベルモンドは話し始める。


「どうせ、あなた方はリシェルから私達の計画を聞いたのでしょう? あの浅ましい女の考えくらい簡単に見抜けますとも。ならばこちらも計画には無かった行動を取ればいいだけ……」


「――リシェルが俺達を騙していたわけじゃ、ねぇのか」


「そんな器用な真似、あの女には出来ませんよ。そして私の意識が貴方達へ集中している間にリシェルが逃げる、そういう作戦だったのでしょう? まあ、リシェルの逃げそうなルートにはアーレを向かわせておきましたが」


「――ッ!」


「フフ、わかりやすいですねぇ。君達も、愚かなリシェルも」


 完全にこちらの行動は見抜かれていた。

 ベルモンドと本格的に戦うのは、マチルダやカミル、そしてカミルの話していた強い老人を味方に引き入れてからの想定でいた。

 感情としては、今すぐにでもベルモンドへと殴り掛かりたい。だが考え無しに感情的に動いて、島での様な惨劇を再び起こす事は絶対に避けたかった。


「どうしよう、ウルガー……」


 ニアはベルモンドへの敵意と闘志を燃やしながらも、その目には戸惑いや焦燥感も感じられた。

 自分がしっかりしていなければならない。この場を切り抜ける方法を、足りない頭を必死に巡らせながら思考して――


「まぁまぁ、そう怖い顔なさらずに。まだ私に交戦の意思はありません。今回はなるべく必要な犠牲以外は出したくないので」


「……衛兵皆殺しと、住民を殺すのが必要な犠牲だってのか?」


「合計しても死人は二十人くらいでしょう。大した数ではありません」


「あ?」


「貴方、本気でそんな事を言ってるの……?」


 一人の死でも、それは本人やその人と繋がりのある者達にとっては悲しく重たい死だ。

 命を物の様に数字で数え、更には二十人でも少ないというあの男の倫理観と思考回路は一切理解出来なかった。

 やはりベルモンドは危険だ。


「殺気が凄いですよ、ウルガー君。落ち着いて、私からの提案を聞いてください……大人しく黙って街から去るなら今回は見逃してあげます。あぁ、魔導会へ入り我々と協力するというのなら大歓迎ですよ」


「ふざけんのも大概にしろよ」


「そんな提案、聞き入れられる訳が無いわ!」


 考える間でも無い、街の人達が酷い目に遭う事を分かっていて見てみぬ振りなど出来ない。

 提案を即座に拒否され、ベルモンドは残念そうに溜息をつき


「そうですか……残念ですね」


 その直後、ベルモンドの目と声が一気に冷たいものへと変貌し、強烈な敵意が肌に突き刺さるかの如く勢いで押し寄せる。


「――ッ!」


「ウルガー君は個人的に気に入って居たのですが、仕方ありませんね。ニアさんは死なない程度に傷を与えて連れ帰りましょう」


 ベルモンドの全身から、強大な魔力が膨れ上がっていくのを感じ取った。咄嗟にニアを守る様に少女の目の前に立って


「ニア、あいつは危険だ、逃げ――」


「逃げない! 私も戦うわ!」


「――っ!」


 ニアは、怯えを感じながらもその目には強い怒りを滲ませていて、絶対に折れる気の無い意志を感じた。

 彼女は逃げない、しかし、まともにぶつかり合って勝てるかは分からない。本当にこのまま戦ってもいいのか。

 鉱山の中で、戦いが始まろうとしていたその時――


 その場には居ないはずの、一人の少女の声がした。


「アハッ! 隙アリ過ぎなんだよ、ベルモンドォおオ!!」


 少女の怒りと敵意に満ちた叫び声と共に、ベルモンドの背中に一撃の強烈な風の塊が激突した。


「ぅぐ――ッ!?」


 ベルモンドは苦鳴を上げながら盛大に吹き飛ばされ、更に吹き飛ばされる最中にある青年の身体へと続けて風の刃が何発も放たれた。


「チィッ!」


 ベルモンドは舌打ちを混ぜながら即座に衝撃波で風の刃を迎撃。しかし全ては撃ち落としきれず、一発の風の刃が青年の肩を切り裂く。


 突如この場に現れベルモンドを襲撃したのは、小型の鬼土竜の背に乗ったリシェルだった。


「な、何でお前がここに居るんだよ!?」


 そんなウルガーの声には一切答えず、リシェルはベルモンドへと敵意を向けたまま


「ベルモンドならさぁ、リシェルちゃんの考えを分かって先読みした気になってここに来ると思ってたんだよねぇ! どうせ逃げると思ってたんでしょ? 逃げねぇよバァカ!!」


 どうやら、ウルガー達に伝えてきた魔導会の計画は本当だが、リシェルが逃げるという話に関しては嘘だったらしい。

 間髪入れずリシェルは更なる風魔法を次々と叩き込んで行き、対するベルモンドは不気味に笑みを浮かべながら。


「貴方が私が恨んでいることなど昔から知っていましたが……まさか自分の命を捨てる様な行動をするまでとは予想していませんでしたよ」


「喋んな、死ね!」


 二人の関係は分からない、だがリシェルのベルモンドに対する敵意を本物だというのは理解出来た。


「ねぇ、ウルガー……私達は、どうする?」


 最初のリシェルの一撃は、ベルモンドにとって大きな痛手となっているのは分かった。明らかに、あの男の動きは鈍くなっている。


 ベルモンドには聞かれない様、ニアの耳元へと口を近付けて


「ニアは下に降りて、気配を消しながらカミルさん達を探してくれ。俺はこのままベルモンドと戦う」


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