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銀狼と闇の魔女 〜千年の戦いと世界の終わり〜  作者: みどりあゆむ
二章 再会の町
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十八話 前夜(後編)


 深夜の街は物音一つしない程に静かで、特に今回は街への襲撃もあった為人通りも全くと言っていいほど無かった。

 夜中でも賑やかな酒場も、流石に今日は閉店している。

 そんな静寂の中を、緑髪の青年カミルが足音を立てない様に慎重に歩いて行く。


 昼に人食い蟻との戦闘に出ていた衛兵は全員怪我を負っており、王国軍の本部への連絡は恐らくまだ入っていない。


『軍へは、私が連絡を入れておきます。ご安心を』


 突如、街を助けに現れた青年ベルモンド――彼はそう言い、魔道具の通信機でどこかへ連絡を入れていたが、信用出来なかった。

 あまりにも助けに来たタイミングが良すぎる事……そして、彼が街に訪れてから多くの住民達の様子がおかしくなっており、ウルガーとニアが騒動の元凶として扱われていたのだ。


 すぐにでもその誤解を解きたかったが、下手に反抗的な態度を取るのは得策では無いと感じ表向きにはベルモンドの言葉を大人しく聞き入れていた。

 周囲から警戒を向けられない方が、却ってこうして動きやすい。ウルガーとニアはまだどこかで生きて隠れているはずだ。


 二人を探すためにはまず、魔法剣技を極めた老人チャドへ協力を要請した方が良いだろう。もう街には帰って来ているはずだ。

 ベルモンドから住民には外出や勝手な行動を禁じられていたため下手に行動出来なかった、動くなら夜の今が好機だろう。


 そうしてチャドの住宅へと向かおうとした道中、大通りの向こう――街への出入り口である門から微かに人の気配を感じ足を止める。


「――っ!」


 咄嗟に近くの食堂の影に置かれた大きめな木箱の裏へ隠れてしゃがみながら息を潜める。

 その数秒後、ゆっくりと足を進めて来る音が小さく聞こえた。

 音が立たないように静かに、息を殺しながら少し顔を出し視線を向ける。


 大通りを歩く行列、それは武装した20人ほどの男達だった。身だしなみは整っているとは、軍に所属している者の格好では無い。恐らく、盗賊の類だろう。

 耳を澄ませていると、小さい声で何やら話していた。


「このまま昼になるまで鉱山の中で待機かよ。めんどくせぇ」

「そういうなって、依頼主からも報酬に手に入れた鉱物半分やるって言われてんだから」


 この行列の行き先は鉱山。そして、依頼主と呼ばれた存在。

 どう考えても、何者かによる計画的な行動だ。そして黒幕の正体は――


「まさか、ベルモンド……」


 口の中だけで青年の名を呟き、今後の行動をどうするか迅速に思考を巡らせていく。

 その時、すぐ真横から声がして


「何をしているのですか?」


「ぅ……っ!?」


 振り向けばそこには、笑みを崩さず穏やかな音色で語り掛けてくる青年ベルモンドが佇み見下ろして来ていた。

 一瞬動揺で頭の中が真っ白になったが、すぐに思考を立て直す。――もし、先刻の盗賊団を呼んだのがベルモンドで、その行列を目撃したことがバレてしまったらどうなるか分からない。

 動揺と恐怖と緊張が一気に押し寄せ、息が苦しくなりそうだが、気力でそれらを抑え込み冷静を装って


「いえ、その……僕は友人と共にここへ来たのですが。街への人食い蟻襲撃から行方知れずとなっている友人が心配で、寝付けなかったのです。不安で仕方なくて、友人を探しに外へ出てしまいました。外出するなと言われていたのに、申し訳ありません」


「ふむ……住民は全員生存の確認は取れましたが、外部から来た者の安否までは完全に把握出来ていませんでした。謝る事はありません、あなたの不安に気付かなかった私が不甲斐ないです」


「……では、僕はちゃんと帰りますので」


 ベルモンドは目に涙を滲ませながら謝罪する。しかし、どこで彼が牙を向けてくるのか分からなかった。

 この場に長居は良くないと判断し立ち上がって、そこから立ち去ろうとすると肩を叩かれた。

 声が出そうになるが咄嗟にそれを呑み込んで、心臓の鼓動が更に強まる。足を止め、振り返ればベルモンドは表情一つ変えぬままこちらを見て


「あなた、何かに怯えている顔ですね。何か怖いものでも見ましたか?」


 ――ここで、見た、と答えたら全てが終わる気がした。

 冷静になれ。相手の目的が一般人の信頼を得ることなら、簡単に殺しには来ないはずだ。怪しまれてもいい、誤魔化すしか道は無い。

 平静を装い、表情に余裕を作り


「いえ、違いますよ。人食い蟻の事を思い出して、恐ろしくなっただけです」


「そうですか」


 ベルモンドは取り敢えず納得した様子で、肩から手を離し大通りへ向かい歩いて行く。そして、もう一度こちらへ顔を向けて


「私は鉱山の見廻りへ行きます。危険な生物がまだ潜んでいる可能性があるので、絶対に近づかないでくださいね。殺され食べられてしまえば、証拠も無くなってしまうので」


「――わかりました」


 最後の言葉は、脅しに聞こえた。やはり怪しまれていたのかもしれない。

 一先ず目の前の危機は去り胸を撫で下ろすが、まだ問題は何一つ解決していない。気を入れ直し、チャドの住む一軒家を目指して行く。


 再び静寂に包まれた街の中を歩いて行き二十分、目の前には古びた木造住宅が見えてくる。

 窓からは、小さく灯りが確認出来た。周囲に誰も居ない事を確認しながら、ゆっくりと足を進めて行って――

 玄関の前に立ったと同時に、木製の扉が開かれた。


「誰かと思いや、カミルの小僧かい。何してんだ」


 顔を覗かせてきた金色の髪と髭を長く伸ばした老人、チャド。彼はこちらの表情を確認し何かを察した様で「さっさと入れ」と中へ招き入れる。


「お久しぶりです、チャドさん」


「あぁ、レオンの奴は元気にしてっか? ――と、そんな話してる場合じゃねぇって顔だな」


「はい。近況や思い出話に花を咲かせている訳にもいかなくなりました。この街に危険な人物が訪れています」


「誰の事かは何となく分かる」


 チャドはそう呟いた後、視線を部屋の端へと向けた。そこには一つのベッドがあり、その上には一人の少女が全身を包帯で巻かれながら寝かされていて。


「マチルダさん!?」


「孫と知り合いだったか」


「えぇ、まあ、まだ知り合って一日ですが……彼女の状態は……」


「怪我は命に関わる程じゃ無い……だが、俺が街に帰ってからずっと、声を掛けても、目を覚まさないんだ」


「え……?」


「いや、先ずは小僧の話を聞かせて貰おうか。危険な奴が居るって話をな。ソイツから聞き出せば、孫が目を覚まさない理由も分かるかもしれねぇ」


 チャドは落ち着いた口調でそう言う。しかし、その目はハッキリと怒りと闘志に燃えていた。








 ――――翌日の早朝。太陽の明かりが広がり始めた頃。

 鉱山の一角にて二十人の屈強な男が集まり何やら話し合っている。

 そこから離れた場所の岩陰に、身を潜めながら男達の様子を窺う二人の姿があった。


「マジでリシェルの情報通りかよ……もう、好きにはやらせねぇ」


「そうね。行くわよ、ウルガー」


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