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銀狼と闇の魔女 〜千年の戦いと世界の終わり〜  作者: みどりあゆむ
二章 再会の町
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七話 街を襲う災厄


「ねぇ、ウルガー……どう? 見つかった?」


「駄目だ。ニオイは分かったのに……それがどこにも残ってねぇなんて」


 亜人の優れた嗅覚を駆使し、倉庫の中で覚えた『スライム』と同様のニオイを探し、周囲や少し離れた場所を調べてみるもその痕跡はどこにも残されてはいなかった。

 もし、何らかの方法でニオイを消したのだとすれば、倉庫に残っていたニオイも消しているはずだ。そして、石床から露出した地面には一度掘り返された様な跡……考えられるのは。


「地中を逃げて行ったのでしょうね」


「だろうな」


「だとしたら、スライムが地面を掘って遠くまで行っちゃった、って事なの?」


「……スライムが地中を進むとなれば掘るのではなく溶かして進むでしょう。しかし、もし溶かしたとすれば、一度掘り返した地面を埋め直す土は残らないはずです」


「確かにそうね……」


「スライム以外にも、人の手で操られてる獣が居るかも知れないって事か。地面掘るのが得意な生き物は結構いるぞ」


「僕もその可能性を考えています」


「そんな……他にもまだ居るだなんて、ますます放っておけないわよ」


「あぁ」


 ニアの不安の通り、危険な力を持つ獣を……それも複数従えて、悪意を持って使われるとなれば無視出来ない脅威だ。

 兵力の少ない街一つくらいなら潰す事も難しく無いだろう。


 残された痕跡が少しでも無いか鉱山の麓の林道を歩いきながら思考を巡らせていた最中、後方から駆け足で近付いてくる足音と少女の声が耳に届き背後を振り返る。

 その少女――マチルダは目の前で足を止めて、乱れた呼吸を整えた後、焦りの色がある視線を向けてきた。


「大変です! 次は……この街の中にある衛兵の駐屯所が何者かに荒らされて、軍の本部に繋がる通信機なども全て、破壊されていた様です!」


「は……ッ!?」


「駐屯所に居た衛兵が全員鉱山の麓に来ている間に……だそうです」


 マチルダからの報告を聞き、三人は絶句する。

 これは明らかに、何者かが意図してやっているとしか思えない。


「一体、誰が何を企んでやがんだよ……!」


 悔しさと焦燥感に、奥歯を噛み拳を強く握り締める。

 まだ倉庫内の盗難についても全く解決していないのに、続けて別の事件が起きた。このままではどんどん、街中に被害が広がっていくかもしれない。


「それと、気になる話がもう一つありまして……」


「続けてくれ」


 まだ何かあるのかと、内心身構えながらマチルダの続く言葉を待って


「――実は、ここ5日間クリストに滞在している占術師さんの話と、昨日から起きている事件の内容が一致しているんです」


「何だって……? センジュツシって、なんだ?」


 ウルガーの疑問に、隣で思考を巡らせながら佇んでいたカミルが視線を向けマチルダに代わり答える。


「占術師……つまり未来起きる事などを占う術を持つ人達です。まあ、ほとんどは誰にでも当てはまる事を言葉を変えて言ってるだけだったり、ただの詐欺師だったりするんですが」


「胡散臭いな」


「え、じゃあもしかして……それが本当の占術師さんだったの?」


「そんな簡単な話じゃねーと思うが」


 ニアの言う通り、占術師が本物で優秀だったのかもしれないが、だとしても怪しさは拭いきれない。

 分かっていたなら協力してくれても良さそうなものだし、今日起きている事はどう見ても人為的なものを感じる。


「その占術師の話って、他の人達も知ってるのか? マチルダさん」


「はい。住民の方々の多くや、衛兵さん達も占術師さんの話は知っています。ただ、そういった話は詐欺が多いので、ほとんどの方は聞く耳を持っては居ませんでしたが……」


「ねえ、マチルダさん! 占術師さんは他にも何か言ってたの? 予言と同じ事が起きているのなら、それがまた起きる前に止めないといけないわ!」


「そうだな。ここまで来たら、その予言を無視は出来ねぇ」


 気になる事が多すぎて頭が混乱しそうだが、今はこの街に訪れるかもしれない更なる事件を止め解決に導く事が優先だ。

 マチルダは占術師の話を思い出しながら、予言の内容を伝える。


「確か後の予言は、『街全体を災厄が襲う』と……『紫の髪を持つ悪魔と救世主が現れる』、の二つです」






 ――鉱山の林道に居たウルガー達は道を戻り街へと出る。

 すると、街の中……多くの住民達の間では、続け様に起こる事件により混乱が広がっていた。

 次に起こるかもしれない『街全体を襲う災厄』に身構えるべく、五感を研ぎ澄まし周囲に怪しい気配が無いかを探りながら街を歩けば、周りからは住民達の声も耳に届いてくる。


「昨日のデカい赤鷲……そして、今朝から起きてる鉱物の盗難や駐屯所への何者かの襲撃……」


「全部あの占術師の予言通りよ……」


「変な白いローブで顔も隠してるし怪しい詐欺師だと思ってたけど、本物だったんじゃ……」


 白いローブ……恐らく、昨日街の中で一瞬見たあの人物だろう。その姿が脳裏に浮かぶと同時に、懐かしい様なニオイも一緒に思い出される。

 あれが、まさか占術師だったとは。


 しかし今はそれに意識を向けている場合では無い。街を襲う災厄とやらが、どれだけの規模なのか分からない。警戒を最大限に、周囲の物音や気配に気を配って――


 その時、前方十メートル程先に覚えのあるニオイを感知した。それは先日、広場で出会い短い時間の間ニアとも一緒に遊んだ幼い少女の姿だ。

 少女はこちらの存在に気が付き、手を振りながら「お兄ちゃんとお姉ちゃんだ!」と呼び掛けてくる。


 その次の瞬間、研ぎ澄ませていた聴覚が整備された地面の下から何かの蠢く音を拾った。その音は、前方で嬉しそうに手を振っている少女の足元まで移動し……そして。


「ニア! 『影糸』の準備してくれ!」


「え!? う、うん、分かったわ!」


 咄嗟に指示を出し、それを聞いたニアは状況が分からず困惑しながらも言われた通り魔法発動の準備を始める。

 全力を込め地面を蹴り、ウルガーは全身を目の前の少女に向かい跳躍させた。


「危ないッ!!」


「え――」


 叫んだ次の瞬間、少女の足元の整備された地面ががヒビ割れ、そこから一メートルを超える大きな黒い影が二つ出現した。

 黒い影の牙が少女に向かう寸前に、両手で少女の体を抱き締めながら救出し、もう一度地面を蹴り付け跳躍しながらその場を離れる。


 その黒い影の正体は――大きな牙を持つ巨大な蟻、『人喰い蟻』だ。普段から地中に住んでいるが、それは森の中の地中。街には生息していないはずの生き物である。


 二匹の蟻はこちらを獲物として認識したらしい。人喰い蟻の鋭い牙が再び襲いかかり、腕の中に居る少女は怯えと恐怖に大きな悲鳴を上げて


「影糸!」


 二匹の蟻の牙が到達する前に、ニアから伸ばされた黒い魔力の糸が少女の影を捉え、体ごとその場から一気に引き離す。

 そのまま少女はニアの体に受け止められ、何とか助ける事に成功した。


「君、もう大丈夫よ!」


「で、でも、お兄ちゃんが……!」


「ウルガーは強いので平気です! 君もこの場から逃てください!」


 少女は涙を流したまま、二匹の人喰い蟻に牙を向けられているウルガーを指差し、周囲に居た住民へ避難を呼び掛けていたカミルは怯える少女にも声をかける。

 その時に、もう一つの影が人喰い蟻の背後へと飛び掛かっていた。


「地中の気配に気付かなかったとは、私はまだまだ未熟! ここからは私だって活躍しますとも!」


 声を張り上げながらマチルダが両手に握られた剣に魔力から生成された炎を纏わせて、一気に斬り掛かる。

 更にウルガーは、人喰い蟻の攻撃を軽々と回避しながら右拳を強く握り、大きく振りかぶった。


「はあぁぁッ!」


 炎を纏った魔法剣により人喰い蟻はバラバラに切り分けられ、更にもう一匹は脳天から振りかぶられた鉄拳を頭部に直撃し地面ごと破壊され息絶える。


 ――が、ウルガーの聴覚と嗅覚は、すぐに周囲の異変を感じ取った。

 街全体のそこら中から、人喰い蟻のニオイを一斉に感じたのだ。


「うわあぁぁっ!」

「キャアア! 誰か、助けて!」


 住民の悲鳴が聞こえる。未然に防ぐ事が出来なかった。それでも奥歯を噛み、悔しさをいったん押し殺しながら顔を上げる。

 今回はマチルダや衛兵達も居る。急げばまだ救出に間に合うはずだと、自分を奮い立たせて。


「街中に人喰い蟻が現れた! 分かれて助けに行くぞ!」


「ボーッとしてられないわね、急ぎましょう!」


「僕は住民の避難を手伝いますので、そちらは任せました!」


「私は住宅の一番多い方角を守りに行きます! 皆さん頑張りましょう!」


 住民の避難を手伝うカミルを見送り、残る三名も街全体に出現した人喰い蟻討伐の為にそれぞれ動き出そうとした――次の瞬間。

 すぐ近くから女の声がした。


「君達はだ〜め。邪魔だから私が直々に殺してあげるの」


「……ッ!?」


 そして破壊音と共に、地面を粉々に砕きながら背後から巨大な生物が現れる。

 体長五メートルはあるであろうそれは、『鬼土竜』と呼ばれる金色の体毛を全身に生やした太く長い爪を持つ巨大なモグラだ。

 軍の精鋭でも討伐に苦労する程の強さを持つと言われており、目の前で見るのは初めてだった。


「ちょっと、ウルガー、あれって……!」


 ニアの指差す方角へと視線を移す。鬼土竜の現れた反対方向から姿を見せたのは、ゼリー状の物体……蠢いているから、生き物だろう。という事は、あれこそが――


「カミルさんが言ってた、スライムって奴か」


 そして、「アハハハっ」という笑い声と共に、スライムの柔らかい体の上に一人の少女が跳ねながら飛び乗り現れた。

 目にした瞬間、本能が瞬時警戒を呼び掛ける。あの女もまた――高い実力を持つ強者だと。


「な、何なんですか君は! まさか貴女が、事件の黒幕なんですか!?」


 スライムの上で足を組みながら現れた、紫色の髪に額から一本の角を生やした少女。彼女はマチルダの質問には何も答えず、ただ笑顔を浮かべながらこちらに視線を向け。


「リシェルちゃんで〜す、私とお気に入りの子達で君達をぶち殺してあげに来たよ。アハッ」


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