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銀狼と闇の魔女 〜千年の戦いと世界の終わり〜  作者: みどりあゆむ
二章 再会の町
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四話 消えない熱


 ――その青年の名はアラン。青い髪の毛と長身な外見が特徴的な人物だ。

 ウルガーの育った島の同郷であり、幼い頃親密にしていた年上の兄貴分の様な存在でよく遊んでいた。

 アランが16になり働き始めてからは接する機会が減ったが、ウルガーにとってはいつまでも大事な友人の一人だった。


 しかし、アランは……現在から一年前に起きた魔導会の襲撃により、目の前で斬殺された。

 最期に、ろくに話す事も出来ないまま無残な死体へと変わり果てていて――






「ウルガー、ねぇ、聞いてる?」


「――ッ!」


 耳元から赤い髪の少女の声が聞こえ、意識が目の前の現実へと引き戻される。

 あのニオイが脳裏を刺激してから、島での記憶がなかなか頭から離れてくれない。自分の不甲斐なさに奥歯を噛みつつ、横から顔を覗かせる少女ニアと視線を合わせ。


「すまねぇ、ちょっと、考え事してた。もう大丈夫だ」


「何だか少し前からボーッとしてるわよ? 本当に大丈夫とは思えないのだけれど」


「……心配させて悪い」


 魔導会の関係者でありニアの父親である男と接触してから一時間近くが経過し、現在夕方。

 マチルダとはいったん別れ、カミルが一日泊まる宿へ予約しに行っている中、その待ち時間にウルガーとニアの二人は広場のベンチに腰を掛けていた。

 目の前では芝生の上を駆け回り遊んでいる数人の子供が親に呼ばれ家に帰り始める。


 そんな中一人、十歳前後の少女の姿がポツンと残されていた。

 少女は友人達を見送った後、足元に残された一つのボールを足で蹴り――


「あっ!」


 あまり蹴り方があまり上手では無いらしく、蹴られたボールは少女の向けていた視線とは別の方向……ニアと二人で座るベンチの方へと飛んで来た。


「おっと」


 飛んで来たボールを咄嗟に手で掴み、焦る表情で駆け寄って来た少女にそれを差し出した。


「あの、ごめんなさい、お兄ちゃん!」


「あー気にすんな。まあでも、次からは人に当たらない様に気を付けろよな」


 少女の頭に軽く手を置き、掴んだボールをソッと手渡した。

 隣に座っていたニアも少女へと身体を近付け、視線の高さを合わせながら声を掛ける。


「もうすぐ日が暮れ始める頃だけれど、貴女もお家に帰らなくていいの?」


「うん……もう少し、練習したいの。私、皆よりボール遊び下手だから」


 どうやら、自分が上手くボールを蹴れない事を気にしているらしい。

 ウルガーは、故郷の島で年下の子供達と遊んでいた記憶を思い出しながら静かに立ち上がる。


「じゃあ、俺がちょっくら練習に付き合ってやろうか?」


「え、いいの?」


「あぁ。でも暗くなったらいけねぇから、もう少しだけだぞ」


「……待ちなさい。私も参加するわよ、ウルガー」


「ありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃん!」


 こうして練習に少しだけ付き合う事となり、ニアが早速少女の目の前で見本を見せようと足元にボールを置いた。


「いい、君? お姉さんの蹴りをよく見てなさい」


「うん!」


「ふっ……てやぁぁぁ!」


 ニアは風を切る様に思い切り足を振り、力一杯にボールへとぶつけた。足のぶつかる音と共に、ボールは宙へと跳躍して。

 ――――あまり飛ばなかった。


「はれぇっ!?」


「……」


 残念な結果に、ニアは間の抜けた様な声を溢す。

 彼女の勢いは素晴らしいと思うが、技術が追い付いていない。実はニアもボール遊びが得意では無いらしく。


「分かった。ニアも一緒に練習するか」


「……お願いします」


「一緒に頑張ろうね、お姉ちゃん!」


 ニアはシュンとした顔で、少女は元気な声で答える。

 子供の身体能力に合わせ、ボール遊びを上手くなりたいという少女の手本になれる様に体を動かしていった。

 父と出会ってからどこか悲しげな色が残り続けていたニアの瞳も、この時だけはその複雑な感情を抑え込められている様だ。


 ……こうしている間は、島での辛い記憶も、悲しい記憶も、血に塗れた記憶も、考え過ぎなくて済む。

 今だけは、ただこうして身体を動かして――


「――ちょっと離れてる間に子供と仲良く遊んでるんですが、いったい何が……?」


 宿への予約を終えて戻って来た青年カミルは、広場で駆け回る三人を離れた場所から眺めながら困った様な音色でそう呟いていた。




 ――少しの間練習に付き合っていると少女の親が迎えに来て、手を振りながら別れの挨拶をする少女へとウルガーとニアの二人は手を振り返しながら見送る。


 その後すぐに離れた位置から見ていたカミルが近づいて来て合流し、三人は予約を入れた宿へと歩きながら向かって行った。

 その道中、カミルは宿の説明を隣の二人へ聞かせており。


「宿は一部屋二人までらしいです。なので振り分けは……」


「俺とカミルさんが同室か」


「いえ、ウルガーとニアさんが同室です」


「ふむふむ……って何でよ!?」


 男女が同じ部屋に泊まる事に、ニアは困惑の表情でカミルへと視線を突き刺しながら声を上げた。

 身内でも無い異性と同じ部屋で寝泊まりする事は彼女も恥ずかしいだろうが、ウルガーはすぐにカミルの意図を察して小声で呟く。


「夜中にニアの身に何かあれば大変だから、すぐ近くに護衛は居た方が良いって事か」


「えぇ。まだ何も無いですが、僕達が魔導会の連中から尾行されていないとは限らないですからね。最悪の状況も想定しつつ警戒はしておいた方が良いでしょう」


「……それもそう、よね」


 ニアは納得した様に静かに頷いた。

 クリストへ出発する前にレオンと会い言葉を交わした後ウルガーは、ニアの兄の様な存在である黒髪の青年テッドとも顔を合わせていた。

 実はその時、彼からは「ニアを頼む」と言われていて――


 テッドにも戦いの中で協力してくれた恩がある。だから、彼からの頼みもしっかりと守ってやりたい。


「だから……心配すんな、ニア」


「え、えぇ……別に分かってるわよ。心配なくても貴方は変な事しないってくらい……」


「テッドさんからも頼まれたからな。何かあれば俺が守ってやる」


「あ、そっち! ――ありがとう。けれど、私だって守られてばかりで居る気は無いわ」


 ニアは橙色の瞳に強い意志を込めながら、そう答えた。



 十分程歩き宿へと到着した一行は、早速それぞれの部屋へと分かれ休息に入る。

 二階建ての木造建築で民家を改装した様な宿だが、外観や屋内は清潔に保たれており静かで居心地の良さそうな宿だ。


 食事に入浴を済ませ髪を乾かし、寝る前の挨拶を軽く交わしてからニアは疲れた様にベッドの上に倒れ込み就寝した。


「寝付きが早い奴だな……」


 まだ寝付けないウルガーは、ニアを起こさない様に足音を消しながら歩き静かにカーテンを開け窓の外へと目を向ける。

 空には満月が輝き、二階の窓から見える景色は街の奥に佇む鉱山の姿も良く見える。

 ――明日もやるべき事がある、と周囲への警戒の為に五感を研ぎ澄ませながらそろそろ睡眠を取ろうと自分のベッドまで足を運び……


「ぐすっ、グスッ。おかあ、さん……お父さん……」


 少女の小さな泣き声が聞こえた。――ニアだった。

 暗い部屋の中でも、亜人の血を引いた視力ならば分かる。ニアは泣きながら、寝言を溢していて。


「やだ……置いて、行かないで……っ」


 脳裏に思い出す。

 ウルガーが悪夢にうなされていた時、心配してくれたのであろうニアが手を握ってくれていた感触があった事を。


 受けた恩はちゃんと返さなきゃいけない。しかし、こんな時、何をしてやれば良いのかよく分からない。

 だから、幼馴染みだったケイトならどうしたのだろうかと考えて……そっと優しく、ニアの頭を撫でてやった。


 段々と、泣いていたニアの表情が落ち着いて来た気がする。何とか落ち着かせようとその様子を眺めていると、微かにニアが目を開いて……


「ぅ……ん? ――ふぇ?」


「あ、悪い」


 ニアと目が合い、起こしてしまった事に静かに謝罪しながら頭から手を話すと、ベッドに寝ていたニアは理解の追い付かない様な顔でこちらを眺めていた数秒後、後ずさりし顔を真っ赤にしながら声を上げた。


「キャーッ!? え、何!? 何、なんですかぁ!?」


「本当に悪い! 起こすつもりは無かったんだ!」


「起きなかったら何してたのよぉ!?」


 隣の部屋から声を聞き付けたカミルが咄嗟に駆け付け、その後ニアは何とか冷静さを取り戻し誤解はすぐに解ける。

 しかし、変な誤解が解けた後もニアは、涙の跡の残る顔をいつまでも赤くしたままだった。


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