十九話 魔導会の少女
場面はとある島国の山岳地帯へと移り変わる。
そこで生い茂る広大な森の中に、木々に隠される様にしてポツリと一つの石造りの建造物が立っている。
建造物の中で廊下を歩み真っ直ぐ進む男が居る。それは、紫色の髪を生やし眼鏡を掛けた青年――かつて、ウルガーの島に訪れ人々の命を奪い去った男だ。
彼は真っ直ぐ進んだ先の扉をゆっくりと開けた。扉を開けた先には部屋の中央で椅子に座る白い髪に青い双眸の人物と、その横に無言、無表情で佇む黒い長髪の人物が居る。
そのどちらもが女性だ。
青年は部屋に入室し数歩進んだ先で立ち止まり、椅子に 座る人物の前で丁寧に腰を曲げながら口を開く。
「――様。報告が御座います」
「報告とはなんだ、ベルモンド」
椅子に座る少女は、ベルモンドと呼ばれた青年に視線を向けながら尋ねる。
青年――ベルモンドは、柔らかい物腰のまま、それに返答した。
「フレデリックとの通信が途絶えました」
「……ふん。死んだか」
椅子に座る少女は興味なさげにそれだけ答え読みかけの本へと手を伸ばす。
「彼は頑丈ですので、死んだかどうかまでは分かりませんが……捜索班は出してみます」
「好きにするがいい。私は、私の目的さえ叶えば貴様らが何をしようと構わん。用事が済んだならさっさと出ていけ」
「ハッ。それでは、失礼しました」
ベルモンドは表情一つ変えず、お辞儀をした後、部屋を出る。
扉を閉める音がした後、椅子に腰を掛ける少女は深く溜め息をついてから読書を再開し始めた。
その時、彼女の横から小さく声が掛かる。それは隣で佇む黒髪の少女から発せられたもので。
「――様。心配では、無いのですか? フレデリック様とは、長年の付き合いだったと聞いていました」
「ふん、馬鹿を言うな。都合が良いから利用していただけの手駒に過ぎん。薄汚い人間共が死のうが私は何とも思わん」
椅子に座る白髪の少女は厳しく冷たい口調でそう言い放つ。
そして、その後――黒髪の少女へと視線を向けて。
「だが、私が個人的に気に入った貴様は違う。他の者は死のうと構わんが、貴様だけは大切に扱ってやろう」
「――それは、光栄ですが」
「だから貴様も永遠に私の元に仕えろ。貴様には私に恩があるはずだ。つい先日、その体を与えてやったのはこの私だ」
「それは感謝しています。ここ数日以前の記憶は……思い出せませんが」
「思い出す必要などない。貴様は永遠に私の手元にあれば、それでいい」
「……分かりました」
そうしてまた無言の時が暫く流れた後、白髪の少女は再び溜め息をつき読書を止めて、黒髪の少女へと視線を向けた。
「眠い。いつもの様に私を貴様の膝に寝かせろ」
「はい」
そう言い放った後、白髪の少女は床に座った黒髪の少女の膝の上に頭を乗せ、瞼を閉じ、静かに眠りに付き始めた。
「――――」
その寝顔は、普段の感情が無く冷たい表情とは違い、どこか安心している様な、穏やかな表情が微かに見える。
――青い双眸を持つ白髪の少女の右手の甲には、『魔女』の刻印が刻まれていた。