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第3話 漆墨真魚の哀愁感

 ──私、チェスなんてわからないよ


 純妙逸成を見たとき、何故かそのフレーズが私の脳裏を過った。理由はわからないけれど、何の悪戯か彼の席は私の隣。「よろしく」と彼に声をかけられた私は必要以上に冷たい返事をしてしまった。

 ……元より、人付き合いが悪いのはわかっている。性格だ。されど変えたいと思う自分もいるし、今の環境で満足している自分もいる。

 転入生の話があり、何か変えられるかもと根拠もない自信を持ったのは間違いだったのかもしれない。


「──純妙ってどこに住んでるの?」

「住宅街のマンション」

「マジ? 金持ちじゃん!」


 放課後、私の隣の席には小さな人だかりが出来ていた。転入生というのが珍しいのだろう。皆思い思いに質問をしていく。

 ……マンションなんだ。

 ふと、家の窓から見えた引っ越し業者と女性の姿を思い出した。住宅街にあるマンションはあそこしかないからだろう。あそこに住むということは“彼”くらい金持ちなのだろう──


「(……“彼”? あれ、“彼”って誰?)」


 彼、彼……私の交友関係は悲しいくらいに狭いため、心当たりくらいはあると思うのに、何故か思い浮かばない。そもそもボアネ以外に私の周りに同級生の男子はいないはずだから……。


「(親戚のお兄さん的な誰か、かな)」


 きっとそんなモノだろう。

 よくわからない引っ掛かりを覚えながらも、私は帰り支度を整えて教室を出る。


「お待たせ」

「今日も部活だよね」

「うん。新入生勧誘に関すること、先生と相談しながらだって」


 待っていたボアネと並んで別棟の文化部の部室のある棟へ移動していく。

 私達の通う高校は教室のあるHR棟とパソコンなどを置いている実技棟、そして文化部の部室が押し込まれている部活棟の3つの建物が川の字のように並んでいて、HR棟から部室棟には実技棟を通っていくことになる。


「──そういえば転入生とはどうだった?」

「特になにも……」

「何も、って雰囲気じゃないけど」


 こういうときだけボアネは鋭い。幼馴染なのも理由かもしれないが、隠し事は難しい。


「実は──」


 今日の朝の出来事から、ひとつひとつボアネに話していく。

 こうして話していると「ああすれば」「こうしておけば」という後悔が次々と出てくる。先生に頼まれはしたけれど、なんか自信なくなってきた。

 そんな私の話を聞いて、ボアネは考え込む。彼は優しいから、きっとどうにかしようと考えてくれているのだろう。


「──けど、これは私の問題だし、いい機会かなって思ってるから、自分でどうにかさせてくれないかな」

「え?」

「私、交友関係狭いし、先生がそれを案じてくれたんじゃないかな」


 まあ、並び的に偶然隣になった可能性もあるけど。それでも、これは縁だ。これを気に、少しでも変われたら──なんて。

 ボアネはそれを聞いて微笑んだ。


「……そうだね。応援してるよ」

「ありがとう」


 ちょうど会話も途切れ、私達は部室へとついた。鍵は空いている。もう顧問の先生が来ているのだろう。

 少し前向きな気分で、私は部室の扉をあけた。

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