番外編 ローザside
本編だけだとイマイチゼイムスが何考えてるのか分からないと思うので、番外編加えてみました。
今回はリリーの妹ローザsideのお話なので、やっぱりこれだけでは余計に何のことか分からないと思うのですが、書きあがりしだい、ゼイムスside、ウィルside追加したいと思っています。
【注意】兎に角、この先はゼイムスが酷いやつです。
無理矢理な表現がります。
番外編はムーンライトの方に乗せようと思っていた筋書きなので、全体的に暗いしみんなイロイロ最低です。
ゼイムスの優しい溺愛キャラのイメージを壊したくない方、ほのぼの系がお好きな方はブラバしていただければ幸いです。
昔から、皆から一人特別扱いされてばかりの腹違いの姉の事が大嫌いだった。
皆、美しく太陽の様に明るい姉の事だけが特別大事で、一つしか年の変わらない影のような私のことなど目に入らないらしい。
誰かせめて世界にたった一人でいい、私だけを見ていてくれる人がいればいいのに。
そう思いながら生きて来た。
政略結婚だった父と母の折り合いは最悪で、氷の宰相と謳われる父は婚外子の姉を溺愛するのとは対照的に、母の血を引く私にその愛情を向けてくれることはなかった。
私の事を産んだだけの母と、父によく似て心を持たない双子の実兄。
異母姉は幼くして実母を亡くしたにも関わらず、眩しい程に良く笑う子どもだった。
きっと私と違い実母からも愛されていたのだろう。
そんな姉を、父は人目もはばからず溺愛した。
姉は私が欲しかった物、全てを持っていた。
両親からの愛も、兄達からの関心も、絵本に出てくるような美しい王子様の婚約者も。
それなのに……。
事もあろうに姉は私の婚約者である第二王子ウィルの心もあっさり奪って見せた。
子どもの頃から、優しいウィルを振り回す姉が大嫌いだった。
私の事も仲間に入れる振りをして、ウィルが姉しか見ていない事を見せつけてくる姉が大嫌いだった。
父の不貞の証として、そこにいるだけで私の母の心を常に傷つけておきながら、家の中で父に愛され、兄達とふざけながら誰よりも明るい姉が、私は心底大嫌いだった。
十三歳で姉たちと同じ学園に入学して、一年程が経った頃の事だ。
人目も憚らず、私の婚約者であるウィルと楽し気に話をする姉に改めて腹が立って仕方がなくなって、その場を黙って通り過ぎた後、悔し紛れに級友に向かって姉の事を良からぬ名で呼んでみせた時だ。
たまたまそれがそこに通りがかった、王太子であり姉の婚約者でもあるゼイムスの耳に入り、それが彼の逆鱗に触れてしまった。
「姉をその様な言葉で貶めるなど、お前の品性の方が知れるというものだろう?!」
五年生の男子生徒が二年生の女生徒に対し、人目のある廊下で行き成り罵倒してくる方がよっぽど品性が知れる。
そう思ったのだが、悔しいが権力には勝てない。
諦めて深く膝を折り非礼を詫びれば、その私の淡々とした態度が気に食わなかったのだろう。
それ以降、出くわす度ゼイムスに何かと難癖をつけられ酷く虐められることになってしまった。
外面のいいゼイムスと、美しくも控えめな姉は学園の人気者だった。
だからゼイムスの私に対する執拗な制裁も
『自業自得だ』
とされ、私の事を正面切って庇ってくれる人なんていなかった。
仲の良かった級友達も、
『巻き添えをくらって王太子の顰蹙をかったらたまったものではない』
と、あっという間に私を避ける様になってしまった。
唯一、私の事を理解してくれたのは、ゼイムスの本性を知っているウィルだった。
だから、ウィルの心はいつだって全てリリーのものなのだと知りつつも、私は耐えきれずいつも悲しくなるたびウィルに縋った。
しかしゼイムスはウィルが、自分のオモチャに構うのが酷く気に喰わないのだろう。
ウィルがゼイムスから庇ってくれればくれる程、その次のゼイムスの私へのあたりは苛烈になった。
私が三年生になったある日の事だった。
またゼイムスに因縁をつけられ、とうとうそれに耐えかね初めて正面切って彼に盾突いた。
その結果……。
その報復として激高したゼイムスに私室に引きずり込まれ汚された。
そう、あれはただの陰湿な嫌がらせだ。
そう思おうとするのだけれど……。
まるでそうして触れ合っていないと息が出来ないとでも言わんばかりの溺れるようなキスと、繋がらない心の代わりに無理矢理深く深く繋がれた体の痛みに、抱きしめられていると勘違いしそうになる私を捕らえるその両の腕の温もりに、まるで愛されているような錯覚を覚えてしまい、今までしてきたように感情を押し殺す術が分からなくなってしまった。
もうこれ以上姉をうらやんでなどやりたくなかった。
だからゼイムスの本当の想いに、私の本当の想いになど気づきたくなどなくて、初めてゼイムスがその本音を甘く苦く口にした瞬間、彼の想いを拒絶して、本来汚されてしまった事など一番隠さないといけないはずのウィルの元にどうしようもなくなって逃げ込んだ。
学園を去り、ウィルの助けで王都から遠く離れた静かな街の屋敷で、身分を隠し暮らして一月が経った頃だった。
誰も私の事を知らない場所での暮らしは、憑き物が落ちたように穏やかなものだった。
孤独ではあったが、もうそれには幼い頃より慣れている。
頭ではそう思うのに……。
不思議と一人窓から月を見上げるとき、ふと思い出してしまうのは、優しく庇ってくれたウィルの事ではなく、ゼイムスのあの苦い表情だった。
そんなある日、ノックも無く部屋のドアが開けられた。
何事かと驚きそちらを振り返れば、そこに立っていたのは不機嫌を隠そうともしないゼイムスだった。
目が合うなり、ゼイムスは私の事を酷い言葉でなじってみせた。
私が学園を去らざるを得なくしたのは自分の癖に。
ゼイムスは、この一月間私が彼から逃げ続けた事が許せないらしい。
姉には王子様の仮面を被っていつも優しく笑って見せるのに、どうしてこの人は私の前ではいつもこんなに感情を露わにして見せるのだろう。
逃げ出そうとしたら先を塞がれ、手を掴まれ、首筋に執着の痕を幾重にも残された。
それを嬉しく思ってはいけない。
愛されてるんじゃないかって勘違いしてはいけない。
ゼイムスはどうせすぐ私に飽きるだろう。
そう言い訳して抵抗を諦めた振りをすれば、射殺さんばかりの勢いで私の事ばかり見ているゼイムスは、私がウィルを頼れないよう王宮の奥深くに隠すようにして私を攫い閉じ込めたのだった。
ゼイムスのその凶行が全てが明るみになったのは、私の中に新たな命が宿り、もう取り返しが付かないところまで来た時だった。
卒業式の後のパーティーで、本来姉の名を呼ぶところを、ゼイムスは妻として私の名を呼んだ。
茫然とする姉に向かい、ゼイムスは
「すまない、リリー」
そう一言だけ告げると、苦し気に目を逸らし、もう姉の方を見る事はなかった。
誰も、そう、私自身だって救われない罪深い展開だと分かっている。
それでも、姉のあの表情を見た瞬間酷く胸がすく思いがした。
無神経な姉も精々思い知ればいいのだ。
そう思い、これまでの恨みをこめて追い討ちをかける為だけに残酷な一言を言ってやった。
「ごめんなさい、お姉様……私……ゼイムスを愛してしまったの……」
姉を傷つけてやる為だけに言った言葉だったはずなのに。
それを口にした瞬間、思わず涙が零れた。
暴いてはいけない自分の本音を自分で暴いてしまい、無様にしゃくりあげるしかなくなる。
あぁ。
私は何と愚かなのだろう。
誤字報告、本当に本当にありがとうございました。
もうありがたすぎる&申し訳なさすぎる気持ちでいっぱいです。
ホント、自分でも読み返してるのに、なんでこんなに私の目は節穴なのでしょう(ノД`)・゜・。
本当に本当にありがとうございます。