イライアスとシュゼット㉒ side イライアス
さて、仕切り直しだ。
そう思い立ち上がり、ゆっくり上からリュシアンを睥睨して見せた時だった。
リュシアンが実にウンザリとした表情を見せた後で、口の中で何かを小さく呟いた。
『しまった!』
そう思った時には既に手遅れで……。
気づいた時、シュゼットはリュシアンの手の中に囚われてしまっていた。
『相性は悪くない』どころか。
リュシアンは三年間を共に過ごしたクラリッサ以上にボクの行動を読むのが上手いらしい。
この勝負に早々に負けてしまったのは、正直悔しいけれど……。
ボクの事をこんなにも理解しようとしてくれる人が、分かってくれる人が、こんなに近くにいてくれたことが、同時にどうしようもなく嬉しい。
リュシアンが、クラリッサに代わりボクが計画を穴だらけにするのを防いでくれるのなら。
だったら……。
これからはチェスターに代わり、僕自身が誰かを救えるよう強くなろう。
そうして、ボクはボクの本性と欠点を上手く利用して、皆の期待するのとは少し異なるかもしれないけれど、ボクと同じ様に少しずつどこか歪んでいる、この国に暮らす皆を守る王になるんだ。
そうすがすがしい気持ちで天を仰いだ時だった。
全く思いがけず、視界の端、シュゼットが密かに突きの構えを取った事に気が付いた。
「待って! 早まらないで!! 流石にそれはマズイ!!!」
どうやらボク以上に奇想天外で突飛な行動を得意とするシュゼットは、チェスターに代わりボクのピンチを武力で颯爽と救ってくれるつもりらしい。
ボクは果報者で、二人の友情には大変胸が熱いが、そんなことより。
荒事とは無縁そうに見えるリュシアンが、騎士として訓練を受けて来たシュゼットの渾身の突きを不意打ちで喰らったら死ぬんじゃないだろうか?
クリストファーとブライアンと三人、隣国の王配を殺してしまったかと本気で焦ったその瞬間。
リュシアンが間一髪、猫の様にぴょんと飛び上がって逃げてくれたから、安堵感から思わず腰が抜けた。
そうして。
休む間もなくシュゼットが今度は蹴りを放とうとしたから。
流石にこれ以上はダメだと思って、滑り込むかのようにズサッ!!! とボクは勢い良くその場に膝を突いた。
******
叔父が姿を消し、幕引きとなった後――
さて、ここからどんな言い逃れをしようかなと思った時だ。
今更ながらシュゼットが纏うそのドレスが、ボクが送った赤いものでない事に気づいた。
おそらく、アクセサリーや靴を含め全てリュシアンが用立てたものなのだろう。
どれもこれも、大変よくシュゼットが似合っているところがまた、酷く癪に障る。
本性を隠す事を止めた今、誰かに取られるようなヘマはもうしないけれど。
やっぱり一刻も早く、皆にシュゼットはボクのものだと、皆に知らしめた方が良いな、と。
そんなリュシアンとは全然関係ない事を思った時だ。
一石二鳥の良いアイディアを思いついた。
「ボクと結婚してください」
跪いたまま、誰もが見とれた王子様の仮面をもう一度綺麗に被り、シュゼットに向かいそう言えば。
ボクの考えに気づいたクリストファーとブライアンが、慌てるシュゼットを置き去りに
「ご婚約おめでとうございます」
と、実に適当な拍手をした。
「シュゼット、お願いだ。君を一生大切にするとこの国に、そしてリュシアンに誓うから。だからどうか『はい』と言ってほしい」
シュゼットの手を一見甘く。
しかし、振り解かれる事の無いよう、彼女が先ほど痛がっていた所をそっと包み込むようにして握れば。
勝手に証人にされ実に嫌そうに顔を顰めるリュシアンに気づかず、そしてボクの腹黒さにまで気の回らないのであろうシュゼットが。
恥ずかし気に頬を真っ赤に染め、フイと目を逸らしたまま、繋いだのとは反対の手の甲で自らのその小さな口を押えた。
「どうして『はい』と言ってくれないの?」
ダメ押しとばかりに立ち上がり、その頬に触れるフリをしながらその細い身体をしっかりボクの腕の中に囲い込めば。
「だって、だってイライアス様を嫌いでいないといけないのに…‥。それなのに結婚だなんて。そんな器用な事、私に出来る筈がありません!!」
シュゼットがそんな思いも掛けなかったことを言うものだから……。
甘く甘く騙して早々にシュゼットの言質を取ってしまおうと、そう思っていたのに。
「僕を嫌いでいないといけない?? ……あぁ、君の従兄に何か言われたの? だったら心配ないよ。あんな奴、僕が何とでも……」
思わず、地を這うような低い声が出た。
「ち、違います! 『ずっとボクの事を嫌いなままでいてね』そうおっしゃったのはイライアス様じゃないですか!!」
酷く慌てながら返された、シュゼットのそんな言葉に一気に毒気を抜かれる。
ボクにも分かってしまうくらい、ボクの事を好だと思ってくれていたくせに。
ボクが好きだから、そんなただのボクの軽口を真剣に守ろうとしてくれていたのだなと思えば、突如また、嬉しさとシュゼットへの愛しさが止められなくなる。
「あぁ、そうだったね。頑張ってボクの事を嫌いでいてくれてありがとう」
改めて深く息を吸う。
そうして。
シュゼットの細い指に自らの節だった指を絡めるようにして、彼女の手をしっかり握り、決意を込めた真剣な目で
「でももう大丈夫。誰もがボクを好きなこの国で。歪んだ皆を愛しているボクは、ボクだけを愛せないできたのだけれど……。でも、ボクはこの力をも愛して、もっと上手に使いこなす事に決めたから。だから、もうシュゼットが嫌ってくれなくても大丈夫」
そう言って、口元をこれまでになく優しく優美に微笑ませれば……。
顔を真っ赤にし思わず俯いたシュゼットにバレないような位置で、クリストファーとブライアンが真摯どころか、シュゼットを上手く絡めとるための打算丸出しのボクの三文芝居を鼻で嗤うのが見えた。
途切れ途切れの投稿にも関わらず、投稿の度に呼んで下さり本当に本当にありがとうございます。
いよいよ次話(明日の19時投稿予定)で完結予定です☆




