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悪役令嬢は壁になりたい  作者: tea


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イライアスとシュゼット⑳ イライアスside

「シュゼット、一緒に博物館に行こう!」


ノックもせず、身支度の済んでいないシュゼットの部屋のドアをバァアン! と大きく開け放ちそう言えば。

シュゼットが呆れた様な目でボクを見た後で、ハァと実に面倒くさそうに溜息をついた。


「でも、今日はリュシアン様と狩りに行かれる予定だとおっしゃっていたでしょう? 博物館は逃げませんから、それはまたの機会に」


博物館は逃げないけれど。

シュゼットはきっとボクがリュシアンと狩りに行っている間に逃げるだろう?


だから、わざわざ捕まえに来たのだけれど……。

自らそんなネタばらしをしてみすみす逃がす気は無かったから、黙って


『分かってないなぁ』


と首を横に振り、逃がさない様、侍女に彼女の身支度の手伝いを頼んだ。





久しぶりに蝶のコレクションを見た後で――

シュゼットを母が大事にしている百合が咲き乱れる庭園に案内しようと、彼女に向け手を伸べた時だった。


シュゼットが、酷く初心な少女の様そのものと言った様子で、ボクの手を取る事を酷く恥ずかしがった。

そんな酷く初心な様が可愛くて。

どうしようもなくそんな彼女を甘やかしたくなったボクは、自ら走って百合の咲く花壇へ走って向かった。


花を無造作に手折っただけの花束を彼女の目の前にパッと差し出して


「シュゼットにたけ、特別。とってもよく似合っているし、綺麗だよ」


考えなしに、そんな事を言った後で。

彼女の事を初心だななんて思いながら、幼い子供の頃と変わらない言い回しとプレゼントだなんて、ボクもつくづく芸がないなと、実に今更ながら自分の言動を酷く恥ずかしく思った時だった。



「覚えていらしたんですか?」


不器用過ぎるボクのそんな態度に、幻滅するような様子も見せず、またあの時と同じ様にシュゼットが花が綻ぶように綺麗に笑ってくれたから。

ボクは先程のシュゼットの事を笑えないくらい、途端にこれまでの様に軽薄な言葉が何一つ出て来なくなってしまって……。


「ボクがあの時、シュゼットは綺麗だってちゃんとみんなの前で言えばよかったんだ。……本当にごめん」


そんな、学園に通うにはまだ早い、小さな子供の様な事を言うのがようやくになってしまった。



不器用過ぎるそんな自分に失望すると同時に、きっとシュゼットもボクに幻滅しただろうと、そう思ったのに。


「違うんです。イライアス様が謝られる必要なんてありません。私の方こそ……あの時、逃げ出して本当にごめんなさい」


そう言って。

シュゼットがまた、ボクに向かってこれまで以上に嬉しそうに笑ってくれた。



あぁ、どうしたらシュゼットとずっといられるだろう。

そう思ったときだった。


『だったら……だったら“夜に住んでる”私の事も好きになってくれる??』


ふと、泣き出しそうな顔をしてボクに懸命に縋ろうとした幼かったシュゼットの姿と、そんな言葉と、ボク自身が言った


『キミが夜に住んでいるというなら、今度はボクが夜に会いに行く』


そんな約束を思い出した。



「そうだ! 明日一緒に花火を見に行こうよ!! 約束通り、ボクが夜に会いに行くよ」


あぁ、それがいいと笑うボクの言葉に、


「はい」


喜んでくれると思ったのに、何故だろう。

シュゼットは微笑んで小さく頷いた後で、何故か一瞬泣きそうな顔をした。







******



あの日、彼女が落としていってしまった薔薇の代わりとして、真っ赤なドレスを彼女に贈って約束の時間に彼女を迎えに行けば……。

もうそこに彼女の姿は無かった。


一瞬、彼女に懸想する彼女の従兄が彼女をどこかに隠してしまったのかと、酷く焦ったが。

聞けば彼女を一足先に連れ出したのはリュシアンらしい。



自他共に認める愛妻家であるリュシアンが、シュゼットに粉をかけるとも思えず


『花火会場で待つ』


ボクが書くよりも綺麗な字で書かれたリュシアンからのカードに首を傾げる。





会場に着き、シュゼットの姿を懸命に探せば。

まさに今、彼女に向かって駆け寄らんとする彼女と同じ瞳と髪の色をした男――彼女の従兄であるジェレミーを見つけた。



「シュゼット、探したよ!!」


間一髪間に合って。

自らの長躯でジェレミーからシュゼットを隠す様に背後から抱きしめ、その細い手を取った。



「随分遅くなってしまったけれど……夜に会いに来たよ」


彼女と初めて会った、幼かったあの日、掴めなかった手を今度こそ取れたことが嬉しくて。

ホッと詰めていた息を吐いた時だった。



「彼女をどこに連れて行くつもりだ? 今宵彼女をエスコートしているのは僕だ。勝手な真似は止めてもらおう!」


そう言って、ボクの邪魔をしてみせたのは……。

ボクが完全に存在を忘れていたリュシアンだった。



別にシュゼットと再会出来た今、リュシアンに飽きて、彼とはもう遊びたくないとか、そういう訳ではないのだけれど。

今ばかりは少し遠慮して欲しい。


そんな実に勝手な事を思い、のらりくらり、心ここにあらずと言った感じでリュシアンと言葉を交わしていたら。


「もう限界だ!!!! シュゼット嬢、これ以上コイツの相手をしていたらバカが移ります。行きましょう!」


そう言って、リュシアンが許可なくボクのシュゼットの手に触れた。

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