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悪役令嬢は壁になりたい  作者: tea@コミカライズ 12/26発売 お飾り妻アンソロジー


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イライアスとシュゼット⑩ side シュゼット

「違うんです。イライアス様が謝られる必要なんてありません。私の方こそ……あの時逃げ出して、本当にごめんなさい」


そう言って、もう大丈夫だと精一杯笑えば。

それにつられて、ようやくまたうれし気に笑ってくださったイライアス様が


「そうだ! 明後日一緒に花火を見に行こうよ!! リュシアンの国から輸入した花火だから、色んな色があって本当に綺麗なんだ」


と、そんなことをおっしゃいました。



その眩しい笑顔にどうしようもないくらい心を惹かれた少年の姿を、イライアス様と重ねてしまった今。

そして皮肉にも、あの時は分からなかった彼に会いに来てもらう対価に私に出来る事、それが


『ずっとボクの事を嫌いなままでいてね』


だと、分かった今。

その申し出をお受けするのは、突如生まれてその瞬間無理やり葬り去られた淡い恋心を踏みつけにされるようで、酷く胸の痛いものでした。


それでも


「はい」


頑張って胸の痛みを無視してそう頷けば、


「十年。……随分待たせてしまったけれど。約束通り、ボクが夜に会いに行くよ」


そう言ってイライアス様は、私を抱きしめる代わりに


「さて、ボクも少しは器用になったかな?」


そう言いながら器用に花冠を編んで見せると、それをまるで王妃様がつけていらっしゃるティアラの様に大事そうに扱いながら、そっと私の頭の上に乗せてくださったのでした。







◇◆◇◆◇


イライアス様との約束の日の夕方。


「ダメだ!! 行かせない!」


イライアス様から贈られた、夜によく映えるのであろう真っ赤な薔薇のようなドレスを纏い、出かけようとした私の手をまたきつく掴んで、ジェレミーが叫ぶように言いました。


「離して。また跡が着いちゃう!」


イライアス様に心配をかけるのが忍びなくて、そう言いながら手を振り解こうともがけば、


「っ!!」


骨が折れてしまうのではないかと思う程強く、ジェレミーが益々その手に力を込めました。



「どうして? ……どうしていつもそうやって意地悪ばかりするの?!」



『こんなトコにいたのか? 行くぞ!!』


年上の女の子達の言葉に傷つきその場に凍り付いてしまったあの時、そう言って私をその場から連れ出し助けてくれたのはジェレミーだったのだと。

他の子の輪に入れずずっと一人ぼっちだった私に自分の着替えを着せ、私の手を取って男の子達の遊びの輪に入れてくれたのでしたジェレミーこそが私のヒーローなのだと。

無理やり歪めていた記憶から解き放たれた今、ずっとこらえていた思いをジェレミーに正面からぶつければ


「意地悪なんて。……オレはただ……」


ジェレミーが酷く驚いたように、その目を見開きました。


ジェレミーが動揺した隙をついて。

その手を振り解いて屋敷を飛び出そうとした時でした。


「行くな!!」


王太子殿下より直々に送られたドレスです。

流石にジェレミーだって故意に破るつもりはなかったのでしょうが……。


ビリッツ!!


ジェレミーが咄嗟に私の袖を強く掴んだせいで、しまったと思った時には繊細なレースと刺繍が施されていたドレスの袖は音を立てて裂けてしまいました。



こんな無残な姿をした私をご覧になったら、イライアス様はどう思われるでしょう。



「……すまない。そんなつもりじゃなかったんだ」


そう言って。


こうするのは一体何年ぶりでしょう。

ジェレミが子供の時とは異なり広く逞しくなったその腕の中に私を閉じ込めました。


「…………」


またこうやって。

イライアス様を裏切った痛みの記憶を、ジェレミーに救われた記憶へと無理やり捻じ曲げて。

一人ジェレミーの気まぐれな優しさ(温もり)に縋って生きるのかと、心底自分を情けなく思った時でした。


「失礼ですがお約束は??? あの?!! 少々、少々お待ちください!!!」


玄関の方からそんな家令の慌てた声が聞こえてきました。


まさか、私を心配してイライアス様が迎えにいらしたのでしょうか?!


ダメです!

こんな私の格好を見たら、優しいイライアス様は自らの心を捻じ曲げても、私の為にジェレミーをその忌諱されている力でもって抑え込まれるのでしょう。

そして、ジェレミーの事を憎み切れず庇う私をその権威の元無理やり従えて……。

その後きっと、どうしようもない孤独を持て余されるのです。


優しいイライアス様にそんな思いをさせない為にも、早く逃げないと!

そう焦るのですが、ジェレミーは私を抱く腕に力を籠めるばかりで離してくれません。


あぁ、どうしたらいいのでしょう??!


気持ちばかり急いたまま、私よりも強い騎士であるジェレミーに強く抱きすくめられ、なすすべなく立ち尽くした時でした。



「シュゼット嬢」


あまり馴染みのない、低く落ち着いた綺麗な声が降ってきました。


それに驚いてハッと顔を上げれば、そこに立っていらしたのはイライアス様ではなく……。

なんと先日の夜会でお会いしたリュシアン様でした。

次からようやくリュシアンのターン(反撃)☆

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